PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

今年も残り少なくなってきましたね。年末は課題に忘年会に合宿…………年が明けたら試験に突入と色々と忙しくなるので、今年の投稿はこれが最後になると思います。少し早いですが、読者の皆様も良いお年をお過ごし下さい。

本編も進めますが、また番外編も何か書こうと思ってますので、活動報告にて年末アンケートを取りたいと思います。是非ともそちらもご覧ください。

改めて、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・最高評価や高評価、評価をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。

皆様の応援のお陰で、お気に入り1000件突破!12/14の日刊ランキング39位・15位・14位にランクインすることができました。至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。

さあ、今回から新章がスタートです!
それでは、本編をどうぞ!


【μ`SIC START FOR THE TRUTH】
#38「Leader Wars」


♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

 

 

聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、悠は別の場所にいた。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した空間。ここは【ベルベットルーム】だ。

 

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 

 

目の前に鼻の長い奇怪な老人がいる。この老人の名は【イゴール】。このベルベットルームの管理者であり、未だに正体が掴めない人物である。そして、その両隣には2人の女性が座っている。右手にいるプラチナ色の髪の女性はイゴールと同じく去年から世話になっている【マーガレット】。そして、左手にいる銀髪の女性は先日の稲羽で起こった事件で知り合ったマーガレットの妹である【エリザベス】だ。以前に比べて、ここも随分華やかになったものだなと悠は思った。

 

「いやはや、先日は彼の地で別の災難に遭われたようですな。その際にこのエリザベスが大変お世話になったとか。どういう風の吹きまわしでこちらに戻ってきたのかは存じませぬが、この子は随分とあなたに興味をお持ちのようだ。この先、大変迷惑をかけるかもしれませぬが、何卒宜しくお願い致します」

 

イゴールはエリザベスに手を向けて頭を下げてきた。エリザベスは悠に向けて意味ありげな笑みを浮かべている。何とも嫌な予感しかしないが、善処するとイゴールにそう言った。

 

 

「さて……エリザベスからお聞きしましたが、何でもその災難の元凶はあの霧の住人の生き残りだったとか………ふふふ、あなたとあの者たちとの因縁は切っても切れぬものかもしれませぬな」

 

 

話を変えて縁起の悪いことを言い始めたイゴール。あまりそうフラグ的なことをいうのはやめてほしい。やつらみたいな存在に遭遇するのはあのGWの一件で十分だ。そう言うと、

 

 

「ふふふ………」

 

 

その様子を見ていたマーガレットがこちらを見て微笑んできた。そして、手元にあるペルソナ全書を開き、そこに綴られている悠のこれまでの記憶を閲覧する。

 

「お客様は彼の地で彼らとの絆を再確認して、あの子たちと更に絆を深め、新たに出会った者たちとも絆を築いた。それにより得た力は今後の旅路に更に役に立つでしょう。しかし、それは()()()()()()()()であるかもしれない。そう感じておられるのでしょう?」

 

マーガレットの言葉に悠は首を縦に振った。今マーガレットが言ったことは全て悠も感じていたことだからだ。あの事件は悠たちが八十稲羽を訪れた時に起こったことといい、"桐条"が関わったことといい、あまりにも出来過ぎていることが多い。あの事件の結末もその何者かの思惑通りなのではないかと悠も思っていたのだ。

 

「あの事件がお客様のこれからの旅路に影響するのは間違いないでしょう………お客様とあの子たちの行く末、どのように変わっていくのかしら。楽しみだわ」

 

マーガレットはそう言うと、ペルソナ全書を閉じてイゴールに目配せした。

 

「今宵はこれまでに致しましょう。では、またお見えに」

 

 

「では鳴上様、またお見えになるまでご機嫌よう。次お会いした時は、鳴上様お薦めの飲食店を紹介してくださいまし」

 

 

「これ!エリザベスっ!私の台詞を取った上に、お客人に図々しいことを言うでない!!」

 

イゴールの締めの台詞を横からすり取ったエリザベスをイゴールが叱責する。何とも言え難いその光景を最後に悠の視界は再び暗転したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<鳴上家 悠の部屋>

 

 

………………………

 

 

 

次に目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。それに、どうやら自分はベッドではなく、机の上で寝ていたようだ。机の上に教科書と机が開きっぱなしになっていたので、どうやら勉強の最中に睡魔にやられてしまったらしい。見ると、自分の肩には毛布が掛けられていた。

 

 

「お兄ちゃん、起きた~?」

 

 

すると、部屋のドアが開いてエプロンをつけたことりがティーカップを手に持って入ってきた。GWで八十稲羽から帰ってきてから数日、ことりは今でも朝早くからこうして料理や洗濯など悠の身の回りのことをしてくれる。そんな甲斐甲斐しい妹に感謝して悠はことりに朝の挨拶をした。

 

「ああ…おはよう………」

 

「また机の上で寝てたんでしょ。いくらGWで色々あったからって、無理しすぎだよ」

 

ことりは部屋の状況を見て、悠に注意する。GWはP-1Grand Prixの事件に巻き込まれたり、その後に陽介たちとはしゃいだりと遊んでばかりの休日だったので、勉強がおろそかになっている。その遅れを取り戻そうと悠はこっちに帰ってから夜遅くまで勉強をしていたのだ。周りから完璧超人と言われている悠とて人間なので、勉強をしないと学力は下がるのは必然である。

