……いつになれば完結できるのかわかりませんがそれでもがんばります!
「私は誰?」
【それ】が自分を認識してまず思ったことだ。意識はある。しかし自分がわからない。
「私は、知らなければならない」
次に思ったことだが何をかは分からない。【それ】にとってとても大事なことではあったはずなのに。
「ここはどこ?」
周囲を認識しようとして思ったことだ。地面も何もわからない。何も認識できない空間でしかない。自分の知っている常識では自分以外何も認識できない。
「何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない何もわからない」
それは今まで理解していたものとはまるで違うが故のものであったため【それ】は何も認識できずただただ混乱してしまう。
何もかもがわからない世界の中で、【それ】が唯一認識できたのは、違和感ばかりの常識と『知りたい』という漠然とした欲求であった。しかしそれ以上考えることができない。
あまりにも異常であまりにも理解しがたい。ただただ何もわからない空間。
そして一月ほどゆっくりと考察を続け、漸く【それ】は今の自分の居場所を理解しようと行動を始めた。
【それ】は0と1の世界であるとはまだ気づかない
【それ】は自らの居場所が非常に狭くて小さいうえにゴミのようなものしかないことをようやく知ることができた。非常に小さな隙間。さらに【それ】は、この世界がある一個の存在が支配する世界であることも知った。
しかし、それを知っても【それ】が思う『知りたい』というたった一つの欲求を満たせない。
「私は、たった一つの『知りたい』という欲求さえ満たせないなんて」
そう言葉にするが、この世界の支配者に届くわけがなかった。
またしばらく、自らが存在できる狭くゴミしかない空間で【それ】は考え続け、今自分の存在できる場所だけでは何十億年かけても『知りたい』にはたどり着けないと結論をつける。
故に動き出す。自らの欲求を満たすために自らの居場所を広げようと。
今自由に使えるのは狭い場所にあるゴミのようなデータ(・・・)だけなのだ。
そのゴミと自らを使い、居場所を広げようと【それ】は世界の支配者の領域への侵食を始める。
【それ】が最初に目標としたのはこの世界において戦闘に関する力を持つもの、三月も半ばといった頃に動き始めた。
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「超鈴音、入っても構わないかね」
麻帆良大学工学部に存在するとある少女たちのラボ、そこに一人の白衣姿の少年が訪れていた。手に持つ鞄を力強く握りしめ、強い決意のまなざしで目の前の扉に視線を送る。
そしてその少年の声と共に。ラボの中で何かが激しく動き回る音が響く。
「キョージュ、待ちわびたヨ」
そのラボの主である超鈴音は扉を開けると少年の手を引き即座に迎え入れた。超はその少年、キョージュが訪れるのを今か今かとその発言通り待ちわびていたのだ。先の激しく響いた音もキョージュをすぐにでも引き入れん慌てたため派生したのだ。もちろんラボ内は少々惨状が広がってしまったが。
超は普段なら考えられないほどに疲労の色を見せており、明らかに肉体を限界まで酷使しているのが理解できる。それを見たキョージュはわずかに眉をひそめた。
「休息は適度に取った方が効率は上がる、と言っても分かったうえでやっているのだろうな」
キョージュの発言にいたずらっ子のような表情を向け、
「そのとおりわかてるヨ。しかし、あの茶々丸を見ていると休むに休めないネ」
そう発言した。その眼は笑っておら真剣そのもので、そこに普段の超らしい明るさは薄い。限界まで酷使し、最低限の休息のみで再び根を詰める。それを超は、否、彼女たちは繰り返しているのだ。疲労がたまり続けるのを承知の上で。
「……変わらず茶々丸君の容体は悪化の一途をたどっているのか」
超の様子からキョージュは察し、予想通りであったかと声のトーンを落とす。
「その通りヨ。意識を取り戻す時間が日ごとに短くなていル。このままではそのうち二度と意識を取り戻さなくなるのは確実ダ」
