「豪殺居合拳!!!」
「あかん!」
高畑はXの隙をついて必殺を放った、がしかしそれはとっさにXをかばった木乃香へ向かっていた。普通ならそのまま木乃香へ直撃してしかるべきなのだが、それを放ったのはかの高畑・T・タカミチである。寸での所で軌道をそらし木乃香への直撃を避け、地面のみをたたく轟音が周囲に響く結果のみで済む。人的被害は皆無であった。しかしその光景に明日菜と木乃香は恐怖を覚える。
「危なかったなぁ。木乃香、ありがとう」
「ぁ……どーいたしましてやー」
不意の必殺は木乃香のおかげで事なきを得たXだが事態は刻一刻と悪化していった。このとき高畑がXを牽制し、他の教師で包囲網を作り出していたのだ。
「木乃香ー。残念だけど俺はこれで帰るよ。みんなを怒らせちゃったみたいだし。俺はまわれないけどさぁ、あの、刹那だっけ? あいつと一緒に楽しく麻帆良祭をまわりなよ」
このときXのこの危機感のない言葉使いに魔法教師陣は怒りをにじませるが今自らのすべきことに集中する。それに結局Xのそばにいる木乃香のせいで容易に手出しはできない。
「残念やわぁ、謝ったらええんやないかな?」
「このか君……彼から少し離れてくれるかな?」
気楽に話をする木乃香へ高畑はなんとか普段と変わらない口調で言葉をかけるが、このとき内心Xがどう動くか全く予想できず木乃香を人質にされてはたまらないと直球で離れるように言ってしまっていた。
「木乃香、俺から離れてなよ……全力でおにごっこをするからさ」
Xも木乃香を人質にするつもりはないため木乃香へ被害が出ないように距離を取らせる。
「さ、X?」
Xの雰囲気の変化に木の香は戸惑いを見せる。それはニ月の初めて会った日に、新幹線内で見せたものに近かった。
「木乃香、あいつがまた悲しませたら教えてね……そのときは、本気で殺してやるから」
そしてXは両手の指を刃に変えながら本気の殺気を周囲に飛ばした。
木乃香は勿論多くの教師はその殺気に中てられ腰を抜かす。それを合図にXは飛び出したが同時に高畑もそれに合わせて攻撃を始める。
攻撃の射程ははるかに勝る高畑であったが、異常な耐久力とスタミナを持つXが完全に逃げに徹しては一人で追い込むのは難しかった。結果としてXには逃げられることになり、麻帆良の警備の未熟さを大きく喧伝することになる。
こうして、麻帆良祭の濃すぎる初日は過ぎることになった。
~~~
麻帆良祭初日の深夜、否すでに二日目になっていた。場所は保健室。そこには養護教諭の他にベッドに一人、そしてそれを挟むように二人の少女、桜咲刹那、それと近衛木乃香と神楽坂明日菜だけがいた。
現在魔法教師は一丸となって怪盗Xを追っており三人は保健室にて状況が収まるまで軟禁されることになったのだ。養護教諭はその見張り兼護衛である。
ちなみに、もう一人の当事者龍宮真名は某ぬらりひょんの元へ行っており不在であった。
「せっちゃん……」
そして何度目かになる呼びかけの声が発せられた。もちろん木乃香が発生源である。
怪盗Xと遣り合い、結果気絶した刹那はいまだ目を覚まさず、結果木乃香の不安を掻き立て続けているのだ。
木乃香はすでに治療が施されてはいる刹那の全身を確認し続ける。
同じ歳の少女とは思えないほどに二人の間には違いがあった。それは『傷』である。
木乃香にはほとんどない傷。それも木乃香のものは放っておけば消える程度のものであるのに刹那の傷は質が違う。下手したら消えないかもしれないような傷もあるのだ。それが無数に。
そして特に大きな違いはその手である。
力仕事が得意と言うわけではない少女の手と、ひたすらに剣を振り続けた手。その違いは一目瞭然であった。
まじまじとそれを観察し続ける木乃香は、刹那がどれほど陰で苦労をしていたのか想像し、そしてそれを発見する度に落ち込んでいった。
知らなかった。
この事実だけで、いやきっと刹那は木乃香のことを何があっても許すだろう。
それが木乃香はわかる。分かってしまうからこそ、それほど思っているからこそ、木乃香は落ち込んでしまうのだ。
