竜頭蛇尾感がすさまじくなってまいりました
「近右衛門、首輪の付いたXは麻帆良から遠く離れていったよ」
色黒の肌の青年チャンドラは、二人の人間しかいない学園長室で近右衛門へ淡々と報告を行っていた。
「ふむ、予想以上にあっさりと去っていったのう。麻帆良周囲にてひと悶着あるかもと覚悟はしたのじゃが」
「何?」
「ふぉ?」
近右衛門の放った予想外の言葉にチャンドラは疑問の声を上げる。その声に近右衛門もつられ素っ頓狂な声を出す。
「知ってて俺を使ったんじゃないのかよ」
この言葉を聞いて近右衛門はあごに手を当てしばし考え込む。その動きに演技のようなものはチャンドラは感じなかった。それは本気で、近右衛門は今得た情報を整理しているからこそであった。
「この期に及んでより興味深い情報が出るとはのう。まさかチャンドラ君が怪盗Xと顔見知りであるとは夢にも思わんかったわい」
「俺の記憶を読んだんじゃなかったか?」
近右衛門のそ知らぬ物言いにチャンドラは黙認していた事実を持ち出した。
「魔法なんて俺の常識外の力を使える奴らのトップが、記憶を覗いていないわけが無い。ほんの数ヶ月の付き合いでもそれくらいやる奴だってのは知ってる」
チャンドラは近右衛門が何を隠し、何を目的にいているのか全く読めていない。そして彼はある目的のためにある程度近右衛門の狙いを知りたいのだ。
「当初俺をあっさり受け入れたのもそれをしたからだってのは後で気づいた。そして俺はそれでも構わない。だから」
「常識的に考えればじゃが」
チャンドラの近右衛門への言葉を途中で遮り言葉を発した。
「組織の長が軽々に外部の者を易々と受け入れるわけにはいかん。じゃが優秀な者であり敵でなければ、引き込みたいと思うのは普通の思考じゃ。故に倫理に反することであっても記憶を覗くやからはおるじゃろう。無論わしはやっておらぬがの」
この期に及んで、とチャンドラは認めようとしない近右衛門の一貫性に、ある種清清しさを覚えた。
「チャンドラ君のように考えても仕方が無い。そして一つ教授しよう。記憶を除く魔法は確かにあるがせいぜいがたった今頭に浮かんだこと程度じゃ。人の記憶全てを読み取るには相応の大儀式が必要なのじゃよ。いざという時の参考にしなさい。聞きたいことは無いかの?」
チャンドラの質問は否定した上で無理やり話題にけりを付けられる形になった。チャンドラも一つ溜息をつきこれ以上の詮索を諦める。麻帆良最悪のぬらりひょんには弱みを持った状態では勝ちようが無い。
「報告は十分じゃ、これからも引き続き高音君たちとチームを組んでおいてくれ」
せめて近右衛門の痛いところを捕まえねば引き分けることすら出来ないのだ。
チャンドラは大人しく学園長室を去る。
「結局知ってたかどうかは答えてはくれないか」
シックスの下で動いてた彼だからこその踏み込み方への躊躇と見極めは普通ではない。そして危険への知覚もすぐれている。
「(同じ間違いはしない。今度こそ、手遅れにはしない)」
彼は自らの思いを内に秘めつつ表向きの仕事へと戻っていった。
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「一体、何が起きてるネ。わけが分からないヨ。こんなのどう対応すればイイ?」
たった一人で机に突っ伏しつつ、超は頭を抱えていた。その場所は彼女の根城のラボ。そして相方の葉加瀬は研究室にたった一人こもりっきりになってここにはいなかった。
「まだネギ・スプリングフィールドは麻帆良に来てさえいない。なのにどうして神楽坂明日菜が魔法に関わっていル? 近衛木乃香が魔法を学び始めル? 私のせいだとしても……わけが分からないヨ」
麻帆良祭終了から彼女はずっと考え込み、計画書をいくつか破棄、変更、再立案、そして破棄を繰り返していた。疲労はかなりの物になっていた。
