「で、あんたはなにもんや? 何かさっきあんま聞きたくあらへん言葉が聞こえた気ぃもするけどなあ」
千草はついさっきセクハラまがいの事をかまして現在正座中の男に向かってドスを聞かせながら問いただした。
「はっはっは、さっきも言いましたけど自分のことは名前さえも思い出せない状態なんだ」
不安など感じさせないイイ笑顔を千草に向けながら話すが千種は冷徹にその男を見下ろす。笑みなど一切浮かべていない。
「ホンマに何も覚えとらんのか?」
「何も……大切なことがあったかも、今は千草のことだね……あと『テラ』って言葉くらいかな」
ばつが悪そうにその男は笑う。
「ほか、ならとりあえず名無しじゃ後々問題になるかもしれへんしテラって呼ばせてもらうで」
いくつかスルーしながら千草は冷静に状況を整理していく。
たいした情報は無かったが十分すぎると千草は考えていた。発見時、彼は死体と言って遜色ないような致命傷を負っていたのだ。それほどの傷を受ければショックから記憶を飛ばしても仕方がないと言える。むしろ体に障害を残さなかったことすら奇跡に等しいと千草は判断した。
「で、テラ。あんさんは致命傷を負ってうちの庭先に転がっとったんよ。それをうちが見つけて治療した。身分証等はなーんもなし。そんな不審人物ってのが今のあんさんの立場や。理解したか?」
千草は必要な説明をして視線でテラの言葉を促した。
「そうですか。ですがどうしても思い出すことは出来ません。断片的に『無念』と言った思いは感じますが薄くてこれと言ったことは……ところで千草さんに特定のお相手は」
「さよか。ほな後は警察の仕事や。テラにはうち等のこと、忘れてもらうで」
これ以上付き合っても実りは無いむしろ精神的に疲れるだけと千草は判断しテラの裏に関する記憶を消すことにした。
「忘れる?」
「せや。安心しい、後遺症はまずあらへんし痛いこともあらへん。すぐに終わるさかい大人しくしいや」
そう言いながら懐から一枚の符を取り出しテラに向けて、
「ボクは忘れる気はさらさら無い」
しかしその符をテラは千草の手から奪った。その行為に千草は驚く。何の反応も出来なかったのだ。
「……どういうつもりや?」
「ボクは千草のことを忘れる気はないだけさ」
そう言うとテラはその符を握りつぶした。その行為に千草は固まり、
「って! 何しくさっとんねん! 符やってタダやないんやで!」
「すみまべ!」
謝罪を聞くよりも早く千草はテラをドツイた。
それでもテラは千草に向かい話を続ける。
「ボクは何でもするからココに置いてほしんだけど」
「だからあかん。テラは一般人やろ? 裏を何も知らん奴が軽々しく踏み込んでも死ぬるだけ。せやから記憶消してさいならや。置いとくことはできひん!」
千草はハッキリとテラに出来ないと言う、と同時に殺気を飛ばした。しかしテラは涼しい笑顔で受け止めた。
「それでもボクは千草のそばにいたいね」
テラは揺るがずにそう宣言した。
「……なんでそないにうちに執着すんねん?」
「……? 一目惚れ?」
曖昧な返事であったがいくら話しても引きそうにないテラに千草はため息をつく。
「あーもうええわ。ほならうちの護衛扱いにしたる。それで満足やろ」
そして千草は折れることにした。
「ただし、うちが出す式神に勝てたらの話や」
そして正面から叩き潰して放り出すことにしたのだ。千草の出す式神はそれなりに強力で一般人では万に一つも勝ち目はない。
「それでいいですよ。いつやります?」
「今すぐや。護衛は時と場所を選ばず、今のまんまを試させてもらうで」
もちろんでまかせ。一切の準備をさせずに勝ち目をより失くさせるためである。
「ほなさっさと済ますで。庭に出や」
そのまま一瞥もせずに千草は庭に出てテラもそれに従う。
庭はまばらに雑草が生えているだけの荒地みたいなものであった。千草は小規模な術の実験はこの庭で行うことが多くあったため、いちいち綺麗に整備したりせず放置していたのだ。
「猿鬼、熊鬼」
この言葉と共に符を話して二体の式を呼び出した。
「ほな行く……何しとんのや?」
振り向いてテラの方を見ると素足で地面にうつ伏せになっていたのだ。この奇行に千草も一瞬フリーズした。
「ああ千草、歩いていたら地面から声が聞こえた気がしたんだ。とても不思議な感覚で、つい耳を傾けたくなるような声が……」
