PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
先日のPERSONAQ2アンケートの結果が出ました。アンケートに答えてくださった方々、ありがとうございました。結果の方なのですが……予想通り②の一人選んでデートするという選択した方が多く、デートする人物の方は蓮ことジョーカーは決まったのですが、悠の方が2人同票という結果になりました。マヨナカ横断ミラクルクイズみたいな展開にどうしたものかと悩みましたが、塾考の末もう少しアンケート期間を延長するということにしました。すみませんが、もう少しお付き合いください。
改めて、お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけて下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。
至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。
それでは本編をどうぞ!
………思えばいつからだろう。ことりがお兄ちゃんを慕うようになったのは。
ことりはと昔のことを思い出していた。
あれはちょうどことりが幼稚園の頃、親戚の集まりということで両親と一緒にどこかの田舎町に行った時のことだった。
周りは誰も知らない人ばかり。母親は"義姉さん"という女性と談笑しているし、父親もどこか厳つい堂島という人とお酒を飲んで笑っているし、全然ことりに構ってくれなかった。それに時折知らない人がこんにちはと話しかけて来るが、引っ込み思案が激しかったことりは怯えて母親の背中に隠れるだけでコミュニケーションが取れなかった。
こんな場所に居ても怖い。早く帰りたい。
母親にそう言おうとしたその時、
「ねぇ、一緒に遊ぼう」
誰かがまた声を掛けてきた。しかし、その人の声はさっきまでの人達とは違う優しくて温かいと感じた。振り返ってみると、そこにいたのは自分よりちょっと年上らしい、でもどこか親近感を覚える男の子だった。
「ことりちゃん……ことりちゃん………ことりちゃんっ!」
「えっ?」
あの時の悠との出会いを回想している最中、穂乃果の叫び声でことりは現実に引き戻された。改めて見渡して見ると、自分の目の前には多数のシャドウをそれに立ち向かう海未たちペルソナ使いたちの姿があった。
「あ、え~と……」
「ぼおっとしてんじゃないわよっ!伏せなさいっ!」
「えっ?」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!
「きゃああああああっ!」
にこがそう怒鳴った刹那前方からドンッという爆発音と共に爆風が吹いてきた。見れば、海未のペルソナ【ポリュムニア】の矢がシャドウ数体を撃破したところだった。
今ことりたちは悠を救うために新しくテレビの世界に現れたサーカスに突入したところだった。そしてエントランスに入った瞬間、突然シャドウたちが現れて襲ってきたのだ。場所がサーカスということもあってかシャドウは鉄球に繋がれているライオンや動くサイコロなど今まで見たことがない上、中々手強いものばかりだった。
『にこっち、右っ!』
「うわっ!あぶなっ!!」
『凛ちゃん、伏せて!!』
「にゃあああっ!」
だが、解析能力を持つ希がいち早くシャドウの情報を皆に共有し、それを元に皆が動く。にこと凛に死角からシャドウの攻撃が襲ってきたが、希の必死の指示でダメージを受けることなく避けることに成功した。
『あのシャドウは火炎属性に弱いよ。真姫ちゃん!!』
「了解!メルポメネーっ!!」
「チャンスっ!!クレイオーっ!!」
にこと凛の回避を確認した希は真姫にそう指示を出してシャドウを撃退させる。敵が怯んだ隙を狙って花陽が追加で攻撃を加えた。
『大きな攻撃が来るよっ!エリチ!!』
「了解!みんなを守って!【テレプシコーラ】!!」
