PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
最近朝と夜の気温差が激しいのか少し体調を崩していました。これから梅雨入りしていき、体調を崩しがちになりますが皆さんも気を付けてください。
今まで週一くらいで更新してきましたが、講義などが最近忙しくなってきたので更新スピードが遅くなると思います。しかし、この作品を書くこと自体は楽しいですし、読者の皆様の感想や評価が自分の励みとなっていますので、更新が遅くても完結まで続けるつもりですので、よろしくお願いします。
そして、今回この話にP3メンバーの誰かが登場します。明記してないとはいえ、某実写映画の予告編のように出し過ぎじゃね?と思っているかもしれませんが、もうすぐあの話を書き始めるので……
最後に、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方々、ありがとうございます!
まだまだ未熟で拙い作品ですが、これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きます。応援よろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ!
<放課後 秋葉原 喫茶店>
「はぁ……」
外の雨音がBGMとなっているような静かな秋葉原の喫茶店にて、悠は思わず溜息をついてしまった。それと言うのも、今自分の目の前で美味しそうにパフェを堪能している少女が原因なのだが、誰とは言わない。すると、悠の溜息が聞こえたのか、少女もとい『矢澤にこ』はパフェを食べる手を止めてしかめっ面で注意してきた。
「何よ、あからさまに溜息なんかついて。この可愛いにこちゃんとデートできてるんだからもっと嬉しそうな顔しなさいよ」
「そうは言ってもな…」
時を遡ること数十分前。悠たち【μ‘s】は部室の確保のため、にこの所属するアイドル研究部を訪ねたところ、悠が思わぬハプニングでにこのあるようで無いような胸を触ってしまったのだ。その代償として悠が受けたのは、にこのグーパンとにこから提示された罰だった。その罰の内容というのが…
【にこが良いと言うまで、にこの言うことを何でも聞くこと】
まぁ要するに、このことを口外されたくなければ自分の命令に従えということなのだ。その一環として、今この喫茶店で一番高いパフェを奢らされている。
(どうして…こんなことに……)
そんなことを思いながらコーヒーに口をつける。ここのコーヒーは中々だが、叔父の堂島が淹れてくれたコーヒーの方が美味しい気がした。あのコーヒーの味が恋しくなってきたと思っていると、にこが話しかけてきた。
「それより、アンタ本当にコーヒーだけで良いの?」
「ああ、八十稲羽に居た時、刑事の叔父さんがよく淹れてくれてな。それからコーヒーが好きになったんだ。まぁ、出費を抑えるためでもあるけど…」
悠はそう言うとにこが食べているパフェに目を向ける。すると、にこは取られると勘違いしたのかパフェを守るように手で囲った。
「ダメよ!これは私が頼んだものだから、絶対にあげないわ!」
「いや、何も食べたいなんて言ってないけど」
食べたいという気持ちはないわけではないが、本人が譲るとは思えない。
「ていうかこれはアンタの奢りで、アンタへの罰なんだからね!」
「分かってる…」
そう言って悠は軽くなった財布に目を落とす。最近参考書を買ったり、穂乃果たちに色々奢ったりしたせいか、財布が随分と軽くなった。このままではGWに八十稲羽に帰る際、陽介たちのお土産も買えないので流石にバイトを考えなくてはならないだろう。どこか良いバイトはないものかと思っていると、突然にこがこんなことを言ってきた。
「はぁ、アンタにそんな暗い顔されたらこっちも楽しくないわね。仕方ないから私のパフェ食べさせてあげるわよ」
「え?」
にこの発言に呆然としていると、にこがパフェを少しスプーンで取って、悠の口元に寄せてきた。
