バカは異世界で何を為す   作:2×3=

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連投ッ!!


第12話

 

 

 

 ✒ ✒✒✒

 

 

 

 あちらの世界とのつながりを教えてもらうこと。それが、雄二の持ちかけたものであっ

た。

 真実を求める三人に、カオルはこのように告げた。

 電波は通っていなくても、あちらの世界にだって生活する人々がいる以上、エネルギー

源はある。そして、向こうではそれは、マナという存在であると。

 

「学園長の言を借りれば、明久のいる側に向かうのは不可能だが、システムを通してなら

あちらのエネルギーのようなものに干渉することは出来ないことではない」

 雄二が顔を学園長に向ける。ここまでは、訂正箇所はないようである。

「こちらの頼みは、一つだ。マナとやらの流れ(・・)、感知できるんだろう? その効果を明久

の奴にも同調させてやってほしい」

 

 あちらの世界とこちらの世界を繋いでいる要因の一つであろうマナを認識できれば、

帰ってこれるやもしれぬと。毛ほどの細さでも、可能性という糸が架け渡されるのであれ

ばという願いから、それは出たものであった。

 

 カオルは、召喚獣を使役した際、フィードバックにリンク付けてマナを感知できるよう

に明久のシステムをあらかじめ設定していた。これによって、彼の周りにもマナが集まる

機構が生まれた。

 雄二の提案は、すなわち、今組まれているプログラムをアップグレードすること。 

 明久が、ポポイのフリーズを危険と察することが出来たのは、偏にこれのおかげであ

る。

 

 

「ところで、話は変わるのじゃが。社会的にはどうするおつもりで? まさか行方不明扱

いというわけにもいくまい」

 雄二にやり取りを任せていた秀吉が、思い出したかのように尋ねる。

「当然さね。このことが世間の明るみに出ると、私もタダでは済まない。――坂本は、

言ってる意味が分かるだろう?」

 

 雄二は一瞬考え込んだ後、何かに気付いたような様子を見せた。

「……警察が介入してくるのは疑うべくもないな」

 

 康太が、頭をゆっくりと左右に振る。

「それが、どうだと……」

 

「――システムは、どうなると思う?」

 

 固まる康太と秀吉。思い当ったようだ。

「そういうことだ。良くて凍結、悪けりゃなかったことにされる(・・・・・・・・・・)。あまりにも危険を孕ん

でいるとされて、な。そうなると、明久は行方不明者リスト入りになっちまう」

 

 あまりのことに呆然自失の体を見せる二人。無理もない。唐突過ぎた。

 しかし雄二は、ひとり思考の海を彷徨っていた。

(解せねぇ。モニターなんて普通召喚獣に付随させてるのか? いや。明久のは仕様が違

うし、観察処分者という肩書なだけに、なんて言い訳も用意できる。……ん? 用意――

そうか!)

「ババア……突発的な事態にしては、手回しが利きすぎやしないか」

「ほぉ、やっぱりあんたは違うね」

 

 他の二人が、目を丸くして見つめている中。

「っは、んなこたあ、どうでもいい。ババアの未練も、どうでもいい。知りたくもないか

らな」

 雄二が挑発的な言葉を投げる。

 その発言に、片眉を僅かに上げるも、カオルはにべもなく返す。

「可能性の模索さ。あんた達子どもは、知らなくていいことだよ」

 

 飄々と皮肉を返され、雄二の眉が吊り上がるが、こらえる。

「チッ……。対策は?」

 あるんだろう? とは言わなかった。認めたくない、という思いの表れか。

 それを見透かすかのような笑みを浮かべて、答える。

「勿論ある。いつまでもごまかせるものではないが、応急的な処置を施すつもりでいる」

「どういったものだ?」

「”召喚獣代替システム”を導入する。今、急ピッチで進めているのが、そうだ」

 

「召喚獣、代替システム?」

 耳慣れない単語に三人ともが、おうむ返しのようにそのワードを転がす。

 

「代替……まさか、人間と?」

 その二文字と召喚獣の特徴とに浮かんだ連想。

「つまり、変わり身を用意する、と?」

「ああ、そうなるね」

 

 雄二の当てずっぽうは、正鵠を射ていた。

 だから、余計に。

「……なぁ、少し用意が周到過ぎやしねーか?」

 そんな疑問が湧いてくる。

 

「召喚獣が人間の代わりに作業を出来れば、という声はシステム創造初期からある」

 

 そして、その定型句のような返答に、ますます疑念は深まる。

 

「俺達は、変わらない日常を、違和感を持たれないように過ごせと」

 だが追究はせずに、これからの認識をすり合わせる雄二。

 

「理解が早くて助かるよ」

「……ばれたら?」

「あんたが、想像している通りだよ」

「気付かれるな、と。ハッ! なるようにしかならんさ、たとえ全力を尽くそうともな」

 

 どこか遠くを見るような目つき。

「木下」

 真正面を向いて、不意に一人の生徒の名を呼んだ。

「あんたには、詫びておかなきゃならないことがある」

 

