PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

毎度更新が遅くなってしまいすみません。

P5Sの情報が更新されてワクワクしている日々が続いています。怪盗団が全国をキャンピングカーで周っていくのが良いなあと思ったので、こっちでも番外編でそういう話を作れたらなぁと思いました。
まあ、まずはP5Rの方が先なんですけどね。まだまだ番外編アンケートは実施中ですので、良かったら回答して下さいね。

改めて、お気に入り登録して下さった方・高評価と評価を下さった方・誤字脱字報告をして下さった方・感想を書いてくれた方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

これからも応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#86「Heaven.」

<現実サイド>

 

 一方、菜々子と雪穂、亜里沙のテレビ出演が決まった翌日、かなみたちは雛乃の車でタクラプロ事務所に行き、プロモーション用のスタジオにやってきた。まだ取材班は来てないらしく、スタジオはいつも通りの静けさを保っていた。

 テレビの撮影とあって菜々子たちはとても緊張しているようだったが、井上の説明する本番の段取りをかなみと一緒に一生懸命聞いていた。ただ、同じメンバーのともえやたまみたち、そして悠たちの姿はそこにはなかった。

 

「じゃあ、そういう段取りでね。今日も落水さんはいないけど、頑張って」

 

「井上さん、それってその……そういうことですよね?」

 

 かなみにそう尋ねられた井上はバツが悪そうな顔をする。その反応はかなみの予感を決定づけていた。

 

「まあそうだよね……でもあの人、2日くらい電話でないの珍しくないから。たまみちゃんたちの事は事務所でも話しているから安心して」

 

「だって、もう2日ですよ。いくらなんでも」

 

「分かってるけど、事務所としてはこれ以上プロモーターに迷惑かけられないから。今、僕らが色んな場所で当たってるし、きっと見つかるから。かなみちゃんは今の仕事に集中して。いいね?」

 

「……やですけど、はい」

 

 不貞腐れた声色でそう返事をするかなみ。そんな態度を取るかなみに顔をしかめた井上は言い聞かせるように注意した。

 

「あのね、かなみちゃん。今日はインタビュー入るから。打ち合わせてあるけど、たまみちゃんたちの事聞かれたら“体調不良”で言ってね」

 

「……体調不良じゃないのに……」

 

 井上は中々いう事を聞かないたまみにどうしたものかと軽くため息をついて頭を掻いてしまった。成り行きを見ていた雪穂と亜里沙もどうしたらいいのかわからずオロオロしている。すると、

 

 

「かなみちゃん、しゃんとしなさい」

 

 

「ひ、雛乃……さん?」

 

 スタジオの隅で様子を見ていた雛乃が凛とした声色でかなみにそう注意した。ちなみに雛乃は今日は菜々子のことが心配で仕事を休んでここに来ている。

 

「かなみちゃんが皆のことが心配なのは分かるわ。でもね、そういう時こそ貴女がしっかりしてなきゃいけないのよ。皆を安心させるためにね」

 

 宥めるように優しく語り掛ける雛乃だったが、かなみはまだ気が収まらないのか思わず反論してしまった。

 

「で、でも……危ない目に遭ってるかもしれないのに、安心もあったものじゃありませんよ! 雛乃さんだって鳴上さんのこと」

 

 

「かなみちゃんっ!」

 

 

 間髪入れずに放った雛乃の強気な声色にかなみはピシッと背筋を伸ばしてしまった。そして近くで成り行きを見ていた井上や雪穂たちでさえも何故か背筋をピシッとしてしまった。

 

「私だって悠くんやことりたちのことが心配よ。でも、あの子たちは必ず帰ってくるって信じてる。だから、かなみちゃんも信じなさい」

 

 雛乃のしっかりとした気持ちが伝わってくる。そう感じたかなみはついに観念したように項垂れた。

 

「は……はいっ! 井上さん、すみませんでした……」

 

 

