明日?明後日?なんの祝日でも無い平日がどうかした?
「うちもたぶんとしか言えへんけど世界樹の近くやと思うんよ」
木乃香は明日菜と共に祭りの喧騒から離れつつ世界樹へ向かっていた。そして、周囲は暗いものの歩くに支障はない程度には明るい中で二人は言葉を交わしていた。
「ふーんそうなんだ。そういえば怪盗Xってどんな奴なの?」
木乃香は明日菜の問いにあごに指を当てながら考えるしぐさをした。
「えっとなあ。うちらとおんなしくらいか少し下の男の子でちょっと子供っぽいとこがあって、たぶん負けず嫌いやな」
この答えに明日菜はちょっと残念に思った。木乃香が友達といって信用している以上怪盗Xをただ凶悪な犯罪者だとは思っていなかった。むしろ怪盗と呼ばれる人物がどういった人物か興味を持ったのだが、
「なーんだただの子供かあ」
「せやなあ、さみしんぼさんの子供やな」
こう答えられては興味も薄れてしまう。しかしそれでも、
「でもそんな子供が世界中で有名な泥棒?」
もっともな疑問に行き着く。自分たちと同じくらい、もしくは年下の子供がそんな大それた犯罪を行えると到底思えなかったからだ。
「あーXならホンマにやってもーてるかもなー」
「え?」
「Xの変装はホンマに見分けがつかへんからなー」
のんきな声色で木乃香は笑うが明日菜は呆気にとられ開いた口がふさがらないでいた。
「……本物の……犯罪者なんだ……」
「かもしれへんなー」
明日菜の言葉を木乃香はコロコロと笑いながら認める。
「かもって……」
「でもちゃうかもしれへん。友達やから……決め付けたくないんよ。せやからアスナもXに会っても色眼鏡で見んといてな」
木乃香は真剣な声で明日菜へ自分の考えを伝えた。
「でもさあ、ホントに犯罪者だったらどうするのよ」
「そんなの簡単や。悪いことしたらごめんなさいせなあかんからなーそんときはちゃんとしかるつもりや」
この木乃香の言葉からXが犯罪を重ねているだろうと認めてはいる。しかし問いただすまでは違うものとして接したいと考えているのであった。
「はあ~~ぁ」
そしてそんな友人に明日菜はこれからのことに頭を悩ませることになる。だがそれでも優しい木乃香の何かしらの力になってあげたいと思っているために苦労することになることまでは予想できてはいなかったりした。
「そういえばさ。なんで世界樹なの?」
悩んでも仕方のないこととして明日菜は唐突ではあったが話題を変えることにした。
「怪盗Xが今まで麻帆良に現れたって話は聞いたことないし、つまり下見だか何だかのためにこっそり来てたんでしょ? でもこのかは世界樹のとこで怪盗Xに会ったって……」
明日菜の疑問は怪盗Xについてほんの少し前に聞いた話での『誰もその本当の姿を知らない』ということから生まれた疑問である。どうして怪盗Xという名を木乃香に明かすことになったのかという少し考えれば浮かぶものであったためその疑問を捨てきれずに問いかけたのだ。
「あーあれなー。実はな……あの日、せっちゃんが一人で世界樹に向かってんのを見つけたんや」
木乃香は訥々と語り始めた。
「言ったことなかったけどな、せっちゃんとうち、昔一緒に遊んでたことがあってな、うちにとって初めての友達やったんよ。麻帆良に来てからは、それきりやったんやけど、中等部に上がってからまたせっちゃんと会えて、うち嬉しくてまた昔みたいにもどりたいなー思てんけど、せっちゃん、あんま話してくれへんようなってて、また仲良ーしたかったんや」
明日菜は木乃香の言葉をただ黙って頷きつつ聞く。
「そんで世界樹に向かっとったせっちゃんに、また仲良ーしたくて話しかけて……そんときな、昔みたいにこのちゃんて呼んでくれたんよ」
木乃香は瞳の水気を増やしながら話を続ける。
「そんときうち嬉しかったんやけどなんでか気ぃ失ってもーてな、でも目を覚ましたら別んとこおって、目の前にせっちゃんがおったんやけど、それがせっちゃんに変装しとったXやったんや」
このときすでに木乃香のまなじりには涙が溜まっていた。
「せやからあのときうちをこのちゃんて呼んでくれたんはX。そーゆーことで世界樹が手紙に書かれとった場所なんや」
