『只今より! 第77回麻帆良祭を開催します!」
高らかな宣言が麻帆良中のスピーカーから発せられるとともに、この年の麻帆良祭が始まった。
すさまじいまでのにぎやかさ、技術レベルに喧嘩を売るような機器、プロも裸足で逃げ出すレベルの出し物、それらを内包した麻帆良祭のレベルと熱気はさらにこの祭りに興奮を巻き起こすのである。生徒の手によって航空機がスモークを引いて飛んでいったりもしている。
しかしどこもかしこも楽しげな雰囲気が満ちていても、この地にいる魔法使いたちには緊張に包まれていた。それもすべて『怪盗Xによる被害を防ぐため』という意志によるものである。故に、どのような苦労も厭わない。
「……なんかおかしいですねお姉さま」
「たしかにメイの言うとおり、どこか違和感があるようね」
そしてその魔法教師陣の緊張感を一部の魔法生徒たち、愛衣と高音は敏感に感じ取っていた。
「でもメイ、今回は幸運だと思って羽をのばしなさい。こんなにゆっくり麻帆良祭を回れるなんて早々ないんだから」
「そうですね、今回は警備をせずに自由に楽しんでいいって聞いて、すっごく楽しみにしてたんですよ! でも一体何があったんでしょう? お姉さまも麻帆良祭だったら普段より警備は厳しくしたほうがいいはずだと思いますよね?」
そして多くの魔法生徒の抱く疑問に彼女たちも至っていた。故に彼女らは自由に麻帆良祭を楽しむよう言われてはいたが自主的に学際の見回りを行うことを決めていたりした。
「私もメイの意見には同意するけど……学園長の気まぐれの可能性も考えられますからそれはそれと割り切ってしまいましょう」
「やっぱりそうですね? でもなあ……はあ」
しかし多くの魔法生徒の考えと大差なく、学園長の思いつき、という理由で大半が納得していた。学園長の信頼がここに垣間見える。
「あらメイ……そういえばチャンドラさんは今回の麻帆良祭は忙しいってわね。準備の時から植木や街路樹といったものを整えるのに奔走してたようですし」
そしてチャンドラはいつの間にかこの麻帆良における植木等の剪定などはじめとした植物の管理のほぼ全権を掌握していた。これには己のやれること、活かせることに対する熱意を発露させたことに学園長が乗ったからである。
ちなみにチャンドラが全力を出しているためにこの常識外の広さを持つ麻帆良でさえもたった一人で今まで以上に環境改善が行われていたりして今まで管理を行っていた会社は暇をもてあましていたりしている。
「そうなんですよ。『学園長に仕事を頼まれたから断れなくって』って謝ってきましたー」
この言葉に高音の目が怪しく光った。
「あら? やっぱり暇が無かったの? 折角誘ったみたいなのに残念ね?」
「ふぇえ! おっ、お姉さま! なっ、何のことですか!?」
高音の突然の一言に愛衣はあわてて反応をした。
「何のことって……少し前に麻帆良祭の警備の話を聞いて、メイったら携帯をにらんで固まったり赤面したり落ち込んだりしてたじゃない」
この言葉に愛衣ははっと気がついた。高音の目つきが獲物を見つけた肉食獣のそれに変わっていたことを。
「さぁ、時間はたっぷりあるわ。チャンドラさんをどう思ってるの?……まさかもう!」
「そそそそそそそんなこと! ななっ何にも有りませんよ!」
「じゃあ吐きなさい! 隠さず全て!」
「そそんなのお姉さまに言えるわけありません!」
そして愛衣は必死で駆け出していった。
「……私もまだなのに……メイ待ちなさい! 洗いざらい白状してもらうわよ!」
このように大半の魔法生徒は今回の麻帆良祭を楽しんでいた。
しかしそうでない者もいる。
「……異常無し」
2-A教室付近の柱の影から一人の少女を見つめる影があった。
「……刹那……」
その影とは刹那であった。
「真名、不審な人物はいないな?」
『……報酬を受け取った以上文句は言わないが』
「真名!」