 雛乃の言葉が心に響いたのか、かなみは先ほどの不貞腐れた態度を取ってしまった井上に謝罪した。

 

「す、すみません……雛乃さん」

 

「いいんですよ。私もかなみちゃんのことは放っておけませんから」

 

 自分の代わりに諭してくれた雛乃に井上は申し訳なさそうにお礼を言った。本来自分が言い聞かせなければいけない立場なのにと思ってのことだろう。

 そう言えば、井上に尋ねたいことがあったのを思い出した。昨夜菜々子に指摘された絆フェスで歌う新曲の歌詞について引っかかってることがあるのだ。今聞くのはあれかもしれないが、思い切って尋ねようとしたその時

 

 

「おはようございまーす!」

 

「ああ、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 

 

 だが、運悪く取材班がスタジオに来てしまった。それにより井上は取材の最終確認をするためか訪れた担当の人と打ち合わせに入ってしまった。何とも悪いタイミングだとかなみは心の底から溜息をついた。

 

 

「あれ?」

 

 

 恨めし気に取材班を見つめていると、何か妙に怪しい人物が混じっていることに気づいた。

 背中に“完全燃焼”と大きく書かれたTシャツに水色キャップと顎髭、極めつけは首にぶら下げたデジカメ。新人ADなのか知らないが、妙にきょどっている節が見受けられる。

 

「あんな人、取材の人にいたかな?」

 

 すると、かなみの視線に気づいたのか新人ADっぽい人は目を輝かせてこっちを向くと、デジカメを手にして写真を撮ろうとする。やばいと思った矢先、近くにいた先輩ADらしき人物が新人ADの素行に気づき、すぐさまデジカメを没収して新人ADを厳しく注意した。

 

 

「???」

 

 

 何だか今日の取材が不安になってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<マヨナカステージ>

 

 先を急ぐりせと穂乃果たち特捜隊&μ‘s1・2年組。周りの景色が完全に雪子城のようなモチーフになった頃……自分たちの行く先で迷子のようにオロオロしている人影を見つけた。

 

「だ、誰かいるよっ! あそこ!」

 

「あ、あれは間違いありません! 中原のぞみさん本人です!!」

 

 ようやっと目的の人物を発見した。どうやらあの謎の声もこちらに来てないようだったので、一刻も早くのぞみを連れて行こうと彼女の元に急いで駆け寄った。

 

「り、りせさん? それに、μ‘sの…………本物?」

 

「のぞみ、大丈夫? けがとかしてない?」

 

「あ、うん……大丈夫……けど、ここがどこか全然分かんなくて」

 

 りせに尋ねられてオドオドとした口調でそう答えるのぞみ。どうやらすももやあんじゅ、ツバサと同じく今己が置かれている状況に追いつけず動揺しているようだ。だが、のぞみの姿を確認したクマはそんなこともお構いなしに、いつもの調子で話かけてきた。

 

「ムホホ~かなみんキッチンの白馬の王子様、こっちのノゾチャンに生で会えるとは~~」

 

「白馬の王子だあ? 何言ってんだおめー、どう見たってコイツ女だろ」

 

 まるっきり女の子みたくクマに怯えているのぞみを見て完二がそうクマにツッコミを入れた。だが、そんな完二に賛同する者はいない。まあ一度会っている穂乃果たちはともかく、アイドルなどの芸能に疎い完二がそう思うのはむしろ自然と言える。

 

「チッチッチ~……カンジったら、ちーっとも分かっとらんクマねー。ノゾチャンは男の娘、つまり女の子が男の子っていう禁断の魅力が売りクマよ~」

 

「お、女が……男?」

 

「なっ、何で僕を見るんですか!?」

 

 “男の娘”・“王子”というワードで完二のみならず、穂乃果たちも思わず直斗の方を向いてしまった。直斗も世間では“探偵王子”と呼称されているので、言われてみればこの2人はキャラが被っているのかもしれない。

 

