自分にとっては短い時間で書き上げたものです。後になって出来の未熟さに悶えるかもしれないが、たまには勢いも必要だと思ったもので。
それでは、六話目どうぞ。
当初の予定通り一時間ほど休憩を終えた僕らは、気になっていた石柱の立ち並ぶ行き止
まりに真っ先に向かった――のだが。
甲高い音が鳴ったかと思うと、周りの光景が一変していた。
薄っすらと霧で覆われた、陰鬱な空気を醸し出す場に放り込まれた僕は、ここがどこな
のか無意識に悟った。
「ここが、妖魔の森……」
どうやって、入ってきたのか。思い当たる節は一つしかない。石柱に囲まれた、あの地
点だ。道を通って来たわけではないので、戻るにも普通の方法では戻れまい。
差し当たり怪しいのは、僕が今立っているところだろうか。
その場から離れてみると。
「なんか、いかにもって感じだよなぁ」
魔法陣としか形容できない、幾何学的な図形が地面に描かれていた。
「えっ!? えっ?」
まじまじと図柄を見ていたら、突如影が差した。木下さんが後を追ってきたようだ。訳
の分からない現象に戸惑っている。
「その魔法陣みたいな幾何学的な図形の上に立つと、他の定められた場所に転移するよう
だね」
先に不思議を体験した僕が、説明する。木下さんも僕と同様の条件だったため、仮定は
証明されたに等しい。
「魔方陣って……方陣じゃないわよ、これ」
「ぇ? ゲームとかで見る丸い陣そのものじゃないか」
「いや、そうじゃなくて。はぁ、もういいわ」
疲れたような顔で溜め息をつかれた。むぅ、何か間違っていただろうか。
「それにしても……」
辺りを見回し、呟く。
「怪しげな雰囲気は、否応にも感じ取れるけど肝心のモンスターは姿が見えないね」
「そう言われれば、そうね――って、プリムさんが排除してったんじゃないの?」
「あ」
そうだった。彼女は、僕らより先にここにきているはずだ。何事もなければ。
「とはいえ慎重に進もうか。プリムだって急いでいたんだ。討ち漏らしがいるはず」
「えぇ」
僕らの警戒を嘲笑うかのように、モンスターは全く現れなかった。捜索に集中できてい
るから効率は良いのだが、きな臭さをひしひしと感じる。
「また、この文様……」
「そうね」
要所要所で鋭利な刃のようなもので刈り取られた跡の見える異様に丈夫な草花を、さら
に木刀で苦労しいしい
た。
「どうする? 行ってみる?」
木下さんの問いに、考え込む。彼女を連れていることと、僕の体力を考慮すると。
「あと三十分が限度ってところかな」
多分大きく外れてはいないと思う。
「ん~、それぐらいが制限時間なら、この先も同じようにモンスターがいなければ進む。
いたら戻る、で良『キャーッ!』――!」
「悲鳴!?」
僕らの間に流れる空気が、一気に緊張感を増す。いや、そんなのは問題じゃない。今の
は――
「プリムの声だっ!」
間違いない!
「木下さん! 今のうちに召喚獣を喚んどいた方が良い」
「そうみたいねっ!
