PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

そして、更新が再び遅くなって申し訳ございません。
先日の大雨で執筆に使っていたパソコンがぶっ壊れて修理に出していたので、執筆速度と同時にモチベーションも落ちてしまってました……。

改めて、誤字脱字報告をして下さった方・感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ! 


#112「Love & Comedy ~HELLO to DREAM~2/2.」

 デート当日……

 

 

 

「つ、ついにきてしまった……」

 

 

 前日の夜は全然眠れなかった。何度か筋トレをしながら床に就くのを繰り返したが、逆に筋肉痛になりそうになった。だが、それ故にこうして朝4時と早起きができたわけなのだ。

 そして、早速悠は本日のデートのために妖精の師匠の言葉を思い出す。

 

 

 “デートは待ち合わせからすでに始まっている”

 

 

 そう、今起き上がったこの時間からデートは始まっているのだ。今日の待ち合わせは自分が穂乃果の実家に迎えに行くことになっている。こうしてはいられないと、持ち物を再度厳重に確認してキッチンへと急いだ。

 実は今日の昼食は悠が作ってくることになっている。別にわくわくざぶーんのファーストフードでもいいと穂乃果は言っていたが、それとこれとは話が別だ。

 今回はあくまで穂乃果に楽しんでもらうためのデート。そのためなら、弁当にかける出費もケチらない。何としても過去最高の穂乃果が満足する弁当を作り上げて見せる。

 しかし、

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

 決意して早々、そんな不穏な効果音が聞こえてくるような雰囲気を纏ったことりが現れた。

 

「こ、ことり?」

「な~に? お兄ちゃん♡」

「い、いえ……なんでもございません」

「うふふ、何で敬語になってるの? 変なお兄ちゃん」

 

 いつも通り可愛らしい笑顔でそう返すことり。だが、その笑顔の奥から出る隠しきれていない圧に足がすくんでしまった。思わず敬語になってしまうのも無理はないだろう。

 とりあえず、下準備をしようと昨夜奮発して買った高級肉を取り出した。

 

 

 

 その後もずっとリビングからことりに監視されながらも弁当の作業を進めていき、午前7時を指す頃合いには悠史上最高の弁当が出来上がった。最高級の唐揚げに最高級のおにぎり、最高級の卵焼きetc。思わずことりに“おあがりよ”と言いたくなるほどの出来栄えだったが、今のことりにそんなことは言えなかった。

 ニコニコしながら調理の様子をジッと見守っていたことりは姑の如く。何というか、視線が怖かったので今度ことりの大好物をたくさん作ろうと心に決めた。

 

「悠くん、今日は穂乃果ちゃんとデートよね。お弁当の調子もよかったようだし、ちゃんと穂乃果ちゃんを楽しませてあげてね」

「は、はい」

 

 そんな早朝の出来事を回想していると、朝食を作ってくれた雛乃がそんな言葉を掛けてくれた。まるで聖母の如く暖かい瞳に思わず今朝の疲労が洗い流されるようだった。

 

「お兄ちゃん、今日のデート……()()()()()()楽しんでね♡」

「は、はい……」

 

 雛乃とは対照的に瞳が冷たいことりの不穏な言葉に冷や汗が出た。

 何だか嫌な予感を感じつつ、悠はそそくさと食器を洗って支度を終えると、まっすぐに家を出ていった。

 

 

「さあて、ことりも準備しなきゃ」

 

 


<和菓子屋【穂むら】>

 

「つ、ついに来ちゃったよ……悠さんとのデート……」

 

 時を少し戻して高坂家の穂乃果の自室。いつもは寝坊しがちな彼女は珍しく早起きしていた。勢いで悠とのデートを約束したとはいえ、いざ当日になってみると緊張が止まらない。証拠に、彼女の顔には全く眠れなかったことを示す隈が目元にあった。

 

「と、とりあえず……準備しなきゃ!」

 

 そう、女子は男子と違ってデートする際は準備しなければいけないことが多いのだ。穂乃果はバッと布団から起き上がってクローゼットからある紙袋を取り出した。

 

「これさえあれば、今日は大丈夫!!」

 

 

 

 

 

「こ、こんにちは……」

「あら~、鳴上くんいらっしゃい」

 

 そして、時は現在に戻って待ち合わせ時間の30分前、断りを入れて店に入ると、開店準備をしていた菊花に遭遇した。こうして出会うのは体育祭以来だが、今日はいつにも増して笑顔が溢れている気がする。

 