『……異常なしだ』
刹那の声に呆れと気だるさをにじませて答えたのは真名であった。
『警備は不要だと学園長様はおっしゃっていたんだが』
「これは私の仕事だ。警備はするなと言っていたが護衛はするなと言っていない」
この言葉に真名はこの日何度目かになるため息をついた。
『……さすがに三日間は安くないだろう? 今なら二日分の全額返金にも』
「真名、お嬢様が物陰に向かった! そっちからなら見えるはずだ! 様子は!」
『はぁ、異常なしだよ』
真名はこの近衛木乃香の護衛補助を受けたのは完全な失敗であると感じていた。せめて三日間全てを受けるべきではなかったと後悔する。
『これじゃ動けないよ』
「何がだ?」
『……なんでもない』
こうして忙しく動く魔法生徒もいた。
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「「「「いらっしゃいませ!」」」」
2-Aでは多様な衣装が混在していた。混沌としていた。
統一されてない様々な衣装、共通点といえばどことなく感じるメイドの要素? これぞ『2-A ドキ▼古今東西メイド喫茶▼』である。とわ言っているがもはや原型は無くフリル多めなコスプレ喫茶と化している。ちなみにスカート丈が際どいものであるのも共通点の一つだ。そして何者かの謎技術の成果かどんなに歩き回っても少女たちの大いなる神秘を見れるものはいなかったりする。
結果、2-Aの企画は大成功。長蛇の列が生まれて皆接客、調理に大忙しとなっていた。
「3番テーブルに紅茶1にレモンティー2!」
「6番テーブル会計お願い!」
「1番テーブル待たせすぎ! 早くお出しして!」
大忙しである。
もちろん、これだけ多くの客が入ればその分不埒な考えを持つ輩も増えるのだが今のここは麻帆良一安全な地である。麻帆良四天王が目を光らせ複数の魔法教師の巡回コースになっていればそれも当然であろう。
高畑を筆頭にガンドルフィーニ、刀子といった武闘派や瀬流彦、はては弐集院までこの日巡回に回っている教師陣が一通り来店しているからだ。
ちなみに高畑の来店の際明日菜がどじをして落ち込んだりもしていた。
そしてこの日、木乃香は主に裏の調理場にて働いている。
「あれ? 何これ?」
その調理場にてあるものが発見された。
「これって……差し入れ?」
「私は何も聞いてないよー」
「いいんちょだったら知ってるかも」
調理場にいた者は手を休めてその不審物に目線が集まる。それは無地の紙袋であった。
「さっきまではなかった」
「だよねだよね!」
突然そこに笑われた紙袋に、にわかに騒がしさが増していく。
「ちょっとみなさん! 手が止まってますわよ!」
しかしそれもすぐに終わりを告げた。このクラスを取り仕切るあやかが、厨房の変化に気づいたからである。
「ねーねーこれっていいんちょ知ってる?」
「だから手を、え? いいえ、知りませんが、ってそれよりも注文が」
「開けちゃっていいよねー」
「だ・か・ら!」
しかし一部にはそれも効果なし。自由気ままな鳴滝風香はその紙袋の中身を取り出す。
「いったいな……うっきゃーーーー!」
とりだしたものを見て風香は悲鳴を上げた。
「ぁ-----!……な、なーんだあ。ただの像か」
それは木像であった。ただしどこかおどろおどろしさを滲ます、どこか未開の地ででもご神体になっていそうなものであったが。
「むむむ!」
驚かされたのが悔しいのかその木像をにらみつけ、さらに袋の中にさらに何か無いか探す。
「いい加減に」
「あ、まだなんかあった」
あやかの話に聞く耳持たず、風香はさらに奥にあったものを取り出した。
「ほらこれこれ、手紙だよ」
そういうと風香はその手紙を掲げた。しかしその封筒には大きくバツ印が付けられているだけで何の宛名もない。それを見た何人かは不審物としてその荷物を注目することになった。