そして、相手から放たれた攻撃を絵里のテレプシコーラが御旗を立てて防いだ。前回の希シャドウ戦では触れなかったが、テレプシコーラは特捜隊メンバーの直斗のペルソナ【ヤマトスメラミコト】と同じ相手の攻撃を無効化するスキルを持っている。そして、
―カッ!―
「行きます!ポリュムニア!!」
―カッ!―
「蹴散らせっ!エラトー!!」
その隙を狙って海未とにこが特大の氷結攻撃を放ってシャドウたちを一掃した。いくつもの修羅場を乗り越え、以前よりも強くなった海未たちは鮮やかに襲い来るシャドウをあしらっていく。
「「………………………」」
皆の戦闘ぶりを見て非戦闘員の穂乃果とことりは呆然としてしまった。みんなが必死にシャドウと戦っているのに、ペルソナを持っていない自分はここで立ち尽くして見ているだけ。まだ自分たちは皆と違ってまだ己の影に向き合っていないので、それは仕方ないのだが皆と一緒に戦えないやるせない気持ちでいっぱいだった。
―――――ことりもお兄ちゃんの力になりたいのに……どうしてペルソナを持ってないんだろう。
「もうシャドウの気配はないな。みんな、お疲れさん」
「ふう、何とか勝てたわ」
「希ちゃんのお陰で戦いやすくなりましたね」
今までは何も情報も無しに手探りでシャドウと戦っていたが、希のペルソナ【ウーラニア】の解析能力によりシャドウの情報がいち早く伝わるので、以前よりも戦いやすくなった。これなら悠がいなくても大型シャドウと戦えるし、犯人も捕まえられるかもしれない。新たな戦力と戦略を得た海未たちは期待に胸が膨らんでいた。
「あれ?穂乃果ちゃん・ことりちゃん、どうしたの?」
「えっ?……な、何でもないよ!ちょっとぼおっとしてただけで」
「こ、ことりも…そんな感じかな?」
戦いが終わっても呆然としていたらしい。そんな穂乃果とことりを見て、絵里は声に怒気を含めてこう言った。
「……穂乃果・ことり、ここは戦場なの。一歩間違ったら死ぬかもしれないのよ。もっとそこの自覚を持ちなさい!そんな調子じゃ悠を助けられないわよ」
「「……はい」」
絵里の説教を受けて俯きながらそう返事をする2人。絵里はしばらく2人のみならず、他のメンバーにも警戒を怠らないようにと注意喚起していたが、穂乃果とことりは頭は別のことでいっぱいだった。
戦闘を終え先へ先へと歩みを進めて行く一行。だが、
「それにしても、随分進んだのに先が見えないわね。サーカスってこんなに広かったかしら?」
絵里の言う通り、いくら先へ進んでも同じような光景が続いていた。あまり大きそうでなかった外見に関わらず、内部は東京ドーム何個分あるのかというほどの広さがあった。まるでハ○ーポッ○ーに出てくるテントのようだが、早く悠を見つけ出したい穂乃果たちにとっては溜まったものではない。いくら強くなって雑魚シャドウ戦なら軽くあしらえるようになったとはいえ、目的地が見えない状態で戦闘を繰り返しては苛立ちも隠せない。
「希、まだ悠か佐々木は見つからないの?」
「もう少し待って。ウチやってこれでも必死なんやから」
初探索にも関わらずサポートで目覚しい活躍をみせている希だが、まだ力の扱いに慣れていないのか目的の悠と佐々木の特定に時間がかかっていた。
「なっ!……みんな、また前方からシャドウ出現したで!気をつけて」
希の言う通り物陰からまたシャドウが出現し穂乃果たちの行く手を阻んだ。さっきからこのような展開が何回も続いているので正直うんざりしている。自分たちには時間がないのに。だが、それでも前に進むために海未たちは己の武器を顕現した。
そんな状態が続いた数十分後……
「ん?……………ちょっと待って!ここ、他のところとは雰囲気が違う…………って、ここから佐々木の反応があるよ!」
通り過ぎようとした扉から何かを察知した希がそんなことを言ってきたので穂乃果たちは思わず立ち止まって顔が強張った。改めてその扉の前へと来てみる。一見何も変哲もない扉だが、希の言う通り何か禍々しいものをここから感じる。どうやたこの奥に今回の元凶である佐々木がいるのは確かなようだ。その事実に海未たちは自然と拳を握り締めてしまう。
