PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

久しぶりに日間ランキングに自分の作品名があってびっくりしました。お気に入り登録してくれた読者がぐっと増えたり良い評価をもらえたりととても嬉しかったのですが、これを糧にまだまだ頑張らなければと思いました。

改めて、お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・誤字脱字報告をしてくださった方・最高評価、評価を下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


それでは本編をどうぞ!


#53「An impending ordeal」

……………………

 

 

 

 

 

 その日、空は不気味に曇天で土砂降りの雨が降っていた。何もかもかき消すような勢いで地面に向かって降り続ける。

 そんな天気の中、自分は雨に降られながら直立不動に呆然としていた。

 

 

 

 

「……かっ!…かっ!」

「大丈夫っ!?」

「ひどい……急いで!」

「どうして……こんなことに………」

 

 

 

 

 目の前にアイドルの衣装を身に纏った少女たちが倒れている誰かを囲んで必死に呼びかけている。その誰かは顔がひどく苦しそうだった。普段の自分なら誰よりもその人物の元に駆け寄って助けようとしていただろう。だが、それはできなかった。何故なら、今自分の心の中は……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 

 

 

 

 

 

………聞き慣れたメロディーと老人の歯牙れた声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 目を開くと、その場所があった。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した不思議な空間。この場所は【ベルベットルーム】。精神と物質の狭間にある、選ばれた者しか入れない特別な空間。

 

 

「お久しゅうございます、お客人。こうして2人でお話するのも随分と久しぶりと感じますなぁ。それに随分と顔色が悪うございますが、何か悪夢にでもうなされていらしておいでになられたので?」

 

 

 そして向かいのソファにこの部屋の主である【イゴール】が座っていた。最近本人が留守の時に訪れることが多かったが、黒いタキシードに一度見たら忘れそうにない長い鼻とギョロッとした大きな目は今でも健在のようだ。

 

 

「早速本題と参りますが、先ほどお客人がお見えになられていたのは、この先貴方様に起こりうるかもしれない未来の可能性でございます。きっとこの宝玉たちの仕業に御座いましょうな」

 

 

 

 イゴールはそう言って指を鳴らすと光り輝く7つの宝玉がイゴールの手元に現れた。色とりどりの光を放つその宝玉は【女神の加護】。海未たちがペルソナを覚醒させた時に姿を現した未だ正体不明の宝玉だ。これが一体どうしたのだろう。

 

 

 

「何故これらがお客人にそのような未来夢をお見せしたかは存じませぬが、これらは貴方様があの者たちと絆を築いたことにより生まれたもの。もしかすると、これから貴方様に訪れるであろう災難について警告してくれたのやもしれませんな。フフフフ………」

 

 

 

"これから訪れる災難"

 

 

 

 イゴールの言葉に悠は身構える。災難……ということは、また事件が起きるということだろう。確かにあの夢は穂乃果たちの身に何かあったと思わせる場面が映っていた。あれがこの先悠に訪れる未来の可能性だというのか。

 

 

「さあて……貴方様に訪れる更なる試練。先ほどの顔色からして、これまで以上の災難が降りかかることで御座いましょう。果たして、お客人とあの者たちがどのようにして乗り越えるのか………楽しみでございますなぁ………フフフフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

 

 

 

 気が付くと、悠は音ノ木坂学院の校門に身を預けていた。どうやら立ったまま眠っていたらしい。空には夏の到来を感じさせる強い日差しが降り注いでいる。

 

「……あついな」

 

 こんな日差しが強い中でよく眠れたものだと我ながら感心する。最近こうやって眠ってしまうことが多い気がするのだが疲れているせいだろうか。あんな予知夢みたいなものや不気味な奇怪な老人が夢に出たところで起きていてもおかしくなかったのだが……

 

 

 

「鳴上く――ん。ごめんな、待たせてもうて」

 

 

 

 思考を遮るように耳に自分を呼び元気な少女の声が入ってきた。そっちを見てみると、八高のセーラー服と水色のポニーテールが特徴的な赤い目の少女がこちらに手を振っていた。少女の名は【ラビリス】。GWで稲羽で出会った悠の大切な仲間の一人であり、今回の待ち人である。

 

 

 

「鳴上さ~~んっ!お待たせしました」

「久しぶりで~~す」

 

 

 

 ラビリスの後ろからも中学生らしき2人の少女が手を振ってやってきた。その子たちの名は【高坂雪穂】と【絢瀬亜里沙】。悠の大事な後輩と同級生の妹たちで、彼女たちも今回の待ち人だ。

 

 

「ラビリス・雪穂・亜里沙、よく来たな。そんなに待ってないぞ」

 

 

 悠は紳士的に3人を出迎えて言葉を交わす。悠の言葉に3人は本当かなと思いながらもはにかみながら悠にこう言った。

 

 

「今日は学校案内よろしゅうな」

「悠さん!今日はよろしくお願いしまーす!」

「よろしくお願いします……」

 

 

 3人の言葉に頷いた悠は自校の校舎を背に3人にこう宣言した。

 

 

 

 

 

 

「改めてようこそ、音ノ木坂学院へ」

 

 

 

 

 

 

 今日は前に約束していたラビリスの学校案内の日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前美鶴にラビリスに音ノ木坂学院を案内して欲しいと頼まれたことで案件で、先日叔母の雛乃に話を通したところOKの返事をもらった。そしてラビリスの都合が良いのが今日だったので、こうして来てもらったのが今回の経緯である。ラビリスの案内の話を姉たちから聞いたのか、ぜひ自分たちもとお願いしてきた雪穂と亜里沙も一緒である。雪穂たちも一緒に案内するのは問題ないし、聞けば2人とも音ノ木坂学院を受験する予定らしいので受験校を見学することでやる気向上に繋がるのではれば嬉しいことである。