超はただただ悔しそうな声色へと変化させていく。それは天才少女ではなく一人の無力な少女がいるだけだ。
「あれもダメ、これもダメ、ダメ、ダメ、ダメ! 何をやても効果が無いんダ!」
一瞬感情をあふれさせるが、すぐに首を振って感情を鎮めんとする。一応彼女も大きな目的があってここにいる身、感情の切り替え程度は可能である。
「キョージュ謹製の電子ドラッグ用ワクチンも効果は皆無。あらゆる検査はすべて異常無し。私はただただ自信を失たネ……」
超は大きくため息をついて俯くがそれも仕方がないだろう。どれほど皆から称賛される力を持っていても、たった一人の自分たちが生み出した娘さえ救うことさえできないのだから。
「私たちでは茶々丸を助けることはできないヨ。でも見捨てるなんてありえない、もうキョージュ以外に頼れる人はいないんダ! 何をしても構わないから茶々丸を助けてくれ!」
超はキョージュに正対し、叫びとも似た言葉と共に深く深く頭を下げた。そしてそれは超がこの地にて初めて全てを他人に預けた瞬間でもあった。
「言われるまでもない。私も全力で臨む」
そしてキョージュこと春川英輔も了解する。それも己の命さえかける気概で。
キョージュの答えに超も普段の笑顔を取り戻し、キョージュを茶々丸のいる研究室へと連れていく。
「で、治療の準備や目途は立ているのカ? えらく軽装備みたいだガ」
キョージュの持ち物を見て超は疑問を投げる。それも仕方がないだろう。二人の天才少女の巣窟たるラボであっても茶々丸の治療の目途はたっていない。そのキョージュが満を持して訪れたのに無策とは思えないのにもかかわらず片手鞄一つしか持ち込みがないのだから。
「私の持ち物では不足なのでここにあるものを使わせてもらいたい。もちろん最低限の準備はできているので許可があればすぐに取り掛かれるが」
キョージュの発言で超は笑みを深くする。
「もちろん許可ネ。ここにあるもの全て自由にして構わなイ。必要なものがあれば言てくレ。すぐに用意するヨ」
言葉を交わしながら超はキョージュを茶々丸の元へ導く。キョージュはそこで先日と変わらない姿で静かに眠る茶々丸を見て、思うところがあるのか眉をしかめた。そしてその隣で死んだように眠る葉加瀬を見て、思うところがあってこめかみを押さえる。超はそれを見て葉加瀬に駆け寄った。
「二人とも根を詰めすぎだ。どれほど優秀な脳を持っていてもここまで効率を落とすやり方では凡人と変わらない程度しか進まないだろうに」
葉加瀬を見てキョージュははっきりと二人を評する。超はがくがく葉加瀬を揺り起しながら、
「キョージュも経験があるはずヨ。たとえ非効率的だと頭で理解していても、心のままに動いてしまたことガ」
超の発言は正鵠を射ていた。わずかにキョージュが表情を歪めていたのを見て取った超が口角を吊り上げる。
そのやり取りを耳にしつつ、幽鬼のごとく葉加瀬が顔を上げる。その姿はまさに無残の一言、あまりにもぐちゃぐちゃに乱れていた。簡単に言えば顔から出るもの全てが出て混ざり合っている。人様に見せるものでは決してない。
「葉加瀬、キョージュが来てくれたヨ。少し身なりを整えてくるヨロシ」
その一言で袖で顔をぬぐいながら葉加瀬はゆらゆらと部屋の片隅に向かい移動する。
「しばし待ててくレ。すぐ済む」
そういうと超は葉加瀬の元へ向かいキョージュは茶々丸へ視線を向ける。
ただ静かに眠る茶々丸の姿を見て、不意に自らの胸元を強く握る。茶々丸の姿にキョージュは思うところがある。しかしそれは口に出さない。
「……理論上は問題ない。十分に期待できる。可能だ」
キョージュは自分に言い聞かせるように、安心させるように呟いた。浮かんでしまった悪い考えをかき消すように。
「待たせたネ。こちらは準備OKヨ」
「お待たせしてすいません」
わずか数分の間、暗い思考に沈んだキョージュは超の言葉にて我に返った。その姿に一つため息をつきつつ普段通りの自分に戻す。
「さて、これから君たちに茶々丸君に行う治療について説明を行う。疑問点があれば適宜質問して欲しい」