「ほら、口開けなさい」
おかしい。普通ならここは『はい、あ~ん』とか甘酸っぱいことを言うはずなのに、何故にこはこんな脅し文句のようなことを言うのだろう…
「いや、矢澤…別に俺は」
「良いから口開けなさいっての!」
そうやってにこは気迫で強引に悠の口にパフェを運んだ。
「うぐっ!」
無理やり口にパフェを入れられて、少し気管に入ってしまったのか悠は思わず咽てしまった。これでは味もへったくれもない。にこもこうなるとは思わなかったので、どうすればいいのか分からずあたふたとしたが、事態に気づいたウエイトレスさんが慌ててお冷を持ってきてくれたので大事には至らなかった。
「鳴上………大丈夫?」
「ケホッ…ケホッ………し、死ぬかと思った…」
「うっ…ごめん…」
にこは申し訳なさそうに俯いて悠に謝罪した。この後、一応にこのパフェは美味しくいただいたが、その時何故か背後に殺気のようなものを複数感じたのは気のせいだろう。そう思いたい……
その後、2人は会計を済ませて店を出た。見るとさっきまで降っていた雨は上がっており、空に眩しい太陽が出ていた。にこは悠に付きあってほしいところがあると言ってきたのでそれに従うことにした。すると…
「なあ、矢澤…何か視線を感じないか?」
「……そうね」
2人の言う通り、遠く離れたところから2人をしっかりと監視している一行がひとつ……
「あの女……お兄ちゃんを窒息させかけるなんて………」
「ことり、一度落ち着いてください。それと手に持っている傘を降ろしてください。危ないですから……」
黒いオーラを発しながら2人を睨むことりを宥めようとする海未。先ほどのことがとても許せないらしく、店を出てからこの調子なのだ。重度のブラコンもここまで来れば恐ろしいものである。それともう一つ厄介なのが……
「ん~!あそこのフレンチトースト美味しかったね!」
「あのケーキも中々だったにゃ!」
「…アンタたちは何をしに来たのよ」
「あははは……」
喫茶店で食べたスイーツの感想を大声で言い合っている穂乃果と凛、それを冷ややかに見る真姫と苦笑いする花陽である。目的は悠とにこの尾行であるはずなのに、このバラバラ具合。日頃、悠がいかに穂乃果たちを上手にまとめていたかを痛感させられる。どうしたもんかと頭を悩ませる海未に意外な救世主が現れた。
「まあまあ、ここは一旦落ち着こうや」
それはさっきまでことりと再教育がどうだのお仕置きはどうだのと相談していた希だった。その希は疲れ切っている海未に微笑みかけてこう言った。
「見たところ、鳴上くんはにこっちに嫌々付き合ってるって言った感じやから、今のところは大丈夫やろ。そう気を張らんでええって。高坂さんたちみたいに気楽に行かな」
「え?」
「妹ちゃんも、にこっちは男の子との経験がなかったからテンパっただけよ。お兄ちゃんも気にしてないようやし、許してやってや」
そう言ってことりを宥める希。ことりも希の言うことを聞いて大分落ち着いてきているようだ。そうして希は穂乃果たちも落ち着かせて尾行に集中させることに成功する。いつも悠がしているポジションの役割をそつなくこなすその手際には海未は感嘆を覚えた。しかし……
(何でしょう、この気持ちは……何かモヤモヤします……)
海未の心の中に自分にも分からない感情が渦巻いていた。それは何なのかを考えようとしたその時、
「あ!鳴上先輩たちが居なくなったにゃ!!」
「「「「え?」」」」
己の心の中の感情に気を取られていたせいか尾行対象の2人を見失ってしまった。おそらく海未たちの気配に気づいたので、姿をくらましたのだろう。
「ほ、本当だ……」
「は、早くお兄ちゃんたちを追いかけないと……」
急いで辺りを捜索しようとする穂乃果たち。すると、そんな穂乃果たちを希は止めた。
「ちょい待ち。闇雲に探しても、この人の多い秋葉原で2人は見つからんと思うで?」
「で、でも……」