 

「大丈夫……ふぁあ…………問題ない……」

 

眠たい目をこすって強がるが、ことりは怒るように頬を膨らませる。

 

「もうっ!そんな眠そうな顔で大丈夫じゃないでしょ。ほら、これ飲んで」

 

ことりはそう言うと、手に持っていたティーカップを悠の傍に置く。匂いからして、これはコーヒーだ。どうやらここに来る前に淹れてきたらしい。

 

「……うん、うまい」

 

ことりのコーヒーを飲んだ瞬間、すっかり目が覚めた。自身の淹れたコーヒーを美味しそうに飲んでいる悠の姿を見て、ことりは嬉しそうにしている。堂島家を訪れて堂島が淹れたコーヒーに感銘を受けたのか、こっちに帰ってからことりはコーヒー淹れにすっかりはまったらしい。まだまだ堂島ほどの腕には到達してないが、これはこれで美味だ。そう思っていると、

 

「そう言えば、さっきにこ先輩からメールが来たよ。大事な話があるから放課後に部室集合って」

 

「矢澤が?」

 

ことりからの報告を聞いた悠は頭にハテナマークを浮かべた。何というか、にこからの話となると、嫌な予感しかしないのだが……

 

「何かあったのか?」

 

「それは分かんないけど………それより朝ごはん出来てるからね。早く来ないと冷めちゃうよ。あっ、お兄ちゃんの制服は昨日アイロンかけたから」

 

ことりは悠に必要事項を言うと、飲み終わったカップを回収してリビングに向かっていった。その後ろ姿を見て、菜々子といいことりといい、自分は良い家族を持ったものだなと悠は実感した。そして、身体を起こしてリビングへと向かう。果たして、にこからの話とは何なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<音ノ木坂学院 アイドル研究部室>

 

カンッ

 

「……全員そろったわね。それじゃあ、緊急会議を始めるわよ」

 

放課後、今は【μ‘s】の拠点となっているアイドル研究部室にメンバーが集まって早々、にこは手に持った木槌を叩いて重々しく言い放った。そんな重々しい空気の中、皆が思ったことは一つ。

 

(((何で木槌を持ってるんだろう?)))

 

いくらなんでも会議に木槌はないだろう。これではまるでオークションか裁判みたいじゃないか。皆の疑問を他所に、にこは淡々と話を進めていく。

 

 

「はっきり言うわよ。ついに、μ‘sの真のリーダーを決める時が来たわ」

 

 

「えっ?」

 

「元々私が加入した時点で決めなければならなかったのよ。GWはP-1Grand Prixに巻き込まれたり、りせちゃ……りせちーにお近づきになったりとかで大変だったし、このままズルズルいくのもまずいわ」

 

何を言い出すのかと思えば、にこにしては珍しく至極真っ当の内容だった。そんなことを思ったのがバレたのか、にこからギロッと睨まれたがそれはスルーする。

 

「あ、あの~……何で今決めなければならないんですか?それに、μ‘sの真のリーダーって?」

 

花陽がおずおずと言った感じで尋ねると、にこは更に木槌をカンカンと叩き、皆に指を突きつけて言い放った。

 

 

「あんたたちっ!この間の取材のこと、忘れたわけじゃないでしょうね!?」

 

 

"取材"と聞いて、悠はにこが何が言いたいのかを理解した。それは数日前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日前~

 

 

「取材?」

 

「そう。今、生徒会で部活動を紹介するビデオを製作しようってことになっとってな。それで各部に取材させてもらってるんよ。スクールアイドルは最近流行ってるし、鳴上くんたちにとって悪い話やないやろ?」

 

先日、希が部室にやってきて悠たちにそう取材を申し出てきたのだ。唐突なことなので少し反応に困ったが、希の言うことは確かだったので悠たちは取材に応じることを承諾した。あまりそういうことに慣れていない海未と真姫は最後まで取材を渋っていたが、これは自分たち【μ‘s】の存在を広めるために重要なことなのだと、悠と穂乃果で丸め込んだ。

 

「ちなみに報酬はカメラのレンタルや」

 

「カメラ?」

 

「μ‘sのPVを作るのにいるやろ?ちょうど稲羽のジュネスでええのが手に入ったんや」

 

希は鞄からジュネスで買ったというビデオカメラを取り出して悠たちに見せる。手に持った感覚や内蔵されている機能からして、それは中々の上物だと言うことが分かった。

 

「これは良いものだ」

 

「やろ?陽介くんが動画撮るんやったらこれが良いって、お薦めしてくれたんや」

 

ちなみに希がそのビデオカメラを購入する際、陽介に購入する代わりに稲羽での悠のことを包み隠さず教えるという取引があったことは悠は知らない。それはともかく、μ‘sのPVと言えば今のところあのファーストライブの時のものしかない。未だあの映像を投稿したのが何者なのかは判明していないが、これを機会に新たなPVを作るのもアリだろう。ちょうど海未と真姫も稲羽に行って新たなインスピレーションが湧いたとも言っていたので、この機会を利用するほかない。そういうことで、取材を受けた悠たちだった。

 

 