「う……ん……」
「っ! せっちゃん!!」
ただただ沈黙が続く中、ようやく刹那は目を覚ます。
「せっちゃん! 大丈夫? どっか痛いとことかはあらへん?」
「ぅあ、お、お嬢様!」
木乃香はにじり寄るように近づき、刹那は寝起きではっきりしない頭の中でそれに驚きながら咄嗟に今までどおりの反応を示した。
「せっちゃん、身体の調子はどうなん?」
「え、あ、大丈夫です。問題ありません」
刹那は木乃香の問いに咄嗟に問題ないと答えたが、実のところ限界まで気を消耗した上に慣れない翼を出した全力の戦闘まで行っているので、全身に残る鈍い痛みと重くのしっかるようなだるさがあった。
だが木乃香を心配させないために問題ないと答えたのだ。
「せっちゃん」
だがそれも真剣なまなざしの前に怯む。
「あ……全身にだるさを感じますが休めば問題は、あの、しばらく休めば問題は有りません」
「ほかー」
刹那の答えに満足したのか笑顔に戻る。だがにじり寄った距離は変わらないままであったが。
「その、お嬢様」
「せっちゃん、お嬢様やのーて昔みたいには呼んでくれへんの?」
刹那の言葉に再び悲しそうな表情に変わる。
「あの、その……この、ちゃん」
「ん♪」
刹那の言葉に再び笑顔が戻る。それを見て刹那はふいに微笑がこぼれた。
そして互いにしばし見つめあう。
「あのー桜咲さん。ちょっっっといいかな?」
非常に気まずそうにしながら明日菜が二人だけの空間に割ってはいる。このままじゃ終わりそうに無い居心地の悪い空気に絶えられなくなったのだ。
木乃香は変わらずにこにこしているが刹那は顔を真っ赤にしながら固まっている。どうやら木乃香に集中しすぎて気づいていなかったようだ。
「か、神楽坂さん、い、いつのまに」
「最初からいたわよ。その、えっと、聞きたいことがあるんだけどさぁ」
この言葉だけで刹那はいくらかその内容にあたりをつける。十中八九先ほどの怪盗Xとの戦闘で見せていた現象についてだろうと。
「聞きたいこととは……」
「分かってるでしょ。さっきまでのは一体何かってことよ。桜咲さんは刀で何か凄いことしてるし、あの怪盗X? も負けてないくらいでたらめだったしさぁ。極めつけは、桜咲さん……真っ白な翼を生やしてたし」
刹那の予想通りであった。しかも隠していた翼についてもやはり問いただしてきたのだ。刹那は俯きどう答えるべきかと考え込む。
「(完全に、護衛、失格だ。任務、失敗だ。お嬢様を魔法から遠ざけるのも、守りきることも出来なかった)」
「桜咲さん?」
刹那は木乃香の様子をちらりと見るがその視線には真剣さが多く含まれており、同じように先ほどの戦闘に興味を持っていることが見て取れた。故に、詠春から受けていた木乃香の護衛とそれに付随する魔法関係から遠ざけるという二つの任務の完全失敗となり、全く恩を返せないことになってしまったのだ。
「(ここで私が説明を? いや、もうこれは私の裁量を越えているのでは……でも結局忘れさせるか関わらせるのかは、学園長か長が決めること)」
「桜咲さーん」
「(ならばここで説明しようと、変わらないと)」
「さ! く! ら! ざ! き! さん!!」
「ひゃい!」
思考に没頭していた刹那に明日菜の声が叩き込まれた。
「あーもー! さっきのやつは一体なんなのか洗いざらい説明して! ほら! このかだってさっきからずっっっっっと待てるんだから!」
明日菜の声に一瞬情けない声を上げたがその言葉に促され刹那は木乃香をみる。変わらない真剣な表情であるがそこに柔らかさが刹那には感じられた。
「あの」
「うちも知りたい」
刹那に向けて言葉が放たれる。
「おじょ、このちゃん!」
「せっちゃん。うちも、何があるんか教えて欲しいんよ。隠し事は、せんといてな」
その言葉を聞くと、気絶前にかわした言葉を思い出す。
「……分かりました。私の知っていることを、教えます」
刹那は覚悟を決め、自分が命をかけて守ると誓った木乃香を信じることにした。
