怪物強盗は好き勝手に生きるそうです   作:アシダカ伍長

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第30話:のぞむ【渇】

 「私は誰? なぜあの人物を望む? 私は知らない。知りたいだけ。何を……私を、私が何か知りたい?」

 

 【それ】はただ情報収集のためにそれを行っただけであった。しかし、その情報は【それ】に多大な影響を与えていた。茶々丸の知識の中に存在するその人物。

 己はこの世界で偶発的に発生したただのプログラム。その『事実』は『事実だったはず』へと変わり多大な疑問を抱かざるを得ない感覚であった。【それ】はその人物、怪盗Xを知っている。

何を知っているのかわからないがそれは確実だと感じていた。

 

 「情報の不足……」

 

 そして【それ】は監視を始めた。情報の不足を補うために、茶々丸の視覚を共有するために表層意識へも侵食を始めたのだ。

 しかしそれはあまりにも性急であったため、今まで行っていた細やかな擬装や入念な下地作りを怠っていたのだ。

 ただのプログラムであればあり得ないミス。それはまるで人間のようなミスであったのだ。しかし【それ】はそのときまで己の失敗に気づかなかった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 「私に会わせたい人物か」

 

 森の奥へと続く道沿いを二人の人物が言葉を交わしながら歩いていた。二人はこの麻帆良においてごく一部で非常に、異常に名の知れた人物である。

 春川英輔と超鈴音だ。

 

 「キョージュが私たちの仲間になってくれたのは非常に頼もしいネ。茶々丸の治療の目途をつけてくれたのも感謝してもしきれないヨ。でも、だからこそ彼の人物に会わせる、と言うより面通しする必要が出てくるネ」

 

 超の言葉に頷くだけで答えつつ、街外れの森の中にいる人物に対しキョージュはいくつか考えをめぐらす。

 超が面通しの必要があると称する人物である以上、少なからず気難しい人物であることは想像に難くないからだ。もし拒絶されでもしたら、茶々丸を治療する際に無意味に問題を発生させてしまうかもしれないのだ。

 それゆえに、少なくとも拒絶だけはされないように立ち回るべくいくつかパターンを組み立てていく。

 

 「超君の言うことは十分に理解できるが、ならばなぜその人物について情報を与えてはくれないのだ。私としても敵対するつもりはなく純粋に力を貸したいだけなのだが」

 「事前に面通しについて伝えたら先方から指示されたヨ。余計な情報を持たせず第一印象による反応を見たいとネ。計画実行の際に不干渉を貫いてもらうためには無駄に不興を買うわけにはいかない、キョージュには高度な柔軟性を持たせつつ現場の状況を即座に判断し臨機応変に応対してもらうほかないヨ」

 

 超の言葉にキョージュはこれから会う人物に対しあらゆる可能性を想定していく。事前に調べる暇もなくお膳立てされた今回の会合の意図がどこにあるのか、相手の人物に対しての警戒を強めていく。

 そしていくらもしないうちに森の中の道は周囲の環境にマッチしたログハウスへとたどり着いた。

 明らかにそこいらの一般人には過ぎた代物であるレベルの建物であった。そしてキョージュは軽く見わたし十分に手入れされつつ手間暇かけて整えてあるのを感じ取った。

 ただ草木を刈り取るだけでなくあえて残したり枝を伸ばしたりと自然の美を作り出して魅せていると感じたのだ。最も、端々に若干最近手をかけていない痕跡も見て取れたが。

 

 「ふむ、力だけでなく十分に優秀な脳をも持っている人物か。私の知る限り当てはまる人物はいないか」

 「まあしかたないヨ。キョージュは一般人だったから知りようはなかったヨ」

 

 超はそうキョージュに返しつつログハウスの扉をノックする。

 

 「は~い、って超りん? エヴァちゃんに何か」

 「だから勝手に出るなと言っとろーがぁ!」

 

 メイド服姿の木乃香とエヴァンジェリンの怒声に超は何時も浮かべている笑みのまま固まった。

 

 「今日はお客さんが来るからってゆーてたやん。せやったらちゃんとおもてなしせな」

 「こっちにも段取りがるんだよ! ああもういいから貴様らさっさと入ってこい!」

 

 エヴァンジェリンは肩で息をしながら投げやりに二人を招き入れる。一方木乃香はぱたぱたと台所へと向かっていく。超は入り口で固まったままだ。キョージュはどうすべきが判断に迷う。意見を聞こうにも超は思考を停止しているからだ。

 

 「いつまで入り口で固まっている? 二度も言わすな、さっさと入ってこい」

 