Aクラス 木下優子 英語 336点
僕も続けて、召喚する。
Fクラス 吉井明久 日本史 63点 2/3 マナエネルギー 1
よし! まずまずな教科が出た。
「行こうっ!」
転移した先で見た光景は、僕らを怖気づかせるには充分なものであった。
人の姿をとった狼。
人狼二体がプリムに襲いかかっていた。
(立ち竦んでる場合じゃない! いくらプリムが強くたって――)
多勢に無勢だ。自分に言い聞かせるように、息を大きく吸い込む。
「木下さんは、身を守ることのみに集中して! 僕は、プリムに加勢するっ!」
「ぁ、ぁ、ぅん」
跳びかかられているプリムの方が危うい。
「プリム!!」
「――! アキ!? ゴメン、手伝って!」
「うんっ! おぉぉおぉ!」
一体、二体と、人狼からの攻撃をすれすれで避けたプリムと、人狼との間に木刀を振り
かぶった召喚獣を割り込ませ、勢いそのままに叩きつける。鈍い音が場に響き、人狼が身
を怯ませるもすぐに構えを整える。
そうはさせまいと、続けざまに木刀を振るうが拳で上手くいなされる。
と。僕の後ろにいたプリムが脇を通り過ぎた。攻撃の入れ替わりだ。
「ハッ!」
短い呼気とともに繰り出されるは、一回り大きいラビを一撃のもとに葬った三連撃。ま
ともに受ける形となった人狼は、その勢いに何歩も後退しつつも耐えきる。
溜め技の後で僅かに隙ができたプリムを守るような形で、今度は僕が前進し人狼を相手
取る。
上手くいったかのように見えたコンビネーション。
それは、相手も同様のことをしてきたことによって崩された。
Fクラス 吉井明久 日本史 11点 2/3 マナエネルギー 1
僕を前にした人狼は突如屈み、木刀をやり過ごした。攻撃を避けられた僕が、次なる一
撃を脳天に見舞おうとしたとき。異変に気付いた。
回し蹴りの要領で、脚が至近距離まで迫っていたのだ。
つまり、相手方も僕とプリム同様の行動を、形は違えどとったのだ。
辛くも引き戻した木刀が間に合いはしたが、大幅に点数は削られ腕には未だに痺れが
走っている。
後から出てきた人狼のさらなる追撃を、斜め後ろにいたプリムが受けると同時に。
屈んだ人狼が走り出した。
木下さんに向かって。
「くっ!」
それに一歩遅れて、召喚獣に後を追わせるが――
「間に合わないか! 木下さん、相手の真正面を狙って武器を突くんだ!」
こちらにすごい速さで向かってくる脅威から目を逸らさずに、指示を出す。
恐れに身体を震わしながらも、僕の発したタイミング通りに片手剣を突き出した。
ミス、だった。
スローモーションで人狼の拳が迫る中、僕は自身の失敗に気付いた。
(木下さんほどの高得点――僕が振るう木刀なんかと比べたら速度は段違いだよね)
そう、速過ぎたのだ。
突き出された剣をギリギリで避けた人狼が狙いを定めたのは、僕。
整った体勢でなかったのがせめてもの救いだろうか。威力が少し落ちた人狼の拳を肩に
受けた僕は、後ろに吹き飛びながら。
「木下さん、召喚獣を右に!!」
前のめりになった人狼が地に着いた腕を軸にして回転した蹴り足を、木下さんの召喚獣
に受けさせるよう叫んだ。
「間に合った」
そして、がら空きになった人狼めがけて、走らせている召喚獣に全力で木刀を投げさせ
た。
高速で飛来する投擲物に、人狼は成す術なく脚を貫かれた。
『ぎゃああああおおぉう!!』
「ぐっ!」
人狼の拳で地に倒れた僕が頭を起こすと、蹲る人狼とは別に、少し向こうで戦っている
プリムの姿が目に映った。
仲間の悲鳴にこちらを向く人狼。そいつが急に足を止め、妙なポーズをとり始めた。無
防備に晒された人狼の体を、ここぞとばかりにプリムが腕や脚で打ち込んでいく。
と、蹲っていた人狼の頭上から一滴の水がしたたり落ちた。
「は……?」
「気を付けてっ、アキ! 回復したわ!」
訳が分からないまま見やると、確かに。どくどくと流れ出ていた血は止まり、すでに
フットワークを刻んでいる。
こちらの人狼も力を籠め腕を掲げ、青い燐光を発したかと思うと、忽ちプリムと戦って
いる人狼も傷が多少癒えたようだった。
「んなバカな……」
続けて同じような体勢をとる。
(いや、それよりも速く木下さんの許に駆けつけなきゃ)
呆然としている暇はない。
木下さんに駆け寄る僕の横で、人狼は耳に障る音とともに黄色い光に包まれた。
(今度は、何が起こった!?)
