バカは異世界で何を為す   作:2×3=

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週一更新は無理でも十日ならば……
そう思ってた時期もありました。
また、遅れに遅れてしまいましたが、三話目どうぞ


第3話

 ねぇ、起きて。

 

 揺れる体。絶妙な塩梅の振動は、浅い眠りに引き込ませようとする心地よさが伴ってい

た。

「んん、あと二時間」

 

 起きなさいって……言ってんのよ!

 

「ハッ、殺気!?」

 飛び起きる僕の頬のすぐそばを、何かがものすごい勢いで通り過ぎた。

「…………お、おはよう。プリム……さん」

 さっきまで僕が寝そべっていた地面は、どういう訳か陥没していた。凹んだ箇所から(ひび)

が縦横無尽に走っている様が見てとれる。

「えっと、つかぬ事をお聞きしますが、その指にはめてらっしゃるものは何でございま

しょうか?」

「ナックルよ」

 ニコリと、上品なほほえみを浮かべるプリム。僕も、笑顔を返すが引き攣っているだろ

う。鏡を見ずとも分かる。

「いつまで寝てるつもり? ほら、さっさと起きた起きた」

 そう急かされ、慌てて身支度を整え始める僕。

「早く出発しないと、今日中に着かないじゃない」

 言い含めるような語調。

「ん、あれ? でも、パンドーラってここからだと、もう一日ぐらいかかるんじゃなかっ

たっけ?」

 僕の疑問に、彼女は一瞬だけキョトンとした後すぐに口角を上げた。

「あたしがいるのよ? そんなに時間掛けるわけないじゃない」

 至極当然、といった態度からはありありとした自信が窺えた。

 その様子に、僕は曖昧に笑って返す。それを疑念と受け取ったのだろう。

「あ、疑ってるわね!?」

 こう見えて強いんだから!

 そう彼女は、気炎を上げた。 

 

 そして、すぐに知ることになる。

 

 道中は、何の問題もなく足を進めていた。

 いや、何も起きなかったといったら嘘になるな。モンスターは、見つけ次第その拳で黙

らせていくこと数十回。手当たり次第という言葉がこれ以上ないってぐらいに当てはまる

その奮闘ぶりに、開いた口が塞がらないとはこういうことかと思い知った。

 見かけ可憐な少女が、純粋な体術のみでモンスターと恐れられる存在を()しているの

だ。

 同行者が不要なくらい――むしろ同行に預かっている僕が足手まといになるくらい、彼

女は圧倒的に強かった。

 

「パンドーラの人たちって、みんなプリムみたいに強いの?」

 自分でも強引な論法だよなと思いつつももしかしたら、というのが頭から離れず聞いて

みる。

 彼女は小さく笑った。

「そんなことないわ。そりゃあ私より強い人が、そう何人もいるわけじゃないけど普通の

住人は戦う術も知らないわ」

「そういった意味では、私は少し特別、かな」

 苦笑いしながらの口調は、歯切れが少し悪かった。それに少しの疑問を抱くも、小さい

違和感ぐらいにしか捉えられなかった。

「でも、本当にすごいよ! 僕は、全く役に立ってないから」

 あれ、おかしいな? 悲しくなってきたぞ。

「君は……」

「? どうしたの?」

 口ごもったプリムに聞き返す。

 

「どうやって、ゴブリンをこ――倒したの?」

 真剣な、それでいて気遣いを見せる整った相貌が、いきなり近づいてきたので僕は慌て

て距離をとりながら。

「詳しくは覚えていない。けど、こいつが助けてくれた」

 小さく『試験召喚(サモン)』と呟き、召喚獣――自分の分身を喚びだす。

 

「っつ!?」

 身構えるプリムに「敵じゃないよ」とアピールするべく僕の周囲を適当に歩かせる。

 その様子を見て警戒態勢を解いたプリムが、召喚獣に近付いて「こんなちっこいのが

ね~」としきりに驚いて、頭を撫でる。

 驚きは唐突に召喚獣が現れた現象と、僕らの半分にも満たない背丈に込められていると

は思えない戦闘力の高さに対してだろう。

 同時に、頭にむず痒さを感じる。フィードバックは健在ということは、どうやらこちら

でも観察処分者の仕様に変更はないようだ。

 