希の言うことは正論だが、だったらどうするのだと穂乃果たちは納得し切れていないようだ。しかし、希は穂乃果たちに余裕の笑みを返し、懐からタロットカードを取り出してこう言った。
「大丈夫よ、ウチがこのカードで鳴上くんとにこっちの居場所を当ててみせるから」
「「「「え?」」」」
一方その頃、逃走者2人は……
「ここなら大丈夫だろう」
「アンタにしては中々うまいことを考えたわね」
悠とにこは穂乃果たちの追跡を逃れるために辰巳ポートアイランドを訪れていた。秋葉原から逃走する際、最初はにこがサングラスとマスクでやり過ごそうと提案したがそれでは逆に目立つので、悠がここに逃げ込もうと提案したのだ。我ながらナイスアイデアかと思ったが、相手には希がいるので油断はできない。何とかしなくてはと思い、商店街の方へ行こうとすると
「ワン!」
「うお!」
突然1匹の犬が悠にすり寄ってきた。外見からして犬種は柴犬だろうが、毛並みは珍しいことに灰色で赤い瞳を持っている。その柴犬は何故か初対面の悠にとても懐いてるようで、ズボンの裾を噛み始めた。
「ワンワン!!」
「な、何よこの犬」
「俺に聞かれても……」
一刻も早く逃げ場所を探さなければいけないのに、この犬は中々裾を離さない。どうしたもんかと思っていると、
「コロマル!ダメじゃないか!」
すると、遠くからこの犬の飼い主らしき少年が近づいてきた。服装と見た目からして中学生だろう。身長もにこより高く爽やかな印象を持つ顔をしているので、結構女子にモテそうだ。その少年の声に反応したのか犬は悠の裾を噛むのを止めて離れて言った。
「くぅ~ん……」
「すみません!うちのコロマルがご迷惑を…」
少年は悠たちに迷惑が掛かったと思ったのか深々と頭を下げた。見た目によらず中々礼儀正しい。そんな少年と犬に怒ることなく、悠は優しく返事を返した。
「気にするな。俺はそんなに気にしてないから」
「で、でも……」
「別にこのコロマルって子も、何も悪意があって俺に接したわけじゃないだろ?なあ」
「わん♪」
コロマルと呼ばれた犬は悠にそう言われて嬉しかったのか、喜びを露わにして再び悠に懐き始めた。それに対して悠はよしよしとコロマルの頭を撫でる。そんなほのぼのとした光景を目にした少年は不思議そうに悠とコロマルを見ていた。
「珍しいなぁ。コロマルが初対面の人にこんなに懐くなんて」
「そんなに珍しいの?」
「うん、今まで全く僕や知り合いの先輩たち以外は関心を持たなかったんだ。だからこんな風に知らない人に懐くのは珍しいなって思って」
「なるほどね……」
にこは少年の呟きに反応したが、その返答を聞いて納得したようだ。
「ちょっと違うけど……何かあの人に似ているな」
少年が悠とコロマルがじゃれあっているのを見て何かを思い出していると、隣のにこがワナワナと震えていた。
「というかアンタ……何で私にタメで話してんのよ!ちゃんと年上には敬語を使いなさいよ!」
「…何言ってるんだよ?君はまだ小学生だろ?」
「違うわよ!私はれきっとした高3よ!」
「はあ?」
どうやらこの少年はにこを本気で自分より年下だと思っていたようだ。まあ、身長も彼の方が高いし見た目的にもそう見えるだろうから仕方のないことだろう。しかし、端から見ればそれは兄妹喧嘩のようにも見えた。商店街の道でそんなほのぼのとした雰囲気が流れ始めている中、それをぶち壊す者が現れた。
「にこっち♪鳴上くん♪、み~つけた♪」
「「「!!」」」
背後に聞き覚えのある冷たい声が聞こえたので思わず悪寒を覚えた。振り返ってみると、そこには腕を組んで仁王立ちしている希がいた。
「の、希……」
「何でここが……」
「ふっふっふ、女の子はスピリチュアルやからね♪鳴上くんの行動パターンなんてお見通しよ♪」
答えになっていない。それに顔は笑ってはいるが、希の瞳にはハイライトがないので恐怖しか感じない。
「な、何ですかあの人……笑っているのに怖いんですけど……」
「くぅ~ん………」
少年もコロマルも希の黒いオーラに恐怖している。まだ純粋な中学生や犬に見せてはいけないものを見せてしまったような気分だ…