取材はいたって簡単。メンバー全員のインタビューに練習風景の撮影といった内容だった。ただ取材するのが希だったゆえか、悠への質問が他のメンバーよりも多かったり、隙あらばスキンシップを取ろうとしてことりと衝突したりしたこと以外は何も問題はなかった。しかし、問題が発生したのは希がμ‘sの皆が集まる場所を取材したいと言って悠の家を訪れた時に起こった。

 

 

 

 

 

「ふ~ん、ここが鳴上くんのお家……すごく片付いとるね」

 

悠の家に訪れた際、取材に来た希はそんな感想を持った。心なしかその表情は今までの取材の時より楽しそうに見える。

 

「まあ、普段両親が家開けてるから基本的に俺一人なんだけど、最近はことりが掃除とか洗濯とかしてくれるからな」

 

「そうだよね!忙しいお兄ちゃんの身の回りのことはおはようからおやすみまで全部ことりがやってるから」

 

「ほほう……」

 

バチッと言わんばかりに火花を散らせることりと希。取材だというのに、そんなことはやめてほしい。お陰で一緒に来た穂乃果や海未たちが怯えているではないか。悠が落ち着けというと何とか2人は静まってくれたが、2人の目にはまだ闘志が残っていた。

 

「それはそれとして、いつも鳴上くん家に集まるの?」

 

気を取り直して取材に戻る希。それに答えたのは、鳴上家のお菓子をつまみ食いしていた穂乃果だった。

 

「よく集まるっていったら穂乃果の家もあるけど、お店が忙しい時は邪魔になるから悠先輩の家に集まるんだ。ここなら先輩がお菓子やご飯作ってくれるし、事件の話もできるし」

 

「……事件?」

 

「あっ!え、え~と……むぐっ!」

 

「な、何を言ってるんですか穂乃果?最近あったじゃないですか!ほら、稲羽の天城屋旅館で……ってあ……」

 

「あ~……海未ちゃんが鳴上くんと一緒に寝とったアレ?」

 

「~~~~~~~~っ!!」

 

うっかり"事件"のことを滑らしそうになった穂乃果を黙らせて誤魔化そうとしたが、逆に墓穴を掘ってしまった海未。しかし、海未の尊い犠牲により何とか事件のことはむやむやにすることができた。だが、"事件"という言葉を聞いた途端、希から感情が一切なくなったように見えたのだが、気のせいだろうか。

 

「ふ~ん、ここで歌の歌詞やステップとかを考えとるんやね」

 

「うんっ!海未ちゃんが歌詞で、ステップがことりちゃんだね」

 

「えっ?」

 

穂乃果が告げたことに思わず聞き返してしまう希。

 

「ほ、他には?」

 

「あと、作曲とかは真姫ちゃんが担当してるかな?あっ、悠先輩は難しい生徒会との交渉とか穂乃果たちの身の回りのことをしてくれるよ」

 

「そうじゃなくて……穂乃果ちゃんは何もしてないん?」

 

「えっ?私もちゃんと仕事してるよ。悠先輩たちを励ましたり、料理出すの手伝ったり、他のアイドルの動画見て凄いなあって思ったり………これくらいかな?」

 

「………………………」

 

穂乃果も言葉に希は開いた口が塞がらなかった。どうやら希の想像とはかけ離れた答えだったらしい。すると、希は意を決したように悠に話しかけた。

 

「鳴上くん、一つ聞きたいんやけど?」

 

「何だ?」

 

「このμ‘sのリーダーって穂乃果ちゃんよね?」

 

「……そうだな」

 

 

「じゃあ、何で穂乃果ちゃんがリーダーなん?」

 

 

「「「………………」」」

 

希の率直な質問に誰も明確な答えを出した者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取材のことを思い出した皆は苦い表情になった。

 

「思い出したでしょ?つまりそう言うことよ。そうとなれば、早く決めなければならないでしょ。新しいPVのことだってあるし」

 

「ああ………なるほどな」

 

何人かはにこの言わんとしていることを察したが、まだ分からないと言う者も何人が居たので、にこは補足をつける。

 

「PVもだけど、リーダーによって曲のセンターだって変わるでしょ?よって、今回のPVのセンターは真のリーダーがやることにするわ」

 

しかし、そうとなると誰がリーダーをやるのかという話になる。今までは暫定として名目上リーダーは穂乃果ということになっていたが、改めて考えるとメンバーの中で誰がリーダーにふさわしいかと考えると結構難しい。すると、にこは勢いよく立ち上がり、背後にあるホワイトボードに何やら書き始めた。

 

「いい?リーダーの条件はね」

 

何かを書き終えると、にこは澄ました顔でホワイトボードに手を当てる。そこには、にこの考えたリーダー像の特徴が記してあった。

 

 

①:誰よりも熱い情熱を持って、みんなを引っ張っれる存在であること

②:精神的支柱になれる懐の大きさを持つ人間であること

③:メンバーから尊敬される存在であること

 

 

「つまり、この条件を満たすメンバーといえば………」

 

にこが木槌を手に、皆に答えを求める。皆の答えは…

 

 

「悠センパイ!」

「鳴上先輩ですね」

「お兄ちゃん!」

「鳴上先輩です」

「鳴上先輩だにゃ!」

「鳴上さんね」

 

 

