怪物強盗は好き勝手に生きるそうです   作:アシダカ伍長

8 / 33
天然には振り回されるしかないよね!


第7話:やりたい事って唐突に変わるよね【旅】

 「ふむ、つまり麻帆良の外へ逃げられてしもうたと言うわけじゃな」

 

 学園長、近右衛門はXの探索に出ていた魔法関係者からの報告をまとめたものを源しずなから聞いていた。

 

 「はい。表門にまわっていた人員は全て無力化されていましたので確実かと」

 「じゃがそれがフェイクでありいまだ麻帆良に潜伏しておる可能性も考慮する必要があるのう。まず無駄に終わるじゃろうがチームを組んでの警邏を行っておいてくれるかの」

 

 近右衛門はまず結界内の捜査に人員を割かせた。無意味に終わるとわかってはいても見逃しての最悪を回避するために必要な処置なのだ。この判断に口を挟むこと文句しずなは報告を続ける。

 

 「結界のほうはどうかの?」

 「はい。今のところ全く不審な点は有りません。侵入者がどのようにして侵入したのか全く見当が付きません。未知の結界破りの技術だとするとこれからの警備を根本から見直す必要が有ります。正直そうだとすると恐ろしいものです」

 「コレコレ、あまり憶測が過ぎると思考の幅が狭められてしまうわい。今までの警備の方法に僅かでも穴がないかをもう一度精査するよう言っておいてほしいの」

 

 近右衛門は一つ一つ指示を出しながら今回の事件の問題を処置していく。今回のような事件の事後処理は全て学園長が下すようになっているからである。

 

 「あと、刹那君の容態はどうじゃ?」

 「……今は薬で眠らせて大人しくさせていますが目を覚ましたら……」

 

 二人ともの顔が曇る。

 

 「非常に難しいものじゃが上手くやってやってくれ、彼女はまだ子供なのじゃからの」

 「はい、ではガンドルフィーニ先生の進退についてですが」

 「それもこちらが渡していた情報の不足が招いたものじゃ。いささか彼にも責任はあると判断して減給二ヶ月と夜間警備日数を増やすことでよしとしよう」

 「よろしいのですか?」

 「何、彼の責任感が強いのは知っておる。重大ミスを起こした後であるなら彼も同様なミスはせぬよう、汚名返上するよう頑張ってくれるじゃろうし問題はないの」

 

 近右衛門の寛大とも言える処置にしずなは少し安堵の表情を浮かべた。しずなもガンドルフィーニの憔悴しきった姿を見ているので追い討ちになるような事態は望んでいなかったが故の表情だ。ガンドルフィーニは見ているほうも辛くなるほどに憔悴しているのだ。

 

 「あと、一部から今回の件は関西の手の者による犯行ではないかと声が上がっています。闇の福音もそれに協力したのではないかとも」

 「ふぉっ!? ふむ、何の証拠もなしに疑いなんぞかけんで欲しいのう。何が起きてもやれ関西の者が、やれ闇の福音が、とのう。ちと困った風潮じゃ。疑いの声を上げるのは簡単じゃがそれが濡れ衣だったときの相手の気持ちも考えてくれぬと。それを相手するのはわしなんじゃし」

 

 近右衛門は今回の件を外に漏らすことの内無いよう内内の手の者だけで処理しようと四苦八苦していた。特に関西呪術協会に洩れることのないようにと。下手に洩れたらただでさえ険悪な関係がすぐにでも凶行に走るレベルまでに悪化してしまうと読んだからだ。

 

 「物的にも状況的にも証拠はないんじゃ。このまま単独犯、第3の組織として捜査を頼む」

 「一応関西にも探り位は入れるべきかと」

 「もう一度言った方がいいかの?」

 