「うん、凄く力持ちなんだ」

 近くにあった、一般的な成人男性ぐらいの重さはありそうな岩を持ち上げさせて実証す

る。

「すごいね! 持ってるのは木刀みたいだけど、ここら辺のモンスターならそれでも充分

だよ」

「うっ……そうだね」

 装備が成績に左右される以上、ろくな武器も持たず防具は改造制服という紙装甲に等し

い僕の召喚獣は、おそらく文月学園の中では雑魚そのものでしかないだろう。けれど、物

理干渉が可能であるという仕様ならではの利点を活かせば、どうやったか覚えてないにし

ろゴブリンを倒すほどの力を持っていることもまた事実だ。

 そして、今のところ見かけたモンスターで奴より厄介なのがいないのは短い間でも分

かっている。なので、彼女の言うことが正しいというのも理解できる。

(なんせ実際に、並み居るモンスターを前に一歩も引かずに押し進む実力者の太鼓判だ)

 であれば。

(やるしかない、よなぁ)

 

 唐突に、召喚獣の頭上に何かが現れた。

 

 Fクラス 吉井明久  古典 9点

 

「……………………」

 一桁台の教科かよ!

 あまりの引きの悪さに、天を仰ぐ。

 しかし、嘆いていても仕方あるまい。操作能力を向上させる機会だとでも思い込まない

とやってられないが。

(っていうか、点数の補充ってどうするんだろう?)

 補充不可能で、数字がゼロになったらフィードバックで僕自身が動けなくなる、なんて

ことはないよね?

 恐ろしい可能性に思い至り、思わず身体が(すく)み上がる。

(でも、チャンスかもしれない)

 発想を逆転させれば、今はプリムというこの上なく頼もしい同行者がいるのだ。一番低

い(であろう)教科といい、点数がなくなった場合どうなるのかということを確かめるに

はうってつけの状況だ。

 急に表れた数字に「それは何?」と首を傾げているプリムに「体力みたいなものかな」

と言いながら、これからやろうとしていることを簡潔に説明する。

「僕(の召喚獣)を殴って!」

「ぇ!?」

 あ、間違えた。

 

 

「てっきり、アキは殴られて喜ぶアレな人かと思った」

「もう、そんなんじゃないってば」

 あらぬ汚名を着せられるのは、なんとか回避したものの一度でも抱かれた印象は簡単に

は拭えないようだ。

 ちなみにプリムが僕をこう呼ぶのは、僕の名前は言いづらかったらしく「短く、アキで

いいよね」と提案する彼女を僕が承諾したからだ。それに伴い、僕にも彼女をプリムと呼

ぶように半ば強制的に命じられもしたが。

 

 閑話休題(それはさておき)

 今度は、お互いに齟齬がないよう確認してから頼む。

「って、お腹が猛烈に痛いっ!」

 ある程度は覚悟していたけど、これは想像以上だよ!

(点数が点数なんだから手加減してもらうべきだったかも)

 召喚獣の受けた衝撃の何割かを請け負って痛むお腹をさすりながら、召喚獣に目を向け

る。

 

 Fクラス 吉井明久  古典 0点

 

「ん、動くことは出来るみたいだ」

 その他にも、異常がないかを全身くまなくチェックする。

 自分の体には、とりわけ支障は出ないようである。

 ひとまず安堵し、もう一つの確かめたいことについて調べる。

試験召喚(サモン)

 すなわち、消滅しても再度召喚できるか、という点について。

 

 高鳴る鼓動を抑えながら結んだキーワードに、システムは応えてくれた。

 

 Fクラス 吉井明久  数学 63点 2/3

 

 相棒を喚べたのはありがたいが、気になる箇所がある。それは、2/3という表記。これ

は一体何を指しているのか。

 思いついたのは、残る召喚可能な教科数もしくは純粋に回数であるか、ぐらいである。

前者ならまだしも、後者では後二回しか喚べないことになる。はっきり言って、それはま

ずい。

 プリムと一緒に行動するのは、今日で終わり。パンドーラから出ないという手もあるに

はあるが、それではいざという時に困るだろう。

 日本は安全な国であったが、ここではその考えは命取りになる。昨日学んだばかりだ。

そして、今の僕の認識でもまだ甘いほうなのだろう。

 なにより、そんな消極的な態度では元の世界に、文月学園に通う日常に戻れる気がしな

いのだ。

 