「あら?その子は……うふふ、にこっち…鳴上くんのみならずその子にも手を出そうとしとったんかいな?」
「はあ!何言ってんのよ!そんな訳ないでしょ!」
「じゃあ、そっちの子が?」
「ち、違いますよ!!僕はロリコンじゃないです!!」
「だあれがロリだっていうのよ!」
あらぬ疑いを掛けられたので、にこと少年は慌て始めた。希はその様子を見てニヤニヤしているので、明らかに遊んでいるのは明白であった。改めて希の人身掌握術に関心を覚えるが、そんなことをしている場合ではない。早くこの場から逃げなければと思い、慌てている2人を正気に戻そうとしたその時
「わん!」
コロマルと呼ばれた犬は悠のポケットからはみ出ていたハンカチを口に食わえて近くの細い路地に駆け出した。
「お、おい!」
「コロマル!何してるんだ!!」
「ちょっ!あの犬どういうこと!」
悠と少年、にこはコロマルを追うために駆け出した。
「なっ!ちょっと!」
これに一番驚いたのは意外に希であった。どういうことかと思っていると、背後からこんな声が聞こえてきた。
「よーし!鳴上せんぱい……ってあれ?先輩は?」
「お兄ちゃんが…いない……どういうこと?」
「ごめん……作戦失敗や…」
どうやらさっき悠とにこたちが逃げようとした先に穂乃果たちが潜んでいたらしく、そこに悠たちが来た瞬間に捕まえようとしたらしい。妙に穂乃果たちが居ないと思ったら、このための布石だったとは。もしかしてコロマルは……
「何か分からないけどチャンスよ!このまま逃げ切れるわ!!」
「ああ!頼むぞ、コロマル!」
「ワン!」
「って、僕は逃げる理由なんてありませんよね!!勝手に巻き込まれただけですよね!!」
各々がそう言って、コロマルの後を追って逃走を再開する。希たちも逃がすものかと必死に悠たちの後を追ったが、その後悠たちの姿を捉えることは出来ず、捜索を断念せざるを得なかった。
「ハア…ハア……どうやら逃げ切ったようだな……」
「そのようね……」
「ぼ…僕まで……恐怖を感じましたよ……」
何とか希たちの追跡を振り切り、神社の方に逃げ込んだ悠たち。辺りを見渡す限り、もう希たちの気配はなかった。もう今日の追跡は諦めたのだろうが、どっちにしろ明日もまた学校で会うことになる。その時どうするかは考えるだけで頭が痛くなるが、今はそっとしておこう。それよりも今はさっきの逃走を成功させた功労者に労いの言葉を掛けるのが先だろう。
「ありがとうな、コロマル。おかげで助かったよ」
「ワン!!」
悠がお礼を言うとコロマルは嬉しそうに喜んだ。どうやらコロマルが悠のハンカチを奪ったのも、希たちから逃がすためのことだったらしい。
「君の方もごめんな。こんなことに巻き込んでしまって……」
「いえ、そんなことは……」
「今度君とコロマルにはお礼しないとな」
「いえ!お礼なんて結構です!……あの、そろそろ僕たち寮の門限があるので、帰らなくちゃいけないんですけど」
「そうか……」
「くぅ~ん」
コロマルはもうお別れの時間だと知ると寂しそうな顔になった。それを見た悠はコロマルに優しく近づき、頭を撫でてこう言った。
「そんな顔するな。また会えるからな」
「わん!!」
悠がそう言ってくれて安心したのか、コロマルはまた悠に懐き始めた。その様子を見て、少年は羨ましそうであった。
「ふふふ、コロマルがここまで懐くなんて…やっぱりあの人みたいだな…」
「あの人?」
少年の言葉を聞き、悠は思わず聞き返してしまった。すると、少年は懐かしむようにこう語った。
「ええ……今はもう居ないですけど、僕の憧れであって……忘れられない人です」
少年はそう語るが、悠は見逃さなかった。少年がその人物を語るときの表情が嬉しそうであり、少し後悔を抱えているような感じになっていることを…
「…………」
にこもその表情に思うところがあるのか静かに少年の方を見ていた。
「あ……すみません、何か湿っぽくなっちゃいましたね」