「…………何を」

 話の切り出し方に、碌でもないことだと、彼は断定して続きを促す。

「あんたの姉を、向こうに寄越すつもりでいる」

 

 衝撃的な告白に、諦観を思わせる面持ちを見せる秀吉。

 

「なんだと!?」

「……どういうつもりだ!!」

 激しいリアクションを見せたのは、当人ではなく、友人達であった。そうそう声を張り

上げることのない康太までもが、傍目から見て分かるほど憤っている。

 

「嫌な予感がするとは思っとったが――――どういうつもりじゃ、学園長?」

「適性の問題さね」

「ふざけるでない!」

 

 空気をびりびりと震わせる一喝を受けてなお、カオルは秀吉の姿を真ん中に捉える姿勢

を崩さない。

「ずれた部分があるからね。フォローしなきゃいけないことがある」

「人員の追加。それで済むから、姉上を送ると?」

「当人にとって災難なのは、百も承知。申し訳ないという気持ちはあるが、彼女が一番可

能性が高いんだ」

「二人が戻ってくることの、か?」

 雄二が割り込む。

 やるせなさを震える手に込めて。握りしめ、顔を俯かせる。

 そんな友人の肩に手を置きながら。

「本人の意思は無関係にか?」

「進んで、しようってわけじゃない。けれど、彼女は……」

「都合が良い、というわけじゃな」

 カオルが詰まった間に、秀吉が言葉を滑り込ませる。

 

「ああ、そうだよ」

 そして、カオルは(うべな)った。

 

「秀吉……?」

「失礼しました」

「お、おい! 秀吉!?」

 

 音も立てずに歩いていき、ドアを開ける。部屋に顔も向けずに、

「疑問は解決したじゃろう。これ以上、ここにいるのもお互い時間の無駄というもの」

 秀吉は、そう言うと今度こそ部屋を後にした。

 

「……確かに。お前の言う通りだよ、秀吉。学園長さんよ。あんたにはまだ聞きたいこと

がある。が、今は協力してやるよ」

 

 本人が、目を瞑るという態度を示したのだ。雄二に、カオルの背信にどうこう言える道

理もなく、康太を伴って部屋を出る。

 

「…………」

 

 廊下に出る直前。康太が、振り返る。

「……どうした? さっさと行きな」

「…………言われなくても」

 

 

 斯くして、彼ら三人と学園長は共犯者として、波乱の日々が幕開けた。

 お互いに、大きな溝を隔てて。

 

 

 

 † †

 

 

 

「素晴らしい! 彼の言った通りだ。君が参戦して十分と経たずに、あれを破られると

は」

 

 タナトスが、何かを言っているが、私は吉井君の姿をただただ求めていた。

「吉井……くん? 返事しなさいよ。居るんでしょ……?」

 

 私の問いかけは――――虚しく響くだけだった。

 

「だって、あなた言ったじゃない? 『ここは任せて!』って。ねぇ!」

 

 返答は、ない。

 

「あたし、あなたに助けられた! 右も左も分からないこの世界で! あてどなく彷徨い

歩いていたあたしを! あなたは救ってくれた!!」

 

 ねぇ、お礼も……言ってないのよ? あたし。

 その言葉が、声帯を震わせることはなかった。

 

「ふん、聞こえてないか。興が冷めた。……()ね」

 

 風を切るような音。

 それが、届く間際。

 影が差した。

 

「ぐっ……プリム、ポポイッ!!」

「任せて!」

「合点承知!」

 

 私の前にその身を躍らせたのは、剣で防御の構えをとっているランディだった。

 プリムが乱暴に私を担ぎ上げて、ポポイが<フリーズ>を放つ。

 

(今度は――吉井君じゃない人に助けてもらって)

 

 私は、また迷惑をかけている。

 悔しい。

 情けない。

 この感情は、いつもならば私を発奮させるものだったはずだ。

 なのに、今は。

 沈むばかり。

 消えてしまいたい、と。

 

 このままでは、同じ過ちを犯す。

 足手まといの私を庇うことで、その人たちに危険が降りかかる。

 吉井君のように。

 

 ああ。

(吉井君…………吉井、くん)

 こぼれだした実感()は、止まることを知らず。私の視界を奪う。身体が、所有権を放棄す

る。

 

 少しばかりの浮遊感。

 

「私たちをあなたに託したアキの意志」

(……………………?)

 

 どうやら、プリムが私を地面に横たえたようだ。そして、静かに語りかけてくる。

「無視するのは、どうなのかしら」

 

 返事する気力も沸かない。しかし、奇妙なことに耳は彼女の言葉を聞き漏らすまいと、ク

リアに機能している。

 視線だけをプリムに向ける。

 

「このままじゃ、私たちは死ぬ。そして、それはアキの頼みに反しないかしら」

「…………」

 

 嗚咽交じりの、言葉になってない音が漏れ出る。

 そう。

 

「詭弁でしかないかもしれない。でも、紛れもない真実。それにね――」

「勝手に、死んだことにするんじゃないの!」

 

 そうだ。

 彼女の言う通り。

 今、この場に姿が見えていないだけ。何もないはずの空間からパメラさんとディラック

さんを呼び寄せた、という前例があるではないか。

 

(それに……)

 初めての、彼の頼み。なにがなんでも――!