結果はにこを除いて全会一致で悠だった。

 

「なんでよ――――!!」

 

にこはそんな皆の答えに納得がいかないのか八つ当たり気味に木槌をカンカンと叩く。

 

「だって、悠先輩は器大きいし、みんなから尊敬されてるよ?」

「練習の時でも事件の時でも、いつも私たちを引っ張ってくれてますしね」

「それに、鳴上さんはあの花村さんや雪子さんたちのリーダーを務めてたのよ。あんな濃い人たちをまとめてた実績から見ても、そう考えるのが自然なんじゃない?」

 

「ぐっ………」

 

3人の説明に、にこはぐうの音も出なかった。確かに八十稲羽で出会ったあのメンバーからの信頼度やまとめ方の手腕から、悠はにこのリーダー像にピッタリ一致している。それは認めざるをえないが……

 

「てか、鳴上はそもそもマネージャーで男じゃない!事件の時はまだしも、スクールアイドルとしてのリーダーの座を取るとかあってはならないわ!」

 

にこからの反論に皆はハッとなった。今までずっと事件に巻き込まれてばかりだったので忘れていたが、悠は皆のリーダー的存在であるにしても、()()()()()()()()()()()()としてはそうはいかない。スクールアイドルとしても主役は穂乃果たちであって、悠はマネージャー……サポート役なのだ。

 

「別に女装をすれば…」

 

「「「絶対にダメ(です)!!」」」

 

悠からの女装案にその場にいる皆が全員異議を出した。

 

「アンタ正気!?そんなこと出来る訳でないでしょ!!」

「鳴上さんが女装したら、私たちが変人集団って思われるじゃない!」

「まだあのネタを引っ張るつもりですか!?」

 

皆の指摘は最もだったので、この場は引き下がった。またしばらくは女装の件は封印しておこう。しかし、そうなると一体悠の他に誰がリーダーとふさわしいのか?再び頭を悩ます一同。

 

「ふっふっふ……しかたないから、私が」

 

「私はやっぱり穂乃果先輩が良いかなって思うけどな」

「私は反対。やるんだったら、鳴上さんの次に頼りになる海未さんだと思うけど?」

「そうだよ!海未ちゃんはリーダーに向いてるよ!」

「わ、私ですか………でも…」

 

花陽と真姫が各々リーダーにふさわしい人物を指名する。穂乃果は海未がリーダーをやるのは大賛成なようだが、海未本人は自信がないのか承諾を渋っている。

 

「しかたないから私が」

 

「ことり先輩は?」

「え?」

「あっ!確かに、ことりちゃんは悠先輩の妹だし、イケるかも!」

「血筋で判断するってどうなのよ………」

「でも、ことりはリーダーを務めるには少し………」

「だからって、私たち一年がリーダーっていうのもどうかと思うけど……」

 

今度はことりはどうかという意見が出たが、これもあまりよろしくなかった。

 

「し~か~た~な~い~か~ら~」

 

「やっぱりここは穂乃果先輩に」

「だから、μ‘sのためにも海未先輩を」

「だったら、投票とかで」

 

「…………………………」

 

段々会議の雲行きが怪しくなってきた。どうやるにしろこのままでは平行線なので、悠は一旦皆を落ち着けようとすると

 

 

「静かにしろ――――!!」

 

ガンッ!!

 

 

いつの間にか空気となりかけていたにこが木槌と大声で黙らせた。何か木槌から鈍い音が聞こえたのは気のせいだろうか。

 

 

「こうなったら……白黒はっきりつけようじゃない………始めるわよ!戦争を!!」

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

<秋葉原>

 

 

「第一次スクールアイドル大激突!チキチキ、リーダー戦争!」

 

 

あの会議から翌日、悠たちは秋葉原のとあるカラオケに来ていた。にこは部屋に案内されるなりマイクを手に取ってそう宣言する。何か痛々しさしか感じられないし、何処かで聞いたことのあるようなタイトルだったが、あまり追及しない方がよさそうだ。

 

「で、何でカラオケに来たんだ?矢澤」

 

「決まってるじゃない!話し合いでセンターが決まらないなら、歌とダンスで決着を着けるのよ」

 

「決着?」

 

にこが言ったことに疑問符を浮かべる花陽。すると、凛が何かひらめいたようにこう聞いた。

 

「みんなで得点を競うのかにゃ?」

 

「そうよ。歌とダンス、そして鳴上が用意した課題で一番だった者がセンター。これで文句ないでしょ?」

 

「なるほど……矢澤にしては良いアイデアだな」

 

「してはって何よ!?」

 

悠の言葉に突っかかるにこ。つまり、センターの座は実力で争うということにしたのだろう。これなら何となく決まりそうだし、いつもの練習の成果を試すいい機会にもなるので一石二鳥だ。海未と真姫はあまり乗り気ではなさそうだが、とりあえず皆はそれで良いとにこの提案を承諾した。ちなみに悠は監視役として、この戦いを見守る立場に居ろと言われた。

 

何はともあれ、こうしてμ‘sの真のリーダーもとい、センターを決めるリーダー戦争がここに開戦された。

 

 

 

 

 

リーダー戦争1番目、カラオケ対決

 

「どれ歌おうかな?」

「私、カラオケって久しぶりです」

「鳴上先輩は何を歌いますか?」

「そうだな……」

 