「気にしなくていい。そう言えば、まだ名乗ってなかったな。音乃木坂学院3年の鳴上悠だ。よろしく」
「……月光館学園中等部2年の【
「ワンワン!!」
少し湿っぽくなったが、悠と乾は互いに自己紹介をしたあと固い握手を交わした。そして、コロマルは名残惜しそうにしていたが、ちゃんと乾に寄り添って寮へと帰っていった。
ー天田乾・コロマルと絆が少し芽生えた気がする。
乾とコロマルと別れた後そのまま自宅に帰ろうとしたが、さっきまで蚊帳の外だったにこが突然夕飯の買い物がしたいから付き合えと言ってきたのでそれに付き合うことにした。
<スーパー>
とりあえず、にこの行きつけというスーパーに足を運んだ悠とにこは買い物かごを手にして、買い物を開始する。
「今日は何にしようかしら……」
早速にこは食材売り場で食材を物色し始めた。その手つきからして、かなり手馴れているように見える。
「そうね……今日は肉が安いから、野菜のこれとこれを買ってカレーかしらね」
悠は真面に買い物をしているにこの姿を見て驚愕した。というのも、八十稲羽に真面に買い物をしている女子を見たことがないので一種の感動を味わった。にこのまともに買い物をする姿をみると思わず涙してしまう。その悠の姿を見て、にこは思わず引いてしまった。
「な、何よ…」
「矢澤がまともに買い物が出来る女子で良かった……」
「アンタ失礼ね!私だって買い物くらいできるんだから!」
「あ、ごめん…八十稲羽には、こんな女の子が居なかったからな。俺の知ってる女子はカレーに片栗粉や強力粉、それにキムチやコーヒー牛乳とかを入れてたから……」
「……アンタ何言ってんのよ?料理にそんなことするやつなんて現実にいる訳ないじゃない」
いや、実際それを実行した必殺料理人達は実在する。にこだってあの林間学校で錬成された物体Xを目にすればそんなことは言ってられないだろう……というか、その必殺料理人の一人にりせが入ってることは黙っておこう。にこの安全と夢を損なわないためにも……
そう思っていると
「お姉さま?」
すると、奥から小学生くらいの女の子がそう言って近寄ってきた。外見や身長からして小学生、そしてその顔は……
「矢澤?」
見ての通り髪型は違えど、どう見てもにこにそっくりなのだ。
「こころじゃない!どうしてここにいるのよ!」
「ちょっとお姉さまの帰りが遅かったので、ここにお姉さまがいるかもしれないと思ってきてしまったのです」
「そ、そうだったのね……ごめん」
やりとりから察するにこの子はにこの妹のようだ。それにしても高坂家とは違って顔立ちがよく似ている。年的にも菜々子と同じくらいだろう。そんなことを思っていると、こころと呼ばれたにこの妹が悠の存在に気づき指を指してきた。
「お姉さま、この男の人は誰ですか?」
何やらこの子に疑惑の目で見られている気がする。何やらお姉ちゃんに着く悪い虫と勘違いされているようだ。
「え~と…俺は……矢澤のとも」
「マ、マネージャーよ!」
「え?」
「こいつは私の優秀なマネージャーなのよ」
突然にこが言い出したことに悠は困惑した。自分はいつからにこのマネージャーになったのだろう。そんなことを言ったら余計誤解されるだろう。
「え?……いや、俺は」
変な誤解を受ける前に訂正しようと思ったが、もう遅かった。
「こ、この人が……お姉さまのマネージャーさんなのですね!」
「え?」
想像していたリアクションとは違い、こころというにこの妹はそれを真に受けたのか目をキラキラさせながら悠に近づいてきた。
「は、初めまして!私、お姉さまの妹の【矢澤こころ】と申します。いつもお姉さまがお世話になってます!!」
「あ、ああ……マネージャーの鳴上悠です…よろしく」
「鳴上さん…素敵な名前ですね!まさに仕事が出来そうな人の名前です!!」
そう言われたのはこの子が初めてのような気がする。そんなことを思っていると、こころがこんなことを提案してきた。
「あの!いつもお姉さまがお世話になっているお礼に我が家で夕飯を食べにいらっしゃいませんか?」
