「諸君、決闘だ!」
ギーシュの言葉に野次馬が沸き立つ。
教師すら来ないで、生徒も止めないで、何て言うか平民の扱いが酷い。
オスマンだがグルマンだかは、あの使い魔の実力見てやろうみたいな感じで怪我とか考えてないんだから質が悪いわ。
「僕はメイジだ。魔法を使うことに異論はないだろう?」
「奇遇だな、俺もメイジだ。おっと、貴族じゃないから、貴族同士の決闘とか気にするなよ」
「ほぉ、どこかの落ちぶれた三流メイジというわけか。となると、アレは風か」
ギーシュの口上に答える形で俺は自分のことを伝える。
何を勘違いしたのか、俺が風属性だと思っているようだった。
さて、確認しよう俺が出来ることを……ガンド、強化、暗示、くらいだ。
残念ながら宝石も礼装もない。
「見せてあげるよ。僕の華麗なるワルキューレを……」
「あっ……詰んだ」
「名乗らせて頂こう、僕はギーシュ・ド・グラモン! 青銅のギーシュ!」
花弁が落ち、そして錬金されたのか、土を纏って甲冑が発生する。
それは二体の青銅騎士、ワルキューレだ。
相性最悪、ガンドも暗示も聞かないゴーレム。
強化した身体で殴ってもダメージは、ない。
「先手必勝!」
焦った俺は、即座に攻撃に移った。
ギーシュを倒せば丸く収まるからだ。
「ゴーレム使いの僕が警戒を怠るとでも思ったのか。掛かったな馬鹿めッ!ワルキューレ!」
青銅の騎士が、下がるように剣を構えた。
それは壁だった。恐れを知らない壁である。
俺の攻撃を身体で受け止め、カウンターの如く斬りかかる壁だ。
……よ、よく考えてやがる。
原作の噛ませで、ヤムチャ枠、オルコット枠、ステイル枠と同じチュートリアルキャラだと思ったが、なかなかどうして攻守のバランスを考えている。
防御のワルキューレと攻撃のワルキューレ、その二体というわけだ。
「くっ!」
「行け!」
「ッ!?」
俺の攻撃を身体で防いだワルキューレ、そして横から二体目のワルキューレが剣を振る。
それを良ければ防御に回っていたワルキューレが動き出し、俺はその剣を両手をクロスすることでなんとか防ぐ。
腕と剣が交差する瞬間、金属のような高音が響き、しかし弾くに至らず切り傷が出来る。
「ガラ空きさ」
「ガッ!?」
背中に激痛が走り、俺は混乱する。
一体なんだ、目の前にワルキューレはいる。
剣を構えて反撃した体勢のワルキューレ、そこに加わろうとしたワルキューレ、どちらも目の前にいる。
ならば、と俺は倒れながら振り向いた。
「三体目ッ!」
まるで、蹴りを放ったような形のワルキューレが、俺の背後にいた。
そう、奴は知らない間に配置していたのだ。
なんか違う、俺だけ難易度違う。
ボロボロになることを、もしかして求められてるのだろうか。
抑止力がギーシュをバックアップとか洒落にならんことじゃないだろうなぁ?
「何してるの!ゲホッ、ゲホッ……」
「その声は、って何してんだよ」
声に俺が振り向くと、そこにはルイズがいた。
シエスタにおんぶされたルイズがおった。
えぇ、なにしてんねん。
畜生、方針がブレブレだ。
シエスタを見捨てる選択肢もやり通すことも出来ず、代換え案のルイズがいない状態で終わらせるってのも失敗した。
予定なら瞬殺できたはずなのに、出来てないし失敗したな。
「ギーシュ決闘は、うえっ……」
「貴族同士のはだろ?それより、具合悪そうだが大丈夫かい?」
「余計なお世話よ、うっ……」
吐きそうな顔でルイズが口を押さえる。
シエスタの背中で吐くなよ、まったく。
『おいおい、だらしねぇなぁ』
『筋肉が足りないんだと思いますね』
『いやいや、やっぱり装備がダメなんだよ。僕の蔵から何か貸してあげたいくらいだ』
身体の内側から、サーヴァンとによるダメだしが入る。
分かってるけど、青銅のゴーレム拳で殴ったり破壊できない。
「ねぇ、アンタ死ぬわよ。もうやめなさいよ」
「死なねぇよ。この程度で死ぬわけがない」
「威勢が良い。なら、四体目だ」
ギーシュの前に四体目のゴーレムが現れた。
四体のゴーレムは俺を囲むように展開したのだ。
武器の一つでもあればいいが、今の俺は拳一つ。
なんてことだ、おいガンダールヴのルーン使うから剣をくれ!