「……みんな、準備はいいかしら?」
この部屋へ突入する前、最後の確認のため絵里は皆にそう問うた。
「うんっ!大丈夫だよ!」
絵里の問いに穂乃果が力強くそう答えると、他のメンバーも同意と言うように遅れて頷きた。
「じゃあ、行くわよ!」
穂乃果の一声で覚悟を決めたメンバーは扉を開いて中へ突入した。
「あれ?ここは」
「サーカスの会場?」
そこはさっきまで突入したところとは違った会場だった。円形の舞台を中心して囲むように観客席らしきものがある。これはまさにサーカスのメイン会場を彷彿させるものであった。
「でも、サーカスの会場にしては広すぎじゃない?観客席を隔てる壁も高いし、中心に何もないし………」
「どっちかって言うと、コロシアムみたいだにゃ」
凛がふと発した言葉に皆はピンと振り向いた。確かにこの壁の高さと会場の広さ、そして何よりまるで決闘に使用されたような雰囲気はサーカスというより"コロシアム"というのが合致する。
「サーカスは古代ローマで人間と猛獣の格闘に使用されたキルクスっていう円形競技場が語源になったっていう諸説はあるけど……」
「こんなところに本当にあの人が……」
「レディーーーーーーース、エンドジェントルメーーーーーーーーン!!ようこそ!佐々木サーカスへ!ここに本日のメインイベントの主役たちがやってまいりました!さあ!盛り上がっていきましょーーーう!!」
ワアアアアアアアアアアアアアアっ
「「「「「!!っ」」」」」
花陽が何か言いかけたと同時に、突然そんな声が聞こえたかと思うと周りから大歓声が沸いた。ビクッとなって見てみると、何もなかったはず観客席に大勢の観客が存在していた。落ち着いて見てみると、観客席にいるのは皆シャドウだった。
「何よこれ。まるでP-1Grand Prixを思い出すかのような光景は」
「やっぱり、あの事件を起こしたのも………」
「やあやあ、約束通り君たち9人で来てくれるなんて感心感心。関係ないやつを連れてきたらどうしようかと思ってたけど、そうじゃなきゃショーが面白くないからねえ」
絵里の言葉を遮るかのようにそんな声が聞こえたかと思うと、1人の男が穂乃果たちの目の前に現れていた。白黒半分に分かれたタキシードとマント、ドミノマスク。間違いなくこの男はあのマヨナカテレビに映っていた"佐々木竜次"であった。
「佐々木……竜次」
「こいつが……悠を」
悠にあの凶行を加えた人物が現れたことに顔が険しくなる穂乃果たち。今すぐにでもこの男を捕まえたい。そんな衝動に駆られてしまった。だが、当の本人は穂乃果たちからそんな感情をぶつけられているにも関わらず、まるで感情のないピエロのようにニヤニヤとしていた。
「ん?……ちょっと待って、この人……」
パチンッ!
「ショーの前にご褒美に君たちが欲しがっているものをあげようじゃないか!そう、今君が欲しいと思っているものを」
何かを感じた希の言葉を指を鳴らして遮ると、オーバーリアクション気味に佐々木が穂乃果を指さしてそう宣言した。
「ほ、穂乃果が欲しいもの?意味わかんないこと言わないで!それより今すぐ悠さんを返してよ!」
そんな佐々木に穂乃果は焦るかのようにそう突っかかる。
『あははは、何言ってるの?アンタが欲しいものなんて、自分でよく分かってるくせに』
「えっ?」
佐々木に悠を返せと突っかかった瞬間、背後から誰かに似た不気味な声が聞こえてきた。恐ろしい程低く、どこか穂乃果に似た声だったので、まさかと思って振り返ってみると……
「あ、あれは……まさか!」
「穂乃果の…影」
金色の目以外は瓜二つの存在……穂乃果の影がそこにいた。それを見た皆は驚愕したと同時に佐々木が言っていた"欲しいもの"の意味を理解した。穂乃果が今欲しがっているのは皆と違って持っていないペルソナであり、それを手に入れるための"影"を出してやるとあの男を言っていたのだ。
