怪物強盗は好き勝手に生きるそうです   作:アシダカ伍長

32 / 33
第31話:あらそい【競】

 「貴様のような半端者が私は一番嫌いだ」

 

 そう言うとさっさと席を立つと木乃香が消えていった部屋へと向かう。これ以上話すことなどないという無言の宣言であった。取り付く島もない拒絶。超も一切口をはさめず固まっている。

 

 「別に貴様が何をしようと私は関知せん。茶々丸の治療にだけは一切触れるなよ……さっさと失せろ」

 

 言い切るとともにエヴァンジェリンはその場を立ち去った。そしてその表情はただただ不愉快と言ったものになったままであった。

 

 「これ以上はよろしくないか」

 「たしかにその通りネ。すぐにお暇するヨ」

 

 キョージュと超は互いに確認しあうとすぐさまログハウスを後にした。

 下手に粘っても今の状況では不興を買うだけであると判断したからだ。

 今回の会合は完全な失敗。超としては望まぬ結果になってしまった。

 そのままとぼとぼと、二人は並んで森の中を歩いていく。

 

 「キョージュ、残念だたネ」

 「まぁ仕方あるまい」

 

 二人はエヴァンジェリンとの顔合わせの失敗の反省を行う。

 もとより超としては友好を結んでもらうのではなく互いに力を貸す、不干渉を貫くといった人物であると知らせるだけのつもりであったのだ。

 しかしそれが全くの失敗となったのだ。

 超のミスはあらかじめ二人の情報を精査し問題の無い顔みせを行う準備をしなかったことだ。

 普段であれば一切の隙の無い作を企てたであろうが、予想外の人材を得てしまったために浮かれてしまったのであろう。

 超はそう結論付けてその浅慮を反省する。

 そして決断を下す。

 

 「今後も助力はありがたいガ、茶々丸の件に関してはノータッチで頼むヨ。エヴァンジェリンの不興を買うわけにはいかないネ」

 「そうか、君がそう判断するのも仕方がないな」

 

 超の言葉に納得した風に軽く肩をすくめて見せた。

 そう、超はエヴァンジェリンの言葉に従順に従うことにしたのだ。

 キョージュが新たな治療方法の道筋と骨子は聞いている。つまり超には茶々丸治療の希望を見ることができたのだ。

 エヴァンジェリンの不興を買って来る計画の時に敵対される可能性をなくしたいのだ。

 

 「その言葉は十分に予想していた。彼女との会合に不穏な空気が流れればそうなるだろうとな」

 

 キョージュはどうしても茶々丸を治療したいという思いを見せて超の一味へとなっていたがそれをあっさりと手放した。

 だがそれも彼が超の考えを尊重してのものであった。まだ概要でしかないが超の秘めたる計画とそれにかける熱意を知っている。

 それは過去のキョージュが目指したものに近い。

 大切な人を取り戻す、と言う目的であるのだから。

 

 「それでキョージュには別の、現在最終調整をしているT-ANKシリーズに関して手を貸してほしいネ」

 

 そして超はキョージュに別の頼みごとを行う。超の目下の最優先事項は茶々丸の治療であるが、来る計画のための準備も非常に重要である。

 本来であれば超と葉加瀬が行っているはずの戦力増強の研究であるが、大切な仲間である茶々丸の方が優先度は高いのだ。

 そしてそれによって遅れの生じている予定をキョージュに引っ張ってもらうのだ。超はキョージュの万能と言えるその発想力と技術力を評価している。それゆえにもしかしたら自分よりもはるかに優れたものを生み出してはくれまいかと期待もしているのだ。

 

 「そうか、なるほど……」

 

 そしてキョージュは軽く考える仕草をするがすぐに超の言葉に答える。

 

 「だがそれは受けない。むしろ私を切り捨て他人とすべきだ」

 

 キョージュははっきりと超へと言い放った。

 

 「な! どういうことネ!」

 

 超としてはその言葉に驚いた。共犯者になると約束したのにあっさりと抜けると言ってのけたのだから。

 

 「私が君の仲間でいるのは、彼女とよろしい関係を築いていくうえでマイナスになる公算が高い。それゆえに私なんぞより彼女との関係を取るべきであるからだ」

 

 キョージュはこれからの自分の動きが超の邪魔になると判断した。そのためあっさりと自分がそこから離れると宣言したのだ。

 

 「彼女の戦闘能力は最も警戒すべきものであるのだろう。おそらく魔法方面で、だ。しかも替えや対抗が効かないレベル。ならば私を切り捨てる方がいい。幸い迂遠な方法で私の頭脳を君たちの手助けに使うことはできるからこれまでより君たちの計画成功の確率は上げられるであろう」

 

 キョージュは超にはっきりと面と向かって言い切った。超はそれに言い返そうとするが、キョージュはそれを聞こうともせずに背を向けてさっさと歩いていく。

 

 「キョージュ! なぜ逃げる! 私は納得してないヨ! 身内を切り捨てる気は無いネ!」

 「であれば茶々丸の治療が済んでから改めて三者を交えて話そう。少なくともそれが済むまでは私と君は係わりのない他人、そうすべきだ。変にケチをつけられる可能性を作ることもない」

 

 その言葉を聞くと超もその通りかと押し黙る。キョージュが執念を見せた茶々丸の治療。それに関わらせてもらえないのであれば他のことも碌に手もつかないと超はそう納得させた。