 

 目を閉じる。

 鼓動の音を、聞いた。

 

「ゴメン! それと、ありがとう、みんな!」

(待ってて、吉井君)

 

 なにかが、脈動した。

 

 

 ランディの鈍く光った剣が、煌くような軌跡を描いてタナトスに襲いかかる。

 またも避けられた。

 

(まずいわね。彼ら三人の攻撃が、全く通っていない)

 

 私はまだ召喚獣を出していない状態だが、吉井君の離地召喚にも対応してきた相手だ。

通常の方法で不意を衝けるとは思わない。

 私の攻撃をダメージソースとするなら、一撃で。そして、連続で畳み掛けるしかない。

 それを三人は、分かっているのだろう。彼らは流れるようなコンビネーションで、攻撃

の勢いを止めない。

 しかし、それはタナトスに本命が私、と教えていることに繋がってしまう。

(そうするしかないとはいえ。キツイわね)

 

 必死に打つ手を思案していた、その時。

 

「ほほう、なるほど。聖剣の勇者だったのか! これは面白い」

 

 何かに納得したかのような素振りを見せた。

 

(足が、止まった!)

 

 考えることは、皆同じ。ランディとプリムは、既にスタートを切っている。二人に続い

て私も走り出す。

「ランディ、プリム、崩して!」

 

 その気がないのか、反撃を一切してこないタナトス。そこに付け込ませてもらう。

 無論攻撃されないと断じているわけではない。が、未だ見ていない攻撃手段に恐れを抱

いて尻込みしていては、事態は一向に好転しない。

 

 ランディが、飛び込みつつ斬りかかる。それを、マントで()なしつつ前進するタナトス

に無手で挑むプリム。

 組打ちは、あっけなく終わりを呈する。

 

(まだ、ちょっと距離はあるけど)

 

試験召喚(サモン)

 

 召喚獣を喚び寄せ、特攻を図る。私の点数での移動速度ならば、あるいは。

 弾丸のごとく射出した小さな身体は、壮絶な風切り音を伴って得物を振りぬいた。

 

「むっ!」

 

 剣先から(ほとばし)る炎が、タナトスを焼いた。

 

 Aクラス 木下優子  古文 299点  1/1  マナエネルギー 1

 

(マナエネルギー!?)

 召喚獣の頭上に表示された内容に、仰天させられた。

 

「マナ……だと!?」

 

 目を白黒とさせているであろう私の前で、タナトスもまた、信じられないものを見たと

ばかりに召喚獣を凝視している。

(そっか。マナっていう表記は、こっちの人たちにも読めるんだったわね)

 だけど……。

(初めて通った攻撃。効いてないみたいだ)

 

 どう見ても、驚きに気をとられて痛みに対する反応を見せられてない、という風ではな

い。

 けれど、今が好機!

 こちらに、全くと言っていいほど警戒を寄せていないこの瞬間に全てを賭ける。

 

 十文字に残像が、浮かび、そのままに刻まれる。

 そんな未来は、訪れなかった。

 

 私が最大限に操作しての、召喚獣の斬撃は苦も無く対処された。

 ただ、右手をかざす。それだけの行為で。

 

(勝てない)

 諦め、ではない。純然たる事実。

(戦闘能力が段違いだ。どうにかして、逃げなきゃ)

 プリムたちを見遣る。頷きを返してくれた。考えは、同じのようだ。

 

 しかし、逃げるために踏み出す一歩目。

 

「ふ……」

「ふはははははははは!」

 

 心底愉快そうに哄笑する奴の存在感に阻まれ、私たちの足は、まるで地に縫い付けられ

てしまったかのように動かない。

 

「そうか、お前たち……」

 口角を上げたまま、私たち四人の顔を打ち守った。

「しかし、この程度で聖剣の勇者とは…………フッフッフ、聖剣の神話もたかが知れた

な」

 面白いものが見れた、そう奴は呟く。

「まあ、今回は私の負けということにしてやろう。だがこいつらはもらっていくぞ」

 パメラとディラックが、どこかへと姿を消す。「あ……」とプリムが、小さく反応する

も、動けない。

 

 最後に、立ち竦むことしかできない私に目を向けて。

「……あの少年は、三分と()たなかったよ。なに、誇ることだ。この私相手に、二分以上

持ち(こた)えたのだから」

 

 ハハハハ……また会おう!

 

 一方的に言うなり、タナトスもその場から消えた。




二話同時掲載。
いや、これしきで許されるとは思ってないんですけど、一気に読んでもらいたいパー
トだったので。

ここにきて、重大なうっかりに気付いてしまいました。
明久と優子の一年次のクラスをF、Aとしてしまっていることです。
直さなければ――! と思ったのですが、パラパラと読み返してみると原作に記述さ
れていないではありませんか!
ということで、拙作内設定として、そのままにしました(笑)
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