麻帆良祭。毎年六月に行われるこの行事は規模や内容がすさまじく、毎年多くの観光客を呼び込んでいる。当然来場者に比例してトラブルも増加するため麻帆良中の教師を始めとした関係者がその対応対策に四苦八苦するのだ。だがそれも祭を楽しみにしている来場者、ならびにそれを演出する生徒たちのためを思えば苦ではないと皆が皆考えているのだ。
しかし今年は特別、一味違う事が起きようとしていた。その特別な対応のために、ある特別な人材のみが集められた会議が秘密の一室にて開かれんとしている。
ほとんど人の寄り付かない建物の片隅、人払いの結界が張られ一般人の侵入を出来なくした場所にてそれは行われる。長い長い長机、老若男女様々、簡単に言えば魔法教師と言われる人物がその長机の左右に勢ぞろいし大人しく正面際置くの空席の人物が現れる時を待っていた。
「ふぉふぉふぉ、皆揃っておるようじゃのう」
そしてその魔法教師を統べるこの麻帆良の最高権力者、近衛近右衛門が現れることでようやく会議が開始されるのだ。
「はい。現在抜け出せない仕事を抱えている人以外の全員が揃っております」
近右衛門の言葉に答えたのは源しずなであった。
「ふむ、ならばよし。これより麻帆良祭緊急会議を始めるとしよう。ここに来れなかった者にも確実に伝えるようにの」
近右衛門は全体を見渡し皆の意識を向けさせる。
「議題なのじゃが。噂を聞いたものもおるじゃろう、端的に言うとかの悪名高き『怪盗X』が、ついに次の麻帆良祭に非常に高い確率で、否まず確実に現れると予想されるからじゃ」
この言葉に会議場が大きくざわついた。
それも仕方の無いことであった。『怪盗X』。つい数ヶ月前に突如として表れ、世界を股にかけて活動する犯罪者。基本的な犯罪は美術品専門の窃盗であるがその過程に行う行為が前代未聞であった。
目撃者は粉々にされて箱に詰められる。
これが『怪盗X』の名を聞いて皆がざわついた理由でもある。真実は違うのだが結果として目撃者は無く、またまれに発見される犠牲者は粉々の箱詰め。目撃=殺害の図式にいたっても仕方が無いのだ。
「皆の物落ち着くがよい」
しかし皆気が気ではない。話に聞く『怪盗X』はその姿すら捉えたものはいないと言われている。ゆえにその姿を誰も知らないのだ。
「では、いくつかお聞きしたいのですが」
そう言って挙手をしたのはガンドルフィーニであった。
「ふむ、何かね?」
「一体何を持って『怪盗X』が現れると予想したのですか?」
これはこの場にいる皆が思う疑問点である。
「それはのう。一部の者以外には緘口令を布いていたのじゃが、予告状のような……そう読み取れるものが届いたのじゃよ」
そう言うと近右衛門の右手にいつの間にか手紙が現れていた。
そしてそれをしずなに手渡すと彼女は慣れた手つきでそれを近右衛門の後ろにスライドで映し出した。
『お祭りの時にお土産持って行くから驚いてね X』
「「「「「……」」」」」
会議室を沈黙が支配した。
「……これは、どういう意味でしょうか?」
真っ先に我に返って質問をしたのはまたもガンドルフィーニであった。
「わし等も完全には読み取れておらぬ。あらゆる方面から分析を行ったがのう。これは『怪盗X』の直筆であること意外は何も分からんかったのじゃよ……じゃが素直に最悪を想定するなら彼奴が言うお土産とは、『赤い箱』の可能性が高い」
この言葉にざわめきが大きくなった。
『赤い箱』これは魔法関係者の間で使われる怪盗Xが作り上げた粉々の人体を詰めた箱のことである。たまに怪盗Xの犯行現場に残される物で、怪盗Xを短期間に高額賞金首に押し上げ、危険性を知らしめることを成している。確かに凶悪な怪盗Xが持ってくるお土産としては十分だろう。
「故に必ずや犠牲者を出すことなく、そして秘密裏に事を収めねばならぬ」
この近右衛門の言葉とともに皆が気を引き締めなおした。
「ではこのことを踏まえて此度の麻帆良祭での警備について意見を出してもらいたい」
