有言不実行とか、一番ダメなやつですね。申し訳ない。
これからは、上がったら載せてく。それだけを念頭に置いて執筆します。
第11話、どうぞ!
† †
梯子の類が掛けられていないだけで、穴じゃないのではないかと疑うほどの隙間に身を
投じる。
ほんの短い間の浮遊感と、全身に伝っていく衝撃。それを味わって、即座に顔を上げ
る。
プリムさんたち三人は、ひたすら壁に向かって攻撃していた。
「は…………?」
事態が呑み込めず、着地した体勢のまま、もう一度まじまじと見る。
と、壁に目が現れた。
いや、違う。よく見れば、最初に見たときは閉じていただけだったようだ。左右一対、
それらとは少し上部の中央に一つ。計三つの目玉に向かって、三人は得物を振るい、ある
いは魔法を放っている。
「――っ!」
目が、否。壁が、と表現した方が正しいのだろうか。とにかく光った。経験則が導き出
すは――
「魔法!」
声を張り上げて、警告を発する。
弾かれたように、こちらを見る男子二人。照準を定められていたポポイを救ったのは、
ただ一人冷静に場の状況をおさえるように努めていたプリムだった。
そして、警戒はそのままに、
「何で君がここに!?」
「なんとなく、来るんじゃないかと思ってたわ。アキじゃないのにはビックリしたけど」
ランディさんの叫びに近い詰問を、「まぁまぁ、少し落ち着いて」と宥め、私に問いか
ける。
「ここには、あなた一人で?」
「吉井君は、上でタナトスと戦ってる! 『プリムたちを援護して』って頼まれたの」
頻繁に発光する壁から意識を逸らさずに、手短に伝える。
「タナトスと!?」
驚愕し、思考にふけるプリムさん。
そんな彼女を無視する格好で。
私は、告げる。
吉井君と同じように、小さい分身を使役して戦うこと。攻撃能力には優れているが、彼
のように戦闘に慣れているわけではないので、目まぐるしく推移する戦闘状況に即応でき
る能力は、ないということを。
そして、自分に関する戦力を知ってもらって、それを踏まえた上での自身の考えを述べ
る。
「相手がどんなパターンを有しているか。その把握に努めたい」
利己的なお願いだ。
要は、後ろでただ見ているだけ。
プリムさん以外の二人は、出会った経緯からして良好な関係を築けているとは、口が裂
けても言えたものではない。
それでも、その方が勝率は上がる。そんな気がしたから私は、口にした。
言い訳にしかとられないと思う。なんせ、私は弱いので準備してから臨みます。そう
言っているようなものなのだ。
断られないようにするために、もっともらしくオブラートに包んだような言い方で濁す
ことも可能だ。しかし、それはフェアでない。今必要なのは、誠意である。
罵られて、結構。私が、圧倒的に弱いという事実は変わらないのだから。
はたして彼らは、お人好しだった。無論良い意味で、である。
「そういうつもりなら」と私の言い分を飲んでくれたのだ。
感謝してもしきれない。
「それじゃ、良く見てなさい!」
声高らかに。遠足を待ちきれない子どものような歩調で、プリムさんは向かっていき、
二人もそんな彼女を追って戦闘に参加していった。
激しい攻防が、眼前で繰り広げられる。
その様を、眺めないように意識する。私がここですべきことは、機械的に相手を読み取
り、統合。弱点を捕えることにある。
目の前で展開されている光景を、そのままインプット。関係ない箇所をノイズとして処
理しつつ、運用可能な案を取り出していく。
そうして得られた情報に、前提を加味する。
私と彼らの間にコンビネーションは、ない。共闘するのも初めてであるし、何よりこの
規格のモンスターに、私は慣れていないという二つの条件。
少しずつだけれど、見えてきた。
片方の眼をつぶしても、壁本体が生き返らせる。かと言って、壁自体を壊しにかかる
と、両眼から間断なく攻撃が襲い掛かる。
それらを掻い潜ってダメージを与えても、すぐに回復してしまうのでイタチごっこだ。
しかし、潰された眼は復活しても、少ししたらまた開かなくなる。つまり、充分な回復
を施されているわけではない。