「穂乃果を迎えに来たんでしょ。ちょっと待っててね」

 

 そう言うと、菊花は軽い足取りで店の奥に引っ込んでいった。ただ待っているのも悪いので、何か手伝おうかと辺りをキョロキョロしていたその時、

 

「鳴上くん」

「えっ?」

 

 気配を感じて振り返ってみると、厨房にいると思っていた穂乃果の父がいつの間にか自分の背後を取っていた。あまりの出来事に呆気に取られてしまうが、こうしてみると昔ながらの父親という風格だなと場違いにも思ってしまった。というか、今背中に隠して金属音がするものは一体何なのだろうか。

 

「今日は穂乃果をよろしく頼む」

「は、はい……」

「一応君のことはこれまでの行いから信頼はしている。だが、もし穂乃果を傷つけようとしたその時は、()()()()()()()()()()?」

 

 ギンと目を鋭くしたその視線に思わず硬直してしまった。

 あの声色からして、今のは言葉通りと受け取った方がいい気がした。いつも姿が見えない際には殺意の投影を肌で感じてはいたが、いざ対面で向けられるとその比ではない。

 下手したら、殺される。

 

「ちょちょちょっ! お父さん、どうしたの!? 悠さんが何かした?」

「……雪穂か。なんでもない、ちょっと彼と話をしていただけだ」

「なならいいけど。あっ、お姉ちゃん来たよ」

「え、ええと……ゆ、悠さん、お待たせ?」

「…………」

 

 奥からやっとお目当ての穂乃果が顔を出した。しかし、穂乃果の格好に思わず目を奪われてしまった。

 今日の穂乃果の髪型はいつもサイドポニーにまとめている髪はすべて下ろしており、それだけでも印象が変わった。それに、服装もそこそこ気合が入っていた。

 今どきの女子高生が来ているようなえんじ色のブラウスに真っ白なスカート。普段のTシャツ姿とは全然違うなのに、穂乃果の一味違った印象にドキッとしてしまっている自分がいる。何だかこの瞬間、悠は時が止まったような感覚に陥っていた。

 

「………………(ギンッ!)

「あっ……」

 

 刹那、背後からの殺気がこれまでと比べようのないほど膨れ上がっていた。そして、別の方向からも微弱ながらも鋭い殺気も感じた。

 

「…………(ギロッ)

(ゆ、雪穂……?)

 

 微弱な殺気を放っていたのは穂乃果の背後で佇んでいた雪穂だった。普段見たことがない雪穂の殺気に思わず冷や汗が出てしまう。

 それに、店の外からも複数の殺気を感じる。

 

「ゆ、悠さん、どうしたの? 尋常じゃないくらい冷や汗が出てるけど」

「何でもない。とりあえず、いこっか」

「う、うん……」

 

 

 

 今日のデート、荒れる気がする。

 


 

<わくわくざぶーん>

 

 道中あらゆる方向から妙な視線と殺気を感じながらもなんとか目的地のわくわくざぶーんに到着した二人。受付で料金を支払って互いの更衣室で着替えを済ませることにした。

 着替えをいち早く済ませた悠は妙にそわそわしながら気晴らしにわくわくざぶーんの案内板を見ていた。

 

「こんな大都会によくこんないい施設ができたもんだな」

 

 流れるプール、波のプール、大きなウォータースライダー、とてつもなく高い飛び込み台、競技用のプール、はては名前では判別つかないアトラクション的なプールまで。

 以前の陽介やかなみたちと過ごした時は色々な意味で満足できたので、今回も穂乃果と一緒に満足できたらなと思う。

 

「それにしても……」

 

 今日はやけに周りからの視線を感じる。絆フェスの影響からか、主に女性から熱い視線だったり、女子中学生からの黄色い視線だったりするのだが、こうまで注目されるのはなぜだろう。それに加えて、高坂家からずっと感じていた複数の殺気もあちこちから感じるのだが、気のせいだろうか。

 

「お、おまたせ……悠さん」

 

 視線の数々に少し怯えていたその時、背後から穂乃果の声がした。やっとかと思って振り返ってみると……

 

 

「………………えっ?」

 

 

 声を失って呆然としてしまった。それほどまでに、今目の前に現れた穂乃果が普段の穂乃果とは思えないほど美少女だったからだ。

 髪型はそのままだが身にまとっている水着も今まで見たものと違って挑発的な青い紐の白いビキニ。具体的に言うと、肌の露出部分が多少多くなっている。そんな些細な違いでも、馬鹿みたいに思わずキュンとしてしまった。