 結局のところ、生き抜く力は今後必要不可欠であろう。

 サバイバル能力を培い、召喚獣の操作性を向上させ、そして可能であれば召喚獣自体の

強化、言い換えれば学力の底上げも行わなければならない。

 しかし、最後の項目においては厳しいと言わざるをえまい。教材も、教えてくれる先生

も居ない状況下でどう学力を上げるつもりだ、という話になるからである。

(まぁ、その辺は追々考えることにしよう)

 

「もういい?」

 プリムが一区切りついたのを見計らって、声を掛けてくる。思考に没頭していて、彼女

を待たせているのを忘れていた。

「あ、うん」

「じゃあ、そろそろ出発するわよ」

 一日で向かうと言っていたから、道中はハイペースになるのだろう。

「分かった、行こう!」

 気合を一つ。僕らは、歩き始めた。

 

 

「物は試し、そうよね?」

 バドフラワーという、花に擬態したモンスターが落とした宝箱をひっくり返しながら、

プリムは僕に話を振った。何の前振りもない状態での、突然の発言。当然何を言いたいの

か分からないので聞き返す。

「つまり」

 プリムは、ピッとラビを指して。

「倒してみせなさい」

 命を下した。

 

 この世界に来て初めて遭遇した不思議生物――ラビと相対する。

 急展開に戸惑いはあるが、いつかぶつかる壁である。少々強引とも言えるプリムの性格

に、今回は素直に感謝する。

(さて、どうしたものか)

 視線の中心をラビから、少し離れたプリムに移す。今日もちぎっては投げの大立ち回り

だ。

 けれど、そんな彼女とはいえ常に攻撃をしているのかというと、そうではない。

 攻撃の後は、ほとんど必ずと言っていいほど一度距離をとっている。それでも攻撃的に

見えるのは、動いてない()が存在しないからだろうか。

 洗練されたヒットアンドアウェイとは、目の前の光景を言うのかもしれない。

 そして、今度は僕――召喚獣について考える。

 能力的に、プリムがやっているような戦法はとれない。点数の低さ故に、絶対的に速度

が足りないのだ。

 であれば、これしかない。

 近接戦闘(インファイト)

 しかし、この戦術を完成させるのもまた難しい。そもそも一つの戦術を完成させようと

したときに簡単なものなど有りはしないだろうが。

 優れた動体視力を身につける、くらいしか思い浮かばない僕でも分かる。

 近接に限らず全ての戦闘法に共通必須項目は、戦闘中に相手の癖を見極める洞察力、相

手と自分の弱点長所を考慮して戦闘を続行するか撤退するかを瞬時に判断する思考力、そ

して何事にも動じない胆力といったところだろうか。

 なにぶん素人なので正解かどうかは分からないが、これらは持っていた方が有利である

だろうことは想像に難くない。

 

 まずは、目の前の敵を観察する。

 この二日間で見た印象としては、こいつらは気分屋だ、というもの。

 無邪気に飛び跳ねているかと思いきや、突如こちらに体当たりをかましてくる。加えて

厄介なことに、二体以上同族が居ると率先して組んで襲い掛かってくる。

 こうして考えてみると、速度と攻撃力が低いのが救いである。

 

 相変わらず、奴は跳ねている。しかし、焦らずに機を待つ。速度で劣る以上、先に動い

てはカウンターの餌食になる。

 やがて焦れたのか、奴はひときわ高く跳んでこちらに向かってきた。

 いやが応にも高まる緊張。

(もう少し。まだ、まだ)

 息を軽く吸う。

「はぁっ」

 タイミングを計り半身になりながら、飛び込んでくるラビの軌道を逸らすつもりで振

るった木刀は、見事命中した。

 しかし、当たりが浅かったのか、痛みを紛らわすかのようにゴロゴロと転げ回るラビ。

 その様を見て、気付く。

 自分が、初めて殺すつもりで相手の前に立ったということに。

 

 意識が混濁する。

 頭が、深く考えようとするのを拒む。

 立ち止まっていられなかった。

 

「ごめんな」

 完全に自己満足でしかない一言を呟くことしかできなかった。

 そして、僕はとどめを刺した。

 一つの生命(いのち)に。

 

 

 僕はこの日、実体験を以って二つのことを学んだ。

 生命の軽さと、その重さを。




近接戦闘などとのたまいましたが、武道を嗜んだことはありません。ぶっちゃけ素人の空想でしかありません。
もし、「いやいや、それはないべ」とか突っ込みどころがあったらお聞かせ願います
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