 

 

 一先ず先に中を案内しようと悠を先頭に校舎へ入った一行。今日は休日なので、校舎はいつもより静寂に包まれているかに思われたが、何故か平日を思わせるかのように校舎は行きかう生徒の声で賑やかになっていた。

 

「わあ~生徒さんがいっぱいいる~」

 

「今日は休日なんに結構な生徒さんがおるんやな」

 

「ああ、もうすぐ学園祭だからな」

 

 何を隠そう来週末はここ音ノ木坂学院で一大イベントの1つである学園祭が行われるのだ。学園祭まで残り1週間なのだが、どのクラスや部活も出し物の製作に気合が入っている。まるで学校一体となって学園祭を今まで以上に盛り上げようとしている勢いだ。雛乃曰く例年はそれほどではなかったらしいが……おそらくこの学校が廃校になるかもしれないということやその阻止のために奮闘するμ‘sの姿に生徒たちが感化されたこともあるらしい。何はともあれ、μ‘sの活動が学校に良い影響を与えたのであれば嬉しい限りだ。

 

 

「あら?雪穂ちゃんに亜里沙ちゃん、それにラビリスちゃんも。いらっしゃい」

 

 

 噂をすれば影というべきか、廊下を歩いていると会議から帰ってきたらしい雛乃と遭遇した。

 

「叔母さん、こんにちは」

 

「「「こんにちは」」」」

 

 雛乃と遭遇した一行は礼儀正しく挨拶する。

 

「それにしても驚いたわ。ラビリスちゃんがこの学校に転校してくれるかもしれないなんて。もう身体のことは大丈夫なの?」

 

「えっ?………は、はい!もう大丈夫です。これ以上両親や風花さんに迷惑を掛けられませんから」

 

 事情を知らない雛乃たちにラビリスのことは風花の親戚で今まで家庭の事情により学校に通えないでいたという設定で紹介している。そして、小旅行で訪れた稲羽で悠たちと出会って、この学校なら通えるかもしれないということを話したところ、今回の学校案内の話が通った訳だ。

 

「今この学校は学園祭の準備で慌ただしいけど、ゆっくりしていってね。何かあったら悠くんに頼っていいから。じゃあ悠くん、あとはお願いするわ」

 

「はい」

 

 雛乃は3人にそう言うと理事長室に向かうためにその場を去っていった。先ほどまで疲れていた顔をしていたのだが、ラビリスたちとの会話で元気が出たのか足取りが軽やかに見える。架空の設定とはいえラビリスのことを心配していたのか、何も問題なく日常を過ごせていると確認が取れて安心したように見える。すると、

 

「ねぇ、あの人って鳴上さんのお母さんじゃないの?」

 

「「「えっ?」」」

 

 雛乃の後ろ姿を眺めていた亜里沙が何を思ったのかそんなことを聞いてきた。この質問には流石の悠も驚いたので少々戸惑ってしまう。

 

「いや…あの人は俺のお母さんじゃなくて叔母さんなんだが、どうしてそう思ったんだ?」

 

「だって、髪の色とか雰囲気とか鳴上さんに似てたから」

 

「そうか?……」

 

 初めてそう言われた気がする。外見は父親に似ていると言われているが、考えてみれば雛乃は父の妹なのでそうかもしれない。今までそんなことは考えたことはなかったが……

 

「ハァ……もしそうだったら、もっとアピールしとけばよかったなぁ」

 

「あ、亜里沙っ!?」

 

 何故かしょんぼりする亜里沙の呟きに雪穂は過剰に反応した。アピールとはつまりそういうことだろう。しかし、

 

「鳴上くん、アピールってなんやろ?」

 

「さあ?」

 

 鈍感な男と生徒会長気質の少女には全く分からないようだった。まあ知らぬが花というべきかもしれない。とりあえず時間も限られているので早速校舎をまわってみようと悠は皆を急かして案内を再開させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<3-C教室>

 

 

「ここが俺たちがいつも使ってる教室だ」

 

 

 まず最初に案内したのはいつも悠たちが授業を受けている教室だった。自分のクラスは学園祭では講堂で出し物をする。クラスメイト達は皆そっちで準備を行っているので、他のクラスと違って誰もいないのだ。これといって普通の教室なのだが、3人は物珍しそうに全体を眺めていた。

 

「へえ、ここが教室。ここで生徒さんたちが授業を受けたり休憩時間に楽しく会話したりする部屋なんやね。夢で見た通りやわぁ」

 

 対シャドウ兵器のラビリスはこう言った普通の日常とは縁の遠い境遇で過ごしていたので、このようなありふれた光景は新鮮に映るらしく興味深そうに周りを見渡している。夢というのは本人曰くあのGWの事件で黒幕がラビリスに見せていた幻覚のことらしい。その夢に悠や陽介たち特捜隊メンバーらしき人物が出てきたらしいので、少しその夢の内容が気になってしまった。

 

「当たり前だけど高校って中学校と違うところがいっぱいあるね」

 

「うん。黒板が私たちの教室より大きいところとか?」

 

「目をつけたのはそこなの……」

 

 一方、雪穂と亜里沙は中学とは違ったところに興味を惹かれたようで目をキラキラとさせていた。亜里沙は少々着眼点はズレているようだが、そこはツッコまないでおこう。すると、