しかし、一体何故このタイミングで穂乃果の影が出現したのだろうか?今までペルソナを所持していない穂乃果とことりがテレビの世界に入っても出現することはなかったのに。
『アンタはいつも思ってたよね?自分には何もないって』
そんな海未たちの困惑を知らず、影は穂乃果に単刀直入にそう斬り込んだ。
「えっ?……ど、どういうこと?」
『ハァ…本当は分かってるくせに。アンタがいつも馬鹿みたいに明るく振舞ってるのって、何もない自分を取り繕うためでしょ?アンタには海未ちゃんみたいな気品やことりちゃんの服飾みたいに打ち込める趣味がない。私はそんな2人に比べて何もない……我儘で自分勝手で人の話を聞かない、ただのおバカ』
「!!っ、な………何言って」
『だからアンタは悠さんと会ったあの日、そんな自分を変えたくてスクールアイドルを始めようとした。学校を救うためなんていうのは建前で、本当はこんな何もない自分にも何かできるって証明したかっただけだった』
「そ、そんなこと………」
『でも、廃校を阻止してこの事件が解決しちゃったら、私たちがスクールアイドルをやる意味がなくなるよね?そしたら私の存在意義がなくなる。また私はただのおバカと思われる。そんなの嫌だもんね?』
「……………………」
「ほ、穂乃果!大丈夫ですか!?」
「穂乃果!!」
今までずっと見てきた。自分の影の言うことを否定すれば、影が暴走して襲い掛かってくる。そうならないためには自分自身が耐えるしかない。穂乃果があの禁句を口にしないように、海未や絵里たちが必死に声掛けをしてくれている。しかし、
『何かを持ってる海未とことりと比べられるのは嫌だから。おバカと思われるのは嫌だから。そのためだけにスクールアイドルを続けたい。だから、アンタは今日のライブを捨てることを選んだんだよ。ちょうど大好きな悠さんを助けるためだっていう、らしい口実もあるし。そう考えたら、あの佐々木って男に感謝だよね。こうやって私がスクールアイドルを続けられるチャンスを与えてくれたんだから』
「ち、違うっ!!違うよ!!いい加減なこと言わないで!!」
容赦なく襲い掛かる影の言葉に耐え切れなくなり、己の影の言うことに噛みついてしまった。穂乃果の反応を見た穂乃果の影はしめしめと言わんばかりにニヤリと笑った。
『くくくく……一人は嫌だ。孤独は嫌だ……スクールアイドルを続けられなくなったら、私の存在意義なんてないも同じ。そしたらみんなに見捨てられる』
「違うよっ!!穂乃果はそんなこと思ってない!!悠さんも海未ちゃんもことりちゃんも関係ないよ!!」
ガタガタを足を震わせながらも穂乃果は必死に影が言うことを否定する。
『あはははは、どれだけ否定したって無駄だよ。私には一人が怖いっていうあなたの気持ちがよく分かる。だって、私も"高坂穂乃果"。私はあなたなんだからさ』
「ち、ちが……」
『それに、ペルソナが欲しいんでしょ?だったらさ、さっさと私を受け入れなよ。そうすればみんなと……大好きな悠さんと一緒に』
「黙って!!……うるさい……違う違う違う違う違う違う違うっ!!」
とうとう影の言刃に耐え切れなくなった穂乃果は床に手を突き、狂ったかのように否定の言葉を並べ続ける。これはもう危険であることは明白だった。
「穂乃果!気をしっかり持ってください!アレは」
「うるさいっ!」
海未が近寄って落ち着かせようと手を差し伸べようとするが、既に混乱状態の穂乃果はその手を振り払ってしまう。そして、
「あなたなんか……あなたなんか………
私じゃないっ!!」
穂乃果はとうとうこの世界では言ってはいけないあの"禁句"を告げてしまった。
『うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…………あはは……あははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!あーはっはっはっはっはっはっはっはっは!!』