「え?」
<矢澤家>
「お、お邪魔します……」
「どうぞ!お上がりください!」
何故か成り行きで矢澤家にお邪魔してしまった。夕飯を食べるくらいならと思って軽々しく来てしまったが、どうも気まずい。思えば女子の家に来たことは八十稲羽ではなかったので、これが初めてといったところだろう。にこも同じなのか気まずい顔をしている。すると、
「お姉ちゃん、お帰り!」
「お帰り~」
奥からこころより小さい女の子と男の子が現れた。この子たちもにこの兄妹なのだろうか
「ここあ、虎太郎、この人はお姉さまのマネージャーさんよ。挨拶しなさい」
「「は~い」」
こころがそう言うと二人は元気よく返事して悠の元へ駆け寄った。
「こんにちは、マネージャーさん。【矢澤ここあ】です」
「虎太郎……です」
ここあは元気溌剌と言った感じで、虎太郎はのんびりとした感じで悠に挨拶した。マネージャーと勘違いされていることに少し違和感を覚えるが、そこは合わせて悠も2人に自己紹介をした。
「ああ、こんにちは。鳴上悠だ。よろしくな」
「なるかみゆう?……じゃあ、悠兄だね!よろしく」
「ゆうにい~」
なんだろう…この子たちと話すとすごく和む気がする。姉とは違ってみんな礼儀正しくて良い子だ。何故姉の方は…
「鳴上?今失礼なことを考えなかった?」
「……何でもございません」
余計なことを考えていたら背中に悪寒を感じた。
「ったく……さあ、上がりなさいよ。夕飯作るから」
「え?矢澤が作るのか?じゃあ、俺も」
「アンタは一応お客様なんだからおとなしくしていなさい」
「ええ…」
幼いころから忙しい両親のために料理や家事をこなしてきた悠にとって、おとなしくしてろとはあまりに出来ないことである。それに、女子の手料理に全くいい思い出のない悠にとっては不安しか感じないが、とりあえず信じてみようとおとなしくすることにした。
<矢澤家 リビング>
矢澤家のリビングに通してもらって気づいたのは、部屋は綺麗に片付いているということだ。洗濯物は綺麗に畳んであるし、何より隅々まで掃除が行き渡っている。家事スキルが高い悠からしても中々のモノだと思った。こころに聞くと、家事のほとんどは全てにこがやっているとのことだったので、改めて特捜隊女子陣には見られなかった女子力に感嘆してしまった。すると、
「ねぇ悠兄~、遊んで!」
「遊んで~」
どうやらここあと虎太郎は悠と何かして遊びたいらしく、ソファに座っていた悠にそうせがんできた。次女であるこころがそんな妹や弟にお客様なんだからと窘めたが、悠はその申し出を受け入れた。
「良いぞ、何して遊ぶ?」
「やった~!あのね…」
子供の相手は八十稲羽で学童保育のアルバイトをしたことがあるから慣れている。あの時は多数の子供たちを相手にしたのだから、これくらいは大丈夫だ。その後、ここあと虎太郎とゲームやおままごとなどをして遊んだ。
「わーい!悠兄おもしろーい!」
「うん!」
こころも最初は戸惑ってはいたが、楽しそうな妹と弟を見て輪の中に入っていった。すっかり悠は矢澤姉弟に気に入られたようだ。そんな悠を中心にしてはしゃぐ妹や弟たちを見て、料理をしているにこは驚愕した。
「ここあたちがあんなに懐くなんて……初対面の犬にも懐かれたりして、不思議なやつね……」
そう思っているうちに今日の夕飯であるカレーが完成したので、にこはみんなをテーブルに呼んだ。さて、みんなが席に着いてカレーを頂こうとした時に、ここあがこんなことを言い出した。
「ねぇ悠兄、ご飯食べたらさっきの魔法もう一回見せて!」
「ま、魔法?」
ここあが突拍子もないことを言い出したので、にこは思わず聞き返した。
「はい!先程、悠お兄様が私たちに素敵な魔法を見せてくれたのです」
「へぇ~…魔法ね……」
こころの言葉を聞いて、悠の魔法というものに少し興味を持ったが、さりげなくこころの悠の呼び方が『悠お兄様』となっているので随分と懐いたものだと、にこは少し苛立ちを覚えた。にこも悠と同じくシスコンなのだろう。