 

 

「こんな教室で鳴上さんが先生だったら最高だなあ」

 

 

「えっ?」

 

 ある程度教室を見まわした後、ふと亜里沙が呟いたことに反応する。自分が先生か……以前陽介に教師に向いているんじゃないかと言われたことがあるが、将来の進路としては考えたことはなかった。

 

「鳴上さんが先生かぁ……」

 

「確かに様になってるかもしれへんな。ウチはええと思うよ」

 

「じゃあさ、今ここで鳴上さんに授業してもらおうよ」

 

「えっ?」

 

 悠が先生に向いていると意見があった3人は早速ノリノリで机に座って悠に授業を促した。唐突だなと思いながらも悠は先生のように壇上に立った。何というかどこか家庭教師をやった時の血が騒ぎ始めた。一応これは学校案内なので体験授業というのも良いかもしれない。

 

 

 

「じゃあ早速授業をお願いしまーす!鳴上せんせーい!」

 

「…では、始めよう」

 

 

 

 こうして悠による即席なんちゃって体験授業は数十分間行われた。授業を受けた3人から分かりやすいと好評を受け、後々悠は雪穂と亜里沙から家庭教師の依頼を受けることになろうとはこの時は知らなかった。

 そんな調子で教室の案内を終えた悠は別の場所を案内するために教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<放送室>

 

 

「ここが放送室だ」

 

 

 お次は放送室。普段は中々は入れないのだが、案内のためならと雛乃からの口添えで放送委員会から特別に許可をいただいた。

 

「放送室ってこんなになってるんやなあ」

 

「わあ、マイクがある~。それに変なスイッチもいっぱい!使う時あるのかな?」

 

「見てみてー、音楽のCDがたくさんあるよ。お姉ちゃんたちの歌もここにあるのかな?」

 

「それは……分からないな」

 

 放送室の光景にラビリスや雪穂たちのみならず、悠も少なからずワクワクしていた。普段馴染みのない教室に入るというのは何故か子供のように好奇心をくすぐられる。

 戸棚を見ると、たくさんの音楽CDがずらりと並べてあるのが目に入った。この学校の校歌に体育祭で用いられる"天国と地獄"、"剣の舞"……その中にりせのCDやその後輩ポジションと言われている【真下かなみ】のCDまでも置いてあった。何だか宝探しをしているようで気分が高揚する。そんなことを思っていると

 

「鳴上さん、そこの棚にこんなCDがあったんですけど。これ何か分かりますか?」

 

「ちょっ!亜里沙勝手に開けちゃダメだよ!」

 

 亜里沙は気になって発見したらしいCDを手に持ってきた。あまり放送室の中を荒らすのはよろしくないが一体何を持ってきたのだろうか。悠は気になって亜里沙が持っていたCDの一つを手に取ってみた。

 

 

 

校歌替え歌"一気コール"

 

 

 

「えっ?」

 

 何か見てはいけないタイトルが書いてあった。嫌な予感を感じた悠は手早く他のCDも確認した。

 

 

食べる前に飲む編

沈没船を救え編

今夜は帰さない編

 

 

「…………………」

 

 何だろう、宝は宝でもパンドラの箱のようなヤバいものを見つけてしまった気がする。見れば亜里沙が見つけた棚には"吹奏楽部門外不出品"と書いてあった。

 

(まさかと思うが……)

 

 そんな悠の心情を知らず、ラビリスたちは興味津々にそのCDを眺めていた。

 

「なんやろ?これ?いっきコール?」

「さあ?替え歌って………沈没船?」

「こんやはかえさない?………とにかく聞いてみようよ!」

「ちょっと勝手に」

 

 亜里沙は数枚あるうちの一つを手に取って音楽プレイヤーに入れようとする。だが、

 

 

「と、とりあえず次に行こう」

 

 

 悠はそうはさせまいと亜里沙からCDを取り上げた。亜里沙たちには聞かせられないし、もし誤ってこんなものを全校に流してしまったら自分は永久の夏休みになってしまう。

 

 

「ええっ!亜里沙、これ聞いてみたいのに~~」

 

「聞かなくていいからッ!!それよりも次に行こう!なっ!」

 

「「「う、うん………」」」

 

 

 悠の謎の迫力に押され、亜里沙たちはおずおずと放送室を後にした。

 

 

 

(今のは……見なかったことにしよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな調子で次々と音ノ木坂学院の各所を案内していく。

 

 

「ここがアルパカ小屋だ」

「わあ~可愛い~♡」

「よしよし、ええ子やなぁ」

「何かラビリスさんにすごく懐いてるんですけど」

「これまた意外だな」

 

 

「ここは生徒会室だ」

「所謂ブリーフィングルームやね」

「それは違うかな?」

「あの……うるさいので出て行ってくれますか?」

「「「すみませんでした……」」」

 

 

「ここが講堂で……」

「おい鳴上、何で中学生と一緒なんだよ?」

「えっと……これは学校あんな」

「お前……シスコンでロリコンなのに中学生と外国人って、てんこ盛り過ぎんだろ!?」

「羨ましい……」

「おいっ!俺はロリコンじゃない、フェミニストだ!」

「「「…………………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<アイドル研究部室>

 

 

「ここがアイドル研究部の部室だ」

 

 

 行く先々で色んなことがあったが、ようやく自分たちの拠点であるアイドル研究部室に辿り着いた。

 

「わああ~すご~い!アイドルのポスターやグッズがいっぱいある~」

 