穂乃果が禁句を口にした途端、穂乃果シャドウは歓喜の声と共に、禍々しいオーラに包まれていった。そして、その包むオーラの大きさはどんどん大きくなっていき、姿が変わった穂乃果シャドウが現れた。全身を炎で纏い、巨大な片手剣を持った巨人を模した怪物。その圧倒的なスケールと伝わる陽炎の熱さに海未たちはこれまでにない緊迫感を味わっていた。
「我は影……真なる我………私の存在意義を失くさせはしない。邪魔するものは全部燃やすっ!!」
穂乃果シャドウは海未たちを見てそう言うと、上空に炎玉を出現させて海未たちに放った。
―カッ!―
「ポリュムニア!!」
穂乃果シャドウの火炎攻撃が放たれる寸前に海未はいち早くペルソナを召喚して迎撃態勢に入っていた。海未は放たれた火炎攻撃をポリュムニアの氷結攻撃で相殺を試みる。ドンッと激突した際、少々火力負けしてしまったもののポリュムニアは何とか穂乃果シャドウの攻撃を相殺した。
「な……何とか………防ぐことが出来ました………」
「海未ちゃん!!」
今ので相当な体力を持っていかれたのか、海未はぐったりしてしまった。
『!!っ、また来るで!』
しかし、待ったを掛けることなく容赦無しに次の攻撃が放たれた。海未はもう一度相殺を試みるが、さっきの攻撃で体力を持っていかれたせいか身体が動かない。
―カッ!―
「止めてっ!【メルポメネー】っ!!」
海未に代わって、真姫がみんなの間に割って入りペルソナ【メルポメネー】で穂乃果シャドウの攻撃を受け止める。同じ火炎属性故か、その炎玉を自らの力に吸収することに成功した。
「何とか吸収できたわ………」
「真姫ちゃん!」
雑魚シャドウとの戦闘の中、P-1Grand Prixで雪子が同じようなことをしていたのを思い出してやってみた試みだが上手く行けた。だが、これしきのことで状況が変わる訳ではない。
『あのシャドウ………今までのシャドウとは強さがケタ違いや。しかも本気でウチらを殺す気や。みんな、気を付けて!!』
希の忠告を聞いて改めて暴走する穂乃果シャドウに戦慄する一同。希に言われなくても海未たちは肌身で感じて分かった。あのシャドウは今まで自分たちが戦ってきたどのシャドウよりも手強い。正直この場に悠が居ても勝てるかどうかなんて分かったものじゃない。だが、それでも立ち向かわなくては。
しかし、ここでそんな海未たちに茶々を入れる下種がいた。
「あははははははっ!やっぱり君たちはリーダーが不在だと力が発揮できないようだね。でも、目の前のことばっかりに気を取られていいのかな?」
「なっ!どういうことよ!」
にこが佐々木の言葉に食いついた途端、コロシアムの画面が突如光が灯った。
『あ、あれ?……ここはどこ?穂乃果ちゃんたちは?』
「こ、ことり!!」
「「「「「なっ!?」」」」」
画面に映っていたのはどこかへ行ったはずのことりだった。どうやって移動したかは知らないが、ここにいない上に先ほどまでことりが持っていた荷物がポツンとこの場に置かれていたことから、ことりが画面のどこかにいるのは確かのようだ。
「いつの間にいなくなってたの!?」
「希!ことりの居場所は分かった?」
『だ、ダメや!ことりちゃんは今エントランスの方におる!ここからじゃ助けに行くのは時間がかかり過ぎる』
「ええっ!!」
希がことりの居場所を探知したは良いが、場所が場所なだけに今すぐ助けに行くのは難しい。
「なら、私だけでも…きゃあああああああっ!」
「は、花陽!」
『よそ見はいけないよ?私がそう簡単に逃がすと思う?』
別動隊としてことり救出に戦場から離脱を試みた花陽だったが、それは穂乃果シャドウに阻まれてしまった。穂乃果シャドウは海未たちを逃がさないようにと会場の周りを炎で包み込む。これではこの場から離脱することはできない。現状ことりを助けに行くにはこのシャドウを倒さなくてはいけないようだ。
「あ、アンタ!一体どういうつもりよ!!」
パチンッ!