そう言ったとき、ついに耐え切れなくなった涙が決壊し流れ出した。
「こ、このか!」
「あははー……実はなーXとそんときに友達になったんやけど、あれなーたぶん、全部うちのためやったんや」
木乃香は突然懺悔をするかのような雰囲気を出して話し出した。
「うちまたせっちゃんと仲良ーしたくて、でも上手くきっかけも作れへんかったから、Xを利用しようとしたんよ。せっちゃんと見間違えるくらいによー似た変装できるし、せっちゃんが昔使ってた『このちゃん』って呼び方まで知っとんやから……Xがせっちゃんと親しいんかもと考えて……つまりな、Xを利用してせっちゃんに近づきたかったんやと思うんよ」
木乃香は少し前まで微笑みを浮かべていたのだがそれも今は完全に崩れてくしゃくしゃに歪ませていた。
「でもやっぱ悪いことはできへんなー。結局うちも気づいてへんかったこともばれっとったんか、Xと別れてからな、せっちゃん、今までよりもっと……距離とってしもて……Xともそれっきりやったんよ。せや、今日は、Xに、そのこと全部話して、ズルイことしてごめんなさいって、言わな」
木乃香は完全に泣いていた。
「きっと、せっちゃんも、うちが何も考えんと、気も使わんと言った、無神経なことで傷つけてもーたんや。何をして、傷つけたんかわからへん。せやから謝ることもできんし……」
明日菜は盛大に焦っていた。ちょっとした話題のつもりで振った話が想像以上に大型地雷だったのだ。完全にネガティブになっている木乃香へのフォローが上手く考え付かず普段は蜘蛛の巣の張っている頭を必死に働かせる。
「うち……うち……」
「あーー……もう! このかぁ!!」
しかし何も浮かばなかった明日菜は深く考えることを放棄した。考えず感じたことを口にする。
「このかは桜咲さんとまた仲良くしたい! これは本当!?」
「へ? せ、せやけど……せっちゃん、うちが傷つけて」
「昔のことなんてどーでも良い!! 今! このかが! 桜咲さんと! 仲良くしたいってことが重要じゃない!!」
明日菜はただただ強く言い放った。
「だったら何も考えないで正面からまっすぐぶつかればいいの!!」
「へ?」
「昔はちゃんと友達だったんでしょ! だったら! また友達になれないなんてことは無いって!」
明日菜は仁王立ちで堂々と宣言した。
「それにもしそれでダメだったらその、Xって奴にも手伝ってもらえばいいじゃん! とーぜん私は手伝うし!」
「でも、うちはXを利用して」
「そんなことでうだうだ言う奴だったら私がぶん殴ってやるから!」
明日菜は木乃香の不安を次々否定する。
「怪盗Xって奴がこのかを見限ってたならわざわざ呼ばないって、もしこのかを嵌めようとして呼ぶような奴だったらやっぱり私がぶん殴ってやる!」
「アスナ……」
「そうだ! えっと善は急げだっけ? 明日にでも桜咲さんをさそって麻帆良祭をまわればいいじゃん! このかのシフトも私が受け持つし、そうしよこのか!」
「え? そんな、迷惑に」
「迷惑じゃ無い!」
「もし、せっちゃんが嫌いやって言ってきたらうち」
「きっとそんなんじゃない!……根拠は無いけど、でも! 何もしなきゃ今のままじゃん! 嫌われててもこのかならまた仲直りできるって! もう、こうなったらクラス一丸になって協力しよう! 明日一番でいいんちょにも話して、えっとー!?」
明日菜はどうしようかと考え出し、それを見て木乃香は笑顔に戻っていた。
「ありがとなーアスナー。うち、また勇気出してゆーてみるわ」
笑顔に戻った木乃香をみて明日菜は満足そうに何度も頷いた。
「でもまず、うちはXにごめんなさいせんとなー」
そして木乃香は自分の目的を定める。
「そういえば怪盗Xに会いに行くんだっけ……なんだかまた少し緊張してきた」
「あははーXは悪戯好きやしなんかしかけてくるかもなー」
「い、悪戯!」
「ゆーてもきっと驚かせるだけやからアスナも安心して騙されればいいんよ」
「そんなの安心できないって」などど明日菜は苦笑いしながら目的地の世界樹へと向かう。
「二人とも止まりなさい」