横目でプリムを見るも、彼女にも余裕はないようだ。
兎に角、陣容を整えることに徹する。敵から近い順に、僕の相棒、そこから少し離れて
僕、木下さんの召喚獣、彼女自身、そのように布陣する。
「吉井君、ごめんなさい! 私っ――」
大方、敵が動けない間に止めを刺しておけばよかったと考えているのだろう。あの状況
は、動けなくても仕方ない。
「いや、いいんだ。手負いの獣はどんな行動に移るか分かったもんじゃないからね」
目の前に集中しよう。そう言って、気持ちの切り替えを促す。たられば、そんな話をし
ても現状は変わらない。
こちらを強く睨む人狼に気付いたのだろう。
「うん」
恐怖を声に滲ませながら、彼女は小さく頷いた。
それと同時に。
敵は、強く地面を蹴った。
相手の攻勢は、激しさを増していた。代わりに攻撃が当たりやすくなったとも感じては
いるが。
先ほどの謎の現象によるものか、もしくはただ単に怒髪天を衝いているからなのか。ど
ちらにせよ、重みを増した拳や蹴りが相棒を仕留めんとしているのは確実なことだった。
少しずつではあるが、攻撃を逸らす度に衝撃で点数が削られているのだ。
(あと一回)
その中で見つけた勝機。
Fクラス 吉井明久 日本史 2点 2/3 マナエネルギー 1
点数がレッドゾーンを割っているのが目に見えて分かるからか、木下さんの心配そうな
視線を背後に感じる。
けれど、気付いたのだ。
点数が無くなっても消えない。プリムに手伝ってもらい、検証したあの時。そう結論付
けたが、本当にそうなのか。
点数がない状態で、攻撃を受けたらどうなるのか。
それに賭けてみることにしたのだ。
(どうせ当てが外れたところで、再召喚すればいい。その時になったらまた考える!)
そして、その時はやってきた。
追撃を出せない体勢に追い込まれた相棒。守勢に回っていた人狼が、一気に踏み込む。
放った蹴りは、吸い込まれるように召喚獣の
Fクラス 吉井明久 日本史 0点 2/3 マナエネルギー 1
点数が零となる。
しかし、ここでは消えない。後ろで驚くような気配。木下さんだろう。そういえば、こ
のことについては言っていなかったか。
続く猛攻。距離を詰め、放った再度の蹴りに召喚獣が
(ここだぁ!!)
考察通り、点数が零になった状態で攻撃を加えられると召喚獣は消えるようだ。
人狼が獰猛に――それこそニヤリと
奴は勝利を確信した。邪魔な奴が消えたと思っているんだろう。
木下さんの身体が一瞬震えた。
「
そして、僕はそのどちらの顔も驚愕に彩らせた。
Fクラス 吉井明久 英語 52点 1/3 マナエネルギー 1
現れる相棒。自身が敗北することを微塵も考えていなかった敵による蹴りをその身に受
けながら、首に木刀を突いた。
また回復するかもしれない。そうなれば、今度こそ僕らは死に目に遭う。人命を前に、
僕は生命を奪うことを選択した。
フィードバックと、それとは違う痛みを感じながら。
一秒、二秒。目を閉じる。黙祷、ではないが、胸に刻みつけて。
僕は、プリムに視線を移した。
まだ、戦いは終わってない。
「吉井君?」
木下さんの声は、案じる感情から発せられたものだろうか。揺れるような調子で紡がれ
た言葉に、首肯する。
「プリムを助けよう」
走り寄ると、戦いの様子が仔細に読み取れた。
人狼と互角に渡り合うプリムだが、決定力に欠けている。本人が一番分かっているのだ
ろう。こちらをチラッと見て。
「アキ!」
「OK!」
先ほど同様、離脱したプリムの立っていた場所に召喚獣を滑り込ませる。
Fクラス 吉井明久 英語 23点 1/3 マナエネルギー 1
さっきの一撃に結構持ってかれたみたいだ。
危なっかしくも、点数は削られない程度に
何度も攻撃の切り替わり――スイッチをしていて、改めて思う。格闘的なセンスは僕よ
り彼女が優れていると。
僕が、人狼の攻撃の滑らかさに押されてプリムが上手く代わってくれるのに対し、プリ
ムは僕に声を掛けてからその場を離れ絶妙な間を作ってくれる。この違いは大きい。
人狼が吠える。繰り返される攻防。スイッチの度にフラストレーションが溜まっている
のだろう。いよいよ暴虐の嵐は強くなってきた。しかし、それは同時に相手の行動一つ一
つが雑になったとも言える。
「くぅ」
蹴撃の強烈さにたたらを踏む。割って入るプリム。再び僕に切り替わる。
