・この作者は原作をプレイしたことがない。ネットから得た情報のみゆえに齟齬が生じる可能性は否定できないが、その点を了承した上で購読することを推奨する。
・この物語は人間とアンドロイドの同棲を描いたものである。9Sとの関係にこだわる場合、速やかに退避すべし。
「そうだ。君のことヨルハさんって呼んでもいい?」
「何…?」
時刻は午後8時半。沈黙の中、窓から微かに走行音が聞こえてくる。
マンションの一室に住まう一組のカップル。ごく一般とは変わらない、生活を営むには十分に設備が整っているこの環境。リビングに座る男女は、一見すれば同棲しているものにしか見えないだろう。
女――ヨルハ二号B型、通称2Bは男の一言に戸惑っていた。
2Bはどんな容姿かと聞かれれば、日本人離れした容姿。すなわち美少女と評価しても過言ではない。銀色のショートヘアに、白く透き通った肌の端正な形。
だが、名前からわかるように彼女は人間ではない。アンドロイドなのだ。
「カズキ、私のことは2Bと――」
「だって2Bって鉛筆の硬さみたいじゃないか」
「え、鉛筆…?」
「それに、なんか人じゃないように聞こえるし」
「私は、何度も自分はアンドロイドと――」
「でも、ヨルハって名前…。かわいいし…」
かわいい、その一言で2Bは黙り込んでしまった。
男――諸星
勿論、彼は普通の人間である。だからこそ、2Bは戸惑っていた。
彼女は、人間を生で見たことがなかったからだ。アンドロイドであるゆえに、電子データでしか人類の情報を認知したことはない。上司や仲間から得たものでしか把握していない。
「…あれっ、ヨルハさん…? もしかして、照れてる…?」
「…別に、照れてはいない…」
顔を覗き込む一生は確信した、彼女は嘘をついたと。そして誂うような、いたずらっ子のような笑顔をみせていた。
「嘘だよ。だって、頬真っ赤っ赤だよ?」
「私は君に何度も言っているはずだ! 感情を持つことは規律上禁止されていると!」
「あっ、怒った」
「うっ…」
一生に指摘され、2Bは立ち上がってしまう。両手を握りしめ、女の子らしいポーズを見せながら。いわば『激おこぷんぷん丸』と形容すべきなのだろうか。
だが、ボソッとした一生の一言で詰まってしまう。目元は眼帯のような黒い布で覆われているので、目は窺えない。だが、口は噤んでいた。
「もういい…」
これ以上、彼の話に付き合えばメモリ不足に陥ってしまうだろう。それに、自己メンテナンスの必要もある。
そう判断した2Bは踵を返して、部屋に向かった。ドスドスと大きく音を鳴らして。そしてドアノブに手をかけて扉を――
「ヨルハさん、そこ僕の部屋――」
開けなかった。そしてドアノブを掴んだまま、しかしカタカタと小刻みに手を震わせて鳴らしだしたではないか。
結局は、最初から最後まで彼の意のままにされたかのようだ。2Bはその状況を噛み砕くことができず、悔しさが滲み出ていた。
「ふん…!」
吹き鳴らすような声を出し、向かい側の部屋に方向を変えて別の部屋に入っていった。一生はその光景を、呆然と眺めていた。
「あれ…、絶対に怒っていたよね…?」
***
2Bはアンドロイド――詳しく言えば戦闘部隊、ヨルハ部隊に所属する戦闘型アンドロイドである。
彼女がいた時代というものは、まさに熾烈を極めたもの。異星人が、所有物である機械生命体を連れて地球を侵略。人類は抵抗したものの、高度に発達した文明に勝てず、敗北。生存したものは月に逃れた。地球を奪還するための抵抗手段として開発されたものの1つが、2Bであった。
2Bは感情を押し殺し、与えられた指令に則って任務を熟してきた。機械生命体を殲滅してきた。全ては人類のために、人類の故郷である地球を奪還するために。
だが、これは何なのだ?
見回せば、月に逃れていたはずの人類は地球に数え切れぬほど存在しているではないか。ディストピアと化した当時とは異なり、文明を維持したままの光景の中で人々は屯している。そして、この地球にはあるはずの要素が1つもない。
ヨルハ部隊も、機械生命体も…。
彼女には今に至るまでの前後の記憶がない。気づけば、戦闘能力を持たない人間に保護されている。そして、彼の天真爛漫さに振り回されている。
これは普通の青年である一生と戦闘型アンドロイドの少女2Bが送る、奇妙で実はごく普通な日常を描いたものである。