怪物強盗は好き勝手に生きるそうです   作:アシダカ伍長

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第26話:こんなふうにする気は無かったんだ【悔】

 「さて、二人とも準備はいいかな?」

 

 草臥れた雰囲気を纏わせた男、高畑が二人の少女、明日菜と木乃香に試すような声で最終確認をしていた。

 場所は魔法関係者のみが知る麻帆良に点在する訓練施設の一つである。

 

 「今日から僕が気の使い方等の基礎を教える。このか君には申し訳ないけど魔法先生の都合がまだ付かないからしばらくは僕が魔法に関しては教えることになる。基礎は学んでるからそこは安心して欲しいかな」

 

 高畑は普段と変わらない笑顔に二人は安心して頷くと共に「はい」と返事をした。そして高畑は持ってきた荷物の中から初心者用の杖を明日菜と木乃香に手渡す。

 

 「まずは初心者のための基本的な呪文をマスターしてもらう。アスナ君もこのか君と一緒にやってみるといい。呪文はプラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデスカット)だ」

 

 高畑に促され二人共緊張した面持ちで杖を構える。明日菜は高畑の前であるからこその緊張、そして木乃香は必死な思いであるからこその緊張だ。

 

 「「プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデスカット)!」」

 

 二人は声を揃えて言われたとおりの呪文詠唱を行う。しかし何も起こらない。

 

 「高畑先生、何もおきひんよ」

 「私も何も……」

 

 その結果に二人共落ち込んだ表情を見せるが、高畑は苦笑しつつ、

 

 「それは仕方が無いんだ。さすがにひさ、最初の一回目では成功はしない。何度も繰り返して徐々に魔力の運用を感じとってようやく成功するもんだからね」

 

 その結果への説明を行った。

 何度も繰り返す、この言葉に木乃香は気を取り直して再び杖を構える。

 

 「プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデスカット)!」

 

 木乃香の二度目の挑戦も結果は出なかった。それを見て明日菜も同じく杖を構える。

 

 「「プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデスカット)!」」

 

 再度声を揃えて呪文詠唱を行うがやはり結果は変わらなかった。

 その後も何度も何度も呪文詠唱を行うが結果は同じであり、途中何度か明日菜は休憩を挟みつつも二人共一時間近く詠唱を繰り返した。

 

 「プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデスカット)!」

 「プラクテ・ビギ、ゲホッゲホ…… 高畑先生、やっぱりできません。えっと、早く上達するコツって無いんで、しょうか」

 

 何度も同じことを繰り返すも結果が出ないことに二人共の表情が焦りの色を帯びる。特に木乃香はそれが顕著であり明日菜の高畑への問いかけに意識を向けつつ詠唱を繰り返す。

 

 「全くの素人が一日二日で出来るものじゃないから仕方が無いんだよ。気分転換を挟みつつ根気良く繰り返すのが結局一番の近道なんだ」

 

 この答えに木乃香は再び詠唱を繰り返す。そして高畑は木刀を手に持った。

 

 「このか君も根を詰めすぎないほうがいい。ほらアスナ君、気分転換に身体を動かしてみよう」

 

 高畑はそういいながら明日菜へ木刀を手渡す。

 

 「アスナ君、自由に打ち込んでみるといい」

 

 この言葉とともに高畑も打ち込みやすいように木刀を持って構える。明日菜は高畑へ打ち込みを行うことを若干躊躇しつつ遠慮がちに打ち込みを始めた。

 その様子を横目に木乃香は詠唱を繰り返す。

 

 「このか君も適度に休憩を入れつつやったほうがいい。アスナ君はもっと思いっきりやって」

 

 二人の様子をちゃんと見つつ高畑は指導を入れる。途中何度か気や魔力を感じるための精神統一などのやり方を教えて身体を休めさせるなどの配慮をし、一時間ほどたったところで高畑は一息つけると二人に視線を向ける。

 

 「今日のところはここまで」

 

 そしてその日の訓練の終了を宣言した。

 身体を動かしていた明日菜は当然のことながらかいていた汗をぬぐい一息つける。そして木乃香も集中し続けていたため額に同じく汗を滲ませていたが高畑へ視線を向ける。

 

 「高畑先生、もう少しだけやらせてほしいんやけど」

 

 すでに喉を枯らせ始めたにも関わらずお願いをした。

 

 「このか君、やりすぎはよくない。このあとは休みなさい」

 

 だが高畑は木乃香の懇願を聞かずに終わりを告げる。硬くした表情での答えに木乃香はもの足りなさそうに、残念そうな表情でしぶしぶ従った。

 