この言葉と共に意識が一つとなり動き出した。
「では失礼します。現在麻帆良で動かせる魔法教師及び魔法生徒の人数を見れば重要施設の警備、学園の巡回、有事の際の一般人の避難誘導及び待機戦力、大まかな計算ではありますが最小限の被害で自体を収めることは十分に可能であるといえます」
まず口火を切ったのは明石教授であった。
「ふむ、なるほどのう明石君。それは良い情報じゃ……じゃが此度の件、生徒を関わらせるわけにはいかん!」
しかしその意見に異を唱える。
「怪盗Xは一般人への手出しは最小限イタズラで済ませることも出来るものじゃが……明らかに手を出してきた者は躊躇なく手を下すことを厭ってはおらぬ。ココは学園じゃ。生徒の自主性は重んじるつもりじゃがこのような危険な件にこちらから関わらせることをしてはならぬ!」
この言葉に皆がハッとした。今回の件は高確率で人の生き死にが関わることを思い出すことが出来たのだ。
「あの、全く関わらせないということでしょうか?」
挙手をして瀬流彦が質問をしてきた。
「そのとおりじゃ。それとも瀬流彦君は……イマイチ想像できぬかも知れぬが自らの子供差し出せるのかの?」
この言葉にいくつかの苦笑と鎮痛な表情が広がった。
「い、いえ。ですがそれでは明らかな人手不足に陥ることは僕でも分かります。せめて後方支援にあたる人員くらいは支援を求めるのはどうでしょう? それならば危険もないでしょうし」
この意見には皆も頷いた。現在麻帆良では多くの魔法生徒の善意によって様々なことに手を貸してもらっているのだ。
「ならぬ。此度の件に関わることはすなわち怪盗Xに直接相対することと変わらぬ。それが後方支援だとしてもじゃ。それにわしも何人か正義感が強いものを知っておる。そのような生徒を関わらせぬためにも、生徒全員を関わらせぬことにせねばならんのじゃよ」
そしてこう言われては何も言えない。どう聞いても近右衛門が生徒を危険にあわせないための警備の強制不参加は覆らないだろう。
「で、ですがそれですと人員が明らかに不足していくつもの穴が生まれてしまいます」
「足りない分はよそから補えばいい」
瀬流彦の言葉に反応したのはガンドルフィーニであった。
「学園長。よそからの追加人員を都合してはもらえないでしょうか?」
この問いに近右衛門は「ふむ」と顎に手を当て思案し、
「まだ多少は時間的余裕がある。至急本国に打診してみることにするかのう。急かしても二日ほどはかかるのは承知しておいてほしいの」
この言葉に納得したガンドルフィーニは頷いた。
「あ、突然なんですけど。『怪盗X』に関する噂ですが新聞部を中心とした一部ではありますが広がりつつあります」
次に話し出したのは弐集院であった。
「それは、やっかいだね」
「はい、あの子らは好奇心旺盛で大人顔負けのことしでかします。もしかしたら怪盗Xが未だに謎が多いのも情報を掴んだ者を秘密裏に始末しているのがあるかもと考えると一般人生徒にも今回犠牲者が……」
この言葉と共に、場が重い空気に包まれた。
「仕方がないのう。それに関してはわしの方で手を打たせてもらう。皆がそれに関して手を煩わせることはない」
この言葉に皆が学園長の背に黒い影を感じたがきっと気のせいである。
「突然のことであったがこのような難局も皆が最善を尽くせば必ずや乗り越えられるとわし信じておる。必ずや皆が欠けることなく怪盗Xにその罪償わせようぞ!」
この言葉によって今回の緊急会議は終了となった。
そしてまた近いうちに同様の対策会議が開かれることになったため、その際に様々な対応策を各自で用意するよう通達されるのであった。
だがしかし、集められた教師一堂、誰一人として怪盗Xの真意、そして……陰謀に気づくものはいなかった。
