朝、誰かが俺を揺すった。
知らない天井、でも知っている天井を目にする。
昨日までの俺は知っていて、今日からの俺は知らない天井だ。
記憶が蘇った、あるいは憑依したのどちらかが起きた。
こればかりは、実際に体験してみないと説明できない。
「先輩?」
「……マジか。初対面だが、受け入れることが出来た俺は可笑しいのだろうか?」
「……正常では無いですが、私は嬉しいです」
昨日まで、都合良く両親を亡くして家族仲が悪いから遺産を使って一人暮らししていた高校生がいた。
すごく異常だが、テンプレらしい境遇だ。
そんな人物に、悪魔の依頼により転生することを承諾した俺という意識が発生した。
「君について、教えて貰えるか?」
「は、はい!私は、マシュ・キリエライト。クラスはシールダーで先輩のデミサーヴァントです。私は、先輩の聖杯によって呼び出されました」
「聖杯、なるほどそういう形でか」
俺は悪魔と契約した。
報酬は転生することだ。
転生した先で悪魔に利用されようと、俺の願いは既に叶っている。
消滅するはずだったのだから、文句は無い。
そんな俺が悪魔の依頼によってやることは神への嫌がらせである。
神、人間を転生させ暇を潰す奴らだ。
奴らの楽しみを潰す、それが悪魔の願いで有り、転生者を殺すのが俺の仕事である。
「まずこの世界がなんなのか調べないとな」
巻き込まれる仕様のため、大体すぐに判明するはずだ。
暫く記憶を思い返し、そして明確な答えを見つけた。
「駒王市、そうか聖杯は神器という訳か」
「先輩、取りあえずご飯にしませんか?」
「あぁ、うん、そうだな」
困惑気味のマシュの提案に乗って、朝食を取ることにした。
こっちです、と嬉しそうな後ろ姿にほっこりである。
りえりーもいいが、俺はやっぱり種田派である。
マシュの声を種田にした悪魔グッジョブだ。
「転生してもFGOしたいと言ったが、リアルに出てくるとは思わなかった」
それなりに戦えるようにする、と悪魔が言っていたので特典は完全趣味に走っていた。
それこそ、戦闘と関係ないじゃ無いかというレベルだ。
アイマスとかニセコイとかラブコメ世界に戦闘力はいらないからな。
そういう世界で楽しく暮らすためだったのだが、リアルでやれと申すか。
おい、俺のアカウント何処行った!データ消すとか悪魔か!
「どうですか、あり合わせで作ってみました。元気ないですね、先輩?」
「すっごく、和食です。あぁ、味噌汁が心に染み渡るんじゃぁ~」
眼鏡をクイっとしながら、ネットで見ましたとドヤ顔するマシュ。
かわいい、もしこれで俺に好意を寄せてくれてるならすごく嬉しい。
コスプレかよって思ったけど、二次元じゃなくてもいい気がしてきた。
取りあえず、髪の毛の色で違和感を感じないのが不思議である。
朝食は、味噌汁にご飯に納豆、お浸しと塩鮭である。
女子力高いっすねマシュさん。
俺はちょっと元気が出た。
「聖杯……おぉ、出た」
「それが先輩の神器ですか」
試しに出ろって念じたら手の中にいつの間にか用意された。
聖杯転臨でお世話になった聖杯である。
すごい、グラス程度の大きさなのに黄金だから重いぞ。
しかも、謎の光が常に発生している。
「うん?こ、これは……」
「トゲトゲで虹色ですね」
「聖晶石じゃないか、しかも六つ。つまり、リアルガチャをしろと」
運営(悪魔)の配慮に、オラワクワックすっぞ。
朝食を食べようと思ってたのに、そんなことしてる場合じゃ――。
「食べないんですか?」
「……頂きます」
後輩には勝てなかったよ。
食後、さっそく石を使って召喚である。
カッチーン、資源は無駄にはしない。
「どうやって使うんだろう」
「割るんでしょうか?」
「よし、思い切り叩きつけてみよう」
満たせ満たせ満たせ、とか詠唱しないが召喚は出来るはず。
さぁ割るぞ、という段階で待ったが入った。
「どうしたマシュ」
「今、準備します」
瞬間、マシュが謎の発光をした。
へ、変身だと!?