 「このか君が真剣なのは分かるけど身体を休めるのも必要なことだからね」

 「そうだよこのか。うん、一歩一歩やって行こ」

 

 二人の優しい言葉に木乃香は表情を明るくして頷きとりあえずこの場での後片付けを始める。

 

 「それと二人共、魔法の練習だけど、魔法を知っている人が見ていないところで練習するのは禁止する。これは絶対に守るように」 

 

 高畑の言葉に明日菜はうなずくが木乃香はビクリと反応した。

 

 「このか君……これだけは絶対に守って欲しい。学園長からの指示でもあるし、関東魔法協会理事長の指示でもあるんだ。コレを破ると、罰しなくちゃいけない」

 

 この言葉に木乃香は表情を歪めるが高畑も悲しそうな表情で互いに視線を交わす。

 

 「高畑先生、魔法の練習するんには先生に言わへんとあかんの?」

 「そういうことだ。失敗して怪我をするかもしれないし、一般人に見つかったときのフォローも君達ではできないからコレだけは絶対に守ってくれないといけない」

 

 高畑の真剣な表情に木乃香は問答は無意味と悟った。

 

 「せやったら明日はいつ頃なら」

 「残念ながら明日から用事があって、練習を見ることは出来ない」

 

 この言葉に木乃香は「えっ!」と表情をこわばらせる。

 

 「学園長が教師役を決定するまで、魔法先生のなかでは僕が見ることになってるけど、本当に申し訳ないが不定期になりそうなんだ」

 

 この宣言にやはり木乃香は衝撃を受けていた。

 

 「うち、早く魔法使えるようになって、せっちゃんを……」

 「気持ちは分かるけど、焦らずにちゃんとやっていくんだ」

 

 高畑はそういって木乃香を慰めてこの訓練施設を片づけていった。

 しかし高畑も、「魔力や気の流れを感じるように訓練するだけでも十分訓練になるから、施設外でもそれだけは許可するよ」と完全に何もかもを禁止はしなかった。

 だが木乃香はそれだけでは満足しない。一日でも早く認められる力を身につけて刹那を呼び戻したいのだ。

 部屋に戻っても木乃香は少しでも多く練習するために何か手はないかと考える。

 

「このかぁ、そんなに根つめないほうがいいよ」

 

 木乃香のあまりにも必死な様子に明日菜も不安をつのらす。木乃香もその明日菜の様子に自分勝手に考えてばかりだったと気づいた。

 

 「ごめんなーアスナー。でも、うち、もっともっと練習がしたいんよ」

 「でも高畑先生も言ってたじゃん。休めるのも練習だって」

 

 明日菜は高畑に言われた最もな言葉で木乃香に注意する。

 だがやはり不満そうで、木乃香はよりよい練習の手段を考える。

 

 「せや、葛葉先生も魔法は知ってるはずや」

 「え? 何で?」

 

 木乃香の唐突な発言に明日菜は疑問符を浮かべた。

 

 「Xが葛葉先生に化けとったとき、刀を持っとったやん。一般人はそんなのもっとったらあかんやん。せやから葛葉先生はたかはつぇん生徒同じ魔法先生やろ? せやから葛葉先生が見てくれれば練習しててもかまへんはずやー」

 

 木乃香はつい先日のことを思い出し案を一つひねり出した。

 

 「でも、もし違ってたら、怒られるんじゃ」

 「大丈夫。おじーちゃんに聞いてみればいいんよ」

 

 明日菜の不安は木乃香のあっけらかんとした返答に霧消した。

 

 「そっか。別に知らない人にばれなきゃいいんだ」

 「せやー」

 

 そして善は急げと木乃香は即座に近右衛門に連絡を取る。

 

 「おじーちゃん、聞きたいことがあるんやけど」

 『突然なんじゃ、このか』

 

 木乃香の突然の電話にも、近右衛門は優しい声で反応した。

 

 「その、魔法のこと何やけど、高畑先生だけやのーて葛葉先生にも練習を見てもらいたいんやけど」

 『ふぉ? 高畑君が言っとったのか? 残念じゃが葛葉君はしばし病気療養じゃからそれはできぬよ』

 

 木乃香の思いついた案はいいようでうまく行かない。

 確かに葛葉先生に見てもらう案は問題は無いように思えたが、肝心の彼女は療養中であったことを二人は知らなかったのだ。

 

 「あーそうなん?」

 『残念じゃがのう。それに今このかのためにスケジュール調整をしておるでの。それが終わるまでは高畑君くらいしか時間の空く者はおらんのじゃ』

 