皆は何を歌うのかとメニューを見て曲を選び始める。その様子は仲良しな友達とカラオケに来たみたいな雰囲気だったので、対決前といった緊張感がまるでない。そう言えば、稲羽にはカラオケなんて娯楽はなかったし、こうやって誰かと一緒にカラオケをするのは結構久しぶりかもしれない。自分は監視役だが、それはそれで楽しもうかと悠は思った。自分は何を歌おうかと考えていると、ふとにこの方を視線がいった。そこには…

 

 

(くくくく……こんなこともあろうかと、高得点を狙える曲はすでにピックアップ済みよ。あいつらはあんまりやる気なさそうだし、これでセンターの座は私のもの………)

 

 

「…………………」

 

悪巧みする悪代官のような笑みを浮かべているにこの姿があった。何というか、こんな調子で大丈夫なのだろうかと悠は初っ端からこの対決の行く末が心配になった。

 

 

 

 

 

 

数十分後……

 

「これでみんな90点台だ。みんな以前に比べて上手くなってるな」

「えへへ~、いつも練習しているからね」

「真姫ちゃんや鳴上先輩がおかしいところを教えてくれるし」

 

悠を除くメンバー全員が歌い終えた結果、得点は皆90点以上という成績を残していた。やはり普段の練習を真面目にやっているお陰か成果はついてきているようだ。練習の成果を実感している穂乃果たちの隅で、自身の目論見が外れたにこは飲み物を片手にワナワナと震えていた。

 

 

(こいつら……バケモノか………)

 

 

「さてと、最後は俺か」

 

にこが心の中で絶句している中、悠はメガネを掛けてフッと笑い、マイクを手に取った。

 

「俺はこの対決と関りはないが………本気で行くぞ」

 

 

 

 

 

「「「100点っ!!」」」

 

悠が歌い終えた後、画面に表示された得点はまさかの満点。あまりお目にかかれない点数に皆は驚愕してしまった。それを出した本人と言えば……

 

「ふっ、我ながら満足のいく結果だ」

 

と、クールにそう言った。悠のその姿に、にこのみならず穂乃果たちもただ呆然とするしかなかった。

 

 

(一番のバケモノはこいつだった…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーダー戦争2番目 ダンス対決

 

カラオケ対決を終えた一行は、次に秋葉原のとあるゲームセンターを訪れた。

 

「さあ、次はダンス勝負。使用するのはこのダンスゲーム機よ」

 

にこが指定してきたのは、このゲームセンターで人気のダンスゲーム機だ。これを見た穂乃果たちは難色を示した。

 

「凛は運動は得意だけど、ダンスは苦手だにゃ……」

「これ難しそうだよ」

「どうやってやるんだろ……」

 

ダンスゲームということ自体を初めてプレイする者が多いのか、初めてやるゲームに戸惑いをみせている。実はこれもにこの策略があった。

 

 

(そう、初めてのド素人がこのゲームで高得点を取るのは不可能……ぷくくくく…………カラオケのことは想定外だったけど、これでセンターは私のもの……)

 

 

「「おおっ!凛ちゃんすごーい!」」

「なんかできたにゃー!」

「これなら私も出来そう!」

 

 

「…………えっ?」

 

 

またもやにこの思惑は外れたようであった。

 

 

 

 

 

 

数十分後……

 

「はあ~楽しかった~~♪」

「これでみんな躍ったね」

 

ダンス対決もカラオケと同様に皆ハイスコアという好成績を修めていた。目論見が外れたにこは休憩用のソファで魂が抜けたように座り込んでいる。

 

「ここまでやってきたのは良いのですが…全然差がつきませんね」

 

ダンス勝負も皆高得点を出したので、カラオケでの点数を加えてもそう差はついてなかった。これではセンターに誰がふさわしいかは決められない。

 

「でも……やっぱり一番は…」

 

凛がそう言うと、皆は一斉にある方向に集中する。

 

「あっ、取れた」

「お兄ちゃんすご~い!ジャックフロスト人形3体ゲットだよ!」

「たまたまだ。ことりのアドバイスもあったからな。1体はことりにだ」

「わ~いありがとう!お兄ちゃん大好き!」

「よしよし」

 

そこにはUFOキャッチャーでジャックフロスト人形を3体ゲットして、ことりといちゃつく悠の姿があった。悠はさっきのダンスゲームで皆を抜いて一番だった。それどころか、悠のダンスに惹かれる何かがあったのか、周りに人が集まったほどに。

 

「やっぱり鳴上先輩が一番だったにゃ」

「もし鳴上さんが女だったら、間違いなくμ‘sのセンターだわ」

「良かったのか悪かったのか複雑です」

 

自分たちと同じ未経験なのに、あっさりと自分たちより高得点を取った上に、人を魅了した悠に一年生組は複雑な感情を抱いてしまった。

 

「こ、このままじゃ終われないわ!最後の対決よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーダー戦争3番目 魅力対決

 

「歌とダンスで決着が着かなかった以上、最後はオーラ…魅力で決めるわ!」

 

「魅力?」

 