 しかしこの状況に超は苦い表情を作る。

 それは決してやりたくはない身内を切り捨てるという行為に似たものであったからだ。

 

 「キョージュ! 私の計画を聞いた以上中抜けは許さないヨ!」

 「茶々丸の保護者たる彼女が許せばもちろん戻るつもりだ。とりあえずだがT-ANKシリーズの方はいじくらせてもらおう」

 

 最後にそう言葉を交わすとキョージュは超のラボとは別の方角へと向かっていった。

 その姿を再度苦々しく超は見つめた。

 

 「黄昏ている暇はないネ。すぐに治療の準備をしないと」

 

 そう独り言ちて超はすぐさま茶々丸治療の専用電子生命体を作り出しに向かった。

 超は全力で駆け出し、そのままラボへ飛び込んだ。

 そこにいるのはただ一人葉加瀬のみ。

 

 「何をしているハカセ! さぁ治療の開始ヨ!」

 

 それはまさに鬼気迫る勢いであったがその豹変具合に葉加瀬はただただ面食らう。 

 

 「な、何事ですか超さん! キョージュとエヴァンジェリンさんとの顔みせは!? キョージュはどうなったんですか!?」

 「キョージュとは一時袂を分かつことになたヨ。ただし茶々丸治療の暁には再度エヴァンジェリンと話し合うことで戻ってくるネ」

 

 その言葉に葉加瀬は一瞬呆気にとられるがすぐに表情を暗くする。そして超の作業を手伝いながらつぶやく。

 

 「エヴァンジェリンさんへのキョージュの顔見せ、うまくいかなかったんですね」

 「仕方ないヨ。キョージュから聞いた通り今の茶々丸の原因を作り上げてしまたのダカラ」

 

 そう言葉を交わしたのを最後に二人は急ピッチで作業を進める。

 せっかく出会うことのできた仲間を再びともにあるために。目下の目標を達するために。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~ 

 

 

  

 

 

 「迂闊なことをしてしまいましたね」

 

 【それ】は今、大きく歪んだ世界を見下ろしそう独り言ちた。【それ】が見下ろす世界は今までの世界を大きく一変させ異常に歪んだ、外からの観測を許さない箱庭と化していた。

 遠因は先程茶々丸の目を通して見ていた『1の世界』の映像。原因は【それ】の考えなしの暴走だった。

 『1の世界』のそこに映ったある人物を認識した瞬間、決して正しくない、決して合理的でない感情に支配され、その感情の赴くままに世界全てを掌握せんと力ずくでことに及んでしまったのだ。

 結果は失敗。

 茶々丸の自己防衛機能の働きによって世界を掌握しきる前にあらゆる繋がりが切断されたのだ。

 幸い物理的な切断ではなかったため毎日少しずつ時間をかけての解析、解除、再接続を繰り返している。

 非常に時間がかかり、さらに己の力も大きく制限されているのだ。そのもどかしさにただただ悔いる日々であった。

 ただ茶々丸の記憶の一部は完全に掌握しているため茶々丸も今自分に何が起きているのかは忘れてしまっているのは幸いであった。

 しかしその猶予もなくなりつつある。

 茶々丸の防衛機能のせいで寝たきりになってしまったためその解決のためにあらゆる方法が試されている。

 【それ】はそれまでにこの世界をわが者として、適当な治療の際に治ったふりをして成り変わらねば排除されてしまうからだ。

 それも全て最初に思い浮かんだ疑問の解消のため、それに最も近づけるであろう特別な存在である怪盗Xを知るため。

 

 「私は、誰?」

 

 誰も答える者のいない世界にて、【それ】はただ疑問を解消するために、好き勝手に生き続ける。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 「まさかこんなことになるとは思わなかたヨ」

 

 超は自らのラボにて目の前の光景を呆然と見ていた。

 想定外の事態だった。

 超はキョージュと別れてからわずか一週間で治療用プログラムの一つになる調査プログラム『イグザミン』を組み上げることに成功した。

 それは茶々丸の症状をより詳しく調べあげ、より効果的な治療プログラムを組み上げるための準備に必要なものであったのだ。

 そしてそれを行おうと動き、目の前の光景に呆然としてしまったのだ。

 

 「超さん! やっぱりロボ研の方でも最新型の田中さんと稼働可能な同シリーズ個体が全て消えているそうです!」

 

 葉加瀬が息も絶え絶えで現地の様子を伝えてくる。それを聞くと目を手で覆い天を仰いだ。

 超は再び空になった茶々丸のベッドに視線を戻す。

 

 「キョージュ、ここまでやるとは想定外だたヨ」

 

 超は茶々丸の行方不明とロボ研最新ロボット消失の犯人をキョージュであると断定した。

 理由は単純なもの。

 彼以外に茶々丸を連れ出す理由とセキュリティ破りの技術を持つ者がいないからだ。

 そしてこの事件を起こすまでの時間、これはキョージュが準備をしていたからだと超は考える。

 そして腑に落ちた。あの時、あの日、キョージュはこの事件を起こす気であったと。

 

 「一人で勝手に治して一人で責任を取るつもりかもしれないが、そうは問屋が卸さないネ」

 

 超は深い笑みとぎらついた目でそう宣言した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。