 近右衛門は木乃香の言いたいことを察して先に伝えることを伝える。

 

 「そうなんかー。おじーちゃんありがとーなー」

 『ふぉっふぉっふぉ、かわいい孫のためじゃ。そうじゃちょうどよかった。お見』

 

 木乃香は聞きたいことを聞いたため近右衛門の話の途中で電話を切った。

 

 「アスナーうまくいかへんかった」

 「やっぱ簡単には行かないよ」

 

 木乃香は高畑の言ったとおりにするしかないのかとため息をついたとき、もう一つ案を思いつく。

 

 「たつみーに見てもらうんはどうやろ?」

 

 それはクラスメートの関係者に見てもらうというものであった。

 

 「それっていいの?」

 「高畑先生はあかんとは言うておらへんよ」

 

 木乃香の言葉に確かに魔法を知ってる人が見ているところで、と高畑が言っていたのを明日菜は思い出した。

 

 「さすがにダメなんじゃない?」

 

 だがさすがにそれは、と明日菜は木乃香に意見した。

 

 「もしあかんなら注意されてからごめんなさいすればいいんよ。高畑先生が言ったとおり、魔法を知ってる人の前で練習するだけやし」

 

 そう言ってイタズラっこの表情で木乃香は笑ったが、明日菜は木乃香が黒くなったと親友の変化に戸惑いを隠せなかった。

 そして翌日。朝早く木乃香は教室に向かい、真名が来るのを待ち構えていた。

 そのあまりにも行動的な木乃香に、真名もさすがに受け流せず、昼休みに詳しく話を聞く羽目になった。

 

 「というわけでな、たつみーにうちらの魔法の練習を見ててもらいたいんよ」

 「というわけで、と言われてもなあ」

 

 そして昼休み、木乃香と明日菜と真名は車座で話し合っている。

 

 「高畑先生の都合が付かへんときだけでええから。お願いや」

 「しかしなあ」

 「私からもお願い。このかがここまで必死なのは見たことないでしょ? 助けると思ってさあ」

 

 必死の懇願ではあるが真名にとっては厄ネタでしかない。近衛木乃香の魔法練習の監督などと言う責任を個人的に受ける気には全くならないのだ。

 

 「はっきり言っておくが、私は魔法に関しては基礎的なことを知っているだけで一芸特化なんだ。そんな私が教えても二人のためにはならない、むしろ害になる可能性がある。特に近衛は才能があるから正統派な魔法使いの教えを受けるべきだ」

 

 そう言って真名は申し訳なさそうに肩をすくめる。そう説明されると木乃香も目的には適さないということには気付き表情を暗くする。一方面倒事を回避できたことに真名は内心ほっとしていた。

 

 「このか、やっぱりじっくり」

 「エヴァちゃんって魔法使いやったよね?」

 

 突然の言葉に明日菜は疑問符を浮かべるが真名は呆気にとられる。

 

 「……まあ確かに、そのとおり、だが」

 「ありがとーなーたつみー」

 

 木乃香はそう言うと気持ちを切り替えて笑顔になっていた。そして真名は一気に冷や汗を流す。まさかと想像して。

 

 「あすなー、うち次はエヴァちゃんに頼んでみようと思うんやけど?」

 「もう。分かったわよ、とことんまで付き合うわよ」

 「あ、ちょ、まっ」

 

 そう言うや否や二人は真名へ手を振って駆けていった。そして真名はただ一人取り残されてただただ呆けるしかなかった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 「奥義斬岩剣!」

 

 気迫の篭った声と共に少女は剣を振るう。

 

 「づっ! あっ! っぶな!」

 

 その剣を紙一重で少年は避けていた。少女の振るった剣は少年の足元の岩を大きく斬り裂いている。

 

 「ちぃっ!」

 「隙有りや!」

 

 そして少年が紙一重でかわしたことで生まれた少女の隙を付く。剣を振りぬいた少女の懐へもぐりこみ、

 

 「喰らえ、狼牙!」

 「がっ!」

 

 掌底に似た突き、少女はそれをもろに腹にくらい大きく後ろへ吹き飛ぶ。だが、少女は大きく吹き飛ばされたのにもかかわらず危なげなく着地した。

 

 「しもた!」

 「神鳴流奥義、斬空閃弐の太刀!」

 

 つまり吹き飛んだのではなく自ら跳んだのだ。そして今度は逆に少女が隙を付き剣撃を飛ばす。

 

 「っておおおおお!!」

 

 そして少女の飛ばした斬撃は、無茶苦茶に回避した少年をはずれすぐ近くの大地にそのまま着弾した。

 

