怪物強盗は好き勝手に生きるそうです   作:アシダカ伍長

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遅くなりすぎました


第24話:俺が何したって変わらないはず【異】

 「はい……わかりました。それではこちらで、はいそれでは」

 

 溜息をつきながら一人の男が電話を置いた。疲れた表情で眉間を押さえ苦悩する。立場上悩みの多い彼であるが、今目下の問題を考えて己の浅慮を悔やんでもいた。その人物の名は近衛詠春、関西呪術協会の長である。

 

 「私の判断ミス、そうとしか言えない……ですか」

 

 たった今受けた電話のせいで彼は大きく動揺していた。その電話の相手は彼の義父である近衛近右衛門、内容は麻帆良祭に現れた怪盗Xについて、さらに桜咲刹那の身柄を一時関西へ送るというものである。

 それは端的に言えば「護衛として役立たずと言える体たらくであった為一時的にせよ桜咲刹那を麻帆良から離さざるを得なくなるからどうにかしろ」というものであった。

 その要求は組織人であるから理解できるし口を挟めないものだ、がしかしそれをのむのは刹那と言う少女を苦しめることになるのはいうまでも無いために彼を悩ませている。

 

 「こちらも不穏な空気が蔓延しだしているというのに……」

 

 さらに現在、関西呪術協会内でも天ヶ崎千草を旗頭にした長に対する反対勢力が集まりだしているという話も耳に入っていた。今回の件はその勢力への後押しになりかねないがゆえに余計に気をもむことになっているのだ。

 そのようなことをいくらか考え、ふとある写真が目に飛び込んだ。

 『ぐだぐだむずかしいこと考えたってわからねぇんだ! だったら俺はやりたいようにやる!!』

 そんな声が頭の中に響く。

 それは死亡したと言われている親友の能天気な声。

 

「そう言えば、いつも難しく考えすぎだと言われてましたね」

 

 僅かに笑みをこぼしながら詠春は目をつむり思索する。自らがどうすべきか。否、どうしたいかと。

 目下の問題は関西呪術協会に表面化してきた反魔法協会派、その筆頭の天ヶ崎千草である。しかしそれ以外の問題は今は考慮する必要も無いと言える非常にシンプルな状況でもあった。

 

 「ははは、なんてざまでしょうか。こんな姿をもしナギやラカンに見られたら笑われるばかりでしょうね」

 

 そう呟くと天井を仰ぎ過去に思いを馳せる。

 よくよく思い出してみれば詠春自身も武者修行として魔法世界に行って、『紅き翼』の一員となって好き勝手していたのだ。それを思い出すと実に頭でっかちになったものだと自身を見つめなおす。そして、剣を振るうことばかり考えていた自分にそうそう難しいことが何でもできるわけがない。と、ある意味開き直ってしまった。彼もバカの集団紅き翼の一翼なのである。

 

 「さて、やることは意外と多いですね」

 

 決意を固めた詠春は一振りの野太刀を掴み外へと向かう。その間に、これからすることを頭の中でまとめていった。

 

 「(まずは刹那君のことですね。彼女がこれからどうするか直接話す必要が有りますが、西に戻るなら反発の声を抑えるように……否、失くすように手を回し、またこのかの元へ戻ってくれるなら義父へなんとしても受け入れてくれるよう頼みましょう)」

 

 まず真っ先に気にかかっていた娘の友人である刹那のことに結論をつける。

 そして外に出た詠春は野太刀を構え、全力に横薙ぎに振るった。

 いまだ現役でも通じそうな迫力を持っていたが本人はまったく納得はしていないようで顔をしかめている。

 そして上段に構えると何度か剣を振るいつつ再び思考を始めた。

 

 「(義父から聞いた今回の事件の顛末……怪盗Xを捨て置いたのは私の大きな失敗ですね)」

 

 しばらくして詠春は剣を振るうのを止めそれを掲げ、

 

 「怪盗X、私の娘とその友人を害したケジメ、必ず付けさせましょう」

 

 自らの剣に誓った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 「学園長め、一体、何を考えているんだ」

 

 人気の無いうらぶれた喫茶店。その中のさらに奥まった隅で、吸殻の山と書類の海を眺めつつ煙草をふかして高畑は一人ごちていた。

 彼がこんなところで書類と戯れているのには理由がある。麻帆良祭で起きた怪盗Xによる事件によって引き起こされた魔法について知らない二人の生徒への魔法バレ、それへの対応と説明を近右衛門様の物と表向きの物の二つを作らされているからである。