「まあ、一種の手品みたいなものだ。分かったよ、お姉ちゃんのご飯食べたらもう一回見せるよ」
「「わ~い!」」
「それじゃ食べようか。いただきます」
「「「いただきま~す」」」
「…いただきます」
悠の号令と共にみんな夕食に箸をつけた。にこのカレーは文句なしに美味だった。こころたちと遊んでいる最中に調理中のにこの様子を見たが、それは悠から見ても文句なし。学校での様子とは違い、家事も出来るし料理も出来るしまさにパーフェクトだ。
(日頃の行いや性格を治せば、矢澤は良い嫁になるんじゃないか……まぁ誰かと結婚したとしたら、相手が通報されるかもな…………)
そんな失礼なことを考えながら、悠はにこの夕飯を堪能した。
そして、夕飯を食べ終わったころ…
「で…その魔法とやらを見せてみなさいよ」
にこはリビングのソファに座って悠にそう言った。最初こころ達に見せたのは、菜々子にも見せた輪ゴムを使う簡単な手品だったが、次は難易度が少し高いものをすることにした。
「じゃあ始めよう。まずここに金ぴかに光る500円玉があります」
悠はポケットから500円玉を取り出して、にこ達に見せる。さっきとは違うものが始まるのを見て、こころ達は目をキラキラとさせて成り行きを見守っていた。
「これを手の中に入れて……よ~く見てろよ」
悠は500円玉を手で握りしめて数回腕を振った。すると……
ー手の中にあったはずの500円玉が忽然と消えてしまった。
「えええ!どういうこと!!」
「わー!すごーい!!」
「流石、悠お兄様です!」
「すご~い」
悠の魔法…もとい手品を目の前にして、にこは驚愕、こころ達は歓声を上げた。
「ど…どういう……あ!分かったわ!……鳴上、アンタさっきの500円玉を自分のポケットかどこかに隠してるわね!」
にこがあたかも論破を決めたような決め顔でそう指摘した。それを聞いたこころ達をおおっと関心したような声を上げたが、悠は涼しい顔で肩をすくめた。
「さぁ?どうだろうな?」
「とぼけても無駄よ!早速アンタの身体を調べさせてもらうわよ!」
「ご自由にどうぞ」
にこは悠の動揺しない顔が気に食わなかったのか絶対見つけてやると意気込んで、悠の服やズボンを隈なく調べたが500円玉は出てこなかった。
「嘘……どういうことよ……」
「悠お兄様、さっきの500円玉はどこにあるのですか?」
「じゃあ、答え合わせだ。答えは………」
悠が意味深に沈黙するのを見て、こころ達は固唾を飲んで次の言葉を待つ。そして、悠の口から出た答えは……
「
「「「え!」」」
こころは慌てて自分のポケットの中に手を入れると、先ほど悠が消したはずの500円玉が姿を現した。
「ええ!嘘!!どうなってんの!!」
「び、びっくりしました……でも、悠お兄様すごいです!!」
「悠兄!さっきのよりもすごいよ!」
「すご~い!」
矢澤姉弟は悠の手品に驚きを隠せなかった。一方、悠は手品が成功したことに内心ホッとしていた。この手品は以前ある人物が悠と菜々子に披露してくれたもので、悠も密かに見様見真似で挑戦していたのだ。正直成功率は五分五分だったので、内心焦りっぱなしだったのだが、何とか出来て良かった。
(……足立さん)
「ねえ!悠兄、もう一回やって!」
「悠お兄様、もう一回お願いします!」
「もういっか~い」
「な…鳴上!もう一回よ!今度こそ見破ってやるんだから……」
ある人物に思いを馳せていると、矢澤姉弟から手品のアンコールがやってきた。こころ達は目をキラキラとさせて続きを待っているが、にこに関しては本気で見破ろうとしているのか眼光を鋭くしている。
「分かった、じゃあ」
その後、悠の手品ショーのお陰で矢澤家はこころ達が寝付くまで賑やかだったという。ちなみに、にこは悠の手品のタネを一個も見破れなかったので、ずっと悔しそうにしていた。
こころたちが寝付いた後、夕飯の皿洗いなどを手伝って、悠は帰宅することにした。
「じゃあ、俺はこれで。また明日、学校でな」