三人が片側に集中したら、十秒と掛からずに目を開いてられなくなるほどだ。私の召喚
獣なら、当たれば一発で済むかもしれない。
(…………倒せる)
しかし、連携があまりにお粗末だと、かえって手痛い反撃を受けることになるだろう。
加えて、達成するには作戦を事前に伝える必要がある。が、これはそこまで問題になら
ない可能性もある。
少し離れているものの、私も同じ場にいるというのに、私に照準が向くのは散発的なの
だ。もしかしたら、自分に対する危険度を何らかの手段で認識して、対象を定めているの
かもしれない。この仮説が真であれば、全員が壁から距離をとることで攻撃の層は薄くな
る。
後は――――
(私の覚悟だけ)
急造の仲間。急造の作戦。
上手くいく確率が如何ほどのものかすら、想像がつかない状況で私は動かなくてはなら
ない。
今までそんな生き方をしてきていないから、前情報もなしに突っ込むなんて真似は甚だ
恐ろしいし、召喚獣の操作だって吉井君のように長けていないから取り返しのつかないこ
とをしでかしてしまうかもしれない。
それでも、彼らの戦闘に、吉井君を一秒でも早く助けるため時間制限を課そうとしてい
るのは私なのだから、私が一番の働きを見せなければいけない。
逃げてしまいたい。そんな感情が渦巻く中、それでも私が前を向いていられるのは、それ以上に吉井君の力になりたいからだ。
彼にだけ任せるのを彼自身が許そうと、他ならぬ私が許せない。
ならば、一歩踏み出そう。
「ランディ! ポポイ! 一旦下がるわよ!」
突然のプリムの指示に、意図を測り損ねる。
(立て直し? いえ、それにしては――)
タイミングが悪いような……。
そう、思った時。
プリムが、こちらを見て微笑んだ。
(ああ、そうか)
彼女は、私の覚悟が決まったのを感じ取ったのだ。
(助けられっぱなしだわ)
言外のメッセージは、受け取った。
背中をそっと押された形で、私は口を開く。
「ありがとう。ここからは、私も戦うわ。それと――」
まず、感謝を。
「考えがあるの。気付いたことを踏まえてのそれを、今から伝えます」
運よく兆候を発見できた、降り注ぐ氷塊を避けながら。私は、思い浮かんだ作戦を開陳
した。
「いけるわ、それなら!」
「うん、僕もそう思う」
「ねえちゃん、すごいな!」
作戦を聞いた三人の反応は、好感触であった。
正直不安だった。モンスターとの戦いで、指示を出すのはいつも吉井君だったから自分
で考えてそれを誰かに伝えるのは、初めての経験なのだ。
……多分、穴だらけなのであろうそれを、目前の三人は承諾してくれたのだ。
本当に、ありがたい。
「それじゃ、キノシ――」
プリムさんが私を呼び掛けて、やめる。と思えば、何か考え出した。どうしたのだろ
う?
「――共闘するのに、いつまでもよそよそしいってのは変よね。うん! あなたのこと、
これからユウコって呼ぶわ。それでもって、私たちのことも呼び捨てにして。……ダメ、
かな?」
彼女の、そんな歩み寄りに。歓びが胸にこみ上げた。
「嬉しい。プリム……ランディ、ポポイ。……いきましょう!」
ポポイが、敵の左目によるフリーズを同じ魔法で相殺し、右目が本体の回復を図った。
瞬間、
「今よ!」
プリムがゴーサインを出す。作戦開始の合図である。
彼女の掛け声で、私とプリムたち三人の二手に分かれて両目に肉薄。行動直後の隙を衝
いて、全力で目を潰しにかかる。
ここでの要点は、
れもおそらく達成できるであろう。
私が編み出した考えは、こうだ。
壁の向かって左側、すなわち右目は魔法に依らない攻撃――睨みによる鈍化と視認可能
の
のものにする<スポイト>。壁本体は、仲間が機能不全に陥った際に復活の魔法を施すの
が、奴らの行動パターンである。そして、これらほとんどが前もって知覚することができ
ない。発動の兆候がないのだ。
では、避けられないじゃないか。そう言われれば首を縦に振るしかないが、かといって
策が講じれないということには繋がらない。
発想を逆転させれば良いのだ。
言い換えれば、攻撃をさせなければいい。