唐突に掛けられた厳しい声色での命令に二人は反射的に身体を強張らせた。声の聞こえるほうへ目線を送るとそこには声色どおり鋭い目つきの女性が立っていた。
しっかりとしたスーツ姿から生真面目な人物であることが分かる。
「く、葛葉先生……」
声を掛けたのは葛葉刀子であった。
「女子がこんな遅い時間に出歩くのは感心しませんね、たとえ麻帆良祭であっても。さらにはこんな人気の無い場所にいるのも。二人とも、速やかに寮に戻りなさい! 麻帆良祭の間外出禁止にはされたくないでしょう?」
厳しい口調でありながらも、二人のことを考えてのことであることが端々から感じ取れるのでさすがに明日菜はばつの悪そうな表情でさすがに誤魔化すのは無理かと諦めに至るが木乃香は笑顔のままでどうやって切り抜けようかと考え、
「葛葉先生、実はうち、大切な人と待ち合わせがあってん」
「こんな夜遅くにこんな人気の無い場所でまだ未成年の二人を呼び出すとは、ほうっておくわけにはいきませんよ?」
刀子は二人から何かを読み取るかのような射抜く視線を一瞬向け、
「その人物にも厳重注意が必要ですね。まだこの辺りにいるのでしょう?」
そう言うと懐からケータイを取り出してどこかに連絡するかのように操作する。
「二人とも速やかに寮に戻りなさい」
完全に詰んだ形になりこれには二人ともどうしようもないとため息をついた。
「ごめんさい先生、大人しく戻りますのでどうか……」
その言葉に刀子は頷きながら二人をこの場から離れさせるために近づくと、視界の端に刀子が知る人物が入り込んでいた。真名は腕を組みながら木に寄りかかって三人を見ていた。
「龍宮さんこんな場所でどうしました?」
刀子は疑問の声を真名にかける、がそれに真名は答えなかった。
「っ! 何!?」
そして真名は一気に三人の方へ、正確には明日菜と木乃香の方へ高速で向かっていった。刀子はその唐突な動きに数瞬反応が遅れ、さらには手に持つケータイを放してどこから取り出したのか刀へ手を伸ばすのにもまた数瞬のタイムラグが生じた。
そして、あっけにとられる明日菜、木乃香両名の下へ真名がたどり着く一瞬早く、刀子は刀に手をかけていた。
「斬空閃!!」
その声が響き渡るとともに、刃が煌き鮮血が舞った。
~~~~~~
「かはっ」
その刃は目標違わず身を切り裂いた。飛来する斬撃をその背に受けて力を振るうことなくその人物は膝をつく。血の舞う光景をただただ見つめるだけの明日菜と木乃香は何が起きたのか理解しきれなかった。
「な、なんで」
そう声を発したのは明日菜のほうであった。
目の前には倒れた人物に向き直り、自分達を背にし守るように立つ人物がいる。
「なんで、葛葉先生が! 龍宮さん! 何か知ってるの!?」
そこには自らの血溜まりに膝を突く刀子とそれを見下ろし両手に拳銃を持つ真名がいた。
「ちょっと龍宮さん! 説明……じゃなかった! 救急車! 119!」
「どう、して」
明日菜は混乱しながら刀子の怪我を心配し、
「せっちゃん、どう、して」
木乃香は抜き身の白刃を携えて歩いてくる刹那に意識を向けていた。
「どうして、そんな物騒なもん、持ってんの?」
その声を聞いた刹那は無表情のままピクリと僅かに反応を示す。
「刹那っ! 何を、して!」
血を吐きながら自分を斬った刹那へ刀子は顔を向ける。
「せ、刹那、止め……」
刀子の声を聞いた刹那は即座に構えを取る。刀子は重傷を負っているせいでそれへの対応が取れない。
「あ」
刹那は刀子に何の躊躇も無く心臓の位置に刃をつきたてる。それは先ほど刹那の放った斬空閃による背中への斬撃とは違い必死の一刺し。
無防備に受けた背中の傷、対応すら出来ず穿たれた正面からの一撃、それはさすがに神鳴流を修めた剣士であっても耐えられるものであるはずが無く、そのまま血溜まりに沈む。その一刺しは明らかな致命傷であり倒れた刀子はどう見ても死んでいる。
「……刹那、お前、容赦や、躊躇は、無いのか?」
「龍宮、お前が言ったんだぞ、。刀子さんが侵入者に成り代わられていると」
ただたんたんと業務的に刹那は真名えの問いに答える。
「確かにそうだが、穏便なやり方は、あったはずだろ! 先生方に伝えるとかな! 止めまで刺す必要は」