 

「ど、どうしたの、悠さん? どこか変だった?」

「い、いや……バッチリだ! むしろ、パーフェクトと言ってもいい」

「そうなんだ。良かった~!」

 

 悠にそう褒められてうれしかったのか、思わず飛び上がりそうなほどはにかむ穂乃果。その姿がとても愛らしいと思ったのか、再びドキッとしてしまった。

 とにかく話題を変えよう。

 

「その水着って、見たことないけど持ってたのか? それとも、新しく買ったとか?」

「え、ええっとね……実はね、マリーちゃんに送ってもらったの」

「マリーに?」

 

 話に聞くと、どうしてもデートに着ていく水着と私腹を選びきれなかった穂乃果は最後の手段として特別捜査隊&μ‘sのおしゃれ番長であるマリーに連絡したのだ。その際のやり取りがこちらである。

 

『ま、マリーちゃん! ゆ、悠さんを悩殺できる水着を選んでっ!』

『……何言ってんの、コーハイ?』

『つ、ついでにデートに合う勝負服って』

『知るか!』

 

 初っ端から切られてしまったが、2回目に事情をちゃんと説明した。マリーは最初は不機嫌だったが、事の顛末を聞くと“仕方ない”と折れてくれた。

 ちなみにマリーが悩みに悩んでチョイスしたこの水着と勝負服のお値段+高坂家への送料込みは全部ジュネス稲羽店の御曹司である陽介名義のツケで支払われた。後に陽介から“訴えてやる! ”と謎のメールが届くことになるのだが、それは別の話である。

 

「じゃあ、行こうか」

「うんっ!」

 

 それはそれとして、せっかく“わくわくざぶーん”にやってきたのだ。いつまでもドキドキしぱなしではもったいない。時間は限られているので、楽しまなければ損というもの。悠は笑顔の穂乃果の手を取って、わくわくざぶーんへと足を踏み入れた。

 

「……ひっ!」

「ゆ、悠さん!?」

 

 その時、どこからか殺気が飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ってたより高いな」

 

 最初は穂乃果の希望でウォータースライダーにやってきた。前回はみんなと遊ぶのに夢中で乗れなかったとのことらしい。

 

「何だかワクワクしてきたよ。ね、悠さん?」

「そうだな」

「あっ……ねえ悠さん、どうせなら勝負してみる?」

「勝負?」

「あのウォータースライダーでどっちが速く滑れるのか、勝負しようよ」

「乗った」

 

 

「うう……やっぱり圧倒的だったよ」

「仕方ないさ」

「やっぱり体重なのかな? どこかのお嬢が言ってたけど、体重重たい人の方がスピード出るって。それこそ、希ちゃんとか花陽ちゃんみたいな…………ひっ!?」

「ど、どうした?」

「い、今どこからか殺気が……」

「そっとしておこう」

 

 

 この後も、悠と穂乃果はウォータースライダーの他に、様々なアトラクションを楽しんだ。あの事件から今日まで気まずかった期間を忘れるように。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、昼食の時間になった。ロッカーにしまってある弁当に一度男子更衣室に戻った。中身が無事なのを確認して穂乃果の待つ席に戻ってみると、誰かが自分たちのテーブルにいた。見たところ、自分たちと同じ男女のカップルのようだが……

 

「なっ!?」

「おお~鳴上、久しぶりだなあ」

「あっ、鳴上くん。穂乃果ちゃんと一緒におったんやね」

 

 さも当たり前のようにこちらに手を振るカップルの男の方は宿敵の皆月翔だった。そして、女性の方は保護者であるラビリス。この施設にこの組み合わせはとても予想つかなかった。

 

「お前もいたのか……」

「あんだよ、いちゃわりいかよ」

「別に」

 

 この男とは色々あった。GWでは敵対し学園祭では自分とことりの危機に駆けつけてくれた。しかし、あれだけのことがあったのにイマイチこの男との距離と接し方が分からない。お目付け役であるラビリスがいるのがせめてもの救いというべきか。

 

「それよりなんだよ、昼飯に弁当って。お前、そんなに金がねえのかよ。お金はおっかねえってか?」

「うわあ……」

「言うと思った」

「あん?」

 

 ずっと思っていたが、皆月は隙あらば寒いギャグをいうのが癖のようだ。育て親の影響らしいが、どんな人物だったのか一度お目にかかりたいものだ。

 