「完二、のぞみは直斗くんと違うよ。直斗くんのはお家の環境とかでこういうキャラだけど、のぞみのあれってほとんど事務所が作ったキャラだし」

 

「えっ?」

 

「のぞみって普段は凄く大人しいのに、自分の事話すだけで緊張しちゃうタイプなの。もしかしたら、かなみや前の花陽ちゃん以上かもね」

 

「えええええええええっ!?」

 

 りせのカミングアウトに花陽は固まってしまった。

 

「そ、そんな……あんじゅさんに続いて、中原のぞみさんも……あ、アイドルって……」

 

「かよちん! しっかりするにゃ~~!!」

 

 またもアイドルの顔とは違う、素の姿のギャップに驚愕する穂乃果たち。主にファンである花陽は真っ白な表情で呆然としていた。もう何度目かの出来事なのだが、花陽は相も変わらずショックなのか同じリアクションを取っている。

 

「これは相当ダメージが入ってわね……」

 

「ううう……かよちゃん……分かるクマよ~。ゲーノー界ってキビシー所ね……クマ、登り詰める自信がありません」

 

「オメーは芸能界入ってねーだろ」

 

「と、とにかく! 中原さんが無事でよかったです。早く安全な場所に移動しましょう。ち、ちなみに僕も、自分の事を話すのは得意じゃありあせんよ……!」

 

「………………」

 

「……すみません、関係ない話でしたね」

 

 誰も聞いていないのに、突然直斗は自分の事を最後に付け加えて、そのまま失速した。直斗にしては珍しい挙動に気まずい雰囲気が流れ始める。のぞも本人はキョトンしているが、どうやらキャラが被っているせいなのか、直斗が何故か対抗心を燃やしているようだ。何故そこに対抗心を燃やすのか分からないが……

 

 

 

「フフフ……見つけた。ダメじゃない、のぞみ。ステージから逃げ出しちゃ」

 

 

 

ー!!ー

 

 忘れたころにやってくるというのか、またもタイミングが悪い時にあの声が辺りに鳴り響いた。

 

「あ……あ、嫌……この声……!」

 

「来ましたね。皆さん、油断しないで下さい! 巽くんとクマくんは中原さんを!」

 

「おうよっ!」

 

「りょーかいクマ!」

 

 謎の声の出現にのぞみは怯えて、直斗たちは一気に緊迫感に包まれる。一斉に警戒態勢を敷き、完二とクマは直斗の指示通りのぞみを守るようにそばに寄った。だが、そんな様子をまたも嘲笑うように謎の声は嘲笑した。

 

「フフフ……そんなことしたってダメよ。私たちの絆は何より強いんだから。ねえ、のぞみ……あなただって絆が欲しいでしょ? あなたを分かってくれる人達の絆が……」

 

「き、絆……で、でも……」

 

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえ! こいつがどう思うかはこいつの自由だろ!」

 

「そうです! 勝手に横やりを入れて、のぞみさんの事を決めようとしないで下さい!」

 

 “自分たちの絆は強い”など見当違いも甚だしい物言いに完二と海未はここぞと反論する。しかし、その時謎の声から信じられない言葉が飛び出した。

 

「……それは違うわ? いいのよ、私が決めれば」

 

「ああ?」

 

「のぞみは考える必要なんてない……ただ、私たちを受け入れるだけでいいの。悩んだり苦しんだりするなんて無駄なんだよ。皆が望む以外ののぞみなんて、最初から必要ないんだから」

 

 その言葉を耳にした途端、改めて頭の中が真っ白になった感覚に襲われた。あの声が言ったことはあまりに滅茶苦茶だ。だが、それが本気で言っていることは確かだ。

 あの声は今、のぞみがどう思っても関係ないと思っている。その言い方があまりに当たり前だと言わんばかりだったので、りせと穂乃果たちの心の中に怒りの感情が沸き上がった。

 

「何言ってんのコイツ……!」

 

