壊れかけた玉座で肘をつきながら腰かける女性が一人。
お茶会が終わると早々に強制送還の陣を使って三人を転移させたため本当に一人きりだ。
「さて、折角見逃したんですから。十全の心構えと十分な支度を以って
女性ーーーウルレシュテムが言い終える前に傷一つなかった扉が吹き飛ぶ。
なだれ込む様に侵入してきた神側の部隊・・・というより軍勢と呼んだ方がしっくりくる質量の集団が一斉にこちらへと迫ってきた。
純粋な人の連合軍ではない。むしろ人の割合は少なく、ほとんどは何かしらの拘束具のつけられた幻想種や自然神が占めている。
ーーー随分と豪勢なのが来たものだ。
ウルレシュテムは体勢をそのままに深い溜息をついた。
我先にと玉座に辿り着こうとする様をなんの感情も映していない面貌で見遣る。
「神は余程学ばないとみえる。」
ぽつりと放った一言に集団の先程までの侵攻が止まる。
ーーーなんだ、今回のはまだ考える頭があるのか。
思考しつつクスリと妖艶な笑みを浮かべてウルレシュテムは続ける。
「急いては事を仕損じる。・・・前も、その前も。原因は
いつの間にかただ妖艶だった笑みには明らかな嘲笑が加わっていた。
酷い侮辱にそれまで静寂を保っていた広間に再び数多の怒号が響く。侵攻の再開だ。
一番早く玉座付近に辿り着いたドラゴンに似た幻想種が、その肢体を引き裂かんと爪を振り上げる。
「誰が
ドズッという鈍いくぐもった音がどこからか。否、爪を振り上げた幻想種から聞こえる。
そのままその巨体が崩れ落ち、しばらく痙攣した後動かなくなった。
その動作を他の個体が認識するよりも先にボツッとまたどこからか音が聞こえる。
ボツッ ブズッ バズッ
鈍い音は一つ二つと徐々に増え、それと比例するように
恐怖に震える暇どころか
ただただ、最前列から波の様に倒れていく。
最後に残った自然神が倒れた。少しばかり血を吐いて倒れたそれを見たウルレシュテムは弟に話しかけるような気軽さで呟く。
「あら、汚さないで下さい。ここは弟たちのために用意した舞台なのですから。」
ここでやっと彼女は玉座を立った。
そのままゆっくりと、たおやかに歩みを進める。
その様は美しく尊い、死骸の群の中でもさながら聖女の様だ。
軍勢の侵入してきた入口まで辿り着き、振り向いた。
ーーー惨状だ。
先程までの出来事を見ているものがいたとすれば間違いなくそう答える。
ーーー不可解だ。
何も知らないものはそう答えるだろう。
なにせ、死骸は在れど、血液どころか争った形跡すら
「・・・さしずめ見えない爆弾ってところでしょうか。」
その例えが正しいものかどうか、それはこの広間の現状を作り出したウルレシュテム本人にも分からない。
彼女がしたのは単純に
もしかしたら剣先によって切られたのかもしれないし、臓器が潰れたのかもしれない。
はたまた本当に小型の爆弾による爆死だったのかもしれない。・・・どんな形の死であったとすれ使用者本人からすればどうでもいいことなのだろうが。
「・・・。」
視線を入口へと戻した彼女は足元。・・・正確には足元に転がる死に掛けのフンババを見る。
ゼヒュッゼヒュッという浅い呼吸とバラバラになった手足をはじめとした部品が、今もなお死に向かっているという事実を表しているかのようだ。
「・・・有効利用するとは言いましたが。」
ーーーまさかここまでとは思わなかった。
前回は不意打ちだったとはいえ今回もかと頬に手をあてて少し唸る。
しばし考えた後彼女は黒い敷物を背後から取り出すとそれをフンババに被せ、包み込む。
みるみる縮小していった布は最後には赤子ほどの大きさになり、自動的に結び合わさった。
「キャッチ&リリースということで。」
包みを更に大きめの布に乗せてその布の端に何やら文字を書いてゆく。
「うん、こんな感じですかね。」
エンリル神へ
ささやかながらお礼の品です。
長く置くと消化されるかもしれないのでなるべく早く開けてあげてください。
一応傷は治しておきました。
P.S消費魔力は着払い方式にしましたのであしからず。
泥持つ者より
最後に布の裏側にエンリル行きと書いて少しだけ魔力を込める。
布は動き出すと目にも留まらぬ速さで広間を駆け抜けていった。
途中どこかで何かにぶつかったらしくパリンという音がきこえた。
・・・改善の余地ありだな。と呟いて、彼女は廊下へ歩を進める。
「ああ、楽しみ・・・。」
うっとりと、先程の聖女然とした姿でも、王たる者の姿でもなく。
ただ一人の、恋する少女の様に熱っぽい視線を虚空へと向ける。
「早く来てくれないでしょうか・・・。」
しかし、その表情とは裏腹に、声には嘆願にも似たものが多分に含まれていた。
・・・というわけでフンババ着払い案件になってしまいました。
一応この対応。他の神に比べたら(主人公の中では)優しい方です。
これがイシュタルとかみたいな彼女に友好的な神でなかった場合(特に主人公を作ったときにかかわった一部の神)もっとえげつない呪いと共に軍勢の中で一番いい加護ついてるやつ=一番気に入ってるやつの惨殺死骸を送り付けるという手段に出ていました。
ちなみにエンリルとは他の神と違って変な茶々入れしてこないし、定期的に気にかけてくれていたので(面白がっているとも)割と友好的です。
まあ、それでも思うところがあったので着払い案件と相成った訳ですが・・・。
閲覧ありがとうございました。