「わあっ! 穂乃果の大好きなものがいっぱいだあ~! ハンバーグに豚の角煮に、卵焼き。それに、イチゴのケーキだっ! 悠さん、ありがとう!!」

 

 弁当の蓋を開けて目に飛び込んできた大好物の数々に穂乃果は目を輝かせていた。オーバーだが 、こうも喜ばれると作った側としては報われたようでとても嬉しい。ことりの圧があったとはいえ、朝早くから作ってよかったと心から思った。

 

「けっ、こんなのが好きなのかよ。お子様だな」

「……食うか?」

「いらねえよ。俺はこっちの方が口に合う」

 

 物欲しそうにちらっと弁当を見ていた皆月にそう言ってみたが、照れ隠しなのか皆月は手にしたのはそこのハンバーガーショップで購入したであろうハンバーガーを見せつけた。

 

「えええっ! そんなジャンクフードより悠さんのお弁当の方が美味しいよ。皆月さんも食べてみたら?」

「……うっせえよ、このあーぱーアイドルが」

「えっ、あーぱーってなに?」

「あーぱーって死語だぞ」

 

 そんな他愛ない会話をしつつ昼飯を取る一行。結局、皆月は穂乃果の熱に負けたのか観念したように悠手製の弁当のから揚げを食したが、満更ではない表情で食していた。

 

 

「そういえや鳴上、こいつの水着、お前の趣味か?」

「違うにきまってるだろ。どっちかっていうと、マリーの趣味だ」

「ふ~ん」

 

 弁当をあらかた食べ終わって一息ついた皆月はジロジロと穂乃果の水着を観察している。この男に限って穂乃果に見惚れているということはないだろうが、一体何のつもりだろうか。穂乃果も穂乃果で皆月の視線にビクッと怯えているし、そろそろ止めようとするが、そうする前に皆月が口を開いた。

 

「まあ、いいんじゃね? ちょっとガキが背伸びした感じがあるが、いいセンスしてんじゃねえか」

「はへっ?」

 

 皆月のことだからてっきり穂乃果のことを貶すのかと思っていたが、まさかの賞賛だった。多少失礼も入っているが、この男にしては珍しい発言だ。

 

「あんだよ」

「意外だな、お前が穂乃果を褒めるなんて。むしろ、女の子に興味ないと思ってたけど」

「はっ、俺だって女に興味くらいわくさ。それによ、俺の周りはこのポンコツみたいにやたら胸ばっかでけえ女だらけだからな。お前の自称彼女みたいにな」

「「「…………」」」

 

 なんだ、そんな理由か。確かに皆月の監視をしているシャドウワーカーのメンバーはグラマーな体型の女性が多い気がする。美鶴は言わずもがな、ラビリスとアイギスもシャドウ兵器ながらナイスバディ、風花なんて着やせ体質なので脱げばでかい(らしい)。

 

「……聞いたこっちがバカだったよ」

「でもな、男みたいな体型のやつもなあ。確か、お前んとこにぺったんこの奴が何人かいただろ? ラブアローシューターかナルシストだったか。あいつらみたいな子供体型は全然需要なんてな」

 

 

 

 

 

ドンッ!! 

 

 

 

 

 

 皆月が何か言い終える前に視界から消えた。

 

「へあっ!?」

「い、今のは……まさか」

 

 改めてみてみると、皆月が立っていたところに皆月を吹き飛ばしたであろう人物たちがいた。

 

「ええっと……海未ちゃん?」

「にこ?」

「それに、凛ちゃん?」

 

 そう、先ほど皆月が二つ名を口にした海未とにこだった。何でこんなところにと聞こうとする前に、3人がこちらを振り向いた。

 

「おや、悠さんと穂乃果。それにラビリスも奇遇ですね、こんなところで」

「ちょうど私たちも野暮用があって来てたのよ」

「は、はあ……」

「ちょおおおっと始末しないといけない虫がいたので、失礼します」

「失礼するにゃ」

 

 そう言うと、3人はそそくさと皆月を吹っ飛ばした方向へと走っていった。

 笑顔なのに瞳がちっとも笑っていないその表情に思わず慄いてしまった。まるで今朝のことりを彷彿とさせた。

 

「み、皆月さんは大丈夫かな?」

「さあ? まさかと思うがあの3人、皆月を抹殺しにいったんじゃ」

「まあまあ、ええんちゃう。正直あの子の身体能力はウチら並やし、海未ちゃんたちといえど流石に……って、えっ!?」

 