「そんな暇があるわけが無い。お嬢様に近づいていた時点で速やかな対応が必要、すなわち侵入者の末路は一つだ」
その刹那の答えに真名は早まったかと額に汗を滲ませながら頭を押さえる。
「……神楽坂や、大切なお嬢様にどう話をつけるつもりだ」
「記憶を消してもらう。先生方への対応は私が行う」
そう言いながら刹那は侵入者を片づけるのか、明日菜、木乃香へ一瞥もくれずに背を向けた。
「せっちゃん!!」
刹那の足が止まるが刹那は木乃香へ視線を欠片も送ろうとしない。
「龍宮、早く二人の記憶消去を。血なまぐさい記憶など、人死にの記憶など百害あって一理なしだ」
「おい……刹那」
木乃香は涙を流し、真名は今のこの状況に深いそうに顔をゆがめている。
「何で……何でこんなことしとるん。何で……さっきからうちのこと見てくれへんの? せっちゃん……お願いやから、こっちを、見て」
刹那は木乃香へ視線を一瞬も向けずに三人がいる方向へ正対する。
「龍宮、早く、記憶の消去を」
「ちょっと桜咲さん!! なんでこのかを見ないの! さっきから何度も何度も声をかけてるじゃない!」
割り込む明日菜の声に刹那は視線を向ける。
「神楽坂さん、話の途中で割り込まないで欲し」
「だったらこのかのことを見なさいよ!!」
明日菜は怒りを混ぜて刹那を怒鳴る。
「……」
しかしなおも刹那は木乃香へは視線を向けない。
「それになんなの! 龍宮さんはなんか銃持ってるし、桜咲さんは、人を……とにかくなんなんなのよもー!」
ハアハアと息を荒げて目の前にいる真名と刹那を明日菜はにらみつける。
「説明、しなさいよ」
その必死の形相に刹那はただ無表情で返すが、真名は耐え切れないのかため息をつき、
「この世には知らない、知ってはならない、知るべきではないことがある。私達はそれを知りそれを使い、二人は知らない。ただそれだけだ。これ以上はルールに触れる。分かってくれ神楽坂」
そう言うと真名は強い視線を明日菜に向け、「これ以上話すことは無い」と威圧し明日菜はそれにたじろいだ。
「……せっちゃん」
その中で必死に、そして優しい声色で木乃香は刹那に声をかける。
「うち、せっちゃんが何やっても、せっちゃんが元気なら安心や」
木乃香は出来る限りの自然な笑顔で刹那へ語りかけていく。
「でも、教えてほしいんよ。せっちゃんが何をやってるんか、何で……うちを……見ないように……してるんか。話せへんことやってのは、うちもわかる。でも、そーならそ-と、せっちゃんの口から聞きたいんよ。うちはせっちゃんを信じる。せやから……せっちゃん、何がおきて、何があるんか、教えて、な。せっちゃんは大切な、大切な、友達やから」
自分の思いを伝えんと、気丈に、笑顔を崩さず、優しく、必死に木乃香は言葉を刹那に送る。
そしてこの言葉により刹那は今まで作っていた無表情を、
「龍宮、早く、記憶の、消去の処置を」
解くことなく事務的な言葉で木乃香の思いを斬って捨てた。
「は?」
「早く、してくれ」
あまりにも予想外の言葉に真名は思考が停止してしまった。
「せっ、ちゃん?」
「早く」
そう言うと刹那は木乃香へ再び背を向けた。
「あ……せ、せっちゃん、せっちゃん!」
「おい、刹那ぁ!」
「桜咲さん!」
三人がそれぞれ呼び止めるが背を向けたまま反応を示さない。刹那は三人共から距離をとっていく。それを見て木乃香は、
「あ……うぁ、ぅああ」
耐え切れなくなった。自分の思いは刹那に伝わらなかったのか、それとも再会したときから自分を嫌っていたのか。自分と刹那はもう、友達ではないのか。自分が刹那を苦しめているのか。それが全く分からなくなり、耐え切れなくなった。自分の思いを伝えても、拒否や嫌悪でさえも、何も返って来ない。無視、それがことさらにこたえた。
「ぅぁ、せっちゃん……ひぅ、せっちゃぁん」
木乃香は膝から崩れ落ち、縋るように刹那へ手を伸ばすが絶対に届くことはない。
「行かんといて、せっちゃん……」
あまりにその光景が痛ましく明日菜も真名も言葉を発することがでいないでいた。
「お願い……せっちゃん、せっちゃん」