「ここだけまるで別世界だよ」

 

「まるで小さな博物館みたいやな」

 

 やはりというべきか、あまり見ないこの部室の光景に3人とも今まで以上に驚いていた。まあ最初ここを訪れた時自分もこんな感じだったので、この反応は当然だろう。とりあえず一息入れようとお茶を淹れて3人をもてなすことにした。

 

 

「そう言えば穂乃果ちゃんたちのグループ、ランキングで19位になったんやったね。改めておめでとう」

 

 

 お茶を飲んで一息ついた時、ラビリスがそんなことを言ってきた。

 ラビリスの言う通り、悠たちμ‘sはスクールアイドルランキングで19位まで浮上している。どうやらオープンキャンパスや秋葉原でのライブが功を制したらしい。余談だが、μ‘sのランキングコメント欄に"マネージャーさんは出ないの?"とか"次のダンスに期待"とかなど悠の出演を熱望している声もあるのが謎だが。

 

 

「ありがとう。まあ…今19位でもここからが勝負なんだけどな」

 

「「「???」」」

 

 

 悠の呟きの意味が分からないのか3人は首を傾げた。そんな3人に悠は分かりやすく説明する。

 ラブライブ出場条件はあくまで()()()()にランキング20位以内に入っているグループのみ。つまり、いくら今20位以内に入っているからと言っても油断はできないのだ。まだ20位以内に入っていないグループだってここぞとばかりに追い込みをかけているだろうし、上位陣も追い抜かれまいと発破をかけていくだろう。こんな状況ではいつどこかのグループに抜かれてもおかしくない。

 

 

「そういえば、A-RISEとかは今度7日間連続ライブをするって友達が言ってたけど、お姉ちゃんたちもそんなことするんですか?」

 

「いや…流石に俺たちはそんなことできないからな。でも、だからこその学園祭ライブなんだ」

 

 

 A-RISEなどのトップグループはそのようなイベントを行うらしいが、μ‘sにそんなことをする時間も場所もない。だからこそ1週間後の学園祭で行うライブがキーポイントとなる。学園祭は2日間かけて行われるしラブライブ出場期限直前なので、それが穂乃果たちμ‘sにとって最後の追い込みとなるのだ。屋上で練習に励む穂乃果たちもそれを自覚して一層頑張っていることだろう。

 

「う~ん、大変やねぇスクールアイドルも」

 

「そう言えば、お姉ちゃんもそのことで最近しかめっ面してること多いなぁ。お姉ちゃんは気づいてないかもしれないけど」

 

「うちのお姉ちゃんもリーダーだからって毎晩ずっとランニングしてるよ。あの面倒くさがりのお姉ちゃんがだよ」

 

 悠の説明を聞いて改めて事の重大さを知った3人はそうコメントする。なんやかんやで自分たちの姉の最近の行動の理由が分かったようである。雪穂に関してはそこまで言わなくてもと思ったが普段の姉の様子を見てたらそう思うのも無理はないだろう。

 

 

「まあ、俺もやるだけのことをするだけだ」

 

 

 マネージャーの自分ができることなどたかが知れているが、それでも自分にできることをするしかない。改めてそう決意を新たにした悠は皆を連れて屋上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<屋上>

 

 

「最後に、ここが俺たちの練習場である屋上だ」

 

 

 そう言って悠は屋上の扉を開ける。そこには練習を終えて休憩に入ったらしい穂乃果たちの姿があった。

 

「ああっ!雪穂に亜里沙ちゃん、それにラビリスちゃんも!いらっしゃーい!」

 

「こんにちは、3人とも」

 

「ラビリスちゃん、久しぶりやね」

 

「こんにちは皆。久しぶりやね」

 

「やっほーお姉ちゃん、見学に来たよ」

 

「お姉ちゃん!遊びにきたよ」

 

「亜里沙……今日は学校見学に来たんでしょ?」

 

 屋上を訪れた4人に気づいた穂乃果たちは喜んでラビリスたちを手厚く歓迎する。練習の後なのにあんなにはしゃぐとは余程ラビリスたちの来訪が嬉しかったのだろう。

 

「今度穂乃果ちゃんたち学園祭でライブやるんやろ?楽しみにしとるね」

 

「ありがとう!穂乃果も頑張るよ!絶対に最高のライブにしてみせるから!楽しみにしててね!」

 

 ラビリスの言葉に穂乃果は大胆不敵にそう宣言した。"最高のライブ"とはまた強気に出たなと思う。それにラビリスが来ると言うことはあの美鶴たちも楽しみに観に来るのかもしれない。そうなるとより一層練習に励めばと穂乃果たちは身を引き締める。美鶴たちにも"最高のライブ"と感じてもらえるようにするために。

 

 

「で、学園祭ではどこでライブするの?やっぱりオープンキャンパスみたいに運動場にステージ作ったりとか?」

 

「「「「!!っ」」」」

 

 

 雪穂の質問にμ‘s全員はギクッと表情を歪めた。悠たちのその反応に3人は首を傾げてしまう。だが、何か不都合なことがあったのは彼女たちの表情から明らかだった。黙っているのは悪いので皆を代表して穂乃果がおずおずと説明した。

 

「穂乃果たちの今回のライブは……ここでやるの」

 

「えっ?ここって……どこ?」

 

 

 

「ここ………この屋上で」

 

 

 

「「「………………………はっ?」」」

 

 

 そう、最後の追い込みで行う学園祭ライブの会場はこの穂乃果がいつも練習に使っている屋上であった。

 