ところ変わって、秋葉原のとある広場に集まった一行。最後の対決の内容が魅力対決と宣言したにこに、皆は首を傾げた。にこ曰く、魅力はアイドルとして必要なものであり、どんなに歌やダンスが下手でも他人を惹きつける魅力が備わっていれば、それを超えるものはないということらしい。そのことに関しては何となく分かる気がするのだが、

 

「そんなもの、どのようにして競うのですか?」

 

海未の指摘通り、魅力と言ってもどのようにして競うかが難しい。すると、にこは海未の質問に不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふ、ちゃんと考えはあるわよ。鳴上、例のアレは?」

 

「こちらに」

 

にこに言われて、悠は手に持っていた手提げ鞄からあるものを一枚取り出した。その手際はまるで凄腕の秘書のようだ。

 

「それは、μ‘sのチラシ?」

 

それは以前、悠たちが創作したμ‘s宣伝用のチラシであった。

 

「そう、それ相応の魅力が備わっているのであれば、黙っていても人は自然に寄ってくるものよ。制限時間内に一番多くチラシを配れた者が勝者。いいアイデアでしょ?」

 

「まあ実を言えば、余ってたチラシを処理したいっていうのもあるけどな」

 

「って、余計なこと言うんじゃないわよ!」

 

悠とにこの仲良さそうなやり取りに、無表情で目を細めることり以外のメンバーは苦笑いするしかなかった。多少強引な気がするが、アイデアとしては悪くないのでこの対決は決行することとなった。ちなみに、にこの心の中は…

 

 

(……今度こそはカラオケやダンスの時のようなことはないわ……チラシ配りは前から得意中の得意……この"にこスマイル"にかかれば、どんなやつでもイチコロよ……これでセンターの座は私の………くくくくっ……)

 

 

 

 

 

「μ‘sでーす!よろしくお願いいたしまーす!」

「よろしくお願いしまーす!」

 

 

道行く人にチラシを配る穂乃果たち。彼女たちの笑顔もあるせいか、大抵の人はチラシを持って行ってくれた。特にトラブルになるようなことは今のところないので、順調だなと端から見守っている悠は思っていた。もし穂乃果たち(特にことり)にナンパするような輩がいたら、即刻私刑を執行していたところだ。だが、

 

「にっこにっこ~♡これ、よろしくにこ♡」

「いや、俺っち急いでるんで」

「…………………」

「ぎゃああっ!手がー!手があああっ!」

「よろしくにこ♡」

 

実力行使でチラシを渡そうとするにこの姿が……これはまずいと悠は大急ぎでにこの元に駆け寄った。

 

「落ち着け!矢澤!」

 

「うぐっ!」

 

とりあえず、にこを堂島仕込みの威圧で落ち着けさせる悠。にこが大人しくなった隙に、悠は被害にあった人に頭を下げた。

 

「すみません、うちの者が無礼を!」

 

「い、いや……これくらい大丈夫ってこと、ってあああっ!お前はあの時、俺っちを見捨てた少年!」

 

男性の発言を聞いて、顔を上げる悠。よく見てみれば、その男性は水色のキャップ帽にどこかの野球チームのユニフォームと思われる服装をしている。それを見て悠は思い出した。この人は以前電車の中で鉢合わせたことのある人物だったと。

 

「あなたは確か……ブラック企業の人?」

 

「どんな覚えられ方!?確かに合ってるっちゃ合ってるけど、その呼び方はないだろ!?俺には【伊織(いおり)順平(じゅんぺい)】っていうかっちょいい名前があるんだよ!」

 

「はあ……」

 

何だろう。何故かこの男性……順平から相棒の陽介と同じ雰囲気を感じる。このツッコミ気質といい、アンラッキー体質といい。

 

「大体よー、俺があの時あの子に何をされたかお前は知らな………あっ、電話?はい、伊織です………えっ?えええええっ!?それ、俺の責任ですか!?いや、そう言う訳じゃ……わ、分かりました………ちくしょう――――――!良いことなんて一つもねえええ!!」

 

この間のことを愚痴ろうとした順平に一本の電話がかかり、その内容からあまり良くない事態が発生したらしい順平は涙しながら明後日の方向へと去っていった。何というか、前もこんな感じだったなと悠は順平に対して痛まれない気持ちになった。

 

「今のやつ……鳴上の知り合いなの?」

 

「まあ…そんな感じだ。それより矢澤、さっきみたいなことを二度とするんじゃないぞ」

 

「うっ……でも」

 

「あんなことしなくても、矢澤には十分魅力があるんだ。自信を持っても良いんじゃないか?」

 

「!!っ……あ、アンタってやつは………ああもう!やってやるわよ!」

 

悠の言葉に不意に顔が赤くなったにこはやる気を取り戻したのか、颯爽とチラシ配りに戻っていった。やる気が出たのは結構だが、何故顔が赤くなったのだろうと悠は首を傾げていた。ああは言っているが、また同じようなことをやらかしそうなのでにこを重点的に監視するかと悠は元の位置に戻った。

 

 

 

 

 

 

1時間後……

 

「すごーいっ!ことりちゃん、全部配っちゃったの!?」

「えへへ~、いつの間にかなくなってたんだ~♪」

「流石ことり先輩だにゃ!」

 

制限時間が過ぎて何枚配れたかを確認すると、皆かなりの枚数を捌けていたが、唯一ことりだけが手元にあったチラシを全て配っていた。この快挙には流石我が妹だと、悠は心の中で喜んでいた。しかし、

 

おかしい……この私が………ありえない

 

自分の予想とかけ離れた結末に、にこはショックでへたり込んでいた。その姿があまりにも哀愁を帯びていたので、悠はそんなにこを励まそうと、にこの肩にポンッと手を置く。

 

 

「矢澤、こんな時だってあるさ」

 

 

「慰めになってないわよ!うわああああああんっ!!