「これの心当たりのある人~」
そして面白いものを見つけたと目をランランと輝かせて声を上げる。無論誰も主張はしなかった。おそらくあったとしても主張できる雰囲気ではない。今このときこの場は公開処刑の場へと変貌したのだ。
「ふふふふふふふふふ、心当たりがないなら仕方ないね~」
そう言うや否や封筒を開けてその中身を読み始めた。
「何々、『木乃香へ、初めて会ったとこに来てね。あとこの像はお土産の魔よけ。怪盗X』……ええ! このか!?」
その手紙に書かれていた宛名に聞いていた皆が驚きの声を上げた。
「こ、このかぁ!? まさかこのかが皆の先を言っていたなんて!」
「それよりも何者! 怪盗Xって書いてあるけど……ハッ、まさか二人だけのメッセージ!」
「それよりも誰かこれを置いてった人見てないの!?」
その手紙の内容にすさまじい勢いでヒートアップしていく。怪盗Xとは何者か? どんな人なのか? 同い年? 年下? もしかして年上? 様々な意見がかわされていく。そしてこの話題の中心人物の元へ全てが集約した。
「それじゃぁこのか? 答えは何!」
そしてこの場を取り仕切り代表として木乃香へ質問する役目は早乙女ハルナであった。イマイチ何かを探知しきれず触覚がもどかしそうに蠢いていた。
「あ~怪盗Xはな~」
「もう皆さんいい加減にしなさい!!」
だがこの場では語られることはなかった。
「どれだけ注文が溜まっていると思ってるんですか!!!」
あやかの怒りが爆発したのだ。その剣幕に誰一人逆らうことは出来ず時間が来るまでひたすら調理に集中することになってしまったからである。
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「怪盗X、今年の二月に現れた怪盗。最初の被害は日本の京都、それから世界各地で盗みを働きその被害額は既に何十億円とも言われている。その姿は一切謎に包まれており現場でも怪しい人物を見たものは皆無、まさに怪盗の名に恥じぬ神出鬼没な人物だね」
初日の打ち上げの席。そこで行われているのは本日の反省会とは名ばかりの本日の最もホットな話題である『近衛木乃香の恋人』についての追求である。
それについていくらかの情報を元に突如説明を始めたのがパパラッチと名高く子の場を取り仕切っていた朝倉和美であった。ちなみにこの場にいないのは刹那、真名、そして長谷川千雨だけである。
「そして怪盗X最大の特徴が盗んだ後に残す置手紙と箱に詰められた関係者だ! その人物はほとんどが記憶が曖昧になっているものの記憶に残っている時間と最後に確認された時間に大きな矛盾が生まれている。つまり怪盗Xはその姿を使って盗みを働く変装の達人ってことだね。しかも面白いことに、本人じゃないと分からないはずの話題にも怪しまれることなくやり取りしていることからも変装する人物に目をつけて入念な下準備をしていることが伺えるんだよねコレが。なんと成り代わっていたとは思えないような会話をしたという情報もあるとか。現代で最高峰の怪盗と一部熱狂的なファンまでいるとかいないとか話題に事欠かない有名人だね」
そしてここまで説明し、和美は一息ついた。
「『怪盗X』って言うのはここまで慎重な人物なんだよね。そんなのがおいそれと正体を他人にばらすわけがない。つまりこのかが言う怪盗Xとは、世界を騒がす大泥棒とは別人ってことになるね。さいしょにこのかの事ををおちょくって引っ込みがつかなくなったってことかな」
冷静に木乃香が『友人』であると説明した『怪盗X』について分析しその答えを話す。少々夢も希望もない答えであるが和美もここで面白おかしくする気にはなれない。本名不明の不審人物をクラスメイトと親しくして欲しいとは思っていないからである。
この説明を受けてさすがに2-Aのみんなも木乃香を心配し怪盗Xと名乗る人物には会わないようにと説得をしだしていた。