 

 何でそうなったのかと言うと、それは先日行われた学園祭の場所振りの抽選でのことである。学園祭にて出し物をするクラス・部活動はくじで学校のどの場所で行うのかを振り分けられることになっている。最後の追い込みとして絶好の場所でライブしたいので、ここは運に定評のある悠がくじを引くはずだったのだが………

 

「悠くんがクラスのを引くからって、代わりに引いたにこっちがくじを外したからねぇ」

 

「ぐっ……」

 

 希の言葉に皆はにこに憐みの視線を向ける。そう、あろうことか悠が既にクラスのくじ引き担当になっていてμ‘sのくじは引けないということが明らかになったので、仕方ないのでここはアイドル研究部の部長であるにこにくじを託すことになったのだ。だが、結果はこの通り。

 

「ウチは信じとったんよ。にこっちならやってくれるって」

 

「ぐうっ…………」

 

「陽介並みの運の無さだったな」

 

「ぐぐぐっ…………」

 

「ポジション的に似てるからかなぁ?」

 

「ぐぐぐぐぐぐぐぐっ………」

 

「いやどちらかと言えば完二に」

 

「う、うっさいわね!そこッ!!あのガッカリ王子とガチムキサウナと一緒にするんじゃないわよ!私だって悪かったと思ってるけど仕方ないじゃない!!」

 

 散々浴びせられる非難剛号に耐え切れなくなったのか、にこは心の底からそう叫ぶ。本人も非があることは重々承知のようだが、運など騒いでもどうしようもないことを言われては堪ったものではない。

 

「私だって悠にしとけばって思ったわよ!現にこいつは私の後に自分のクラスのやつで良い場所取ったしッ!」

 

「(ギクッ)」

 

 そう、にこがハズレを引いて穂乃果たちが落胆している中、悠は自分のクラスの場所取りでくじを引いたところ、一番いい場所である"講堂"を引き当てたのだ。お陰でクラスのみんなから英雄扱いされたのだが、穂乃果たちからは何故か戦犯扱いされたので本人としても堪ったものではなかった。まあ、何と言おうともう後の祭りである。

 

「鳴上くんも穂乃果ちゃんたちも色々災難やね………」

 

「不幸としか言いようがないかな?」

 

「あはははは………」

 

 これには第三者のラビリスたちも同情するように苦笑いしかできなかった。何というか波乱万丈だなと思うしかない。だが、会場が屋上という不利な状況でも悠たちならそれを跳ね返すように最高のライブをするだろう。3人は不思議とそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<アイドル研究部室>

 

 

「そう言えば、お姉ちゃんたちってライブの他に何かやらないの?クラスの出し物とかで」

 

 

 少し屋上が熱くなってきたので一旦休憩でアイドル研究部室に戻ってきた一行。各々がアイスドリンクで喉を潤していると、雪穂は穂乃果たちにそんな質問を投げかけた。家で姉に聞いてなかったのか、学園祭で何をやるのかが気になるらしい。

 

「ああっ、そう言えば雪穂には言ってなかったね。穂乃果たちのクラスはメイド喫茶やるんだ」

 

「メイド喫茶?」

 

「うんっ!ヒデコたちがやってみようって言って採用になったの。メイド服はネコさんに借りようかなって思ったんだけど……そこまでしてもらう訳にはいかないから」

 

「……確かに」

 

 おそらくそうなった場合、それは出張版コペンハーゲンとなることだろう。ちなみに店名は【アーネンエルベ】という名前らしい。その名前に何故か危ない予感を感じたのは気のせいだろうか。それより気になるのは……

 

「穂乃果たちのクラスがメイド喫茶ということは………まさか、ことりもメイドをやるのか!?」

 

「い、いえ……ことりはウエイトレスではなく厨房係です。流石にことりがメイドをやるとあっちの正体がバレてしまうので……」

 

「……だよな。確認が取れて安心した」

 

 それは賢明な判断である。ミナリンスキーのことがバレるのが問題ではなく、ことりに手を出そうとした輩が誰かによって血祭りに上げられそうになることが問題なのである。最悪事案になるかもしれないので、ことりを厨房係にしておいて良かったと海未は心の中で安心した。

 

 

 

「私たちは占いの館をやるの。店名は【タロットの誘い】っていって、希の指導で占いをやるのよ」

 

「どストライクだな」

 

「そうよねぇ……まっ、にこは何もしないから良いけど」

 

 絵里たちのクラスは占いの館をやるそうだ。希と占いとはこれまた相性の良いものを悠は直感した。占いの館と言えばと去年の八十神高校の文化祭での見かけた【THE長鼻 マギーのタロット占い】が脳裏に浮かんだ。何だが当日あの姉妹が何かを起こすような予感がしたのは気のせいだろうか。

 

「ウチがタロットでみんなの運命を占うんよ。今日の運勢とか、相性占いとか、悠くんとウチの幸せな将来のこととかな」

 

「……最後のは占いに全然関係ないわよね?」

 

 むしろ個人的なことだった気がするのだが……ダメだ、今の発言でことりがハイライトの消えた目で希を睨んでいる。

 

「希ちゃん?それはことりとお兄ちゃんの幸せな将来じゃないのかな?」

 

「あらあら?何のことやろうねえ?」

 

 そうしてことりと希はいつものように火花を散らす。前回の合宿の件からこう2人が悠のことで火花を散らすのが当たりまえのようになってきた気がする。それでも毎度こんな冷えた雰囲気にさらされると胃が痛くなる。