「そんなの……酷いよ! それって、結局自分の考えを押しつけてるだけじゃん!!」

 

「穂乃果さんの言う通りですね。相手の為だと言っているように聞こえますが、実際は相手の意思を無視している。全く、呆れたものです……」

 

「そんなやり方で、信頼関係なんて築けるはずないわ。全部アンタの我がままでしょ」

 

 

「どうしても分かってくれないんだね。でも、正しいのは私だよ。だって……こんなに沢山の子たちに求められて、のぞみが喜ばない訳ないんだから!」

 

 

 

ー!!ー

 

 

 

 次に何が起こるかは予感していた。そして、予想通りにいつの間にか前後方の道は塞がれて、代わりに入ってきた黒い靄がシャドウに姿を変えてりせたちを取り囲んだ。

 

 

「出よったなー! って、ちょっとー! 今までより全然数が多いクマ~! 相手も核心突かれて本気出してきたクマカー!?」

 

「それでもおかしいわよ! こんなシャドウたち、一体どこから」

 

 

 そう、先ほどのものとは比べようもないほどここにシャドウたちが密集していた。まるで逃がすものかと言うように道を塞ぐ形で溢れており、見るだけで気分が悪くなる。

 

 

「言ったじゃない。絆を求める子たちはいくらでもいるって。だから、もういい加減に私たちも受け入れて? 自分を通したって、皆を失望させるだけだから」

 

 

 その声を合図に気味悪い歌とシャドウのダンスが始まって例えようのない脱力感がりせと穂乃果たちを襲う。何度も味わってきたが、一方的な意思を無理やり押し付けらる深いなこの感覚は今でも鳥肌が立ってしまう。しかし、

 

 

「せっかくのお誘いですが、何度言われてもこんな歌に踊らされる気にはなりませんね」

 

「そうね。こんな趣味悪い曲で踊らされるなんて、真っ平ごめんだわ」

 

 

 そんな中、直斗と真姫が謎の声の言葉を涼し気な表情でそう返した。その只住まいにあちらも呆気に取られたのか、呆然としている様子が感じられた。そして、2人に便乗する形でクマが声を高らかにしてこう言った。

 

「ナオちゃんとマキちゃんも言う通りクマ! もっと楽しい曲で、自由にダンスしてみんなに気持ちを伝えた方が絶対楽しいクマよ」

 

「クマ、良いこと言う! そうだよ、求められるのと違うかたって、自分を捨てるなんて絶対にダメ……! 最初はすれ違って傷ついたって、分かって貰おうって思って相手に伝えなきゃ、何も始まらないよ!」

 

「うんっ! ここにお兄ちゃんが居たらそう言うはずだよ。よーし、じゃあ直斗くん・真姫ちゃん、一緒に踊ろう!」

 

「ぎょええっ! コトチャン! クマの出番は~~~!? 結局クマは原作通り出番がないままクマか~」

 

「なんだよ、原作って……」

 

 良い感じのことを言ったクマを押しのけて、ことりが直斗たちと共に前に出た。出番を取られてしまったクマは訳の分からないことを言いながらしょんぼりとしてしまっている。そんなコントのようなやり取りに苦笑しつつも、りせは改めて3人の覚悟に応えて音響の準備を整えた。

 

「OK! ここは直斗くんの【Heaven】を流すけど、3人とも準備はいい?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

「ことりも大丈夫だよ」

 

「はい。では真姫さんとことりさん、よろしくお願いします。それでは、行きますよ!」

 

 

 

 

「「「μ‘sic スタート!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ……カッコイイ……」

 

 安らぎような女性ボーカルと曲調から始まった直斗・ことり・真姫の3人によるダンスパフォーマンスにのぞみは感嘆した。

 まるで天国を彷彿とさせるようなしなやかな動きと表現、そして何も恐れることなく自分を生き生きと表現している彼女たちのダンスは自分にはない確固たる意志が感じられたからだ。