 間髪いれずに言い切り反論の一切を受け付けなかった。それは今回の侵入者は関西の手の者ではない、単独犯であると近右衛門はある種確信していてそれを信頼していたからだ。

 伊達にこの年まで生きて巨大組織のトップに上り詰めてはいないのだ。それにもし関西だとしたらの西の長であり自らの義理の息子でもある近衛詠春の方から何かしらのアクションがあるはずである。それがあってからでも遅くはない。自らに有利なカードになると踏んでいたからだ。それは後に使える手札にもなる。木乃香は心配だが西の手の物であれば多少は構わないといくらか打算的に判断したのだ。

 しかし同時に関西に気取られないために木乃香の捜索を大々的に行えないのが歯がゆくも感じている。組織のトップなのが家族の情を優先できないのだ。

 

 「報告は以上かの?」

 「は、はい、以上です。失礼しました」

 

 そう言ってしずなは一礼し退室していった。

 一人残った近右衛門は誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

 「一年後に控えた例の計画。あらゆる手を尽くして魑魅魍魎どもの手に渡らぬようにしたのじゃ。此度の件は洩らすわけには行かぬ。邪魔になるなら最悪消えてもらうことになるのう」

 

 近右衛門は天井を見やりながら言い切った。顔も知らぬ侵入者に向けた言葉を。

 しかしその数分後にかかって着た電話により冗談抜きで本気で消すかと、裏の手の物に渡りをつけるか本気で悩むことになった。

 

 

~~~

 

 

 「そういやここってどこなん?」

 

 木乃香はやっと自らの状況を把握しだしたのか自分がどこにいるのか疑問に思った。今の現在地はホテルの一室。疑問に思うのがいささか遅いようだが。

 

 「ん~? その辺のホテルだよ」

 「そうなんか。でもなんでうちこんなとこおんの?」

 

 木乃香は目の前で寝転がってだらだらしだしたXに質問を始める。

 

 「ん、俺が誘拐したからだよ」

 「そうなんか~うち攫われてしもたんか~うちどうなってまうの?」

 「ん~家に帰ってくれればいいけど?」

 「家に?」

 「うん、家に」

 「そうなんか~」

 

 いまいち暢気な空気を漂わす会話が続けられていた。Xは特に急ぎの目的もなく、ただ適当に『怪盗X』のイメージそのままの行動をとろうと考えているだけだ。

 

 「Xはこれからどうすんの?」

 「ん~?」

 

 Xはただうなるだけで答えなかった。美術館に入って盗みと『箱』作りをやるとは決めたけどこれからすぐにやろうとは考えてなかったからだ。

 

 「何があったんかわからへんけどうちも家に帰るよう言われてるみたいやし、予定があらへんならXもいっしょに京都に行かへん?」

 

 この提案にXは疑問の声を上げる。

 

 「京都?」

 「せや、うちの家って京都にあんねん」

 

 Xは木乃香が何を言っているのか一瞬理解できなかったがすぐにただの勘違いで京都に行くのだと判断した。

 

 「そうだな~……うんそうだな、木乃香と一緒に行こっかな」

 

 Xは怪盗の活動は京都に行ってから考えようと決めた。京都なら怪盗活動をするのにも十分なほど美術品があると判断したからだ。

 こうしてXは木乃香との京都旅行を決めたのだ。

 

 「じゃあ行こ」

 

 そしてXは寝転がっていたのをやめて立ち上がり木乃香の手を引いてホテルから出て行こうとした。

 

 「え!? 今から行くん?」

 

 木乃香は驚きの声を上げた。Xのあまりにもの急で積極的な動きにびっくりしたのだ。

 

 「覚えているうちに行動しとかないとね。俺すぐに忘れちゃうから」

 

 今のXなら記憶の勝手な消去は起きなくなっているのだが、忘れないうちに思い立ったことは行動に移す癖が出た形だ。

 

 「そうなんか~」

 

 流れるまま流されるまま、あれよあれよと木乃香はXにつれっられて行く。Xの力に抗うすべは木乃香にはない。

 

 「あ、アスナに伝えんと」

 

 木乃香はせめて同室の明日菜に京都行きを伝えたいとXに意志を伝えた。

 

 「あ~携帯どっかに落としてもーてるわ」

 「木乃香、早くしてよ~」

 

 Xに急かされ木乃香は仕方なくホテルの電話を使い、明日菜に京都行きの件をさっさと伝えた。このとき伝えたのは最低限の情報、京都に行くことになったのと同行者にXがいるという2点だけだ。これはさっさと出て行ってしまったXを追いかけるために仕方なく最低限の情報だけを伝えたためだ。

 こんな中途半端な情報だけしか伝わらず聞いたことのない人物が同行者、明日菜は携帯に折り返しても木乃香が出ないため何が起きているのか知っている可能性のある人物に電話で聞くことに決めた。

 

 

 