 

 

「そっとしておこう」

 

 

 何だが雲行きが怪しくなってきたが、悠はあえて関わらないことを選択した。これ以上藪蛇をつつくようなことをして事態を悪化させないために。そしてラビリスや雪穂たちに悪影響を与えないようにするために……

 

 

 

 

 

 

「凛たちはウォークラリーだにゃ」

 

「ウォークラリー?」

 

「はい!これ凛ちゃんからのアイデアなんですよ」

 

 話によると、そのウォークラリーは学校全体を舞台にし数か所のチェックポイントをまわってもらうという形式のようだが普通のウォークラリーとは違うらしい。曰くそのウォークラリー自体に演劇の加えた参加型にするという。内容は参加者は異世界に迷い込んだ冒険者で行く先々で鉢会う7つの種族とのゲームに挑みながら神様との一騎打ちを目指すというものとだという。

 

「言わばこれは、劇場型ウォークラリーだにゃ!」

 

 どうだと言わんばかりに凛はドンと胸を張ってそう言った。本人としてはいいアイデアを出したと思っているらしい。

 

「わあっ!面白そう!!」

 

「学校全体を使うっていう斬新やね。ウチもやってみたいわ」

 

「亜里沙もやってみたい!」

 

 あまり聞いたことがない上にどこか惹かれる内容に穂乃果たちはもちろん雪穂や亜里沙、ラビリスもこの反応である。しかし……

 

「ん?それどこかで聞いたことあるぞ。SKE○ D○NC○とかで」

 

「あっ………それに内容もどこかで聞いたことあるし。これってパク」

 

 凛の説明を聞いてどこかで見たことがあるのか悠と雪穂がパクリ疑惑を呟いたその時……

 

 

ーカッ!-

 

パクリじゃないにゃ!!本家はボッス○たちが(自主規制)であって、凛たちのものはれっきとした…………」

 

 

 

 

 

 

~15分後~

 

 

 

 

 

 

「つまり!断じてこれはパクリじゃないにゃ!」

 

「分かった!もう分かったから!!」

 

「凛ちゃん、思いっきり悠くんの影響を受けとるな………」

 

 その後、凛は自分たちの出し物が決してパクリでないかを力説した。まだ【言霊遣い】級まではいかないものの、妙に説得力があった。良くも悪くも悠は皆に何らかの影響は与えているのが見て分かる。

 

「それにしても、凛ちゃんはアニメや漫画のことになると熱くなるね」

 

「当然だにゃ!ことサブカルチャーに置いて、この"星空凛"またの名を『 ○に置いて知らないことは」

 

「はいっ!この話は終わりだ」

 

 際どい発言をしようとした凛に割って入って悠は強引に話を打ち切った。完全に頭の中は某小説に染まっていたそうだった。

 

 

 

 

 

 

「それで、悠さんは何やるの?」

 

 最後は悠。一体クラスで何をやるのかと穂乃果たちは期待で胸がいっぱいだった。そんな中、悠は淡々とクラスの出し物について話した。

 

「俺のクラスは演劇をやる。『白雪姫』だったかな?」

 

「「「マジでッ!?」」」

 

 悠の出し物の内容を聞いて皆は驚愕する。凛たちの劇場型ウォークラリーに比べれば普通なものなのだが、重要なのはそこじゃない。

 

「ええっ、本当!?もしかして悠さんが主役なの?王子様役?」

 

「「!?っ」」

 

 穂乃果の発言に一同はビクッと反応する。悠が王子様役。ということは、白雪姫のストーリー上ラストシーンで白雪姫役は………。皆の神妙な表情に悠は困惑した。

 

「んっ?みんな、どうしたんだ?」

 

「…悠くん、白雪姫をやる人って誰なん?」

 

「えっ?」

 

「…お兄ちゃん………その白雪姫の人を教えて。今すぐことりのおやつにして……」

 

「お、落ち着け……安心しろ。俺は何もやらないから」

 

 悠が王子様役と勘違いしているのかとんでもないことを言いだしたことりを落ち着けさせて事情を説明する。

 さっきも言った通り、悠はクラスの出し物の場所取りで一番いい場所を獲得した。そのことでクラスの皆から大いに感謝され、μ‘sのこともあるからここは自分たちに任せろとクラスメイトたちから言われている。まあ悠を王子様役に選んだら、クラスで紛争が起きるし、仮に白雪姫役を取れたとしてもブラコンの妹と自称彼女⁺αから目を付けられるのは自明の理だということはクラスメイトたちは重々承知していた。本当に悠がクラスのくじ担当で良かったかもしれない。

 

 

 

「……去年の()()()()()よりはマシか」

 

 

 

「「「「えっ」」」」

 

 

 ふと悠が発した言葉に一同はフリーズした。皆が反応したのは"合コン"というワード。本人は自分が何を言ったのかという自覚がないのか、皆の反応にポカンとしている。

 

「……お、お兄ちゃん…合コン…したの?」

 

「えっ?…いや、去年八高の文化祭で合コン喫茶ってだけで」

 

「私、悠は硬派で軽くない人って信じてたのに」

 

「えっ?」

 

「最低です」

 

「ええっ!いや、ちょっと待て!落ち着け!」

 

 次々に非難を受ける悠。いや合コン喫茶と言っても誰も客が来ずもはや休憩所みたいなことになっていたので別段やましいことなどなかったのだがと説明しようとするが、皆は悠が合コンに行ったと思い込んでいるのか聞く耳を持ってくれない。

 