「少しいいですか」
だがそ和美の見解に疑問を感じた少女、綾瀬夕映は木乃香へ確認のための質問をした。
「このかさん、その怪盗Xと名乗る人物と出会ったのはいつですか?」
「う~ん二月の頭やったけど」
「正確な日付は?」
「ん~たしか八日やったかな~」
ただこれだけの質問で夕映は納得したように頷いた。
「やはり矛盾が生じるです」
夕映はきっぱりと言い切る。
「聞くところによると怪盗Xの最初の犯行はどれほど遡っても二月の十五日以降といわれてるです。つまりこのかさんに怪盗Xと名乗ったとき、その怪盗Xという名前はこの世に現れてはいなかったということになります。このかさん、その人物とはどこでであってどこで別れたか覚えていますか?」
「へ? 最初に会ったんは……たぶんやけど麻帆良や。分かれたんは……京都」
「……みなさんこれでわかったですね。このかさんが怪盗Xと別れてから僅か一週間後に怪盗Xは初めて表舞台に現れるです。しかも場所は同じ京都。しかも名乗りで『X』と書いて『サイ』と呼ばせる人物。つまり少なくとも全くの無関係とは考えられないです。ゆえに、このかさんの友人である怪盗Xは本人、もしくはそれから行う犯罪を打ち明けるほどに近しい人物だということです」
「「「な、なんだってーーー!!」」」
夕映の言葉に皆が驚きの声を上げた。
「はいです。このかさんの話を聞く限り最も可能性の高いものを推測してみました。少なくとも、このかさんの知り合いはかなり危険な人物であると言えます」
皆夕映の推理に一定の納得を示したが、
「ん? あのさ、危険な人物ってどういうこと? このかとは友達になったんでしょ?」
ふと疑問に思った明日菜が夕映に問いかける。
「その人物は世界的に名を売っている大泥棒なのです」
夕映はため息を着きながら話す。
「そんな人物が隠すこともせず人の目を欺いてこのかさん宛ての品物を届けてきた。何か裏があると見てしかるべきだと思いませんか?」
夕映は強く言い切って明日菜に詰め寄り、明日菜は一瞬たじろいだ。
「ゆえに行かせるわけにはいかないです。相手は世界的に有名な犯罪者ですから。警察……いえ、先生方に伝えるのが一番です。とりえず高畑先生に相談してみるといいです」
いいたいことをすべて話して満足したのか、夕映はその後大人しくしていた。
その後も話し合いは続き、結論として『明日高畑先生に伝える。木乃香は怪盗Xに会わない』というところで決着し、その日の打ち上げはお開きになった。
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「……このか!」
「ひゃわ!」
皆がそれぞれ寮に戻っていく中一人こっそりと別の方向へ向かう影を明日菜は見つけていた。言うまでもなく木乃香である。
「あはは~ばれても~た~」
のんきな笑顔でありながら木乃香はばつの悪そうに明日菜に顔を向けた。
「はあ~、どうしたのこのか、さっきは納得したふうな感じだったのに、それにもう遅い時間」
「友達やから……」
木乃香は陰のある表情で呟いた。
「Xはなあ、さみしんぼさんで素直な子なんよ。せやからきっとなんも考えんと遊びに来ただけや。せやから、ちゃんと紹介してみんなの誤解を解きたいんよ……後悔したくあらへんし」
そういい気いると木乃香は笑顔に戻る。
「せやからXを迎えにいくんよ」
「はぁ、このかぁ、もう遅いんだから……一人でいかないでよ、私もつきあうから」
ため息と疲れた表情を出しながら明日菜は木乃香と一緒にXを迎えに行くことにした。
「ありがとな~アスナ~」
「で、どこにいるかこのかは知ってるの?」
「もちろんや、たぶんあそこにXはおるんよ」
そういって木乃香は明日菜と歩き出した。
後半の無理やり感がすさまじいです
直したほうがいいでしょうか?