そこには、戦闘態勢のマシュ、つまりエロい装備とデカい盾のマシュがいたのだ。
「どうぞ」
「なるほど、盾にぶつけて割るんだな」
円卓が材料だっけ、相性のいいサーヴァントが呼べるといいな。
ランスロットが出たら、お父さんと呼ぶとしよう。
「行きます!」
六つ全部思い切り叩きつけた。
すると、何と盾の上に円環が三つ現れる。
そして、中心にカードが現れた。
アレは、バーサーカー!しかし、色は金では無いか。
「バーサーカー、スパルタクス。さっそくで悪いが、君は圧制者かな?」
「先輩、マッチョです」
「圧制は良くないよな、うん」
最初のサーバントは、バーサカーであった。
最初のうちはお世話になるスパルタクスである。
一応会話は出来る、すごいバーサーカーだ。
あまりのうれしさに、俺は立ち眩みでも起こしたのかフラッとする。
「魔力供給の影響でしょうか」
「まりょくきょうきゅう?」
「なんという圧制、それは良くない!」
バーサーカーはそう言って薄くなっていく。
おっ、なんか楽になってきた。
もしかして霊体化って奴だろうか。
「次、来ます!」
「さぁ、二枚目!金……えっ?」
二人でワクワクしていたら、二枚目もバーサーカーであった。
そ、そういうのもあるよね。
「我こそはタマモナインの一角、野生の狐タマモキャット!ご主人、よろしくな」
「お、おう」
「どうしたご主人、猫缶食べたいか?」
「み、皆さん喋られる方ですし」
やめろマシュ、そのフォローは俺に効く。
まぁ、ゲームのレア度と現実の強さは関係ない。
全てはマスターの運用次第、でも星5オナシャス。
「三枚目!」
「キャスターです!」
「おおっと、ここでオリジナルが来るのか、来ないのか、来るのか、来ないのかーい!」
色は金では無いのでその反応は分かるが、キレが凄いな芸人かよ。
「あああぁぁ!どうやら大当たりのようですよマスター?悪魔メフィストフェレス、まかり越してございます!」
「ハズレだよ!お前はキャラ的に積極的に騒動起こすからハズレだよ!」
「忠実に仕えるという点で、わたくしの右に出る者はおりません」
三体目はメフィストフェレス、俺の感想はテラ小安である。
「くっ、足が」
「大丈夫ですか先輩」
「魔力供給を、強いられてるんだ!」
マシュは大丈夫なのはコスト0だからだろうか。
魔力供給しなくても平気的な感じか。
後半戦、残る割った石は三つ。
「ランサーだ、ランサーが来るぞ!」
「この流れ、きっとブーメランにされるランサーです!」
「よう! サーヴァントランサー、召喚に応じ参上した。まっ気楽にやろうや、マスター」
「キター!」
四体目、それは兄貴だった。
やったぜ、さわやかなイケメン、そして初代ランサー。
ランサーって言ったらコイツのランサー、プロトタイプは知りません。
「お、おう。えらい喜びようだな」
「ご主人もワタシも嬉しい、猫缶雨あられにタマモも嬉しい、キャットも嬉しいぞ!」
「イヤッホォォォ!」
「あぁ~なんか分かったわ」
ありがとうランサー、常識人でありがとう。
さぁ、五体目である。
次は、ライダーだ。
「僕はアレキサンダー。アレクサンドロス3世でもいいよ――勿論、他の名前でもね」
「ショタ枠か、征服王」
「面白いね。ここも、君も」
最後は何だ、そろそろガチャの常連じゃなくてレアなの欲しいです。
運営(悪魔)、オラあくしろよ。
「召喚により、参上致しました。どうか、このパラケルススと……友達になりましょう」
「よろしく。まともなキャスターだわ」
何というか、トラブルメーカー来ちゃった。
魔術師に真の意味での友人はいないとか言う黒幕枠である。
ウチのキャスター、ヤバいのしかいないな。
「はぁ……」
「満足いきませんでしたか?」
「満足はしている、しかし同時に将来に不安を感じている」
「でも、家族が増えることは良いことです。先輩、これからいっぱい家族を私と一緒に増やしていきましょうね!」
……下ネタでしょうか?
マシュの天然発言に、俺は自分が薄汚い存在に感じた。
「あれれ、マスター前屈みでどうしましたぁ?おっ、おっ?」
「うるさい、霊体化しろよ!お前以外、みんな霊体化してくれてるだろ!」
最後にメフィストフェレスに煽られるのだった。