失敗作だけど白い特等みたいになれたらいいなー   作:九十九夜

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今回はわかりやすい間違い探しもあります。


衛宮切嗣は失敗した。壱.

「ママ、ママ。こっちにおいしそうなお菓子があるよ。」

 

薄ピンクを基調にしたふんわりとしたデザインのドレスを着た桜が顔を輝かせながらウルレシュテムの方を見る。

そんな愛娘の様子ににこにこと微笑みながら対応する彼女は内心かなり荒ぶっていた。

 

(ボク)の馬鹿っ。なんでカメラ持ってこなかったよっ。超かわいいよ我が子っ。

くっ仕方ない。今は心のレンズに・・・網膜に焼き付けるしかっ・・・後で思う存分写真撮らせてもらおう。

 

魔力吸収、物理半減、魔力障壁・・・etc.etc.幾重にも機能を重ねて作られた礼装ドレス。

桜に似合うようにデザインも細部までこだわった安心と信頼のウルレシュテム製である。

そんな自作のドレスを着て喜んではしゃいでいる我が子。

 

・・・ああ理想郷(アヴァロン)は此処にあったんだ。

 

余りの感動に彼女の持つクラッチバックがミシミシと嫌な音を立てているがそこはご愛嬌である。

 

 

一方そんな親子を微笑まし気に見守る男が二人。

 

「無邪気にはしゃぐ桜にそれを見守る姉上・・・いい、実にいいではないか。」

 

「さ、桜ちゃん。あんなに明るくな・・・ゔぅ。」

 

片方は涎。もう片方は身体から生成されるであろう汁という汁を垂れ流しており、両方とも不審人物のそれである。

しかし、悲しいかな。この場にその有様にわざわざ突っ込みを入れてくれるような人物はいなかった。

 

 

「うわあああん。オレが、オレだけがあいつのサーヴァントじゃねえのかよおおおっ」

 

「・・・マスター。やけ酒も結構だがせめて食事を摂り給え。そのままではアルコールのまわりも早いし、何より身体に悪いぞ。」

 

泣き叫びながら酒を煽る少女が一人。そしてそんな少女の元に食事を運びつつ苦言を申し立てる男が一人。

 

「うっせえええ。うわああああん。」

 

少女は何を思ったのか男に足払いを掛け相手を転ばせると馬乗りになる。その手には酒瓶が握られていた。

 

「ぐっマスター!?いったい何をっ」

 

「この際テメーも付き合いやがれっ吐くまで飲むぞっ」

 

「ぐっがぼっぐぼぼっ」

 

相手の状態がどうであろうと酒を流し込んでいく。質の悪いノミニュケーションが始まった。

 

 

「ウェーバー、うぇーヴぁー。このお肉おいしいよ。」

 

ヒックと言って顔を紅潮させた久遠がウェイバーとライダーに思い切り手を振っている。

 

「僕の名前はウェイバーっ。ウェーバーでもうぇーヴぁーでも・・・ってクサッ」

 

あまりの酒臭さにウェイバーは顔をしかめた。が、そんなこと彼女は気にせずに今度はライダーにお肉を勧めに行っている。これくらいの酒臭さは平気なのかライダーと会話を弾ませた後彼女はこれまた大きな声で「ちょっとトイレに行ってくるっ。」と意気揚々と何処かへ歩いて行ってしまった。

 

「はあ・・・元に戻ったと思ったらこれだよ・・・あれ?」

 

そういえばあいつ、トイレの場所わかるのか?ウェイバーの素朴な疑問はそのまま場の空気に流され消えた。

 

遅れて到着したイレギュラー(ハンドラー)陣営はサーヴァントらしきウル・ルガルの姿は既になく白野のみが、なぜか一緒についてきたらしき正規のアーチャーである英雄王と共にひたすら出された食事を食べつつライダー陣営に歩を進めている。その様子に一瞬呆けたライダーはガハハと豪快に笑うと手招きをしつつ「一杯どうだ!」と樽を叩いた。