「(ごめん、このちゃん……うちは化け物やから、このちゃんとはいられへん、ごめん、このちゃん、ごめん……ごめん……ごめん……ごめん……)」
刹那は心の中で木乃香に何度も謝罪を繰り返す。木乃香を守るということのために本当に欲しい場所を捨てるという強い決意を刹那は持っていた。それは自分なりの、二月のあのとき木乃香を守れなかったことへの贖罪であった。それが木乃香の心に深い傷をつけることになるとは気づかずに。
そして刹那がそのまま離れていく光景を見て、
「あ、あああああああああぁぁぁ! せっちゃん、せっちゃん! ああぁっひぅああああああ」
木乃香は完全にその心を、
「あんたは本当に木乃香の友達なの?」
砕く寸前、反響するような奇妙な感覚の混ざった声が一帯に響いた。
「俺にはあんたが木乃香を苦しめているようにしか見えない、悲しませているようにしか見えない」
「誰だぁ!」
刹那は夕凪を構えて周囲を探る。
「なんだろうなこの気持ちは、まるで……あのときに感じた気持ち、アイを失くし、いやそれとは少し違うかな?」
そしてようやく気がついた。何故気づかなかったのか。理由を言えば今までそれを死体と思い、また気配もそれであった目気づかなかったのだが、今は違う。明らかな殺気とともにムクリと立ち上がっているのだ。
「まあいいや」
そしてその声の主の姿は、邪魔なのかスーツなどを脱ぎ捨て、また体格が縮んだために身に着けていたもののほぼ全てが地面に散らばっている。唯一残っているのがYシャツ一枚のみ。まるで傷など負っていないかのような立ち振る舞い、世界に名を知らしめた、葛葉刀子改め『怪物強盗X』がそこに立っていた。
「ネウロの注意通りやってみたけど、完璧だったみたいだね」
Xのその姿に刹那は完全にのまれていた。完璧に心臓を貫き、その気配が完全に死へと落ちていったのを理解していた人物が生きていた。しかも致命傷を負わせたと確信していたのにそれを感じさせないで。それにより、刹那はひたすら怪盗Xへの恐怖をつのらせていった。
「あれ? そっちのあんたはそれほど驚いてないんだね」
Xはこの場にいる四人を見渡し、生きていることへの驚きをほぼ持っていない真名へその興味の視線を注いでいた。
「ああ、死んだはずの者が生きていたなんて良くあることだし実際に何度も目にしたからね」
銃口をXに向けながらXの言葉に軽く返す。だが真名は気が気ではない。こんな強力で異常な化け物とやりあうなどロハや不意に受けるものではない。さらにはしっかりとした前準備が必要であると感じ、いかに逃げるか探っていた。
「へえ、あんた名前はなんて言うの?」
この言葉に、怪盗Xが自分に興味を持ってしまったことに気づき心中で神とうかつな己に対して恨み言を吐いた。
「……龍宮、真名だ。でも気軽には呼んで欲しくないな貴様と私は特に親しいわけではないからな」
Xはその軽口には付き合わず視線を木乃香へ送った。
「ひさしぶり木乃香。元気、じゃないな」
「あぅ……X~~」
泣きながらXの名前を呼んだ木乃香であったが未だその精神は崖っぷちである。
「あーあぁーせっかく木乃香と麻帆良祭を面白おかしくしようとおもってたのになー」
「ぁ……人に迷惑書けたらあかんえーX-」
Xの言葉に何とか笑顔に近いものを作って木乃香は返したが、Xはその表情は虚ろのような無表情へと変わった。
「わかったよ木乃香。だったら、木乃香を悲しませた奴を……」
今まで木乃香へと向けていた顔を、ぐるりと刹那のほうへと向け、
「いためつけるよ」
殺気を飛ばす。
刹那はそれと共に我に返りその場を飛びのく。しかしXは一歩も動いてはいなかった。
「あんたとやるのはこれで二度目だ。興味は湧いたけどあの時はそんな気はなかった、その後もそうする気にはならなかったけどけど」
Xはただその場にて威圧する。そしてそれは誰も知る由も無いがまるで、
「今は、あんたを『箱』にして観察するのもいいかもしれない。丁度、ただの人とは違うみたいだし」
自ら反抗した父親のようでもあった。
※この小説には暴力シーン、及びグロテスクな表現、そして登場人物の死亡が含まれることが有ります