「あれは本当やったんやなあ。悠くんが一条くんと長瀬君と一緒に合コン行ったってこと……」

 

「なっ!何でそんなこと知ってるんだ!?……あっ」

 

 予想外の展開に流石の悠はらしくないリアクションを取る。文化祭のことではないが、確かに去年八高の友人である一条と長瀬と合コンに行きかけたことは事実だ。しかし、何故そんな一部を除く特捜隊メンバーにも言ってないことを希が知っているのか。そんな悠の慌てっぷりを見た希はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ウフフフ……ウチの情報網を舐めたらいかんよ☆」

 

 ちなみにその情報網は今もマスコットに苦汁をなめさせられながらもジュネスのバイトに励んでいる。希が暴露した情報を聞いた皆の視線が一層厳しくなる。それと比例するように悠の冷や汗の量も増大した。あれは色々な事情があった訳で……長瀬の個人的なことに触れてしまうのだが、ちゃんと説明しないとこちらの身が危ない。

 

「と、とりあえず……ちゃんと話すから、落ち着いてくれるか?」

 

 心の中で長瀬に謝罪して悠は取り調べを受けているかのような雰囲気の中、説明を始めた。

 

 

 

「お姉ちゃん、ごうこんって何?」

 

「あ、亜里沙は知らなくていいのよ!」

 

「???」

 

 悠が説明している最中、亜里沙が姉の絵里にそんなことを聞いてきた。シラを切りながらこちらまで二次被害がと絵里は頭を抱えそうになる。まだ亜里沙にはまだ早い話だし、亜里沙が合コンなどに興味を持ってしまったらそれはそれで困る。絵里も悠程ではないがシスコンなのだ。すると、

 

「合コンって確か、独り身の男子と女子が運命の相手を見つけるために行う」

 

「説明しないで!!」

 

 ラビリスが亜里沙に合コンとは何たるかを説明しようとしたので、絵里は必死に止めに掛かったのだった。

 

 

 

 

 

~閑話休題~

 

 

 

 

 

【言霊遣い】級の伝達力を駆使して何とか皆に事情を知ってもらった。一条や長瀬には申し訳ないが、本当のことを言わなければこっちが終わっていた。穂乃果たちも去年の合コン喫茶のことや一条と長瀬と言った件も納得してくれたようだ。

 

「なんだ、そうだったのね。長瀬くんのことは分かったけど……合コン喫茶って、陽介くんも何を考えていたのかしら?」

 

「さあ?」

 

「まあ、悠くんにはウチがおるから合コンやナンパなんてする必要ないもんな」

 

「希ちゃん?」

 

 希とことりがいつもの如く火花を散らしている最中、悠は心の中で冷や汗をかいていた。実を言うと稲羽に居た時に陽介と完二とで沖奈市で"密着計画"という名のナンパまがいのことをしたのだが、それを言ったら命はないだろう。ちなみに希本人は情報網からそのことは聞きだしているがあえて黙っている。もしまた悠が何かやらかしそうになった時の保険として。その様はすでに夫を尻に敷いている妻のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ皆、そろそろ練習に行こう!」

 

「「「えっ?」」」

 

「こうしてる間にも他のスクールアイドルたちは一生懸命練習してるはずだよ!遅れを取らないように頑張らないと」

 

 学園祭の話が一段落したところで穂乃果が突如立ち上がって皆にそう促した。"最高のライブにする"と強気に宣言した故か、普段より気合が入っているように見える。だが、それに絵里はストップをかけた。

 

「もう少し休みましょう。さっきまで炎天下の中ずっと休みなしで練習したし、せっかくラビリスさんや亜里沙たちも来てるのよ」

 

「えっ?………そう、だよね。なら穂乃果だけでも」

 

 絵里の言葉に納得したものの、それならば自分だけでもと1人で屋上に行こうとする。だが、今度は海未がストップをかけた。

 

「そう意気込むのは良いのですが………穂乃果、貴女も休んでください。最近頑張り過ぎですよ。いくら学園祭ライブのためとはいえ、少しはペースを抑えることも大事です」

 

 ラブライブ出場への最後の追い込みで観客全員に"最高のライブ"と思わせるぐらいじゃないとこの局面を切り抜けないのは確かであるのだが、過度な量の練習は逆効果だ。それに穂乃果は最近夜も走り込みをしていると言うし、明らかにやり過ぎである。しかし、

 

「大丈夫だよ。私はみんなのリーダーだから、もっと頑張らないといけないし」

 

「ですが……」

 

「大丈夫だって。穂乃果のことは穂乃果がよく知ってるから」

 

 穂乃果は海未の警告にあっけらかんとそう返した。それを聞いて海未は押し黙ったものの不服そうな表情になる。それはまるで本人のためを思って言っているのに全然言うことを聞いてくれない子供を見る母親を彷彿とさせた。すると

 

 

「穂乃果、少し休め」

 

「えっ?………悠さん?」

 

 

 選手交代と言うように海未に代わって悠が穂乃果を諭しにかかった。母親の言うことを聞いてくれないのなら次に言うのは父親だ。

 

「休憩も大事だ。頑張り過ぎて本番に踊れなくなったら元も子もないだろ。ここは絵里と海未の言うことを聞いておけ」

 

「でもっ!」

 

「穂乃果」

 

「……分かったよ」

 

 穂乃果は少々不服そうな表情であったが渋々と悠の言うことを聞いて元の定位置に戻っていった。それを見ていたメンバーはヒヤヒヤする場面から解放されてホッと安堵したが、悠と海未はため息をついた。