 

 

「ケイネス。私はあっちの魚料理を取ってくるけれど貴方も食べる?」

 

「う、うむ。・・・いや、やはり私がとってこよう」

 

「あら、いいのよ。気にしないで。私が好きでやっていることだもの。」

 

「そ、そうか?それでは頼もう。」

 

ランサー陣営はなぜかサーヴァントを実体化させておらず、マスターであるケイネスとその婚約者であるソラウが出席していた。ケイネスを献身的に気遣うソラウに照れたようにはにかみながらも応えるケイネス。初々しい二人である。ケイネスに関しては確執のあるウェイバーが近くにいるにも関わらず何も反応しないところを見るに相当浮かれているのだろう。

 

「ふふっ。」

 

そんな各陣営の様子を見ていたアイリスフィールの口から自然と笑いがこぼれる。

 

「楽しそうですね。アイリスフィール。」

 

コツリと隣に立った黒スーツ姿のセイバーが微笑む。

 

「・・・ええ。ここの所戦争のトラブル続きだったから・・・自分でもわからなかったけれど、私かなりピリピリしていたみたいなの。だから、たとえ今だけだったとしても楽しまないとなって。あ、別に無理しているわけじゃないのよ?ただ、緊張は取れたみたい。」

 

その言葉にゆっくりと首を左右に振ってセイバーは言葉を返す。

 

「いいえ。貴方が笑ってくれているほうが私もうれしい。」

 

その言葉に一瞬呆気にとられたアイリスフィールだったが、すぐに立ち直ってもう、上手ね。セイバーは。とクスクスと少女のように笑った。その言葉に返答しようとしたとき、ライダー陣営の方からセイバーを呼ぶ声が聞こえてアイリスフィールに背中を押されたセイバーが渋々とそれに応じる。セイバーを見送った後、アイリスフィールは先程までとは打って変わって少し沈んだ面持ちで自身の手の甲を見る。

そこにはもしもの時のためにと最愛の夫から託された令呪が一画浮かんでいた。

 

「・・・切嗣。」

 

ーーー何もないといいのだけれど。

 

 

アイリスフィールは、祈るような気持ちで自身の両手を握りしめた。

 

 

 

 

    ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

そんな庭の様子をちらりと眺めた後、衛宮切嗣は作業を再開した。

暫くカチャカチャと導線を弄るとそれを柱に固定する。

 

ーーーここの設置は終わった。後は・・・。

 

「随分と。」

 

そんな作業が終わって一息吐いた切嗣に背後から不意に声が掛けられる。

 

「随分と念入りに準備をなさるんですね。」と背後の人物が呟くのと切嗣がその人物に向かって発砲するのはほぼ同時だった。

背後にいた人物ーーーウル・ルガルは弾が掠って血の流れる頬(・・・・・・)をそのままに微笑を浮かべている。

 

「何処から入った。」

 

切嗣の背中に汗が伝う。彼は今純粋に焦っていた。

不確定要素をはらんだバーサーカーにそれに引けを取らない複数のイレギュラー陣営。

そんなイレギュラーどもを一掃するためにいささか強引ではあったもののセルフギアススクロールまで出して一網打尽にするための策を練ったというのに。

 

こんなに早く、それも一番厄介そうなやつにバレることになるとは。

 

ーーーどうする。

 

本能が警鐘(アラート)を鳴らす。

理性が数多の余分な機能を抑制する。

 

 

「何処から?そんなのどうでもいいじゃないですか。」

 

沈黙を割いたのはウル・ルガルであった。

 

「僕と、取引しませんか?魔術師殺し(エミヤキリツグ)。」

 

 

此処に、裏側の宴が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

「まず、前提として宣誓します。僕は聖杯を欲していません。聖杯が成立し次第君に差し上げます。それどころか、僕に協力してくれるなら僕の持っている聖杯を君に譲渡してもいい。」