悠は早々にドアノブに手を掛けたところで、にこが話しかけてきた。
「……鳴上」
「ん?」
「今日はありがとう……パフェ奢ってくれたり、こころ達と遊んでくれたり……」
にこは俯きながらそうお礼を言った。
「別にいい。パフェの件は矢澤の条件の一環だし、こころ達と遊んだことは成り行きだったけど、俺は楽しかったぞ」
「そう……」
「それに、今日は矢澤の意外な一面も見れたしな」
悠がいたずらっぽくそう言うと、にこは顔を真っ赤にして慌て始めた。
「な!ななな何言ってんのよ!!アンタ私のこと好きなの!?」
「え?…」
突然のにこの失言に悠は思わず固まってしまった。にこも己が何を言ったのかに気づいたのか、更に顔を紅潮させていた。
「な……何でもないわ!何でもないから今のは忘れなさい!!違うから!!」
「すまないが矢澤、俺はロリコンじゃなくてフェミニストだから……」
「違うって言ってんでしょ!」
悠の発言も十分アウトに近いが、このままではこころ達を起こしかねないので悠はにこを宥めることにした。
「まあ落ち着け、俺も本気にしてないから」
「……なら良いわよ。でも、まだ責任は取ってもらってないわ!明日はもっとキツイものをお願いするから覚悟しなさい!」
「臨むところだ。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ……気を付けて帰りなさいよ」
こうして悠は矢澤家をあとにして帰宅した。帰宅した途端、今日の疲れがどっと押し寄せてきたので、悠はそのまま布団に入って眠ってしまった。
another view(にこ)
「私……何であんなこと言ったんだろ………」
私はお風呂に入りながらそんなことを呟いていた。気にしているのはさっき鳴上に言ったあの言葉。その場の勢いで言ってしまったとはいえ、何であんなことを言ってしまったのかは分からない。今でも茹で上がったタコのように顔が真っ赤になっているのよね。別に鳴上が本気で好きという訳ではないけど、ただ……
「あいつと居ると……何か楽しいのよね…昔のことを忘れられるというか……」
…昔……あの日…………
あ~ダメダメ!こんなことで暗い気持ちになるのはアイドルにとって大敵なのよ!明日も学校があるんだから元気で行かないと!
私はそう気持ちを奮い立たせて風呂から上がって、いつも通りパックをしてリビングへ向かった。リビングに着くと外から雨の降る音が聞こえたので窓を見てみると、思った通り雨が降っていたわね。
「ここ最近雨が多いのよね。まだ梅雨じゃないって言うのに」
だからこそ鳴上たちは必死に雨の日の為の練習場所を探してるのよね。あいつら……自分たちがやっていることが無駄だってまだ気づかないのかしら?明日また来たら完膚なきまで叩きのめして追い返してやる。さてと、明日は鳴上に何をしてもらおうかしら?
そう思って、私は部屋に行こうとすると
プツンッ
リビングの奥からテレビの電源が切れたような音が聞こえてきた。気になってその音の方を見ていると何もなかった。あったのは家のテレビだけ……
「そう言えば学校で午前0時くらいにテレビを見つめると神隠しが起こるって噂が前からあったけど…まさかそんな馬鹿げたことがある訳ないわよね」
でも、本当かどうか気にはなったし時刻もちょうど0時を指すくらいだったので、試しにテレビの画面を見つめてみた。そして、時計が0時を指した瞬間………
「な…何よ……これ…………どういう…」
この時、私は知らなかった。それが2年前の…私が忘れたくても忘れられない過去と向き合うキッカケになるということ。そして、
私の運命を変える出来事のキッカケにもなるということに………
ーto be continuded
Next Chapter
「矢澤がいなくなった…」
「悠お兄様!」
「鳴上くんってロリコン?」
「ロリコンじゃない、フェミニストだ」
「これは……」
「絶対に助けるぞ」
Next #20「Niko become missing.」