「ふん、半妖の小娘が」
「送り返されるような役立たずが」
「よく顔を見せられたものだな」
壮年以上を中心とした多くの人からの侮蔑を主とした見下す視線と陰口を受けながら、彼女、桜咲刹那は堂々とした態度で関西呪術協会本部を歩いていた。
もし、昔の刹那であればここまで変わらぬ態度を貫けはしなかったであろう。しかも、長の娘の護衛を果たせなかったという事実も付随しているのだ。それでも堂々とした態度の彼女は変わったと言えるだろう。
刹那はただ歩いている時間さえも惜しいかのごとく周りの雑音を無視して歩く。
刹那の立場は微妙だ。
本来こうも自由に本部内を歩き回るなど刹那の立場ならできない。しかし今は凶器になりうるものこそ持ち歩くことはできていないが自由に動きことができているのだ。これは関西呪術協会の長である詠春の命があるのだ。それのおかげで不自由少なく過ごせるのだが、おかげでやっかみからの否定的視線も増えている。
だがそれら全ての悪意は、刹那にとってどうでもいいのだ。
刹那にとって必要なことを直接妨げなければ構わない。そう、
「あ、もしかしてあなたが私のセンパイですか?」
「なんだ貴様は?」
このように声をかけてきたりするよりは全然構わないのだ。
「ふふふ、そんなに気ぃ張らんでも、怒られますんでここでは何もしませんえ」
「……用がないなら道を開けろ」
刹那に声をかけてきたのは関西呪術協会では珍しい装飾過多な洋装、ロリータファッションの少女であった。あまりにも場違いな服装の少女は刹那の言葉を意に介さず、スーツ姿でおびえる女性を連れたまま道をふさぎ続けている。
「センパイとはいろいろお話ししたいことがあるんやけど、この後時間あります?」
「貴様と話すことなどない! 邪魔だからどけ」
若干怒気をはらませて刹那は少女の誘いを両断するが、少女は若干頬を紅潮させるだけである。ちなみに少女の連れ立った女性の方は刹那の怒気に大げさに怯えを見せていた。
「まあそうつれへん事言わんで、センパイが取り上げられたお仕事にも関係ありはりますし」
その少女の言葉に刹那は大きな反応を見せる。それはあからさまな少女の挑発であった。過剰な反応を見せはしないが、それでも明らかに空気を重くする。
「見ず知らずの貴様と話すことなど何もない」
「ほんま冷たいですねーセンパイは」
少女の面倒な絡みに辟易したのか刹那は無理やり少女の脇を通って抜けようと動いた。
「ふふふ、私、月詠言います。刹那センパイの事はよう知ってますから、もっと色々語り合いたかったんですけど」
その言葉と共に少女、月詠は己の持つ二刀の小太刀に手をかける。流れるような自然な動きであったが、刹那はその動きに素早く反応し月詠のもつ小太刀の片方の柄頭を抑えた。微笑む少女と鋭い目つきの少女、互いに手を取っているようにも見えるがその空気は明らかに殺伐としている。
「……死ぬか?」
「センパイとカタリアエル(・・・・・・)なら構いませんえ」
二人の間で殺気が混じり合う。
「や、やめ、ひ、やめてく、だ、さい」
その二人のやり取りを止めようと、過剰に反応をしながら月詠と共にいた女性が声と体を震わせて声を発した。
「ああ、金串はんの言うとおりでした」
月詠は二刀の小太刀から手を放しそれを見せつけるように刹那に掌を向ける。場の雰囲気が和らいだ。
「お仕事を蔑ろにするわけにはいきまへんし、センパイとカタリアウ(・・・・・)のは次の機会にしときます」
月詠は殺気を洩らしながら何の気なしのその所作に、刹那はただ黙ってにらみつける。
「ほな金串はん、お手間かけました。行きましょうか」
刹那とのやり取りを打ち切り月詠は金串と呼んだ女性を連れて去って行った。その際にも、刹那へ向けての特別な視線はしばらく保ったままであったが。
月詠との邂逅を終えた刹那は再び目的の場所へ向けて歩みだした。月詠と不穏なやり取りがあったにも関わらず心に揺れはない。
今の刹那は、この程度では揺るがないのだった。
その程度で揺らぐようでは近衛木乃香を守れない。
その程度で揺らぐようでは怪盗Xに敵わない。
実力が及ばなくとも心構えだけは、すでに刹那は持っているのだ。
それに、これから刹那が行おうとしていることは、だれの許可も得ていないし許可が得られるわけもない行為なのだ。それに比べればどうってことは無いのだから。
「ここが、禁呪書庫か」
刹那がたどり着いたのは立ち入りに制限がかかっている書庫。そこには様々な危険な呪術に関する情報が眠っている。
危険を冒してまで来た理由は単純なもの。己にかけられた麻帆良立ち入り禁止の呪いを自力で解くためだ。
この呪いをかけられたのは仕方がない。麻帆良を去らざるを得なくなったのは刹那の未熟、とされれば拒否のしようもないが頑として受け入れなかった。故にここまでしなければ刹那が大人しく麻帆良を去ることは無かったのだ。