 

 

「フフフ……そうよね、あなたはあの子たちのように強くない……自分を出すのが怖いから……」

 

 

 それは唐突だった。頭の中にさっきの不気味な声が響いてきた。いきなりだったので、のぞみは思わずビクッと身体を震わせる。

 

「な、何……?」

 

「あなた、あの子たちと正面から向き合うことなんてできる?」

 

 その言葉を聞いてのぞみは胸がチクッと刺さるのを感じた。改めてステージの3人や声を上げて声援を送るりせたちを見てみる。そして、胸に沸き上がった感情が溢れだして……

 

 

「む、無理!」

 

 

 心でそう叫んでしまった。その台詞にニヤリと笑った謎の声はのぞみにリボンを向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ペルソナっ!!」」」

 

 

 静かに幕を閉じたパフォーマンスの後、すかさず3人はペルソナを召喚。直斗のヤマトスメラミコトのヴァイオリン、真姫のメルポメネーのピアノ、ことりのユーフォニアムによるセッションが優雅に始まった。

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 

 

 直斗・真姫・ことりの3人によるパフォーマンスにシャドウたちは歓声を上げたまま、綺麗な天の川の一部になって消えていった。

 

 

「うん、上手く伝わったね」

 

「ええ。何とかなって良かったわ」

 

「傷つくことを恐れていては自分を分かって貰うことは出来ない……フフ、耳が痛いですよ。昔の僕に聞かせてやりたいくらいだ」

 

 

 消えゆくシャドウたちを見ながらことり達は息を整えながらコメントした。

 この3人のパフォーマンスにもりせは感嘆していた。3人とも夏休みの時に比べてかなり上達しているのが感じられたからだ。特に直斗の成長ぶりには目を張るものがあり、この合宿の中で一番成長したなと実感した。

 

 

「フフフ……あ~あ、何でみんなこの子たちに毒されちゃうんだろう?」

 

 

 またも感動を台無しにするようにあの謎の声天から降り注いだ。何度聞いても癪に障るイヤミったらしい声色にせっかくの雰囲気がぶち壊しになってしまった。

 

「いい加減にしなさいよ! さっきから言いたい放題言ってくれちゃって! 大体アンタ、いつも声だけで何よ! 私たちに文句があるなら姿を見せなさい!」

 

「フフフ……何故? 私たちはあなたたちと向き合うつもりなんてないもの……」

 

「何っ!?」

 

「良いじゃない、お互い傷つかない距離でいるなら、こうして仲良くいられるんでしょう? 良き隣人関係ってやつかな?」

 

「はあっ!?」

 

 またもとんでもない発言をした謎の声。この声はわざと自分たちの癇に障る言葉のチョイスをしているのでないかと思えてくる。

 

「勝手に仲良くしにせんで欲しいクマ! クマはアンタの友達になった覚えはないクマよ!」

 

「アンタみたいなのと、友達になれる訳ないでしょ。顔を見せないんだから、仲良くも幸せもないわよ」

 

 

「そう……? 私はあなたたちにも幸せになって欲しいけど。誰も傷つかず、皆で幸せになる……ここはそのための世界だもの」

 

 

「だから、それが違うって言ってんだろうが! いい加減気づきやがれ!!」

 

「そうだよ! それが分からないなら何度だって伝えて見せる!」

 

 

 

「フフフ……本当に呆れた子たちね。自分のことばっかりでお友達のことに気づかないのかしら?」

 

 

 ふと見てみると、何かおかしいことに気づいた。まさかと思って辺りを振り返ってみるとなんとそこには居たはずののぞみの姿はなかった。

 

「のぞみさんがいない! まさか」

 

「フフフ……分からないなら分からせるしかないでしょ? だって、私はあなたたちにも幸せになってほしいから……」

 

 もはや言ってることが熾烈滅裂だった。だが、さっきも同じパターンでターゲットを連れ去られたのに、またも同じ手口でやられたことに腹が立つ。

 