 

 

にこの魂の咆哮が秋葉原中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<鳴上宅>

 

「結局、みんな同じだったね」

 

全ての対決を終え、集計結果のために一旦鳴上家を訪れた一行。今回の成績を集計した結果、最終的に皆同じという結果になった。

 

「そうですね。ダンスの点数が悪い花陽は歌が良くて、カラオケの点数が悪かったことりはチラシ配りの成績が良くて……って、にこ先輩…大丈夫ですか?」

 

あははは……何とでも言いなさい………私なんて………

 

思惑が大きく外れたせいか、にこはまるで灰になったように意気消沈していた。そうは言っているが、皆より練習量が少ない割には皆と同じ点数を取っているので、そこまで気にすることはないだろう。

 

「鳴上先輩……どうしましょう?」

 

「そっとしておこう。今クッキー焼いてるから、それで元気になってもらうしかない」

 

悠はそう言ってクッキーを焼いているオーブンに目をやる。焼きあがるまで、あと少しと言ったところだ。

 

「でも、どうするのよ。みんな同じだったら、決められないじゃない」

 

真姫の指摘に皆は再び頭を悩ませる。メンバーの中で一番だった者がセンターだということで始めたリーダー戦争だが、結果は皆同じという結果だったので、これでは誰が一番かは決められない。これでは結局振り出しに戻っただけではないか。また平行線な議論をしなくてはならないのかと皆がそう思ったとき、

 

 

 

 

 

「「別になくても良いんじゃない(か)?」」

 

 

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

悠と穂乃果が揃ってそんなことを言いだしたので、皆は仰天してしまった。声が重なった悠と穂乃果は思わず顔を見合わせる。

 

「あれ?悠先輩も同じ考え?」

 

「穂乃果もか」

 

互いに考えたことが一緒だったことに2人は二カッと笑った。だが、2人の発言に納得がいかない海未たちはすかさず説明を求めた。

 

「で、どういうことですか?なくても良いって……それって、もしかしてリーダーがってことですか?」

 

「うん!そうだよ。だってさ、これまでリーダーがいなくてもこうやって練習してきたんだし。リーダーがいなくても平気だと思うよ。いざとなったら、悠先輩もいるし」

 

穂乃果の言葉に悠も同調するように頷く。確かにμ‘sを結成して一年生組やにこが入った現在まで、リーダー的な存在がいなくても各々が自分の役割をしっかりとこなして活動してきた。穂乃果の言うことにも一理あるだろう。だが、

 

「でも…それじゃ……」

「そうよ!リーダーがいないグループなんて聞いたことないわよ」

「大体、センターはどうするの?」

 

穂乃果と悠の意見に反論するメンバー。すると、穂乃果がふとこんなことを言い始めた。

 

 

「私、考えたんだけど……()()()()()()()()()っていうのはどうかな?」

 

 

「「「みんなで順番?」」」

 

「他のアイドルのを見て思ったんだけど、こうみんなで順番に歌えたら素敵だなって思ったの。そんな曲を作れないかなって。どうかな?」

 

皆の顔をしっかりと見てそう提案する穂乃果。ただ漠然と他のアイドルの動画を見ていた訳ではなかったようだ。しかし、穂乃果の意見に海未たちは思案顔になる。穂乃果の提案するそんな曲を作ることは可能だが、それは中々難しいチャレンジになるだろう。それに今の自分たちにそんなことができるのだろうか。そんな不安が心に芽生えそうになったその時、

 

 

「俺はそうするべきだと思う」

 

 

悩む皆に悠はそう切り出した。

 

 

「今日の対決を見て思ったが、皆いい歌声だったしダンスのステップも上手だった。チラシもことりほどではないにしろ、みんなに魅力があるからこそ受け取ってくれた人がいたんだ。今回の対決でみんな同じすごい才能や魅力があるって分かったのに、それをPVに活かせないのは勿体ないだろ?」

 

 

悠の言葉を聞いた途端、心に芽生えそうになった不安が一瞬で消し飛んだのを感じた。どうやら悠の何も偽りのない言葉が不安を取り除いてくれたようだ。相変わらずこの男は皆の心をよく理解している。

 

 

「……鳴上先輩がそう言うのでしたら、難しいかもしれませんがやってみます!」

「そういう曲はなくはないしね」

「今のメンバーの数ならそうすることも出来ると思うよ」

 

 

海未・真姫・ことりの創作陣は不安が消し飛んだお陰か、穂乃果が提案するものを創ってみようと決断した。

 

 

「みんなで歌うんですね」

「凛もソロで歌うんだ」

「ふん、今回はそうしてあげる。その代わり、私のパートはカッコよく決めなさいよ」

 

 