「ぷぷぷぷ……それは今に分かるさ」
にこの問いに意味深な笑みを浮かべて答える佐々木。どういうことだろうかと思っていると、その答えは既に画面に映っていた。
<佐々木サーカス エントランス>
「こ、ここは…サーカスの入り口?いつの間に……早く穂乃果ちゃんたちのところに戻らなきゃ!そうしないと……」
何故か自分だけがいつの間にか別の場所に立っていることにことりは焦っていた。皆が必死に戦っているのに自分だけここに居る訳には行かない。
『あなたは何で悩んでるの?』
「え?」
ふと背後から不気味な声が聞こえてきた。その声がまるで自分に似ているかのようだったので恐る恐る振り返ってみる。そこに居たのは
「ま、まさか………ことりの……影?」
金色の目をした禍々しい雰囲気を纏ったことりと瓜二つの存在……ことりの影だった。まるで鏡にいる自分を見ているようでことりは困惑する。何故ここで自分の影が出てきたのだろうか?そう思っていると、ことりの影がニヤリと笑みを浮かべてことりにこう言った。
『みんなに言っちゃえばいいじゃない。お兄ちゃんとことりは叔母さんに留学しないかって誘われたから留学したいって。パリで服飾を学びたいって』
「!!っ。どうして…それを」
『お母さんから留学の話を聞いたとき、やったって思ったよね?ずっと憧れてたパリに行ける。ことりが知らない服飾のことが学べる。もっと上手くお洋服が作れるって』
「そ…それは…………」
自分の影に指摘されたことにことりは言葉を詰まらせる。確かに母親からパリへの留学の話を聞いた時は心の中ではそう思っていなくはなかった。何せずっと憧れてたパリに留学できるのだから。
『でも、迷うことなくイエスって返事出来なかった。何で?これだけパリに行きたいのに何で?……答えは簡単……』
「??」
『
「えっ?」
影の口から出たその言葉にことりはまるで凍り付いたような寒気に襲われた。悠が煩わしい?一体何を言っているのだろう。自分が大好きな悠に対してそう思ったことなどないのに。信じられないと言った表情で見ることりに影は面白そうに見ながら得意げに話を続けた。
『きっとお兄ちゃんはこの話を断るに決まってるって思ってたよね?だって、お兄ちゃんはことりとパリに行くよりも稲羽の陽介さんたちの方が大事だもん』
「そ、そんなこと………」
『否定できないよね?お兄ちゃんから聞いたことある?ことりと陽介さんたち、どっちが大事かって?』
「…………………」
今まで考えたこともなかった疑問にことりの思考はぐちゃぐちゃなっていた。そんなことりを嘲笑うかのように影は次々と言葉の刃を突きつけて行く。
『いつもことりが甲斐甲斐しくお世話してるのに、お兄ちゃんはいつも他の女と仲良くして、ことりの気持ちに気づかないで困らせる。そんなお兄ちゃんはもういらない。お兄ちゃんがいなくなればことりは自由になれる。お兄ちゃんっていう煩わしいものを気にせずにことりはパリに行けるもん。だから、早くお兄ちゃんを探して消しに行こうよ♪』
「ち、違う!違うよ!何で……何でそんなこと」
影の言葉にことりは狼狽する。今まで見てきた通り、影は抑圧された感情や願望が具現化した存在。そうだと分かっているつもりでも、自分が心の底でそんなことを思っているなんて信じられないのだ。
『煩わしいと言えば穂乃果たちもだよね?だって、ことりが留学するって言ったら離れるのが嫌だからって絶対止めてくるもん。海未ちゃんもそう。だから、お兄ちゃんと一緒に消した方がいいよね?』
「やめてっ!!ことりはそんなこと思ってない!!お兄ちゃんを……穂乃果ちゃんと海未ちゃんを……いなくなった方が良いなんて………思ってないよ」
『……………………………』
自分の言うことを肯定せず喚き散らすことりにムスッとする影。一息入れた影は冷たくこう言った。
『じゃあ、何でそんなに口籠ってるの?何で焦ってるの?違うって言っているのに、何でそんな反応をするのかな?』
「!!っ」
『それって、心の底ではそう思ってたって証拠じゃない?もう諦めてすんなり認めてよ。私は』
「違うっ!!違うよっ!!いい加減なこと言わないで!!」
更に傷口をえぐるようなことを言ったことりは耐え切れなくなり頭を抱えてそう喚く。だが、容赦なしに影は攻撃の手を緩めなかった。
『違わないよ。あなたはことり、わたしもことり。私とあなたで"南ことり"」
「やめてっ!!やめてよ!!もうやめて!!」
ことりの中のため込んでいた感情が溢れだしていく。ここには誰も彼女を止める者はいない。そして、ことりは大粒の涙を流しながらあの禁句を大声で叫んでしまった。
「あなたなんか……あなたなんか!!