 

「は、早く行こう! 手遅れになる前に」

 

 

 予期せぬ事態に慌てたくなるところだが、そこをグッと堪えて攫われてしまったのぞみを助けるべくりせたちは急いでステージの奥へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ロマンキャッスル メインステージ>

 

「何ここ……ステージ?」

 

 攫われたのぞみと完二の後を追ってりせと穂乃果たちが辿り着いたのはまたも奇妙なステージだった。海未の言う通り、まるでオペラやミュージカルをやるためのコンサートホールのようなステージだった。

 

「まるでミュージカルのステージみたいですね」

 

「見てっ! あそこ!!」

 

 穂乃果が指差したところを見ると、そこにはスポットライトを当てられたのぞみが立ち尽くしていた。

 

 

「い……やだ! だって、私っ!」

 

「フフフ……のぞみも“いやだ”なんて言えたんだね。でも、あなたにはそうするしかないの……それとも、あなたは“本当の自分”でなんて、皆の前で立てるのかしら……ねえ?」

 

「う……違う! だから、私……少しずつでも、話たり……!」

 

「そう……? でもそれは痛い、苦しい。上手く行かなくて、いつも泣いているのは誰……?」

 

「あ、あなた……誰? 何で私の事を……」

 

「のぞみは昔からそうだよね……? 人の視線が怖い、人の言葉が怖い、人と関わるのが怖い……どうして自分から傷付く必要があるの? “演じて”いれば、皆簡単に愛して貰えるのに」

 

「……!」

 

「“本当の自分”なんて必要ないよ……だってそんなの誰も求めてないんだから」

 

 

 容赦ない言葉の刃に打ちしがれてしまうのぞみ。ダメだ、あれは完全に心を折られる寸前まで行っている。

 

「のぞみさん!」

 

「のぞみ!!」

 

 駆け寄ろうとしらりせたちにのぞみは怯えた視線を向ける。言葉を慎重に選ばないと本当にのぞみの心が折れてしまうかもしれない。だが、そんな余裕をあの声がくれるわけがなく…

 

 

「フフフ……ねえ、のぞみ。“本当のあなた”でいるなんて苦しいだけ……そんな事しなくても、あなたは立派にやれるわ」

 

「えっ?」

 

「だってあなたには“みんなが望むあなた”でなら、人に接する事だって簡単にできるんだから」

 

「ほら……聞かせてあげるよ、皆の声を」

 

 刹那、何度目か分からない空間が歪んだ感覚に襲われた。そして、

 

 

 

 

『のぞみんはツウ好みって感じっしょ。女子なのに男らしく頼れるのがいいわけよ』

 

 

 

「ま、またこの声……」

 

「これは……やはりのぞみさんのファンの声なのか!」

 

「えっ!? ということは、今までのも……」

 

 

 気付いていないわけではなかったが、これまであの謎の声が被害者に聞かせているこの傍観者の声の正体は現実のファンの声なのだ。どういう仕掛けなのかは分からないが、あの傍観者の声は響き続ける。

 

 

 

 

『のぞみんは空気読まないで王子様しちゃうあの感じがいいよ。人の事を気にしない感じがさ……』

 

 

『空気読まないって度胸いるからねー。失笑されても続けちゃう、あの強さはいいよね~』

 

 

 

 

「つ、強く……ない。私……そんなの……無理っ!」

 

 

 傍観者の声にそう声を荒げてしまうのぞみ。そして、ここぞとばかりに謎の声はトドメを刺すかのように畳みかけた。

 

 

「分かるでしょ、のぞみ。皆が求めているのは自由奔放な男の子のあなた。“本当の自分”にしがみついている限り、あなたは痛くて苦しく、怖い思いをするんだよ……」

 

「!!っ……」

 

「ちょっ! なんかまずい……」

 

 これ以上はまずい。何とかしようとかと何か言葉を掛けようとしたが、既に時は遅かった。

 