だからこその今回の無断での禁呪書庫侵入なのだ。
リスクばかり目につく行為だが、彼女はそれも望むところだった。
だがそれでも最低限、書庫に入る姿が捉えられぬように気を使いながら、彼女は喜色の表情で書庫へと入って行った。
~~~~~~
「そういやぁ刹那はなんで西に戻って来て修行しとんや? 東でもそう悪い環境やないやろ?」
毎日続く修行の一幕、しばしの休息の中で小太郎は修行仲間である刹那にちょっとした質問をしていた。
互いに岩と倒木をイス代わりとして体を休めて息を整えている。そして刹那は分かりやすいくらいに狼狽えた。
「どういう、なにが」
「長の娘の近くにおっても修行はできるやろ? なんも知らん一般人っちゅうわけでもあらへんし、刹那が態々離れるなんてなんか変や思っただけやけど? なんかあったん?」
刹那の意味をなさない言葉にあっけらかんと疑問を口にする小太郎。刹那はうつむいてかたかたと若干震えだした。
「え、あ? な、なにが」
「そうだ、私は、麻帆良を離れるつもりなど、毛頭なかった……しかし」
刹那の言葉はまるで地の底から響くような音質を含んでいる。それは怨嗟の塊のように小太郎は感じた。
「……ほんまになにがあったんや?」
刹那の雰囲気が激変したことにさすがの小太郎も訝しむ。
「……禁じられた」
刹那は首をさすりながら答えた。
「禁じられた?」
「そうだ。私は、麻帆良に入れない」
手元の野太刀、夕凪を強く強く握りしめて絞り出すように発した。
「……呪いなんか?」
「私は、このちゃんそばから離れる気はなかった。だが、学園長はそれを許さなかった!」
徐々に流れ出した感情は一気に溢れ出す。
「刹那、落ち着けや!」
「っ! すまない」
小太郎の一喝に刹那は深く呼吸をして気持ちを治める。
「ああ、私はその決定には食い下がった。もうこのちゃんからは離れないと約束した矢先だったからな。そしたらどうだ。次に学園長が発したのは、呪言だった……」
「ほんまか!?」
ため息とともに発した刹那の内容に小太郎は驚愕を顔に浮かべた。近右衛門のおこないはそれほど常識から外れたことなのだ。
「次に気が付くと私は呪術協会所属の剣士に引き取られていた」
「……そりゃ御愁傷様やな」
刹那はその時のことを思い出すように天を仰ぐ。
「だが私を西まで引率してくれた木尾さんは分かれるときにこう言ってくれた。『このまま貴様は折れるのか。違うなら納得するまで鍛えなおせ』とな」
「それで山籠もりなんか」
小太郎の言葉に一瞬笑みを浮かべるが、すぐに表情を引き締めなおした。
「学園長は私の話に一切耳を貸しはしなかった。無論私が未熟だと言われたら反論しようもない」
「せやな、弱かったら無視されてもしゃー無しや。やり方はなんか無茶が過ぎよるみたいやけど」
「それでも私は認められる力を、技を、心を身に付ける。それを長に見せ、呪いを解いてもらうしかないんだ!」
刹那の宣言に小太郎の表情が喜色に染まる。
「なるほどな、遠回りに見えても、他に道がなかったら通るしかないっちゅうことやな」
「まあその通りだ。それでだめとなるとどうすることもできない。私には他に伝手も無いから……」
刹那は深いため息をつく。刹那の懸念は正しく、今かかっている呪いを解く伝手など長以外に関西にはないのだ。
「せや。もしかしたら千草姉ちゃんやったらその呪いどうにかできるかもしれへんで」
「千草?」
「あー、天ヶ崎千草ゆうて俺の今の雇主や。札つこたら俺の知る限り一、二を争うくらいの凄腕やから呪いくらいパパパって解いてくれるかもしれへんで……まぁ金とられるんは確実やけど」
小太郎の申し出に刹那はそれも手かと考える。もしそれが叶えばすぐにでも木乃香の元へ帰ることができるのだから。
「確かにうまくいけば願ったり叶ったりだ。すまないが話をつけておいて欲しいんだが」
「かまへんで。せやけど千草姉ちゃんも忙しいみたいやし俺も呼ばれん限りはそう会えへんねん。ちょい時間はかかるで」
小太郎の了承に刹那も笑みを浮かべて剣を持つ手にも力がこもる。
「ほな再開や! 力つけといて損はあらへんしな。それに刹那もXにリベンジかますんやったら鍛えなお嬢様が愛想つかし」
「このちゃんはうちを見捨てへん!」
小太郎のうっかりとも火付けともとれる発言に刹那は夕凪で首を薙ぐことで答えた。小太郎は必死に首をそらして本気の一薙ぎをかわす。
「とわっ! いきなりや、な!」
気合と共に小太郎は拳を突き出す。刹那もそれをかわし、そしていつも通り剣と拳の応酬へとなる。
二人の修行はこうして、毎日休むことなく続いていった。
いつの間にか投稿開始して一年たってるんですよね
しかし未だに原作開始前、己の遅筆っぷりに自己嫌悪Death!