~~~

 

 

 

 近右衛門が学園長室でいくつかの起こりうる可能性のある未来とその対策を一人練っているとき、どこからが電話がかかってきた。事件に進展があったのかと近右衛門は迷いなく電話に出た。

 

 「ふむ、どちらさんかの?」

 『あ、えとどうも失礼します神楽坂明日菜です』

 

 電話の相手は明日菜、この事実に近右衛門は明日菜へのフォローを忘れていたことに気が付いた。すでに誘拐事件が起きてから3時間は過ぎている。同室のしかも明日菜が疑問に思わないわけがない時間になってしまっている。これは完全に近右衛門のミスであった。

 

 「ふむ、何かあったのかの?

 『何かあったのかの? じゃないですよ! どういうことなんですか学園長ーーー!』

 

 突然の絶叫に近右衛門は驚いた。

 

 『たった今このかから京都に行くって電話があったんですけど一体何があったんですかーーー!!』

 

 この言葉に近右衛門の普段、線のように細められている目がカッと見開かれた。

 

 「それはどういうことじゃ?」

 

 しかしさすがは近右衛門、声には驚きを微塵も含ませず明日菜に話を聞く。

 

 『どうもこうもないですよ! さっき電話があって何かサイ? って人といっしょに京都に行くことになったって……学園長は何か詳しいこと知ってるんですか! このかは詳しいこと言う前に電話切っちゃうしケータイに掛けてもつながらないし……学園長ーーー!!』

 

 この言葉に近右衛門は気が遠くなるような、血の気が引くような感覚に襲われた。

 

 「ふ、フォッフォッフォそれはのう、ちょいと急ぎの用件が入ってしもうたのじゃよアスナ君。連絡が遅れてしもうたようじゃのう。申し訳ない。安心し給え、このかはすぐに帰ってくるでの」

 

 フォッフォッフォと近右衛門はいつもどおり笑いながら全て知っているかのごとく優しく明日菜に語りかけ、すぐに電話を一方的に切った。そしてその直後、即座に高畑に電話した。

 

 「すぐに京都に向かってくれ! 時間がない! 全力でじゃ!」

 『分かりました!』

 

 たったこれだけの言葉で高畑は理解して電話を切った。

 近右衛門はコレが誘拐犯の罠の可能性も考えたが、明日菜を経由しての情報であるため欺瞞情報としては遠まわしである。ゆえに事実の可能性があるとして虚実どちらであるとしても京都入り阻止のために高畑の派遣を決めた。しかし誘拐犯の狙いが予想できなくなった。

 

 「まさかXは西の手の者なのか!? じゃがこのような情報を漏らすのか疑問じゃ。第3の組織が東西を争わすために? しかしだとしたらXは……直接話さねば判断は難しいのう。ならば消す……いやいや争わす気ならこのかの京都入りは真実、人質にされるのが落ちかの」

 

 ぶつぶつと呟き、近右衛門はひとまず西に木乃香の誘拐が伝わることなく取り戻せるようにいるか分からぬ神に祈った。




じつは木乃香って最強だと私は思ってるんですよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。