 

「なんだと。」

 

最初からぶっ飛んだ前提を話され、流石の切嗣も混乱を隠せない。

この男は今聖杯を要らないと、どころか既に所有しているといったのだ。

 

ーーー攪乱して懐に潜り込もうって腹か・・・。

 

あのマスターらしき少女がこんな指示を出来そうな感じではなかったゆえにおそらくこの男の独断なのだろうが、それこそマスターを傀儡の如く操っているという時点で対等な関係は望めまい。切嗣も同じように傀儡にされるだけだ。

そう警戒を強めることで立ち直った切嗣に更に男は畳みかける。

 

「もちろん。君が僕の持つ聖杯の機能を疑うのだったら僕のサーヴァント(・・・・・・・・)込みで聖杯獲得をサポートしてもいい。」

 

「・・・サーヴァント?お前はマスターではなくサーヴァントだろう。いやどっちだっていい。仮にあのお嬢さんが君のサーヴァントだったとしていったい何ができるっていうんだ。」

 

切嗣の精一杯の威嚇じみた問い掛けに今度こそウル・ルガルは声をあげて笑った。

 

「フフフッ・・・と、ああ笑った。・・・何を言い出すのかと思えば。残念ながら彼女は僕のサーヴァントではありませんよ。ほら、いるでしょう。開戦早々に手酷くやられて、マスターもアナグマを決め込んでいて出てこない陣営が一つ。」

 

「情報収集、得意でしょう?君。」という男に向けた銃口を下げることなく切嗣は脳内の情報を厳選していく。

確かに、あった。マスターがアナグマどころか既に生死不明になっていて、かつサーヴァントの情報が全く入ってこない陣営が一つ。ーーー始まりの御三家が一つ遠坂時臣がマスターを務めるアーチャーの陣営が。

 

「ああ、わかっていただけたようで幸いです。極めつけの証拠はあの庭にいる金色のチンピラ紛いとこれですかね。」

 

するすると手袋を取ると、その白く美しい手の甲に爛々と赤く輝く令呪が刻まれているのが目に入った。

形状からするに、まだ一画も損なわれていない。

 

 

「これでも信じていただけないとなると、それこそセルフギアススクロールとやらを書かなくてはなりませんね。あなたのように。」

 

クスリとまたもや笑う男に表情を変えないままちらりと時計を見て切嗣は諦めたかのように口を開いた。

 

「それで、僕に何をしろっていうんだ。君は。」

 

「おや?聞く気になりました?」と茶化すかのような物言いを無視して続ける。

 

「御託は言い。君がマスターかどうかも信じちゃいない。けど僕には時間がないんだ。手短に話せ。」

 

「・・・まず、聖杯戦争は基本7騎かそれ以下の数で構成される儀式。ここはいいですね?

 

 

セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー。

 

けれど今回の聖杯戦争にはイレギュラーが多すぎる。上記の7枠に更に4枠が追加された大戦に及ばない中途半端な大儀式になりつつあります。・・・おそらく、聖杯がもう一つある可能性すらある。」

 

 

「聖杯が二つ・・・だと・・・いやだがしかし。」

 

「聖杯はアインツベルンしか成しえないものである・・・ええ、まったくもってそのとおり。この世界では(・・・・・・)それこそ盗みでもしない限り無理でしょうね。

 

・・・まあ、その話は前座として置いておきまして。なぜこんなにも異常事態が発生していると思います?