意識が朦朧としていた。
あれから、度重なる攻撃に晒された。
いくつかは防げても、ダメージは蓄積していく。
そして、一つのミスが多くのミスへと繋がっていく。
そのため、一気に俺はピンチに陥っていた。
野次馬共は笑っており、もはや趨勢は決していた。
こんなのはただの公開処刑であった。
「せめてもの慈悲だ、命までは取らない。だが貴族としての示しは付けなくてはいけない。謝罪しろ」
「断……る……」
朦朧とした意識の中で、それだけはハッキリとしていた。
俺は間違っていないし、屈しようとは思わない。
……畜生、みんながいないと役立たずだな俺。
残念そうな顔のギーシュ、そして剣を振り上げるワルキューレの姿が見えた。
「終わりに、何だッ!?」
ギーシュの焦る声に、俺は閉じかけた瞼をなんとか開ける。
見れば、そこには黄金があった。
黄金の光、そして鎖に拘束される青銅の騎士。
……アレは、天の鎖か?
『はぁ……今は王様家業休業中なんだけどなぁ。まったく、世話のかかるマスターだよ』
その声は、子ギルの声だった。
『自分の本分を少しはわきまえたらどうだい?マスターは弓兵でも槍兵でも、騎士や魔術師、狂戦士や騎兵じゃないんだから。思い出してごらん、君は今までどうやって戦ってきたんだい?』
染み渡るように、脳に刻まれるように、子ギルの言葉が反復される。
周りの雑音や映像はない物となり、ただ己を見つめ直すように子ギルの言葉に従う。
……俺は、俺はみんなに頼っていた。
あぁ、そうかそういうことか。
「答えは得たよ子ギル。もう大丈夫だ」
『そうかい、それは良かったよ』
俺はフラつく身体を無理矢理稼働させて、立ち上がる。
既に天の鎖は消え、ワルキューレと呼ばれる青銅騎士達は自由となっていた。
「悪あがきを、今度こそ終わりにしてくれる」
俺はギーシュを見据えながら、聖杯を思い浮かべる。
イメージするのは、常に最強の自分だ。
「勘違いしていたッ!俺の戦いは自分一人の物じゃない。いつだって、みんなと一緒だったんだ」
「何を言って」
出来る、俺は出来る確信があった。
現れる、俺の中にあった力が具現化する。
握る、その手にはクラスカードがあった。
繋がる、それは英雄のいる座へとアクセスであった。
「
「な、なんだ!?」
迫り来る剣撃を弾く物があった。
それはあまりに無骨な金属の盾、ワルキューレの攻撃を防いだそれを俺は知っていた。
「盾、どこからそんな物が!」
「
手に握られた新たなカードが砕けるように光となる。
そして、俺の身体には拘束具と鎧とマントが発生した。
「姿が――」
「■■■■■■■!」
その絶叫は、野次馬達を黙らせ耳を塞がせた。
その雄叫びは、俺のダメージを攻撃に転じた末に発生した物だった。
雷が、大地を駆け巡った。
「ぐあぁぁぁぁぁ!?」
「ハァハァ……」
「ぐぅぅ、何がぁ……」
「チッ、しぶとい!」
感電したはずのギーシュは、辛うじで気絶していなかった。
ならば、止めを刺さねばなるまいと俺は前に出る。
そんな俺を制止する声が聞こえた。
「待ちなさい!もう決闘は終わりよ!」
「ルイズ、やめてくれ」
「いいえやめないわ!今のアンタが何をしようとしてるか分かるわ、でも平民が貴族を殺すなんてダメよ!」
「今の俺に、それ以上はやめろ!」
何を勘違いしているのか知らないが、本当にマズいのでやめて欲しい。
だが、その希望は悉く踏みにじられる。
「これは命令よ!ご主人様の言うことが聞けないの!」
「くっ、俺の右腕が……」
暴れるように疼く右腕を俺は左手で押さえつける、だがそんな抵抗は無駄である。
寧ろ、俺は受け入れるべきであった。
抵抗すればするほど、浸食されるからだ。
「フフ、クハハハハ!おぉ、圧制者よ!汝を祝福せん!さぁ、我が愛を受け入れろ!」
「ちょ!?」
『待て、止まれ!本当に止まってくださいお願いします!』
俺の身体が、満身創痍な身体が空を飛んだ。
飛んで、大の字になった状態で、俺は落ちる。
「ぐえっ!?」
「す、素晴らしきかな……我が反逆……」
『ぎゃぁぁぁぁ!?痛たたたたた!?』
俺はあまりの激痛に気を失うのだった。