 そしてそれは近右衛門へ出すものは他の人に見られるわけにも行かないために、主に明日菜のためにわざわざ学校からはなれてさらに人気の無い店を選んで作業を行っているのだ。ちなみに、自分の部屋でこの作業を行わないのは、殺風景な自分の部屋で作業を行ってもイライラがたまりすぎて作業効率が落ちるからである。そしてコーヒー一杯で長々と居座られる迷惑は考えてはいなかった。

 

 「(学園長は一体何を考えているのやら)」

 

 高畑は天井を仰ぎながら本日何度目か分からないほど繰り返したことを考える。

 今回の事件で近右衛門に責任問題などの様々なマイナスの要素が襲ったはずなのだ。しかしそれであってもそれに対して当然のことであると、むしろ嬉々として対応しているように高畑には見えたのだ。どう見ても悪いことしか起こっていないはずなのにだ。

 

 「(やはりどう考えても何かが進行している。学園長の利益になることが)」

 

 そして今までも繰り返した同じ思考に行き着き、そして止まる。ここから先がいくら考えても今の高畑にはたどり着けない。情報が足りず、さらにかの老獪なぬらりひょんが隠していることなのだ。一介の戦闘屋でしかない高畑ではやはりこの先には踏み込めないのだ。

 こうして気分転換の思考遊びを終えた高畑は、喫茶店でまとめた明日菜と木乃香の育成方針に再び目を向ける。

 

 「(アスナ君は魔法より気の運用による前衛の動きを教えていくべきですかね。今は忘れさせていますが、咸卦法も簡単に覚えていたんだから。それに魔法は、ナギさんみたいに禄に覚えられそうにないし)」

 

 気がつくと高畑は苦笑していた。今の明日菜の学力を考えると呪文を覚えさせるのは一苦労しそうだと。それよりも身体を動かしたり感覚である程度どうにかなる気の運用に絞って教えたほうが明日菜のためになると。そしてあんちょこを見ながらしどろもどろで魔法を使う明日菜を高畑は幻視してしまい、頭を振って消し去った。

 

 「(反対にこのか君は後衛に適した魔法を教えていくことになりそうかな。僕が教えることはできないからこればかりはただ一案として出すしか出来ないけど)」

 

 そして木乃香の育成に関しては大雑把な一案としてまとめていた。もとより魔法の使えない高畑が魔法使いとしての素質の高い木乃香を教えるのは無駄が多すぎるからだ。しかも此処は日本において魔法使いの一大拠点である。近右衛門の孫の育成にふさわしい人材など近右衛門ならいくらでも用立てることは出来るのだ。

 しかしそれでも、長いこと現場の最前線を駆けた高畑であれば育成方針へのいくらかの助言はできる。大人としても、担任の教師としても一案ぐらいは出しておきたいのだ。

 

 「(やはり回復系と防御系を重点として、魔法の射手だけでも攻撃手段は持たせるべきだ。基本的な魔法であってもこのか君ほどの魔力があれば簡単に大魔法に変わるのだから)」

 

 そして高畑は木乃香に補助系ばかりでなく攻撃魔法を教えるという一案を持っていた。これはいざという時にただ無抵抗で耐えるだけではなく、油断をしたら反撃もありえるという状況に出来たほうがましであると高踏んでいるからである。しないとできないは大違いなのだ。

 もちろんコレにも若干のデメリットはある。木乃香が基本でも大魔法に匹敵する攻撃魔法が使えるとなると、場合によってはより強行で残酷な無力化を行ってくる可能性があるのだ。

 しかしそこまでいくと心配しすぎでもある。逆に木乃香を襲う下手人がいたならばその攻撃をどうにかする一手間が必要になりそれを問題ないとする下手人が出た時点で既に手遅れでもあるのだ。

 こうして高畑は戦闘屋として二人の育成方針を考えていく。

 そしてふと麻帆良から離れた刹那について思いを馳せ、己の教師としての不甲斐なさに溜息を吐いた。

 

 「(教師としてとか考えてたけど、生徒一人を失っているに等しい。教師なんて既に失格してるじゃないか)」

 

 高畑は近右衛門から聞いた話でしか刹那が麻帆良から離れた理由を知らない。しかしそれが自分が相談に乗って上げられるほどの信頼を取れていなかった証左のように感じ、麻帆良祭から堕ちた気持ちをよりいっそう落とさせた。

 何度か溜息を繰り返し気持ちを切り替えようと、室温と同じになって久しいコーヒーに口をつけ、非常に珍しい知り合いが喫茶店に入ってくるのが目に入った。

 