 

ありもしない御伽噺のサーヴァントに同名のサーヴァントが2体。そのサーヴァントの逸話を知る物言いのちぐはぐな少女に、サーヴァントでもないのに宝具を行使できるイレギュラー。そして僕ら。

 

戦争のルールは常に変動しているにしてもあまりにも多くはありませんか?」

 

「何が言いたい。」

 

あまりに男が勿体付けるかのように話すせいか、切嗣の中に苛立ちが募ってゆく。

時計の針の刻むカチカチという音が更に切嗣を駆り立てる。

 

「・・・この聖杯戦争は最初から問題が生じていたんですよ。おそらく、前の戦争あたりから。まあ、これだけ連続であればよくある話でしょうが、その欠陥・・・いや、どちらかといえば混入物、でしょうか。それが、出てきてはいけないものを呼んでしまったんですよ。この戦争に。

 

 

ーーー本来、この世界に現れるはずのなかった番外の獣(ビースト・アナザー)をね。

 

 

で、彼女がこちらに来るために穿った穴を通って理由や経緯はどうあれ余分がこちらに召還されたってところでしょうか。」

 

ここまで大丈夫ですか。と一端話を切る。

ビースト。人類のアポトーシス。人の罪の形。

余りにも突飛すぎる話に思わず切嗣は否定の言葉を口にしようとした。が、それをウル・ルガルが遮る。

 

「ですから。お願い(取引)をしに来ました。彼女()に、あの白のサーヴァントに決して手を出さないように、と。もちろん、彼女だけでなく、その周辺にも。なるべく触れずに放置の方向でいてほしいなと思いまして。」

 

「何かあったら封印すらできなくなりそうで・・・僕からの要求はこれだけです。ね?いい条件でしょう?」と再度微笑む男に向けていた銃口を切嗣が降ろした。

そのまま手を背広の後ろに回すとはあっと溜息を吐く。

 

「・・・話は分かった。」

 

次の瞬間。切嗣はウル・ルガルに向けて再度発砲した。

今度は固有時制御と起源弾という切り札を用いて。

徹底的に、確実に。彼を葬るために。

 

「ぐっ・・・。」

 

血を吐き出しながら、あっけなく男の体がずるずると崩れ落ちていく。

 

「だが、別に君の助力なんて僕には必要ない。・・・それに、もともとここでマスターの8割方を葬る算段だったことに変わりはない。・・・ああ、もうすぐ時間だ。」

 

そんなことを言いながら衛宮切嗣はその場を立ち去ろうと踵を返した。

 

しかし、ここで問題だ。

なぜ、ウル・ルガルはあれだけの戦闘能力を持っていながら衛宮切嗣の行動をまるで反応できなかったかのように最初から最後まで無防備に受け止めたのか。

 

なにより、そんな戦闘能力を持っているのも関わらずなぜ切嗣に協力を要請したのか。

 

そして、その答えは早くも切嗣の前に現れた(・・・)

 

「あーあ。勘弁してくださいよ。次の器が芽吹くまであとどれくらいかかると思ってるんですか。」

 

自身の背後から聞こえる声にもう一度発砲しようとした切嗣が見たのはーーー死体と、その横に立つウル・ルガルの姿だった。死体はその死に顔に面影こそあるものの、目の前で先程と寸分たがわず立っているウル・ルガルとは別人の少年のものであった。

その様に目を見開き、停止する切嗣を余所にウル・ルガルはその少年の横に屈むと・・・その右手の令呪が浮き出ていた個所の皮膚を剥ぎ取り、後ろの空間に貼り付けた。

 

「これで良しっと。・・・ああ、交渉は決裂ということで。爆破でもなんでもご自由にどうぞ。・・・まあ尤もできれば(・・・・)の話ですが。」

 

そういって男が消える。おそらく霊体化したのだろう。

あれだけ切り札を使わせられて逃げ切られてしまうという余りの失態に思わず切嗣は苦虫を噛み潰す。

 

しかし、事態はこれだけでは終わらなかった。

 

「なに?これ。---彼、岸・・・?」

 

 

ゆっくりと開けられたその扉の向こうに、一人の少女が立っていた。

 

この時初めて、切嗣は自身が男に完全に嵌められていたことを知った。

 

 




前回あたりからちょろっと出ている彼岸とは人の名前です。
あれ、重要なんだろうかコレ。



では、閲覧ありがとうございました。
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