~~~~~~
「……以上が私の知っていることです」
刹那は自らの知ることを語った。隠されていた裏のこと、魔法や気について、自らの出自について、自らの立場について、木乃香の立場について、日本の二大魔法組織とその確執について、そして怪盗Xの裏での異名についてと、魔法に関わることを二人に語った。
「……」
「そうやったんか」
明日菜は語られた事実に混乱を見せるがつい先ほどのあれが偽者とはどうしても思えずただ黙るしかできなかった。
木乃香はなんともなさそうにしゃべってはいるもののその内心穏やかではなかった。
今まで知らなかった刹那と己の立場を知ったことで、木乃香は自分がどれだけ刹那に無責任に接していたかと考えたからである。
「せっちゃん……今までごめんなー」
「こ、このちゃん!」
突然木乃香は刹那にむけて深く頭を下げて謝罪した。その行動に刹那はただただ混乱する。
「うち、何も知らんかった。せっちゃんが傷だらけで、うちを守ってくれててんのに。せやのに……」
「気、気にせんといて! うちが、このちゃんと、一緒にいられるんわ、化け物やと思っとったあの時は、これしか、思いつかんかったから! これしか、知らへんかったから! だから、これからも」
「せやったら、せっちゃんも気にせんでなー。そんなんせーへんでも、ずっと友達やからなー」
刹那は嬉しさのあまり涙が流れそうになるのをこらえる。
「ありがとう。このちゃん」
「うちもやー。せや、明日麻帆良祭周る約束やけど」
「はい。周りましょう」
木乃香の言葉にしっかりと笑顔に戻して刹那は頷く。
「あーんそんな硬くならんでえーでー」
「あ、その申し訳」
「せっちゃーん」
わだかまりが解けたばかりでまだ硬さの取れない刹那であったが、きっとそれも今だけであろう。
ちなみに、
「やぱり私ってお邪魔虫?」
今現在すっごい居心地の悪い空間に取り残されたままの明日菜は、ただただ大人しく二人の空間が解除され続けるのを静かに待ち続けるのであった。
そして翌日、ひねりも不幸もなく木乃香と刹那の二人は仲睦まじく麻帆良祭を周ることになり皆を大変驚かせることになる。
~~~~~~
「はぁはぁ、しつこいなぁ」
時間は丁度刹那が目を覚ましたころ、怪盗Xは虚空瞬動までも駆使して浸す他逃走を続けていた。結果、今現在それに追いすがっているのは高畑のみとなっていた。
だが微塵も油断は出来ない。
「くっ! まずいなあ」
相手は確実にXを捕獲するために、無茶はせず一定の距離を保ちながら居合拳を放ち、Xの逃走方向を矯正しているのだ。無茶をすればそれに逆らえるが、そうすると今度も先ほどと同じ必殺が飛んでくるのは想像に難くない。
故に今はただただ素直に逃げながら策を考え出さねばならないのだ。
だがそう簡単に起死回生の一手等浮かぶわけがない。
「(うーんこのままじゃ罠に追い込まれるのは目に見えてるし……)」
いいかげん罠にいつか追い込まれるだけの追いかけっこにXは飽きていた。
「右手に気、左手に…… 危な!」
突破するためにXは先ほど見取った技を実験するがそれには大きな問題がはらんでいる。
「ま、いいか。後は野となれ山となれ」
だがXは目の前に発生した結界と複数の魔法使いを見て覚悟を決めざるを得なくなった。
「気と、魔力を!……合、成」
Xは気が遠くなるが、それを行う。
「まさか!」
高畑はそれに気づき居合拳を叩き込んだが、それによって防がれた。
「……咸卦法」
Xはまるで爆発したような衝撃を残しその場から消滅した。何が起きたか魔法使いたちが混乱する中、高畑だけは逃げられたと感じていた。
「今まで、おちょくられてただけ? それとも……」
だがそれでも高畑は怪盗Xの捜索を日が上るまで続けることを指示した。
~~~~~~
朝靄の森の中で彼は倒れていた。人気の無い森の中、魔力を使いはたし倒れていた。故に気がつかなかった。褐色の肌をし、口元をスカーフで隠した青年がゆっくりと、その怪盗Xへ近づいていくのを。