ことりじゃないっ!!」
『うふふふふ………………………あははははははははははいい……良いわ!この感じ!あはは……これで、ことりは自由になれるっ!!あはははははははははははははっ!!』
ことりシャドウは歓喜の声と共に、禍々しいオーラに包まれていった。そして、その包むオーラの大きさはどんどん大きくなっていき、巨大な怪物に姿が変わったことりシャドウが現れた。6つの足に背を亀の甲羅で覆った竜の形をした怪物。まるで、神話に登場する邪竜タラスクを彷彿させる禍々しさがあった。ことりは影の暴走した姿に恐怖し、その場から動くことが出来ずに腰を落としてしまう。
『我は影……真なる我…………さあ、自由への一歩を踏み出そう。そのために…………邪魔なものを消していこう』
ことりシャドウはへたり込むことりを消そうと口からブレスを吐いて攻撃を加えようとしたその時、
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
ことりシャドウがことりに手を下そうとしたとき、近くの壁から爆発音がした。何事かと振り返ってみるとそこに大きな穴が空いていた。
「ハァ………ハァ……………無事か………ことり……」
「お、お兄ちゃん!?」
そこに現れたのは剛毅のペルソナ【ジークフリード】を従える悠だった。背後を見ると、何枚もの壁をトールでぶち抜いたのか、その跡がよく見られる。だが、ここに至るまで相当な体力と気力を使ったのか、悠は息が上がってふらついていた。
「お兄ちゃん……何で………」
「必ず……助けるぞ………チェンジっ!」
悠はふらつきながらもそう言うと、ペルソナをジークフリードからイザナギにチェンジした。そして瞬時に高速で移動しことりシャドウに斬りかかる。だが、
『フンッ!』
「ぐはっ!!」
ことりシャドウは斬りかかるイザナギを軽くあしらった。イザナギは勢いよく地面に叩きつけられフィードバックにより悠の身体にもそのダメージが返ってきてしまう。
「…ぐっ………ハァ…………ハァ………………ハァ……」
今ので相当なダメージが入ったのか、悠は死にかけているように這いつくばってしまった。
『うふふふふふ………お兄ちゃん、わざわざ殺されに来てくれたんだ~♡嬉しいなぁ♡』
悠の出現にことりシャドウは恍惚な表情になる。もはや標的はことりではなく悠に変えているようだった。悠はそれにも関わらずふらつきながらも立ち上がり、再びことりシャドウに立ち向かおうとする。だが、それを止めようと立ち尽くしていたはずのことりが悠の腕を力強く掴んで引き留めた。
「こ……ことり……?」
「お兄ちゃんっ!やめて!!そんな状態で戦うのは無理だよ!!」
ことりの言う通り、今の悠はフラフラで万全の状態ではなくメガネをかけていないし武器もない。雑魚シャドウならまだしも、そんなコンディションで手強い大型シャドウと戦うのはとても無理だ。そんなことは端から見ても分かることだった。ことりはそう言うと自分の掛けていたメガネを悠に差し出した。
「ことりのメガネを掛けて。これで……ことりを置いて逃げて……私はどうなってもいいから…………………」
目に涙を溜めてことりはそう懇願する。ここはエントランス。出入り口が目と鼻の先にあるので、ことりを見捨てさえすればあのシャドウから逃げ出せるのかもしれない。しかし、
「悪いが………ことりの頼みでもそれは聞けない」
「!?っ、何で」
悠はことりにメガネを掛けさせてその頼みを拒絶した。
「ことりの影が何を言ったかは知らないが………どんなことであれ、家族を見捨てることは俺にはできない!必ず……助けて見せるっ!!」
悠は力強くそう言うと、再び掌に青白いタロットカードを顕現させた。
「【トール】!!」
そしてカードを砕いてペルソナを召喚すると、再びことりシャドウに突撃した。
「悠っ!!あなた……」
「あのバカ!あんな状態でことりのシャドウに勝てるわけないじゃない!」
穂乃果シャドウとの戦いの最中、今の一部始終を見た絵里たちはあり得ないものを見たかのように絶句した。悠は佐々木の凶行でケガをしている上、メガネをしていない。通常のコンディションならまだしもあの状態で大型シャドウと戦うのは無謀に等しい。