「その上麻帆良祭から茶々丸が……やっぱり、私は、無能なのカ? 未来の知識なんて、クソの役にも、立ちはしないのカ……」
彼女の焦りも当然であろう。正史であればネギ・スプリングフィールドによって明日菜と木乃香の二人は魔法に関わっていきそして絆を深め、やがてはネギを英雄へと至らせる重要な一ピースとなったはずなのだ。今のままではそこに至るかかなり危ういように見える。超の焦りも当然であろう。
「キョージュを引き込む策も思いつかなイ。キョージュの目的がはっきりしなイ。無い無いづくしじゃないカ」
何度目かになる現状の確認を口に出しつつも、未だに有効的な代案は生まれてはいなかった。
「ふう、君ほど優秀な脳の持ち主が何を悩んでいるのだね」
思考の渦の中にいる超であったが突然かけられた声にハッとして顔を上げる。
そこにいたのは数多の謎を持つ要注意人物である英輔であった。超は笑顔を作って英輔に向き直る。
「突然何用ネ? 乙女の部屋に声もかけずに入り込むなんて」
「ノックもしたしハカセの許可ももらっているが気づいてなかったか。それに君は以前私に自由に立ち入る許可を与えていたと記憶しているのだが?」
この言葉にも超は笑顔を崩すことなく、フムと考え込むようアゴに手を当て、
「状況によるネ。乙女のあられもない姿を見せたくは無かっただけヨ」
「確かにあの姿は誰にも見せたことは無いものだったな」
そう言って互いにフフフ、クククと笑いあった。
「戯言はコレくらいにしておくネ。ようこそキョージュ。久しぶりネ。今日は一体何用カ?」
「特に用事は無いんだが。しいて言うなら君達のプランのダメージの確認でもと」
英輔の放った言葉に超は一瞬ビクリと反応を示した。
「フムフムなるほど。キョージュは私達のために態々足を運んでくれたのカ」
「ククク、少し気になることもあるからその確認だ」
超は軽口を交えているが英輔はそれを軽く流した。
「……申し訳ないが今はキョージュに話せることは無いネ。隠し事をすべて話して協力してくれるなら歓迎するガ」
「君達がそうしてくれるなら場合によっては対価として一考に値するのだが」
言い終わった超と英輔は互いに視線をぶつけ合う。
「だから戯言はもう飽き飽きネ。本題は何カ?」
「……茶々丸の様子はどうなっている?」
この言葉に超は苦い表情に変わった。
「医者には守秘義務があるヨ」
「何を隠そう私は医者だ。医者同士患者の治療に意見を出し合うのは問題にはなるまい」
突然の物言いに超はそれこそ驚愕に包まれた。どう聞いても冗談にしか聞こえない物言いに超は明らかに驚きの表情を見せる。
「キョージュ、一体どうしタ。いつものキョージュらしくないヨ?」
そう、英輔の言動が明らかにおかしいのだ。どう見ても英輔は茶々丸の現状を把握しようと動いている。
超はそこまでは分かってもその理由までは思い至らない。故に英輔の行動は異様なものにしか見えないのだ。
「……多少話をしてみるとイイネ。それくらいは構わないヨ」
しかし超はこれが英輔を理解する糸口になる可能性を考慮して許可を出した。英輔の言葉にたいした起伏は感じられないが明らかに焦りを思わせる行動を見せたからである。
許可を出した超はさらに奥まった研究室へ英輔を案内する。
その部屋で葉加瀬はモニターの前を考え込みながらウロウロしていた。
「……超さん、何かひらめきが、ってキョージュ! まさか超さんついに」
「残念ながらキョージュはまだ部外者ネ」
その言葉に葉加瀬は僅かに残念そうにしながら疑問符を浮かべる。
「でもここの立ち入りは」
「ただの面会ヨ」
そう言って超は英輔を奥へと案内する。そしてその先の作業台に横になる茶々丸の元へ英輔を導いた。