 

 

「い、痛いのも……苦しいのも……怖いのも……ヤダっ!!」

 

 

 

 ついに我慢できないと言わんばかりに声を荒げたのぞみ。ステージの上で四方八方から出てきたリボンに巻き付かれてのぞみは悲し気な顔をこちらに向けている。何とかしようにもリボンが邪魔で近寄ることができなかった。

 

「くそっ! 何でいつもこうなっちまうんだよ!」

 

「ゆ、油断しないで!」

 

 そして、黄色いリボンから禍々しい黒い靄が投げれ始めて繋がれたのぞみを包み込む。そして靄が晴れたと同時にシャドウ化して変わり果てたのぞみシャドウが出現した。

 

 

 

 

 

「アハハハハッ! そうだよ……こうじゃなきゃ! 望まれない自分なんて、何の価値もないのさ! みんなに認められて、求められた方が気持ちいいに決まってるじゃないか! ああ……最高の気分だ。さあ、君たちもこの絆に繋がろうじゃないか!」

 

 

 

 

 

 黒い霧が晴れて現れたのぞみのシャドウにりせたちはあんぐりとしてしまった。これまで対峙してきた大型シャドウのように怪物ではない、王子様のように口にバラを咥えて微笑んでいるのぞみを描いた巨大な鏡が禍々しいオーラを出して鎮座していた。

 

「こ、これもシャドウなの!?」

 

「うん! 間違いなくこれはシャドウの反応。て、ことは……このステージそのものがのぞみのシャドウってこと!?」

 

 瞬間、ステージ周りの客席にシャドウが出現し、あの不気味な音楽が最大限に流れ始めた。今まで似ない威力に思わず膝をついてしまう。それと同時に四方八方からあの黄色いリボンが出現し、りせたちに向かってきた。

 

「囲まれた!?」

 

「くっ……シャドウたちのダンスのせいで動けない……」

 

 

「フフフ……鳴上悠たちには逃げられたけど、あなたたちは絶対逃がさない。でないと、鳴上悠たちも分かって貰えないもの。私の方が絶対に正しいということがね」

 

 

 その言葉を皮切りにリボンが1人1人の身体に巻き付き意識を刈り取っていく。完二・凛・クマと順番に倒れて行き、残ったのはりせと穂乃果だけになってしまった。

 

(もう……ダメ…………やっぱり、私は……)

 

 仲間が1人1人倒れて行くのを見ながらりせは心から絶望するのを感じた。成り行きで特捜隊&μ‘s1・2年組のリーダーという立ち位置になったものの、自分はあの悠のようになれない。だって自分にはあの男のようなものは何一つないのだから。

 

 そして、ついにりせたちにもリボンが襲い、意識が遠くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が薄れる寸前、頭の中に聞き覚えのある……否、何度の聞いてた人物の声が響いてきた。その時、青白い光が閃光の如く走り、りせの意識が覚醒する。助かったと息を整えていると、自分に巻き付いたリボンは全て取り払われていたことに気づいた。

 

「えっ? マリーちゃん……?」

 

 そして、そのリボンを取り除いたのはなんとマリーだった。穂乃果からこの世界を訪れていたのは聞いていたが、まさか本当に来ているとは。それにマリーはりせだけじゃなく、先に囚われていた完二たちもリボンから解放させていて、完二たちが息を荒げているのが確認できた。

 

「ハァ…ハァ……な、何とか……助かり…って、マリーさん!?」

 

「マリーちゃん! 来てくれたんだ!」

 

「おおっ!? マリーちゃん登場クマ~!」

 

 マリー登場に復活した仲間も驚愕していた。だが、それに全く違う反応を示す者がいた。

 

「お、お前は……」

 

「…………………」

 

 謎の声はマリーの登場に相当驚いている、いや慄いている様子だった。マリーはそんな謎の声など眼中にないのか、その声を無視してりせに話しかけた。

 