「木下さん!」
伝わってくれ。強く願いつつ叫ぶ。
相棒が吹っ飛ぶ。
いや、飛ぶようにタイミングを合わせた。
目は慣れていた。木下さんが動けそうな位置まで誘導するのが、僕とプリム二人の思惑
だった。
当然のように、相棒とすれ違いざまに人狼へと肉薄するプリム。今まで何度もリピート
された場面。
ただ一つの違いは、召喚獣を殴った手応えのなさに人狼がバランスを崩しているとこ
ろ。
駄目押しとばかりに、プリムが畳み掛けていく。
「キノシタサン!」
プリムが叫び、同時に人狼が攻撃を捌ききれなくなって、顎に致命的な一撃が入る。
止めに浮かすような蹴りを入れたプリムが、口に出す。
「キノシタサン、貫いて」
彼女が。いや、彼女の召喚獣が動く。
人狼は、数度咳き込むように血を吐くと、パタリと倒れた。
「ふぅ~」
ため息をついたのは誰だろうか。僕ら全員だったかもしれない。
「なんとかなった、ね」
「うん」
僕と木下さんとの間で交わされるやり取りを、プリムが無言で見る。
「あの、さ」
「ありがとう。それと、ごめん、なさい」
「焦っていたことは認める。不覚を取られたばっかりにあなたたちにまで迷惑を掛けた」
矢継ぎ早に言葉を並べていくプリム。
「ウェアウルフっていうモンスターなんだけど、あれらはとびっきり強い個体だったみた
い」
普段は、そんなに苦戦しないのよ。どこか言い訳がましく聞こえるのは――。
「それで、ね」
彼女の向かう先が、意志が変わらないことを僕が感じ取っているからか。
「私は、行く、わ」
「あなたたちには、本当に感謝しているわ。特にキノシタサン、あなたに、ね」
続けざまに言うプリム。木下さんの気配が、強まった。
「あなたね――」
憤っているのだろう。事情が深く分からなくとも、プリムの態度は仁義に反しているも
のがあると映るはずだ。僕も多少たりともそう思っている。
それでも木下さんを制したのは。
「止めても、聞かない?」
「うん、そこだけは譲れない」
はぁ~。ため息をつくぐらいは許されるよね。
「まぁ、今日ぐらいは休んだ方が良いと思うよ」
「勿論そうするつもり。実は、仲間というか同行者はいるのよ。ちょっとはぐれちゃった
けど」
「へぇ!」
それは、意外だった。
「ちょっと、吉井君」
木下さんから声が掛かる。
「ん?」
「『ん?』じゃないわよ! それで済ましちゃってもいいの!? 恩人なのかもしれないけ
ど、プリムさんは危ないところだったのよ?」
「あぁ、うん。だけど、多分止まらないと思ったから」
「キノシタサン」
「……何かしら?」
不機嫌を取り繕うことなく、プリムに向き直る木下さん。結構キツイ性格をしてるかも
しれない、と思ったのは僕だけの秘密だ。
「悪いとは思っているの。それでも。それ以上にディラックを愛しているから」
こういうところが、プリムのすごいところなんだろうなあ。少なくとも、僕は彼女ほど
人を――誰かを愛したことはない。だから、上辺だけで本質のことは分かってあげること
はできない。
少し悲しい気もしたけど、それも当たり前のことなのだろう。
誰もが誰も分かり合えないように、全部を共感できることもない。
女の子二人、それなりに長いこと見つめ合って先に折れたのは木下さんだった。
「ディラックって人の顔、絶対拝ませてもらうからね」
「うん、その時に謝るわ」
何やら和解したようだ。女の子は、よく分からない。これも真理だろうか。
『お~い、プリムー!』
「あ、タイミング良いわね。それじゃ」
「うん、行ってらっしゃい」
「愛しの人が見つかるといいわね」
「ん、行ってくる!」
唐突に姿を消し、僕らだけが残された。
「にしても、またこれか」
「仕様がないわよ」
例の文様を見て愚痴を言う僕を木下さんが
「とりあえず」
「えぇ、キッポ村に行きましょ」
転移の陣を踏んで、僕らもその場を後にした。
黄色い光に包まれた――つまり、月属性のラッシュですね。これの効果である攻撃力アップと回避率ダウンの内、後者については本作では素早さが落ちることによってもたらされると仮定しています。
ちょっと戦闘描写の占める割合が多かったとも思いますが、戦闘大好きなんで自重はしません!(笑)
あ、でも意見がございましたら忌憚ないものをお聞かせ頂けると有り難いです。
いろんな視点を感じ取りたいので。