まるで、古い映画フィルムを上映しているかのように耳障りな音と窮屈そうなイメージが視界を蝕む。
――愛というものが解らなかった。
愛。人が生きていく中で何処かで育んでいく感情の一つ。
その在り方は千差万別。十人十色とはよく言ったものだ。
そんな適当な解説を心の中でぼやいていると声が続いた。
―――誰かを慈しむという事ならわからなくもない。けれど、自身のそれはよく言う慈愛とやらとはかけ離れたものだったから、きっと愛とはまた別なのではないだろうか。
白くぼけたイメージが滲んで、形を変え、次に映ったのは決してそこに生えるはずのない大木と、花。
そんな光景を確認することが出来るその部屋唯一の小窓と、窮屈とは言えないながらも広いとも言えない豪奢な部屋。
そして……そんな部屋の大部分を占領している寝台とその上で微笑む足枷の付いた
―――何度、一緒に逃げようと提案しただろうか。
……そのたびに首を横に振られて『約束だから。』と断られてしまったのだけれど。
―――余りにも可哀そうな人だった。
―――もしかしたら、何か重い罪を犯したのかもしれない。存在そのものが悪とされるものなのかもしれない。
それでも助かってほしい。救われてほしい。……報われてほしい。
視界が順繰り変わってゆく。
徐々に視界が高くなっていくところを見るにきっとこの視界の持ち主が成長でもしているのだろう。
―――その人の近衛だったという男は言う。
『それは王がお決めになることです。……そして、そのことは忘れなさい。いいですね。』
―――ああ、どうして忘れることなどできようものか。
成長とともに本当は■は■で■は■だったのだと気づいた
そこにあったのは自身が■の■であることへの歓喜でも自信でも誇りでもない。
酷く冷え切った周囲への嫌悪と灼けつく熱砂の様な自身への憎悪だった。
―――■を騙して無理を強いる■が嫌いだった。近衛の男が苦い顔で仕方のないことだと言ったのもわからなかった。
だって、自分にはただ■の持つ力を独占したいが故に、自身のエゴのために犠牲を強いているようにしか見えなかったから。
―――強いくせに従順な■が嫌いだった。何故それだけの力を持ちながら、ただの人間の様に粛々と日々を過ごし、憂いに伏せるのか、無駄なことばかりをしているその姿が、理解できなかったから。
―――ただそこにいる自分が憎かった。ただそこにいるというそれだけで■■を■■へと誘うであろう自身が、そうしてそれを何ともできない自分が、ただひたすらに憎かった。
『仕方のないことなのです。■はただ■■■■■■様のことを……。』
―――
□ ■ □
「…あ……メア!!」
「へうあ!?」
がくんという不意の衝撃で遠のいていたらしい意識が戻ってくる。
「ちょっと、本当に大丈夫?こんな海原で居眠り運転何てしたらそれこそ転覆してお陀仏……いいえ、あの世行きよ?ガルラ霊とこんにちわすることになるわよ?」
「……あー大丈夫。大丈夫です。睡眠はしっかりとりましたし。さっきの海図からするともうすぐ陸地のはずですよね?」
そんな気の抜けた返事を聞いてウルクのキャスターは眉を下げる。
「たしかにそうだけれど……よかったら運転交換しましょうか?一応今でこそキャスターだけどライダーの適性も持ってる筈だから。」
「いいいいいえ。だだだだだ大丈夫ですから!!」
善意100%の申し出をすごい速さで断るメア。
確かに本人の腕はいいのかもしれないが、少し前の船への対応のことを考えてそういう事になりかねないという考えに至ったからだ。多少の無茶位なら目も瞑れるが、メアとてまだ死ぬわけにはいかないのだ。
「……あら?」
そんな青い顔のメアを余所にウルクのキャスターは後ろで海図を手に首を傾げている。
不思議に思ったメアが口を開くよりも先に彼女が話し出した。
「魔力の反応が、一つ増えてる。もしかしたら……。」
「……カルデアの……?」
かもしれないとキャスターが頷いた。
暫しの沈黙が訪れる。
「……取り敢えず状況が解らないと何ともしようがないのでこのまま情報提供者(予定)を優先で。」
「ん、じゃあその島で降りて。」
この場から数キロ離れているらしい島を指差して簡単に言ってのける彼女にはいはいと返事をして見せる。
幾度かの操船の後島にたどり着くと真っ先にウルクのキャスターが足を強めに地面につける。
と、黙り込んで動こうともせずにじっと密林の方を見遣っている彼女にメアは首を傾げた。
何をしているのかとメアが聞くよりも早く密林の方から悲鳴が上がる。
……目を遣るとまるで引きずり出されるかのように、否。実際黒い何かに雁字搦めに拘束されて引っ張られてきたのは紫髪の華奢な少女といった体の何かだった。
「ちょ、ちょっと。何よコレ!?どうなってるの!?」
必死に、とは言っても見苦しさを感じさせない抵抗をしている少女()の姿に普通なら経緯はどうあれ何かしらフォローを入れたりするところなのだろうが何故かメアの内心にそのような感情は湧かなかった。
勿論、守ってあげたいだとか好き勝手してみたいなんてことは
普段なら例え余計なおせっかいだとしても気に掛けるはずなのだが、微塵もそんな感情が湧かないメアに本人が内心で驚く。
それとともに自身と同じように動こうとしない隣のキャスターをちらりと見ると、何故か彼女は浮かない顔で自身の手の平を開閉させ、見つめていた。
「……そう、もうこんなにも……。」
ポツリとこぼされた言葉の意味は解らなかったが何やら芳しいことではないようだ。
そうこうしているうちに捕らわれの身の少女()もこちらの存在をちゃんと認識したのか話しかけられる。
「ちょ、ちょっと!そこの貴方!そこで見ている貴方、早くこの黒い奴を取って頂戴!!」
全っ然、取れないのよ!と悲鳴を上げながらいう彼女に溜息を溢しつつメアは行動を開始した。
正直あまり関わり合いにならないほうが良いのだろうがそうも言ってられない。
なんせきっと、当初の情報提供者(予定)とはきっとこの少女の装いの女神の事なのだから……。
例えよくわからないめんどくささが拭えなくとも贅沢は言えないのだ。
取り敢えず、こうして、
一話一話を何処で区切ったらいいかが最近分かりません。
たぶんこれからも解らないでしょう。
……駄目じゃね?これ?