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これは麻帆良に手紙が届けられるほんの一週間前のこと。怪盗Xは隠れ家にて今後の方針を決めようとしていた。決め手となるものは魔法関係者専用のネット端末。何人か『箱』にしたときにその存在を知ったのだ。
「うーんどれも面白そうじゃないなあ」
パソコンの前に寝転びだらだらと画面をスクロールして見ていた。そこに表示されているものは美術品と言うよりはマジックアイテムと言うべきものでありそれも大量生産された消耗品ないし量産品。Xの琴線にはなかなか触れることの無いものばかりであった。
それは本物の一級品はこの旧世界では直接的な交渉でしかほとんど取引がなされていないのも原因である。
「何かないかな~……あ」
そして次にXが調べたのは大規模なイベント、そこで騒ぎでも起こして時間でも潰そうかとの考えであった。そして目に止まったのが、
「日本最大規模の魔法使いの領域での祭り麻帆良祭かぁ」
そう、麻帆良祭である。
「でもここに面白いものは……へぇ、図書館島か」
麻帆良学園の紹介ページにあったものに世界樹と並び最大規模の図書館として図書館島が紹介されていてそれはXの興味を大きく引いた。ちなみにそこには学園祭中は入れないが魔法世界の稀少書などがあるため平時に許可を取って利用してもどうかなどと書かれていた。
「そうだな、次はこの麻帆良祭で……麻帆良?」
そこでXは麻帆良の単語に何か引っかかるものがあり首をひねった。
「そういえば麻帆良で俺は目を覚まして……木乃香とであったんだよなぁ」
そしてXは友達となった木乃香のことを思い出した。
「うん……ようし。今回は普通に木乃香に会いに行こ」
Xは決めた。普通に友達のところに遊びに行こうと。
「でもあの時は木乃香に見破られちゃったし、今度こそバレないように上手く替わってやろう」
そして木乃香に変身を見破られた雪辱を果たそうとも考えていた。今までになかった経験を色々させてくれた木乃香をXは特別な人間として見ているが故の執着である。
「あとは木乃香に行くって手紙でも送ろうかな」
住所も碌に分かっていないにもかかわらずXは能天気に嬉々として手紙を書いた。それは封筒に麻帆良学園、近衛木乃香の二つしか書かれていないものであったのだ。
結局こんな理由で麻帆良に混乱を撒き散らしていたとは麻帆良の教師陣は知る由もなかった。
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「で、じじぃは私を呼び出して一体何を考えているんだ?」
場祖は学園長の部屋。そこでは三者が顔を合わせていた。だがその表情はそれぞれである。この部屋の主、近右衛門は目を細めて笑顔で座っており、その客であるエヴァンジェリンは不愉快な表情でソファの上で胡坐をかき、その従者である茶々丸は無表情でエヴァンジェリンの後ろに立っていた。
「そうカリカリせんでくれぬかのうエヴァ。どうしても聞いてもらいたいことがあるんじゃ」
「断る!」
「せめて話くらい聞いてくれぬかのう」
近右衛門とエヴァンジェリンは向かい合いながら只管不愉快! といった表情を近右衛門にぶつけていた。
「大体呼び出し方が気に食わん! 『暇じゃったら碁でも打ちにこんか?』と言いながら話を聞いてくれ? 人を舐めるのも大概にしろよ!」
さらに怒気をはらませて近右衛門に言い放った。
「話があるから来てくれじゃ来てくれんじゃろ?」
「あたりまえだ! じじぃが私に話がある、なんて面倒ごとに決まっているからな」
「じゃからじゃよ……エヴァにしか伝えることの出来ないことなのじゃよ」
真剣な声で、真剣な表情で近右衛門はエヴァンジェリンに言葉を放った。
「それにエヴァに全くの無関係と言うわけでも……無いと言え無くも……無くも、無くも?」
「喧嘩を売ってるのかじじぃ? 今なら
「ほんの冗談じゃ。真剣に言おう。エヴァにはこのかの事を学園祭の間だけでも見ておいて欲しいのじゃよ」
この言葉にエヴァンジェリンはほうと言って腕を組み怒りを静めていった。