 「エヴァ?」

 

 エヴァンジェリンである。

 

 「あ? なんだタカミチか。こんなしけた喫茶店で何してるんだ?」

 「麻帆良祭での残業だよ。それよりエヴァこそ一人でこんなところに珍しい。常連?」

 「貴様は何を言ってるんだ? こんなしけた喫茶店の常連になんぞなるか!……ただの気分転換だよ」

 

 高畑の言葉にエヴァンジェリンはどこかいらだつような、しかしそれをぶつけまいとした複雑な様子で忌々しそうに舌打ちし、そのまま喫茶店を出て行こうかと踵を返す。

 

 「茶々丸君と何かあったのかい?」

 

 高畑が何気ないつもりで発した言葉にエヴァンジェリンはこの上なく激しい反応を示した。そして視線を高畑へ向ける。人をも殺せそうな視線を。

 

 「……本当に何があったんだエヴァ?」

 「ちっ……超とハカセのところにいるだけだ。貴様にあたることなど何も起きてはいない」

 

 そういうとエヴァンジェリンは高畑の席まで行くと散らばる書類の一つを素早く掻っ攫い軽く目を通す。

 その素早すぎる動きに高畑は咄嗟に反応し損ねた。

 

 「はっ! あの二人の今後の育成に関してか。高畑・T・タカミチの教えを受けられるとは贅沢だな?」

 「……何が言いたいんですか?」

 「さてな、特に何も」

 

 エヴァンジェリンはそう言うと店員に紅茶とケーキのセットを注文し高畑の正面の席に着く。

 

 「結局魔法に関わらすならさっさとしておけばよかったものを」

 「それでも! 僕はアスナ君には少しでも長く普通の生活を送って欲しかったんだ!」

 

 この言葉にエヴァンジェリンはただ硬直した。そっちのことであることに驚いたのだ。

 

 「……なるほどな」

 「エヴァにも、責任はあるんですよ」

 

 この言葉にエヴァンジェリンは溜息をつく。

 

 「それに関しては全部ジジイに責任がある、と言いたいが私も楽しんでいたことは否定しない」

 

 この反応に高畑は少々疑問符を浮かべた。何が起きているのかエヴァンジェリンは何か知っているかもと考えたのだが様子がおかしいためそれ以上追求できず押し黙った。

 

 「言いたいのはそれだけか?」

 

 そう言うとエヴァは丁度やってきた紅茶とケーキのセットに手をつけ、不満そうな表情に変わりながらそれらを平らげていく。

 高畑とエヴァンジェリンはそのまま会話もせずただただ時が過ぎていくに任せていった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 遠くに巨大な世界樹、西洋風な町並みが広がる学園都市を憎憎しげに眺めている者がいた。身に纏う衣装は所々血が滲むYシャツ一枚のみ、怪盗Xは麻帆良祭が終わった現在も麻帆良を遠くに眺めることが出来る位置に、着の身着のままで佇んでいた。

 

 「どうしてもこれ以上は進めないか」

 

 そう呟いたXは一歩踏み出そうとして息苦しそうに表情をゆがめた。それと共にすぐに足を引っ込め軽く咳をしながら喉もとに指を這わす。

 

 「コレが呪いかぁ。禁止範囲に入ると徐々に首を絞めていく。そして最後には斬首ってのはたぶん本当なんだろう。やられたなあ」

 

 その呟きは平坦な声色で発せられていたが、それは怒りを飲み込もうと感情を意図的に抑えているからであった。Xは大きな怒りを溜め込んでいるのだ。それもすべてぶつける相手がこの場にいないから仕方がないのである。

 

 「いいよ。ああいいさ。今回は俺の負けだ」

 

 怪盗Xはチャンドラとの邂逅時のことを思い出しながらただただ首元で指先を滑らす。

 

 「俺に首輪をつけて安心したんだろう。俺を良いように使える駒に出来たと、ほくそ笑んでいるんだろう。ああいいさ、今回は俺の負けだ。いいように動かされてやるよ」

 

 そういいながら怪盗Xは麻帆良に背を向ける。

 

 「でもなあ、俺は怪盗Xだ。一度決めたら絶対にやり遂げると決めてるんだ……あんたの首、かならずとってやるよ。近衛近右衛門」

 

 そして首のチョーカーを忌々しく指で引っかきながらその場から去っていった。




本当に遅くなって申し訳有りません
何があっても完結させる気持ちだけは有りますのでどうかお付き合いを

そして前話でお気に入り500突破、喜ばしい限りです
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