 すでにリビングのソファに腰を掛けていたエヴァンジェリンの威圧感と疲労感を混ぜたような口調に超ははっと我に返る。

 超が元に戻ったのは感じキョージュは幾分か安堵した。

 

 「……エヴァンジェリン、もういいのか?」

 「もういい……近衛木乃香が来てから狂わされっぱなしなんだ」

 

 くたびれたサラリーマンのような雰囲気をまとわせ俯く二人にかける言葉が見、キョージュは押し黙るしかなかった。

 

 「キョージュ」

 「超鈴音、しばらく黙っていろ……少々予定外なことになったが、貴様が茶々丸を治せるといって取り入ってきた春川英輔か?」

 

 いくらか調子を無理やり取り戻したエヴァンジェリンがキョージュへと視線を向ける。

 明らかにその見た目は年下の少女であったためキョージュは面食らう。

 しかし表情には出さない。同時に侮りもしない。目の前の少女エヴァンジェリンはすでにキョージュの値踏みを始めているからだ。

 

 「その通り、私は今回茶々丸君を治療させてもらうために超鈴音に微力ながら手を貸していくことになった春川英輔だ。今後、ともに良好な関係を築けていければと思うが」

 

 キョージュは軽く礼をしつつ自己紹介を行った。その所作を鼻であしらいつつもてエヴァンジェリンは腕を組み直し木乃香へ視線を一瞬向けた。

 

 「ただの餓鬼ではないのは当然か。立ったままは何だ。座れ」

 

 エヴァンジェリンの言葉に再び一礼しつつテーブルを挟んだ向かいのソファへとキョージュは腰を下ろす。そして同時に木乃香が丁寧な所作をもって紅茶を二人の前へと並べていく。

 その間黙ったままでキョージュとエヴァンジェリンは互いを観察し続けた。

 一方、キョージュの後方にて立ち尽くす超はあからさまに狼狽えつつその光景を見つめていた。

 

 「木乃香、終わったらもう下がって魔法球内へ練習に入ってこい」

 

 エヴァンジェリンの有無も言わさぬ命令に木乃香は黙ったままで一礼と共に出ていった。

 残されたのは三人、超にキョージュにエヴァンジェリンである。

 キョージュは紅茶を手にとり一口付けて話を始めた。

 

 「さて、面通しと聞いてきたのだが何を話せばいいのやら」

 「こちらからいくつか質問させてもらおう。そしてすべて答えろ」

 

 キョージュの言葉に冷酷な返答を行い殺気を込めて質問を始めた。

 

 「貴様は電子ドラッグとかいうのを十分に理解しているのだな」

 「そのとおりだ。それも」

 「イエスかノーで答えろ。余計なことは言うな。必要なことだけを述べろ」

 

 さらに殺気を多く込めた言葉にさすがのキョージュもわずかな動揺が生まれる。

 エヴァンジェリンは明らかにキョージュを敵視していた。

 

 「貴様が作ったのか」

 「その通りだ」

 「私利私欲のためか?」

 「……その通りだ」

 「誰彼かまず使ったか?」

 「その通りだ」

 

 エヴァンジェリンの殺気が増大する。

 

 「電子ドラッグをばら撒いたか?」

 「ばら撒いたな」

 「被害も気にしたか?」

 「目的の完遂以外に興味を向けなかった」

 「怪盗Xを知っているな」

 「知っている」

 「そいつにも電子ドラッグを渡したのか?」

 「渡してはいない」

 

 エヴァンジェリンは冷ややかな視線へと変わる。

 

 「それはつまり怪盗Xが使う電子ドラッグは貴様が不用意にばら撒いたものを拾って使っているということか?」

 「……そうなるな」

 

 キョージュはエヴァンジェリンの今の質問を受けて表情を大きく暗くした。そこにはキョージュ責めるのではなく嘲笑うようなものが含まれていた。

 

 「はっ、ではなぜ茶々丸の治療を行うと言う? 目的のために犠牲を気になどかけていなかったのであろう?」

 

 エヴァンジェリンの言葉は当然の者であろう。つい先ほど興味などなかったと宣言しているのだ。茶々丸の治療を善意で行いたいなど誰も信じるわけがない。

 

 「こんな奴に茶々丸を預けるなど到底不可能だ。たとえ腕は有っても信用ならん。そうである以上茶々丸のマスターとして治療の件は無しだ。たとえ、それ以外に治療の手がなかったとしてもな」

 

 それは明らかな拒絶。唯一の茶々丸治療の手段を失おうとも信用できない者の施しは受けないという結論であったのだ。

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