地面に耳をつけたままテラは千草に感じたままを語った。しかし千草は死にかけたせいでおつむが逝ってしまったのだと判断し哀れみの視線を送った。
「ほな行くで。テラがうちのこの式神を倒せたら護衛として置いとく。だめやったらそのまま記憶消してさいならってことでええな? 最後に言いたいことはあるか?」
「ずっとそばにいたいです」
「……ほなさいなら。猿鬼! 熊鬼!」
千草は呆れながらも式に指示を出す。
「ウキー!」
「グモー!」
デフォルメされた見た目ながらも力強い踏み込みで二体ともがテラに向かって疾走していく。
テラは寝転んだまま地面に思い切り腕を突き刺す。腕は手首、肘、肩と地面に沈んでいった。
「っな! 嘘やろ!」
そしてテラは直径二mはある岩を引き抜いて立ち上がった。有りえない常識外のことである。
「グモーーォッ!?」
テラが岩を引き抜いた直後、熊鬼が地面を踏み抜き足を取られて転倒した。これに千草は眉間にしわを寄せる。この庭は何度も術の実験に使った場所、熊鬼が地面を踏み抜くなどありえないはずなのだ。
「テラ、何者や」
千草の呟きをよそに猿鬼はテラに肉薄する。だがそれも一瞬、テラの持つ岩に叩き潰されて消えていった。事も無げにテラはそれを行うが肉体には大して異常は無い。
次にテラは岩を持ったまま熊鬼の方を向いた。そして、岩を持つ腕をその岩を持つにふさわしい異形な腕へと変化させる。
「あの腕……」
千草はその腕にある人物との共通点を見つけていた。千草が思考する中、テラは二mもの岩を足をとられたままの熊鬼に投げつけ、その威力質量に耐えられるはずも無く熊鬼は吹き飛び消えていった。飛んでった岩は千草の近くに着弾、思考していた千草はそれに気づけず着弾したのを見て肝を冷やしていた。
「これで認めてくれるかな」
千草に聞こえる清涼で喋りながら笑顔でテラは駆け寄っていくが、
「何者じゃおんどりゃーー!」
迎えたのは理不尽な拳であった。
「なんやねんあんさんは! 突然地べたに寝そべるわ、何の変哲も無い地面から一息で岩を掘り当てるわ、猿鬼を叩き潰すわ、岩を放り投げるわ、あの熊鬼の足とったんもあんさんが何かやったんやろ! 極めつけはその腕や! 一体何者や! テラ!」
ゼーハーと息を上げながら千草はテラをにらみつける。
「その腕なぁ、怪盗Xの物とそっくりなんや。近くで見たさかい見間違いやあらへん」
千草は息を整えながらテラに敵意を向ける。
「あんさんが何者か余計にわからんようなった。つまりココに置いとくわけにはいかへんねん」
千草は再びにらみつけるがテラはそれを真剣な眼差しで返す。
「ボクは千草に敵対はしない。決めたんだ」
「ほな記憶戻ってうちと敵対せなあかんかったらどうするつもりや」
「全て捨てて千草の味方になる」
「意味分からんわ。記憶戻ってうちがあんさんの敵だったとしたらの話やで」
「ボクは敵になるつもりは無いよ」
言い合いが止まりしばし沈黙が続く。
「何も思い出せない、まるで穴だらけとしか言えないのがもどかしい。歪で醜い記憶なんかじゃ信じてくれないのは分かるよ」
沈黙を破るのはテラの独白だった。
「確かに今のボクを信頼するなんて出来ないよね。でも千草への想いは本物だ」
悲壮な表情で大仰な身振りでの独白に千草は鬼気迫るものを感じて若干気が引けた。
「千草になんで惚れたのかは正直分からない。穴だらけの記憶を埋めたいだけなのかもしれない。だから」
「あーもーええ。一応信じといたるわ。せやからもうやめい」
千草は気まずそうに頬をかきながらテラの独白を止めた。
「あんさんの気持ちも考えんと好き勝手言っとったわ」
そういって千草はテラに頭を下げる。
「あんさんの言ってたことやけど全部飲んだる。実力は問題あらへんしうちの護衛として置いといたるわ」
そういうやいなやテラは千草に近づいて手をとる。
「ではお近づきの記念にいっしょに食事べば!」
テラは千草が突然展開した術によりその場に拘束された。
「せや、言っとくけど護衛対象に手え出すんわご法度や。テラにはそんな気があるみたいやししばらく此処で頭冷やしとき」
千草は晴れやかな笑顔をテラに向けてその場を後にした。
テラはそのまま翌日の朝まで庭先に晒されることになった。
こんなテラはテラじゃねえ! 寺だ!(意味不明)
三枚目なギャグ担当の活躍を乞うご期待!
納得しきれないが時間かけても意味無いので!
ご都合主義は好きじゃないんだけどそうしなきゃ進まない