 皆月が捕まるはずがないとそう思っていたが、突然プールサイドに目をやったラビリスが悲鳴を上げた。何事かとみると、 そこには衝撃的な光景が……

 

 

「ええええええっ!? 皆月さんがどこかのトレーナーみたいにプロレス技かけられてる!?」

「海未が十字固めで、にこがヘッドロック……それに、凛が脛蹴りとは。痛そうだな」

「ちょっ! それよりあの3人、あの子をそのままプールに落とそうとしてない?」

「えっ!?」

「と、止めるぞっ!!」

 

 

 3人が凶行に走る前に止めようと現場へ走っていく。でないと、あの3人が今夜のネットニュースに乗ってしまう!

 

 


 

 

「はあ~」

「いやー、疲れたね。本当どうなることかと思ったよ」

「確かに」

 

 悠と穂乃果は流れるプールで浮輪に乗りながらゆったりと過ごしていた。

 

 先ほどまで騒動を収めるのに大変だった。まずは3人を思いとどまらせて、その隙に皆月を救出。意識が飛んでいたのでAEDを使用して蘇生。何とか息を吹き返して安心したところで、この施設の監視員とスタッフが駆けつけて厳重注意を受けてしまった。自分たちは関係ないと主張しようにも、すでに3人は姿をくらましており主張のしようがなかった。

 まあ理不尽なことになったとはいえ、皆月が無事でよかった。本人は厳重注意を受けた後、酷い目に遭ったとぐちぐち言いながら帰っていった。

 思えば、GWでは敵対した皆月と普通の男子高校生のような会話をしてたなんて、改めて思うと信じられなかった。

 

「そういえば悠さん、聞いてほしいんことがあるんだけどいいかな?」

 

 先ほどまでのことを振りかえりながらぼけっとしていると、穂乃果からそう声を掛けられた。

 

「んっ?」

「私ね、生徒会入ったんだ」

「えっ!?」

 

 またも衝撃的な内容に思わず浮輪から落ちそうになった。

 

「穂乃果が生徒会長で、海未ちゃんが副会長。ことりちゃんが会計で……って。あれ? ことりちゃんから聞いてないの?」

「聞いてなかった……」

 

 実際あの時から穂乃果のことばかり考えていたので、ことりから全然聞いていなかった。

 

「あはは、まあそうだよね。ことりちゃんも慣れない生徒会の仕事であっぷあっぷしてたから。この間も書類ミスで部活動の子たちに迷惑かけちゃったし……」

「ああ……」

「でもね。改めて思ったんだ。普段悠さんと絵里ちゃんが感じているリーダーの大変さってこんなの以上なんだって」

「そんなことは……」

「だからこそ、もっとしっかりしないとって思ったの。来年はもう悠さんも絵里ちゃんもいないし、甘えられないから」

 

 そうだ、来年は悠たち3年生組は卒業してもう音ノ木坂学院にはいない。だからこそ、自分たちで何事にも対応できるようになっておかねばならない。そのために生徒会長になったのだと穂乃果は言った。

 だが、そんな穂乃果に悠は率直に言った。

 

「俺たちがいなくてもやっていけるさ、穂乃果たちなら」

「そ、そうかな?」

「ああ、実際穂乃果はこれまで俺以上にリーダーらしいことをやってたこともあったから。俺らがいなくても、大丈夫さ」

「……だといいんだけど」

「それに、穂乃果が生徒会長になったのはそれだけの理由じゃないだろ?」

 

 見透かされたといった表情を浮かべた。

 そうだ、自分が絵里の跡を継いで生徒会長になった理由はそれだけじゃない。単純にやってみたい、悠と絵里がこれまでやってきた大勢を引っ張り導くという役割をやってみたいと思ったから。

 

「だから、もっと自信を持て。高坂穂乃果」

 

 ああ、そうだ。やっぱりこの人だ。

 目の前に映るこの青年はいつもそうだ。誰にも本心を話したことがないのに、こんな風に理解してくれる。それを自分だけでなく今まで大勢の人たちにやって、そしてより方向に導くのだ。

 これが自分の理想。この人みたいになりたいと思う人物像そのものだ。いや、それよりももっと確かな感情がある。

 穂乃果はそれを隠そうと天を仰いだ。

 

 

「嗚呼……やっぱり好きだなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっぱい遊んだね」

「そうだな、こんなに遊んだのは久しぶりだったな」

 