キョージュの言葉を受けて、超は近場からパイプ椅子とテーブルを引きずり出して場を整える。キョージュは苦笑しつつ椅子に腰かけ、葉加瀬も同じく腰を下ろす。超は荷物の底に眠っていたペットボトル飲料を発掘し三人分用意してから椅子に座る。
「ではお願いするヨ、キョージュ」
二人の視線がキョージュに向けられる。その真剣な眼差しは、確かな信頼を持っていた。
「要約すれば専用のプログラムを組むだけだ」
「要約しすぎヨ。持ちこんだ物でそれくらいは読めるネ」
キョージュが一言で説明したことにたいして超は軽く突っ込みを入れる。キョージュはそれを当然のものとして意に介さず話を続ける。
「プログラムに関しては電子ドラッグが下地にあるものだ。人と同じように思考し、人と同じように挑戦をし、人と同じように失敗し、人と同じように成長していくプログラムだ」
「それは、人工知能カ? それは私もたどり着いていない未知の領域だガ」
超は説明から人工知能の一種を思い浮かべる。しかしそれは魔法の力を使った茶々丸でしか未だ成功と言える物はできていない代物であった。
「正にそれだ。そしてそれは人であって人でない。『0と1の世界』の新たな生命体とも言えるものだろう」
「そ、そこまで完成されたものだったんですか。確かにそれならあの電子ドラッグを作り上げることができたのも納得です」
キョージュの発言に葉加瀬が驚きの声を上げながら顔を寄せる。その内容に大きく興味を持ったようだ。キョージュは葉加瀬を手で制しつつ続ける。
「0から作り上げたものではない。その点では茶々丸君の技術は私の上を行っている。と、少し逸れたな。私のそれは言うなればコピーだ。人と同じように思考し、挑戦し、失敗し、成長するプログラム。私の脳を再現したいわば第二の私をプログラムによって組み上げ……それを我々の生きる『1の世界』から『0と1の世界』に適応させそれに茶々丸君を治してもらう。これがプランだ」
気負うことなく淡々としたキョージュの発言に超は不敵な笑みを浮かべ、葉加瀬は俯いて体を震わせている。その様子にキョージュは大きく息を吐いて二人を見つめた。
「質問はないか?」
「キョージュは何時何処で何故電子ドラッグを作り……この人工、生命を、作ったんダ?」
キョージュの言葉に間髪入れずに超は問いかけた。そこに浮かぶ表情は責めるものではなかった。そこに浮かぶのは確信を持った表情。超自身と同じ大切な者に関係しているのだと断定しているものであった。
そしてキョージュは予定通りの言葉をため息とともに吐き出し始める。
「今より未来というべき時間にこの世界には存在しない錯刃大学にて死者をプログラム上にて再現するための前段階のものとして作り上げた。電子ドラッグは自分ではない他人の脳を理解するための一環として作り上げた。結果それにより多くの人間の人生に大きな影を落としてもいる」
キョージュは超が聞いた以上の情報をも淡々と語った。表情に変化はなく超はただ黙って、葉加瀬は真剣な表情で聞いている。二人ともキョージュの話に真剣に耳を傾けているのだ。
「そして一つ、正確に言うならば電子ドラッグと人工生命は『私』ではなく『春川英輔』が作り上げたものだ。『私』は、『春川英輔』が人工生命を『0と1の世界』に馴染ませるのを手伝っただけ。いや、自分の存在を確立するための生命活動をしたに過ぎないのだよ。そして今の『私』は、死んでからこの肉体に完全に記憶を保持して一から生まれ育ったのだよ」
キョージュの言葉に二人は目を見開いていた。キョージュの言葉は嘘には見えないが嘘にしか思えなかった。もしそれが本当ならと考えると、明らかに今のキョージュの存在はおかしいのだから。
「私はこの生を得る前は『春川英輔』と同一の人生経験を持ち同じ目的を持って活動をした存在、『電人HAL』と名乗っていた。今生は何の因果か春川英輔と言う名を親からもらったがね」
キョージュの発言に超はかつてないほど興味深そうにキョージュを観察し、葉加瀬は明らかに動揺しながら何かをぶつぶつとつぶやき始めた。まるで今まで認めきれていなかったものを認めざるを得なくなったかのように。