 「はあ、はあ……刹那姉ちゃん! おもっくそ普通の斬空閃やないか!」

 「……すまない、失敗した」

 

 少年、犬上小太郎の突っ込みに、少女、桜咲刹那は表情を暗くしながら謝罪した。この失敗によって二人の間の張り詰めた空気が霧散する。

 

 「ったく、まあええわ。ここらでいっぺん小休止や」

 

 そう言うと小太郎はそのまま地面に座り込む。刹那もそのまま小太郎に続いて同じく腰を下ろす。

 

 「しっかし刹那姉ちゃん、弐の太刀なんか練習しても実戦じゃあんま使えんとちゃうんか?」

 

 小太郎はただ休むだけではなく自らが感じていた疑問を口にした。小太郎としてはイマイチ弐の太刀の使い道が想像できないのだ。

 

 「立場によって技の有用性は変化するものだ」

 「立場ぁ?」

 「そうだ。私は護衛……だった。だから、斬りたくないものを斬らない剣閃は私に必要……だった」

 

 小太郎の疑問に答えていた刹那であったが自分の現在の立場を改めて理解しどんどん表情が暗くなっていく。

 

 「だあああ! いい加減にせぇや! 刹那姉ちゃんは今! 弱かったからここで鍛えなおしてる! 強うなったらそれでええやろ!」

 

 小太郎は刹那がたまにうじうじと暗くなっていくのがイマイチ好きになれなかった。否、むしろ悩んでうだうだ言うのは小太郎の性に合わない。しかし刹那の腕は本物なのだ。そして刹那ほど腕のたつ相手との鍛錬など早々できるわけではないため、刹那をある程度なだめながらという手間のかかることをしているのだ。

 

 「そうだ、な。ぁ、こんなんじゃ、このちゃんの元に戻れるのはいつになるやら」

 

 刹那が再び大きく溜息をつく。

 

 「ああああっ! もう休憩はええな! 刹那姉ちゃん! さっさと準備せえ! 時間がかかりそうなら鍛錬の時間増やせばええんや!」

 

 刹那の溜息をかき消すかのように気合を入れる声を上げながら小太郎は立ち上がり刹那を見下ろした。

 

 「確かに、そのとおりか。すまない小太郎」

 「わーたらやるで。刹那姉ち、あーもう刹那! さっきと同じとこからいくで」

 「ああ」

 

 そう言って示し合わすと小太郎は一旦刹那と距離をとるため離れていく。

 刹那は首もとを二、三度かきながらふと手元を見やる。

 

 「(詠春様、学園長。新たな技と実力を身につけて、そのとき伺います。再び、お嬢様の護衛として、友として傍にいることをお許しくださるように)」

 

 刹那は詠春から譲り受けた夕凪の刀身を見つめながら自らの願いと思いを再確認した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 「ついに、きましたか」

 

 書類を次々と処理する中たった今手に取った書類を見て、関西呪術協会の長、近衛詠春は深い深い溜息をついた。

 原因はその書類の中身である。

 

 「さて、どうしたものか」

 

 それは、現在麻帆良に送ることが問題なく出来る木乃香の護衛候補達であった。

 

 「刹那君の続投は現状不可能ですし、先ほど直接、いまだケジメを取れていないと本人も言われ……どうしましょうか」

 

 口に出しながら現状確認を行い、ゆっくりとした動きで護衛候補達の書類に目を通していく。

 

 「(……ここまで、問題がくすぶっていたとは)」

 

 詠春はその候補達を見て眉をしかめた。誰も彼もが一癖二癖あるようなものばかりなのだ。

 

 「(意図的でしょうね。……まさか問題を起こさせこのかの身を大義名分に使、いや……義父さんがこのかの身を害することをするわけが無いか)」

 

 詠春は悪い考えをいくつか浮かべ若干血の気を引かせる。さすがに大戦の英雄といっても実の娘の身が懸かっていると普通の父になってしまうのだ。

 

 「……彼女しか、無いですね。実家に頼るのが一番と言うことですか」

 

 癖の強い護衛候補の中で唯一、契約を全うしてくれることが確信できる神鳴流剣士。詠春は結局その少女を選んだ。

 

 「神鳴流であるならば雇い主の意向は絶対に間負ってくれるでしょうどれだけ面倒でも」

 

 詠春が頭に浮かべるのは刹那とは似ても似つかぬ剣士であった。

 

 「彼女も麻帆良で、少しは人格が矯正されれば良いのですが」

 

 そう一人ごちた。

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