その作業台の上で茶々丸はその後頭部や胴体までも開け放たれておりメカメカしさが前面に出ていた。
「……あ、春川さん」
「茶々丸君、加減はどうかね?」
意識はあるようで茶々丸は横目で英輔の存在を認識し悲しそうな声色で反応を示した。
「ただいまメンテナンス中でして、お構いできず申し訳有りません」
「気にする必要は無い。分かっていて私が押しかけたのだから」
英輔はまるで普段と変わらないように話しかける。
「そういえば最近はすれ違うことも無かったな」
「春川さんと会うのはラボばかりであると記憶しています」
その言葉を聞くと安心させるつもりの怪しい笑みを英輔は向ける。
「あまり長話もよくないな。メンテナンスが終わればまたここでお茶でも入れて欲しいものだ。君の入れるお茶は常に変わらず私好みのものだから気に入っている」
「ありがとうございます。メンテナンスが終わればまたかなら」
そして突然茶々丸は会話を止めた。
「ハカセ!」
「やってます!……やはりモニターには何の変化も見られません! 茶々丸は現在ただ黙っている状態です!」
「っ! キョージュ! 茶々丸に何かしてくれないカ!?」
まくし立てるように超は英輔に指示を出す。指示された方も超の剣幕に押されるようにそのまま茶々丸の頭を何度か撫でる。
「反応皆無! やはり黙ったままと表示されます!」
「他のモニターは!?」
「変化なし! 異常は観測されません!」
葉加瀬と超の剣幕を、英輔は納まるまで黙って見続けるしか出来なかった。
そしてその剣幕は、数分後に茶々丸が声を発するまで収まることは無かった。その後三人ともがその部屋から出て、隣の部屋にて茶々丸の病状を話し合うことになった。
「いつからだ」
最初に言葉を発したのは英輔であった。英輔は茶々丸の症状をただ創造しているだけで確証を得ているわけではない。故に英輔はまず状況把握から始める。
「……はっきり症状を自覚したのは五月上旬。ここまで悪化したのは麻帆良祭終了後。それも落っこちるように急激に、突然にネ」
「そのころのデータも有ります、が役にはたちませんよ」
「……原因に心当たりは?」
二人の言葉を聞いた英輔は静かに次の質問をした。しかしその声には僅かに震えがあったことに超だけは気づいたが。
「エヴァンジェリンが言うには、怪盗Xを見た直後から身動きをしなくなったそうネ。それ以来突発的に意識喪失と覚醒を繰り返してるヨ。それ以外にはなんとも……」
「怪盗X……か」
英輔がその名前を呟いたとき、超はその表情をじっとみていた。その表情はまるで特大の異物をみとめたかのようであったため、超は多大に興味を持つことになる。
「キョージュ」
「二人とも……一週間だ。茶々丸君の治療の道筋を立てる」
超は問いかけようと意を決した時、被せるように英輔は宣言した。その表情はすがすがしく、覚悟を決めた物であることを確信させるものである。
「ふむ、何か思い当たる事でもあったカ?」
超が疑問に思うのも当然であった。以前、超が引き込もうと誘ったときは曖昧な返事で断っている。
「いいや似て非なるものだ。だが」
「残念ながら関係者以外は立ち入りは御法度ネ。キョージュ、茶々丸を治してくれるならありがたい。でも、共犯者以外にいじらせるわけにはいかないヨ」
超のみせる表情は拒絶を表していた。英輔の異常性は超たちには未だ納得できる結論を得ていないため下手に手を出すわけにはいかないためである。
「……たしかにその通りだな」
「話が早くて助かるヨ。キョージュは茶々丸の快復を祈ってくれれば十分ネ」
そう言い合うとしばし沈黙が続いた。
「確かに私のことを何も話さずに関わるなど受け入れられまい」
くくくと不気味な笑い声をあげ、
「次此処に来るとき……すべてを語ろう」
すべてを受け入れたすがすがしい顔でそう言いきった。