かくかくしかじか、とまぁそんな感じでアーシアさんに事情を説明した。
ただ、やっぱり信じて貰えなくてパラケルススによる暗示を掛けて貰った所だ。
ここまでお人好しだとは知らなかった。
「先輩、彼女は大丈夫でしょうか?」
「今は俺達との信頼関係が出来てないから、時間が経てば分かってくれる……はず」
「そうですね」
それより、学校に行かせた方がいいだろうな。
明日、グレモリー先輩に頼んでみるかなんて考えながらその日は寝ることにした。
馬がいた。
馬の前には一人の若い筋骨隆々な男がいる。
男は、馬を切り捨て周囲の者達に言う。
「勝てば馬は幾らでも手に入る。負ければもう必要ない」
周囲の者達は、それもそうだと笑い合い、そして彼を同士と呼びながら受け入れる。
あっ、夢だこれと俺はその時自覚した。
場面が変る、そこは戦場、幾多の屍が転がっている。
俺は足下にあった死体を見て、それが先程笑っていた人間だと自覚した。
反射的に吐きそうになるが、これは夢だからか俺は吐くことが出来ない。
そして、それと同時に俺は彼を見つけた。
「うおぉぉぉぉぉ!」
誰の視点なのか、俺は第三者の視点で彼を見る。
彼は小剣を片手に、雄叫びを上げながら人垣へと突っ込んでいく。
その数は圧倒的多数、それに対して突撃を敢行するのは彼一人だ。
「おい、待てよ」
俺は彼を見て思わずそう言った。
だって、あの時笑ってた何人かが逃げているからだ。
彼を置いて、一人だけ戦わせて、逃げているのだ。
「はぁぁぁぁ!」
「弱者の盾となる以上の快感はない!はぁぁぁぁ!」
迫り来る敵兵を盾を持つ左手で殴り飛ばし、そして右の小剣で切り結びながら進んでいく。
「小隊長をお守りしろ!」
「何をしても無駄である」
少し頑強そうな装備を纏った馬に乗る男、それを守るように兵達が壁になる。
そこへ、彼は飛び掛かった。
空中で無防備になった彼を、兵達はその長い槍を持って突き刺していく。
「ぬぅ!」
だが、そんな物を諸共せずに笑みを浮かべた。
「ひぃぃぃぃ!?」
「さあ、愛を受け取りたまえ!」
彼の一刀により、首が飛ぶ。
怯む敵兵に、彼は果敢に責め立てた。
「囲め囲め、敵は死にかけだ!」
敵に包囲され、槍で体中を刺されながらも彼は戦い続ける。
何時しか小剣は折れてしまった。
だが、それでも彼は盾を片手に相手を殴るという方法で戦い続ける。
傷を負い跪いた。
それでも楯を前に掲げて戦い続けた。
「ははははは。これはいい、これは素晴らしい。雲霞の如き敵兵、そして我が身は満身創痍。
ああ、これでこそ――勝利するときの凱歌はさぞや叫び甲斐があるだろう!」
既に立つことは敵わない。
何故なら、両足は潰されたからだ。
それでも彼は笑って、腕を足代わりに敵に向かっていた。
両目は潰され、いつしか拳を握る腕は断たれた。
それでも彼は笑って、今度は顎を使って這いつくばって敵に向かっていた。
安心する一際豪華な格好の男の前で、彼は首を断たれた。
それでも彼は笑って、首だけにも関わらずその喉に噛みついた。
「我が反逆は……不滅……なり……」
「……ハッ!?」
それは、彼の死に際では無く見慣れた天井だった。
朝、納豆をかき混ぜながら俺はスパルタクスを見ていた。
うーむ、生前と肌の色が微妙に違うし変な格好なんだよな。
なんだろう、みんなの想像による補正だろうか。
メデューサ―がバブリーな格好になるみたいな、兄貴が全身タイツとかそんな感じ。
「どうしたマスター、納豆が出来たのか」
「こうして普通に会話は出来るんだけどなぁ」
「何か悩み事か?私で良ければ相談に乗ろう」
「今日はアーシアさんの件について悪魔の所に行くんだが、お前はヤバそうだから来るなよ」
「何故だ同士よ!領主だぞ、愛すべき圧制者だ!それは命令か、ならば我が愛を――」
「お願いだから、命令じゃ無いぞ。あと、お風呂湧いたぞ」
「テルマエ……おぉ、命の洗濯……テルマエが呼んでいる」
よし、誘導成功計画通りだ。
さて、じゃあ誰か学校に着いてきて貰おうか。
あれ、誰も降りてこないんだけどどうなってるんだ?