 

「ハァ………これで何度目でしょうね。一応悠さんの言うことは聞くんですけど」

 

「ああ……と言っても、頑張ること自体は間違ってないんだがな」

 

 さっきの不機嫌な表情が嘘のようにラビリスたちと楽しくお喋りしている穂乃果を見て、2人は心配そうにそう呟いた。何だか最近の穂乃果を見ていると危なげないと感じてしまう。このまま頑張り過ぎると、それが裏目に出てしまうのではないかと。

 そう思った悠の脳裏に過ったのはイゴールに見せられた未来夢だ。もしかしたら、あれは穂乃果が練習を頑張り過ぎて本番に倒れてしまったという未来かもしれない。

 

 

(これは……穂乃果を見張っておく必要があるかもな)

 

 

 今度菊花に【穂むら】のお手伝いを泊まり込みで申し出てみようかと悠は対策を考え始めた。何としてもあの最悪の未来を回避するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでラビリスと雪穂、亜里沙の特別学校見学はこれにて終了。穂乃果たちと合流してから駄弁ってしまったところもあったが、3人とも今日の見学は満足な様子だった。同時に本日の練習を終えた穂乃果たちもラビリスと一緒に帰宅する。自分も一緒に帰ろうかと鞄に手を掛けたその時、ポケットにしまっていた携帯が振動した。何なのかと開いて見ると、メールが一通届いていた。どうやら雛乃から来たらしい。

 

 

 

『悠くん、ことりと一緒に聞いてほしい話があるんだけど家に来てくれないかしら?』

 

 

 

 雛乃から話があるとはどういった内容だろう?とりあえず、南家に行こうと雛乃に今から行きますと返信メールを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<南家>

 

ガチャッ

「お邪魔します」

 

 前に雛乃からもらった合鍵で南家に入った悠。何も反応がないところを見ると、まだ2人とも帰ってきてないようだ。とりあえず手でも洗うかと洗面所へと向かう。だが、

 

 

 

「「えっ?」」

 

 

 

 洗面所のドアを開けると、思わぬ光景があった。シャワーを浴びた後なのかタオルを手に取っていた雛乃の一糸纏わぬ姿があったのだ。

 

「「………………………………」」

 

 あまりのことに悠はフリーズしてしまう。今まで温泉で仲間の裸を見てしまったり、海で穂乃果のありのままの姿を目撃してしまったりとラッキースケベをかましてしまうことが多くなったが、まさか雛乃にも発動してしまうとは想定外だった。

 

 

「こ、これは……その……手を洗おうとしていた訳で、別にわざとという訳では………」

 

 

 悠は何とか必死に言い訳してみるが上手く舌がまわらない。だが、そんな悠とは正反対に雛乃は笑みを浮かべていた。甥っ子とはいえ、男に裸を見られているというのにあの余裕。穂乃果や千枝たちの時は桶が飛んできたというのに、これはどういったことなのか。もしや、これが年の功というものなのかと思っていると、雛乃は笑みを浮かべたまま悠に告げた。

 

 

「悠くん、とりあえず歯を食い縛りなさい」

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、どうしたの?顔がすごく腫れてるよ」

 

「……そっとしておいてくれ」

 

 家に帰って見ると、先に来ていたらしい従兄の顔がこれ以上ないくらい腫れていた。向かい側に座っている母の様子から何かあったことは容易に察せたが、ここは悠の言う通りそっとしておこう。ただし、後で何があったかは話してもらうことになるが。

 

 

「あの……俺とことりに話って何ですか?」

 

 

 気まずい雰囲気に耐えかねたのか、悠は早く本題に入ろうと雛乃にそう聞いた。すると、雛乃は鞄から仕事で使っているらしいパソコンを取り出してこう切り出した。

 

「実はね……朝方、義姉さんからメールが届いてたんだけどね」

 

「えっ?母さんから」

 

「叔母さんから?」

 

「2人にこれを見せてほしいって」

 

 雛乃はそう言うと持ってきたパソコンを開いて悠たちに目的のものを見せた。それは今朝届いたという悠の母親からのメールでそこにはこう書かれてあった。

 

 

 

 

 

 

"うちの悠とことりちゃんを留学させてみない?"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<???>

 

 

 

………ううっ……何故だ……何故だ………………

 

 

 

 同時刻、とある建築物のとある部屋である人物はパソコンの画面を眺めて苦悶していた。その表情はどこか虚ろで心の中は歪みに歪んでいた。

 

 

 何故だ。何故誰も見てくれない。自分こそが注目されるべきなのに、何故誰も見てくれない。周りの連中は皆あいつらのことばかりに目がいっている。

 

 

そうだ……あいつらさえいなければ……………()()()さえいなければ!こんな思いをせずに済んだのに!

 

 

 

 

 

 

 邪魔するな……邪魔するなじゃまするなジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャジャマスルナマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナジャマスルナ

 

 

 

 

 

 

 これ以上……自分の邪魔をするなッッッ!!

 

 

 

 

 その人物は人が変わったように目を見開くと叩きつけるようにパソコンのキーを打ち始めた。まるでキーを打つその指に一つ一つ怨念を込めるように。パソコンの画面には一つの文章が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

"コレイジョウ ジャマスルナ"

 

 

 

 

 

 

 

 

ーto be continuded




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「た、大変よ!!」

「随分と大きくなったわね」

「俺宛てに手紙?」

「今は大事な時期ですからね」

「だ、大丈夫………」


「頼む……元気になってくれ」


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