 たくさん遊んでもう夕方になってしまった。本当のデートなら、これからレストランにでも行って一緒に夕飯を食べるのがセオリーなのだろうが、自分たちは高校生。そんな時間はないので、悠は穂乃果を家に送ることにした。遅くなったら変な勘繰りをされてお義父さんに殺される。

 

「なあ、穂乃果」

「んっ、なに?」

 

 だから、デートの終わりには悔いのないように自分の想いを伝えよう。

 

 

「この間は済まなかった。叔母さんのことがあったとしても、穂乃果に刀を向けて……傷つけようとしてしまって……」

 

 

「…………」

 

 和菓子屋【穂むら】に着くか寸前の場所で悠は穂乃果に改めて頭を下げた。デートの最後にしては0点の行動に穂乃果は唖然としてしまった。そんな反応にやってしまったと悠は焦ったが穂乃果はため息を吐いた。

 

「いいよ、もう気にしなくて」

「えっ?」

「あのことに関しては穂乃果も悪かったから」

 

 悠の謝罪にそう返した穂乃果だが、内心は複雑な気持ちだった。今日はとても楽しいデートだったのに、最後に何でそんなことを言うのか。返した通り、もうそのことは気にしてないし謝罪してもらう必要はない。

 

 だから、鳴上悠は女心に鈍感だということを再認識させられた。ならば、ここで自分の気持ちを知ってもらうしかない。

 

 

「この際だからはっきり穂乃果の気持ちを伝えるね」

 

 

 穂乃果はそういうと、スッと悠に近づいた。そして、

 

 

「えっ?」

 

 

 一瞬の内に左頬に柔らかい、穂乃果の唇の感触が伝わった。熱いようで温かい、そんなちぐはぐな表現しかできないほどに。

 

 

「これが、穂乃果の気持ちだよ。今日のデート、すっごく楽しかった」

 

 

 やり切ったと夕日に背を向けてこちらを見る穂乃果はまるで向日葵のような輝きに満ちた笑顔だった。

 これまでマリーやことりに額や右頬にキスされてたり、希と唇にする寸前まで行ったりなどと様々なシチュエーションを体験したものだが、この時は時が長いように感じた。

 つまりは今までより心がドキドキしていた。

 これが何なのか、一体どうしてなのか。それをこの時の悠は知る由もなかった。

 だが、一つだけ確かなことがある。

 

 

ーーーーーーーこの日の彼女の笑顔を一生忘れることはないだろう。

 

 

 だが、穂乃果は失念していた。

 この行為はμ‘sの禁足事項に触れてしまっていることを。

 そして、場所が自分の家の傍だったことを。

 

 

 


 

 

「お二人とも、これはどういうことですか?」

 

 あの後、穂乃果と悠のキスをバッチリ見ていた高坂家一同(特に穂乃果父と雪穂)に尋問を受け、更には南家でことりと雛乃に散々絞られた翌日、学校に来て早々に海未たちに囲まれて部室に連行されてしまった。一体何なのだと言うと、無表情の希が一枚の新聞を突き付けた。

 

 

【熱愛発覚! 学校のアイドル高坂穂乃果・鳴上悠、公衆の面前で熱烈のキス‼】

 

 

 突き付けられた新聞の写真を見て、背筋が凍ってしまった。その写真はあろうことか、デートの最後に穂乃果が悠にキスしているシーンを捉えていた。しかも実際は左頬にキスしたのに、絶妙なカメラワークで正面からしているような構図になっていた。

 新聞の写真を目のあたりにして2人に最悪のビジョンが脳を過った。 “熱愛報道”・“グループ解散”・“ネット炎上”。そんな不吉な言葉が浮かぶほどこの手の話題にはそんな悪いイメージしかない。

 

「新聞部の畑さんが取ったんだって。流石にプライベートな内容だったから、佐々木君に頼んで差し押さえてもらったわよ」

「しかし、私たちにとってそんなのはどうでもいいことです。問題は、こんな破廉恥なことをしでかすほど仲を深めたことを問い詰めたいだけですよ」

 

 それは死刑宣告だった。待ってましたと言わんばかりに皆の視線が一気に鋭くなる。

 

「聞けば穂乃果、貴女ファッションをマリーに選んでもらったというチートも使ったようね」

「陽介さんからちゃんと被害届も出てるんですよ?」

「ちゃんと答えるまで帰れると思わないことですよ。お二人とも?」

 

 

「「はい……」」

 

 

 その日、2人は1日を掛けて尋問された。

 

 

To be continued.


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