『………ダメや!悠くんにいくら戦うのをやめてって言っても聞いてくれへん!悠くんは本気でことりちゃんのシャドウを倒すつもりや』
「そんな……早く悠さんとことりちゃんの元に急がないと!」
画面の向こうで案の定ことりシャドウに痛めつけられている悠を見て焦る一同。このままでは悠がことりと共に殺されてしまう。しかし、
「にゃあああっ!」
「凛っ!一旦下がりなさい!!」
「くっ!このっ!」
『あははははははっ!弱い!弱すぎるよ!海未ちゃんたち!今まで悠さんの何を見てきたの?』
そんな海未たちを暴走した穂乃果シャドウが阻む。絵里と希の加入で戦いやすくなったこの状態でも、予想以上の苦戦を強いられていた。穂乃果シャドウの属性との相性が抜群の海未とにこ、そして火炎を吸収できる真姫を主軸に戦っているのは良いが、攻め手が中々見つからず戦況は防戦一方だ。
『ぐあああああっ!』
『うふふふふふふっ!いいよ、いいよお兄ちゃん!』
画面の向こうでは不調の悠がことりシャドウに弄ばれていた。その有様をことりが絶望した表情で目にして呆然と立ち尽くしている。
「どうだい、この絶望感は?最高だろ?」
いつの間にか会場の上空にある足場にいる佐々木がマイクを持ってそんな風に言ってきた。
「今まではこういう状況になったらいつも鳴上が奇跡を起こして一発逆転というのが定番だった。だが、今回はどうだ?鳴上はいない!そして当の本人は別の場所で虫の息!これぞ、究極のエクストリーム!!」
更には観客を煽るかのように耳障りな司会を行っている佐々木。戦いの最中であるにも関わらず、その不愉快な声は不思議と海未たちの耳にも届き、海未たちの焦る気持ちを更に煽った。
「さあっ!今この場にいる彼女たちが果てるのが先か、はたまた画面の向こうにいる彼が果てるのが先か!最後まで目が離せない!!烏合の衆になった彼女たちはこの絶望の中、どう這いつくばるのか!!楽しんで参りましょうっ!!」
ワアアアアアアアアアアアアアっ
佐々木の司会に観客席にいるシャドウたちが盛り上げるように歓声を上げる。あの歓声の熱さと熱狂ぶりに海未たちは雰囲気に飲まれそうになる。こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際で戦っているのに、あの男はこれを見世物であるかのように演説し楽しんでいる。その下種というべき所業に怒りが限界突破しそうになった。
(………だめ、怒る気持ちを抑えなきゃ)
佐々木に怒る気持ちを抑えて絵里は冷静に戦局をみようと心を落ち着ける。怒りで状況が見れなくなってはそれこそあの男の思うつぼだ。
今の状況は先ほども言った通り防戦一方。様々なペルソナをチェンジできる悠が入れば勝機があるかもしれないが、ないものねだりをしても仕方ない。そして、その悠は今画面の向こうで危険な状態でありながらも戦っている。一見すれば絶望的な状況であるが、まだそんなことはないと絵里は考える。
まだ希望はあるのだ。この穂乃果シャドウを即刻倒して悠を助けに行く最速の方法は…………
「違う……あんなの……私じゃない……」
自分たちが戦っている最中、正気を失ったかのように俯いている穂乃果に目を向ける。刻一刻を迫るタイムリミット。佐々木は自分たちが果てるのが先か、悠が果てるのが先かと言っていたが、自分たちはそんな未来を見ていない。見ているのはただ一つ。
(………やるしかないわ)
絵里は決意を固め、穂乃果の元へと走っていった。
<???>
「…………ふぁあ〜あ」
とある某所。その中にある四畳の一室で男は目が覚めた。もう大分この部屋にも慣れていたはずなのだが、相変わらずこのかび臭い匂いにはげんなりしまう。お陰で気分が悪い。だが、気分が悪いのはもう一つ原因はあった。
「全く……見てらんないよ」
男はそう言うと、再び欠伸をして目を閉じた。
ーto be continuded
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