「マシュ、みんなは起きてないのか?」
「みなさん出掛けるらしいですよ。今日の担当はスパルタクスさんなので大丈夫だろうと」
「えぇ、じゃあ今度にしようかな」
ここで無理してアーシアさんの件を相談して、入学したければ悪魔になれとか言われたら面倒だし。
なんだ、釣りでもしに行ったのか?
「クーフーリンさんとタマモさんとアレキサンダーさんは海に、メフィストとパラケルススさんはバイトに行きました」
「後半どうした、バイト!?」
「遊園地でマジックショーとピエロのバイトらしいですよ」
家計がそこまで苦しかったの!?
確かに、俺が神器を覚醒してからバイトしてないけど……俺になる前の俺の貯金、そんなに少なくなってきたのか?
「最悪、令呪で呼べよってクーフーリンさんが言ってました」
「……まぁ、戦闘にならんだろう」
「大丈夫です、今日はスパルタクスさんの代わりに私が護衛します」
両手で握り拳を作って頑張ります、とやる気満々のマシュ。
今日、休もうと思うとか言えないよ……。
スパルタクスを浴槽に放置して、登校する。
マシュは……職員室に連れて今日は見学ということにしてみた。
こ、これでもパラケルススに魔術習ったし、暗示なら行けるはず。
「そんな話、聞いてないが」
「聞いてる、聞いてるはずです」
「……そうだな、先生がど忘れしていたようだ」
やったぜ、魔術による暗示って便利だって分かんだね。
来客用のカードを首に掛け、スリッパを履いたマシュが見学することになった。
「先輩、スリッパです。耐久性ってどのくらいでしょう」
「気にするとこそこですか」
「もしもの時、叩くからには装備の耐久性は大事です」
テレビの見過ぎです、スリッパは叩く物じゃないよ。
っていうか、今時スリッパで叩く内容をテレビで見たこと無いわ。
だから、そうなんですかって驚くのやめようか。
先生から紹介の元、今日はマシュの見学である。
空き教室から席を持ってきて、授業を俺と一緒に受ける。
明らかに可笑しいが、授業参観の英語の授業で粘土とかやる学校だし気にしたら負けだと思う。
「えー、マシュさんって同棲してるの」
「あれだ、従妹だからだ」
「おい、どどどういうことだよ」
「お前は女子の会話に過剰に反応しすぎだ」
まぁ、転校生あるあるみたいな質問攻めのせいでラブコメ展開があったけど割愛である。
そして、放課後に俺はオカルト研究部へやって来た。
「よくも私の可愛い下僕をあんな目に遭わせておいて来れたわね」
「……何の話ですか?」
「えっ?」
「えっ?」
失礼します、と開けて開口一番にグレモリー先輩に文句を言われた。
そして、お互いにどういうことだと首を傾げる。
その答えは、すぐに判明する。
「ここかぁ!テメェ、アーシアを――」
「先輩!やああっ!」
「うぉ!?」
俺の背後から忍び寄る影、それはそのままマシュによってソファーに放り投げられる。
片手で男を飛ばすなんて、さすマシュ。
「はぁ……ちょっと一誠、どういうことかしら?」
「部長言ったでしょう!あの日、コイツがアーシアを浚ったんです」
「ですって、それであんな危険な場所に閉じ込めたって本当かしら?」
呆れながらグレモリー先輩がそんなことを言ってくる。
いや事実だけど、俺は悪くない。だって、やったのはパラケルススだからだ。
「そのアーシアさんなんですけど、堕天使っていう奴らに騙されてたのを助けたんです。それで学校に通わせたいんですけど、あとウチのマシュも」
「せ、先輩……」
「あー、うん、ちょっと待って。さっきの質問は事実なのかしら?」
「ウチの魔術師が、拘束したのは事実ですけどそれは襲われたからであってそれに悪魔の魔力なら解除出来るはずです」
もちろん嘘だが、あぁだからかみたいな勝手な勘違いをしてくれた。
そんなことより、貴方の家に魔術師がいることにびっくりみたいなことを言われた。
いや、こっちの世界にもいるんだしいても可笑しくないだろ?
「話の内容は分かったわ、それくらいなら容易いわ。でもその代わり、私達に敵対しないでよ?貴方でしょ、堕天使達を始末したのは」
「な、何故それを……」
「いや、私ずっと監視してたし」
プライバシーの侵害に遺憾の意である。
取りあえず、問題は解決したようだった。