花陽と凛、にこも賛成のようだ。自分も歌ことになったのか、少し緊張もあるがそれ以上に期待に胸が膨らんでいるらしい。満場一致。これにて今回の議題について決着がついた。

 

 

「決まりだな」

 

「よーし!頑張るぞ!!みんなが歌って、みんながセンター!」

 

 

穂乃果の掛け声に皆の心は一つとなった。それと同時にオーブンに入れてあったクッキーが焼きあがり、景気づけに美味しいコーヒーと共に頂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、新たなPVの方向性が決まり、生徒会のビデオカメラで撮影を開始した悠たち。初めての試みなので色々と行き詰まることもあったが、皆でお互いを励まし合ったり、機械に強いという風花も協力してくれたこともあって、無事に新たなμ‘sのPVは完成した。そのPVをネットに投稿したところ、前回よりもかなりの好評を受け、μ‘sの存在が更に世に広まることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日

 

<音ノ木坂学院 アイドル研究部室>

 

「すごっ……まさか、ここまで好評だなんて」

 

放課後、一同は部室のパソコンで先日投稿した新しいPVの評価を見て驚いていた。ファーストライブの動画のときもそうだったが、あの時以上に高評価だったので驚愕するのは無理はない。今回は穂乃果の提案は功を奏したようだ。

 

「私、すごく嬉しいです!」

「たくさん頑張った甲斐があったね」

「陽介も菜々子も良かったって言ってたぞ」

「雪子さんもメールですごくよかったって言ってたわ」

「あれ?真姫ちゃん、いつの間に雪子さんとメアド交換してたの?」

「……成り行きでね」

 

新たなPVが成功したことにより、皆嬉しそうに頬を緩ませていた。稲羽にいる特捜隊メンバーからもだが、ネットでも賛美の声が上げられていたので無理もないだろう。一番喜んでいたのは、やはり今回の提案者である穂乃果だった。

 

 

「やったー!やったよ!悠先輩!」

「ああ、穂乃果のお陰だ」

 

 

嬉しさのあまりに穂乃果と悠はハイタッチを交わす。この様子を見て、皆はこう思った。

 

 

"この2人こそがμ‘sの真のリーダーである"と。

 

 

何にも囚われず自分の一番やりたいことを恐れずに挑戦しようとする真っすぐな心を持った穂乃果。誰よりも人の心を理解して、皆を自然に良い方向へと導くリーダーシップを持つ悠。

 

それらはきっとこの2人にしか持っていないものなのだろう。μ‘sにリーダーはいないということになっているが、やっぱりそれらを合わせ持つ2人がμ‘sの真のリーダーだ。そう思った皆の心はどこか晴れやかだった。これからも自分たちはあの2人を中心に活動していくだろう。

 

 

だが、一つ気になることが……

 

 

「今更なんですが、鳴上先輩と穂乃果はいつの間に互いを名前で呼ぶようになったんですね」

 

 

その瞬間、先ほどの微笑ましい空気が嘘のように凍り付いた。海未の発言にそう言えばと悠と穂乃果以外のメンバーが2人に疑惑の目を向けてきた。

 

「確かに……今まで黙ってたけど、これは見過ごせないわね」

「何かあったんですか?」

「か、かよちんに真姫ちゃん!何か怖いにゃ!」

 

冷たい表情で自分たちを見つめる真姫と花陽に悠と穂乃果はたじろいでしまう。よく見れば、海未とにこも2人と同じ表情でこちらを見ていた。ことりに至ってはその上に目の瞳孔が開いているので笑えない。

 

「な、何って……名字呼びって他人みたいで嫌だなって思って……P-1Grand Prixに巻き込まれた時に悠先輩が……」

 

「へえ……あの時にお兄ちゃんと何かあったんだね」

 

「ちょっと!穂乃果そんなこと言ってないよ!何かみんな誤解してない!?」

 

「とりあえずみんな、落ち着け!」

 

だが、どれだけ懸命に訴えても海未たちはその表情を崩すことはなかった。焼け石に水とはこのことを言うのだろうか。悠と穂乃果はこのままではヤバいと感じたのか、互いに顔を見合わせる。

 

「悠先輩、こうなったら……」

 

「ああ……撤退だ!!」

 

迫りくる恐怖から逃れるため、悠と穂乃果は全速力で部室から逃げだした。それを見た海未たちも事情を聞くまで逃がさないと悠たちを追跡する。こうして始まった鬼ごっこは学外にまで範囲を広げて日が暮れるまで続けてしまい、今日の練習は中止となった。こういうことも悠たちμ‘sの日常の一部かもしれない。何はともあれ、一つ山場を越えたμ‘sの皆は今日も元気だった。

 

 

 

 

 

 

だが、悠たちは気づいていなかった。先ほどの会話がとある第三者の耳に入ってしまったことを。

 

「P-1Grand Prix………」

 

先ほどまでの悠たちのやり取りを偶々聞いてしまったその者は物陰で密かにそう呟いた。

 

 

 

「やっぱりあのテレビ……鳴上くんたちが関わっとったんやね」

 

 

 

 

ーto be continuded




Next Chapter

「ドラスティックお邪魔いたします」

「どういうことかしら?」

「勘弁してくれ……」

「私もついて行きます!!」

「隠してること、やるやろ?」


「さあ、食道楽と参りましょう」


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