「この私に護衛の真似事だと? かわいいかわいい孫には桜咲刹那と言う立派な護衛がついているではないか? この『闇の福音』に話を持ってくるなんて一体どうした? それに何で私にその話を持って来る? 立派な教師達がいるじゃないか?」
エヴァンジェリンは見下すように近右衛門を見る。
「ふぉふぉふぉ、護衛ではないただ見守って、状況次第では結界を張ってくれるだけでよいのじゃよ。護衛は刹那君の仕事じゃしの」
この言葉にエヴァンジェリンはいぶかしんだ。
「一体何が起きて……何を考えている? 説明しろ、近衛近右衛門!」
語気を荒げたエヴァンジェリンに近右衛門はふうとため息をつく。
「数ヶ月前に起きた侵入者騒ぎは忘れはせんじゃろ? あの犯人が此度の学園祭に現れると予告してきたのじゃよ」
「何?」
「未だに当時の犯人は分からず捕縛もされていない……としているがあれこそが巷を騒がせる怪盗Xその人じゃ」
エヴァンジェリンは唖然とした。あの件はエヴァンジェリンとしても屈辱の極みであったため独自に調べていたが怪盗Xが犯人だとは推定でしかなかったからだ。
「どうして公表してないんだ?」
「何、時期を見ておったのじゃがついその時期を逸してしまっての。色々と面倒ごとが絡まって今じゃデメリットばかりが目だってしまうからの」
ふぉふぉふぉと笑い近右衛門はいつの間にか用意した茶をすすった。
「ふん、なるほどな……で私にそれを頼むのはあの時のことが引っかかっているからか?」
「話が早くて助かるのう。怪盗Xはタカミチが言うにはこのかに興味を持っているらしいのじゃ。今回教師陣が動かせぬのでな。爺馬鹿としては実力者に見守って欲しいのじゃよ」
この言葉と共にエヴァンジェリンは再び深く考え出した。
「ふん、刹那が聞いたら情けなさに自害しかねん話だな」
「いざという時に結界を張ってくれるだけで良いんじゃ。あとは好きなように傍観してて構わぬ。それに何人かの実力のある教師にそれとなく巡回経路に2-Aを入れておる大した手間にはせぬつもりじゃ」
近右衛門は深く頭を下げてエヴァンジェリンに頼み込んだ。エヴァンジェリンは近右衛門の職権乱用に苦笑し、
「……いいだろう。約束どおり、頼み込んだとおりやってやろうじゃないか」
エヴァンジェリンは嗜虐的な笑みを浮かべて了承した。
「対価はそうだな……今は貴様への貸し一つとしておこうか」
エヴァンジェリンがそう言うと近右衛門は安堵の表情を浮かべた。
「すまぬのうエヴァ」
「大した労力でもない。それよりもこれは貴様への貸しになる。忘れるなよ」
そういうとエヴァンジェリンは用は済んだとばかりに立ち上がり部屋を後にした。
一人残された近右衛門は立ち上がり机から封筒を取り出し背後の窓際に立ち麻帆良を見下ろした。
「ふぉ……ふぉっふぉっふぉっ! まさかのう、まさかのう」
近右衛門は笑い声を上げた。
そして麻帆良学園、近衛木乃香と書かれた封の開けられた封筒を燃やしつつ学園長室の中でのみの笑い声は響いた。
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それは麻帆良祭三日前の夕刻。辺りは暗くなり、そして人気の無いところを一人の人間が歩いていた。
急いでいるのかのんびりだったのか。
男なのか女なのか。
若いのか年老いているのか。
その人物は人気の無いところを無用心に歩いていた。
無警戒なのか自信があるのか。
得物を持っているのか素手なのか。
実力者なのか無能者なのか。
ただ道を行き、
「ねぇ、その顔、少しだけ貸してよ」
藪の中に引き込まれた。
知っていたのか知らなかったのか。
反撃したのか棒立ちだったのか。
気づいたのか何も気づかなかったのか。
「祭が終わるまでは誰にも見つからないようにね」
怪盗X以外知ることなくその人間と変わらぬ姿で藪から出てきて何も変わらず麻帆良の中へまぎれていった。
大激変!