壁は、一方でも目が閉じると回復する習性がある。煩わしい、と思っていたこれこそが
実は突破口となる。
壁自体に攻撃手段は、ない。このことを利用してやる――目の復活に追われるという状
況を演出する。
両の眼は、一度は閉じた後に復活している状態である。ということは、少ない攻撃回数
で潰せるだろう。私の召喚獣なら一撃で、というのも可能かもしれない。
さすれば、あちらの三人が目を閉じさせたのを確認して、即座に行動に出れば作戦の第
一段階は達成できる。
壁本体がどちらか一方の目を開かせてからが、次のステップとなる。
再び開いた眼は、例外なく体力が少ない。開いた眼が行動を開始するまで、僅かながら
空白の時間が存在する。その束の間に、召喚獣に攻撃させる。そして、プリムたちはその
間本体を攻撃する。
両目とも機能していない状態が出来上がれば、再度本体は目を癒す。この流れを作れる
ことが出来たならば。私たちは一方的に相手に攻撃を加えることが可能となる。
つまり、常に両目を閉じさせておくように動くのが、第二段階である。
本作戦の肝は、相手に行動の選択肢を与えない――これに尽きる。
初期条件は、何の問題もなく達成した。
次の段階への移行のタイミングを図って、今か今かと構えて――
「うご、かない?」
予想されていた仲間への回復どころか、一切のアクションが見られない。そんな相手の
様に知らず力んでいた身体が、弛緩する。
「ユウコ、まだよ! 様子がおかしい!」
そんなあたしをプリムが叱咤する。彼女の言葉が、耳を通り抜けた時だった。
壁が
「なっ――――!?」
絶句するのは私だけで、彼ら三人の判断は迅速だった。ポポイは魔法の準備をしている
し、ランディに至っては既に得物を斧に持ち替えて振りかぶっている。プリムは、ラン
ディの後に即座に続けるようにスタンバイしている。
(そうだ。逡巡している時間はない。倒しきれなかったら、私たちは押し潰されるだけ)
彼らの姿を、次いで壁に目を向ける。遅くはない、少なくともこの速度で壁が迫ってき
たら恐怖するだろう。それぐらいの速さで向かってくる大きな質量体に、立ち向かう仲間
の勇姿に私は自身を取り戻す。
ポポイの<スピードダウン>で、若干移動速度に翳りが見られたのを頭が認識した、そ
の刹那に。
私は召喚獣を走らせていた。
鋼と石塊の甲高な激突音。
ピキ――破片が散り。
パキ――
静かに、亀裂が領土を拡大していく。
あちらこちらで、破片というには小さい石ころが散乱し始める。
そして。
一際大きな音を残して、私たちを脅かしたものは、あっと言う間に瓦解した。
「終わった、の?」
発したのは誰であるか。
そんなことは関係なかった。
そう、今度こそ。
倒したのだ。
声にならない歓喜が、気付けば口から漏れていた。
でも――
「プリム、ランディ、ポポイ。本当にありがとう。それで……」
「早く、上に行きたいのよね?」
こちらの欲するところを、プリムが先んじて代弁してくれた。
「えぇ、そうなの。上に行く方法ってあるかしら?」
「そうね、ちょっと上るのには高いわよね」
「あ、あそこにバネクジャコがあるよ!」
バネというのだから、ロイター板のようなものだろうか。そう思い、ポポイが指した方
を見ると――
「生き物にしか見えないんだけど」
名状しがたい生物が鎮座していた。
「よく分からないけど、上がるのに支障がないなら」
さすがに引くものがあるが、うだうだしている暇はない。
「お先に失礼するわね。本当に、ありがとう!」
「待って、私たちも行くわ。それに、それはこっちの台詞よ、ユウコ!」
嬉しさを
みよーん、という間の抜ける音が遠ざかるのを感じながら、私たちは上階に到達した。
「吉井君、お待たせ! プリムたちは――」
「フム。確かに、彼の言った通りだったな。ルームガーターを滅して、この場に戻ってく
るとは」
そこにいるべき人が、いなかった。
私たちを待ち受けていたのは、意外そうにこちらを見遣る
「吉井……くん?」
広いフロアなのに、やけに私の声が響いた。
批評カモン! ――いや、本当に。
下手くそなら罵ってくれても、かまわないんだぞ☆(爆)