 

「…立って。君は伝えなきゃいけないんでしょ。"あいどる"、なんだから」

 

「マリーちゃん……」

 

 

 そして、耳を澄ますと別の音楽が流れていることに気づいた。今不気味な歌を押しのけて聞こえてくるのは自分の課題曲【Now I Know】だった。これはそのロングバージョンで確か夏休みに一度披露して、タメが長いだのと完二や陽介に言われて、ちょっとした口げんかになったことを思い出す。

 

 

『ふふ、さっきのお礼やで、りせちゃん』

 

 

 次に聞こえてくるのは自分と同じナビペルソナ使いであり恋の宿敵でもある希の声。いつもは何かと怯えてしまう声だったが、この時はその声がとても頼もしくてりせに安心感を与えてくれた。

 

「希……センパイ……」

 

『ウチもマリーちゃんと同じやで。今あの人は自分を見失っとる。だから先輩として、教えてあげり。りせちゃんしかできない想いのこもったステージでな』

 

 そうだ、自分もそうだった。私も一年前、アイドルをやっていくのが怖くて痛くて苦しくて、いっぱい悩んで一度ステージから逃げ出した。でも、祖母のいる稲羽で悠たち特捜隊に出会って、色んな人に支えてもらって……だからこそ気づけた。今度は自分が伝える番だ。

 

 

(こんなところで、止まってられない!!)

 

 

 恋のライバルでもあるマリーと希に背中を押されてりせは気合を入れるように勢いよく立ち上がる。そして、謎の声に向かって高らかに宣言した。

 

 

「もうアンタなんかに絶対に負けない!! 私がやりたかったステージを見せてあげるっ!」

 

 

 真打ち登場と言わんばかりに気迫のある声色でそう言うと、りせは毅然とした表情でスタンバイする。すると、

 

「りせちゃん、私も踊るよ」

 

「穂乃果ちゃん……!」

 

 久々のダンスだと気負い過ぎないように深呼吸していると、いつの間にか自分の隣にいた穂乃果がそう宣言してきた。穂乃果にもあのシャドウには言いたいことはあるのだ。スクールアイドルとして、そして一度挫折して諦めそうになった者の一人して。

 

 穂乃果の参戦にりせは密かにフッと笑った。この自分の曲で穂乃果と合わせたことは一度もないが、何となく今まで以上に良いパフォーマンスが出来ると確信した。

 

「やろう、穂乃果ちゃん!」

 

「うん!」

 

 互いの意思を再確認した2人はポーズを取ってスタンバイする。そしてシャドウ化してしまったのぞみに、いやあの通信越しにいる想い人にこの気持ちを伝えるために。

 りせと穂乃果がダンスしようとしている姿を見て、復活した仲間たちは思い思いに声援を送る。

 

 

「ふふふ、真打ち登場ですね」

 

「行ったれ! りせちゃーん! ホノちゃーん!」

 

「ここは任せたぜ、お前ら!」

 

「頑張るにゃー!」

 

「頼んだわ!」

 

 

 仲間の声援がりせと穂乃果に力を与えてくれる。皆の声を聞いて自分がここにいるという実感が沸いた2人はそれに応えるためにも。

 

「行くよ…! 復活のりせりーの最高のステージ、穂乃果ちゃんと一緒に見せてあげるんだから!」

 

 

「私も、りせちゃんと一緒に伝えて見せる! 歌って踊ることがどれだけ楽しいってことかを。じゃありせちゃん、一緒に」

 

 

 

 

 

「「μ‘sic スタート!!」」

 

 

 

 

 

 

To be continuded Next Scene

P5R発売記念!番外編の内容は?

  • 偶然助けた芳澤かすみとお礼デート!
  • 鳴上悠、丸喜先生と出会う。
  • 前回のドキドキデート大作戦の別ルート
  • ロイヤル…ということで、王様ゲーム再び!
  • その他

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