バカは異世界で何を為す   作:2×3=

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第8話

「えと、つまり?」

 質問自体が呑み込めない。

「私たちに都合の良いことで溢れてる。吉井君の言葉を借りれば、ここは”異世界”なの

に。それについて、あなたはどう思うのかしら? それが、聞きたいの」

 

 考え、ついでにメモに目を通す。

 

 今のところではあるものの、何時何処であろうと召喚可能。

 回復アイテムと思しきもので、上限はあれど補充試験が行える。

 

 一番目につく項目は、この二つ。

 

 直感だが。

 リンクしている。

 この世界と、あちらの世界は。

 そして、それを繋げられるのは、未解明な点の多い召喚システムと……

「マナ――」

 僕らにとって、未知でしかないそれ。

 この世界で最も重要とされる存在でもあるマナもやはり、未だ分からないところが多い

と言う。

 マナについては、どうしても調べなきゃいけないようだ。

 

「私が、学園の広告役を頼まれたのがきっかけで、ここに来たことは言ったわよね」

「あ、ああ。そうだったね、確か」

「…………まあ、良いわ。でも、それ少しおかしいのよ」

 慌てて取り繕ったものの、バレバレだったようだ。

 ところで、何がおかしいというのだろうか。

「素行は先生受けが良いのは認めるけれど、その点を買って私を広告塔として起用するこ

とはない」

「なんで?」

 学園の優等生だ。どこにも問題があるようには思えないけれど。

「文月学園が唯一保持する、生徒の勉強に対するモチベーションを高めるために提案され

た先進的な試み――召喚獣システム。これをアピールするならば、何よりもまず学力。そ

れを必要とするはずよ」

 問題の有無ではなかった。より求められるポイントがあって、そして木下さんより優れ

た人材がいる。そういうことだった。

「私たちの学年で言うなら、霧島翔子さんとか、ね」

 確かに彼女の言う通りだ。木下さんの成績も他より頭一つ抜けてるとはいえ、久保君や

姫路さんには届かないと聞く。

 

「私でなければならない理由が、そこにあった」

 なるほど、木下さんの言わんとするところが見えてきた。

 

「でね、そうなってくると限られてくるのよ」

 彼女の目をしっかりと見て、頷く。

 

 学園のPR役を選ぶ人。

 召喚システムに通じていて、且つ僕らと接点のある人物。

 学園長、藤堂カオル。

 ほぼ確実にこの人物が関与している。そう木下さんは言いたいのだろう。

 

 でも、こちらの世界……マナを知り、扱いさえもそれなりに精通している。

 その点は、どう説明するのだろうか。

 僕のその問いにも、彼女は強く返す。

「えぇ、間違いなくその通りでしょうね。それが、どういった経緯によるものかは知り得

ないけれど」

 この世界に、彼女が居た痕跡は必ずどこかにあるはず。

 そう、木下さんは締め括った。

 

 

 

 それからというものの僕らは、明るい内は召喚獣の操作練習、その合間にちょっとした

情報収集、夕方以降は勉強会という日々を送った。

 

 召喚獣の操作について、お互い操作性自体に目を瞠るほどの向上は得られなかったが、

木下さんは武器を持っての基本動作を習得し、彼女を相手取っていた僕はそんじょそこら

ではお目にかかれない速度と威力を併せ持った攻撃に対する最低限の対処を身に着けるに

至った。

 木下さんがモンスターを相手にした際勝利を収められるかどうかが危ういところだが、

それは僕も同じであるし、生き延びれればいいのだから大きな問題ではない。なによりモ

ンスターとはいえ命を奪うような行為は、僕だって控えたい。無論木下さんにもそんな真

似はさせたくない。

 

 学業について僕は自覚がないが、木下さん曰く「かなりまともになったはず。点数に表

れないから気付かないだけよ」とのこと。

 特に数学と英語に関しては、中学一年レベルすら怪しかった(というより穴だらけだっ

た)ので徹底的に基礎だけを叩き込まれたが、未だ内容は高校生の範囲にまで入ってない

から著しい変化がないのにも頷ける。ただ、僕が不甲斐ないだけではないのかと不安にな

る時もあるが、そう思っていては教えてくれてる木下さんに対して失礼なので彼女を信じ

ることにしている。

 また、上の二教科と違って化学と物理の知識は真っ新(まっさら)に近い状態だったので、教えやす

かったらしい。確かに、この二つはそれなりの点が取れている。

 日本史と世界史は他四つと比べて勉強時間が短いが、暗記科目故に点数の伸びは一番大

きい。

 残念ながら僕に木下さんの学力を図る術はないが、彼女の言を信じるならば人に教える

ことも勉強の内に入るらしい。うん、よく分からない。

 

 そして、情報について。

 こちらは、芳しい成果が全くと言っていいほどなかった。

 帰還の方法、もとい学園長の影は、その尻尾すら掴めなかった。僕らより広い範囲を

練り歩いているだろうプリムに話を聞いた方が話の進展は望めるだろう。

 新たに知ったことと言えば、この世界の主要な国家と、なにやら帝国の動きが不穏であ

るということくらいか。正確な地図は流通していないらしく、地理については方角くらい

しか信用できたものではない。後者に至っては、噂話ほどの信憑性しかない。ただ、僕ら

は公に知れ渡ってない聖剣が抜かれたという事実をプリムから聞いているので、世界の情

勢の雲行きが怪しいことは疑っていない。

 

 

 そうして一か月が経った。

 

 

 いつものように、パンドーラの南にある広場で人目を忍ぶように練習していた僕らは、

待ちわびていた人物を目にした。

 プリムである。随分と急いでいるようだが、あの後ろ姿は間違いなく彼女であろう。

 

「木下さん!」

「えぇ、追いかけましょう」

 

 僕らが、プリムに話しかけるべく走り始めた時だった。横を物凄い勢いで人が通り過ぎ

ていったのは。

(なんだ!? ……いや、ちょっと待てよ。あの人たちに追いかけられてプリムは急いでた

んじゃないか?)

 もしそうならば、木下さんには悪いが僕だけ先行する必要がある。女子と男子では足の

速さが違う。

 召喚獣を連れていてはスピードが落ちてしまうので、退去させる。

「先に行くね!」

 僕は、足の回転を速め僕らを抜き去った二人の後を追った。

 

 十分ほど走った辺りで、風景が急変した。

 遺跡。そうとしか表現できない古めかしい建造物は、パンドーラの街にそぐわない外観

をしている。

 その入り口の扉の前に、プリムが佇むのを僕の眼は捉えた。が、彼女の許にたどり着く

のは二人の方が、一足早い。

(このままだと、まずい――!!)

 

 こちらに背を向けているプリムは、まだ気付く様子はない。おかしいと思ったが、とに

かく何とかして、より先に僕が彼女に接触しなければならない。

 閃いた。天啓ともいえる策を。

(こっちだって、一人じゃ、ないっ!)

試験召喚(サモン)ッ!」

 

 現れた、物理干渉可能な相棒を胸に抱いて。

 思いっきり前方に放り投げた。

 着地に備えて、姿勢を制御させる。

 プリムの背後五メートルの位置に、相棒は舞い降りた。

 フィードバックによる衝撃が、爪先から全身に駆け抜けるのを感じながら、自身もギア

を上げて走る。

 

 召喚獣に進路を妨げられた形となった二人は、それが飛んできた方向――僕の方を素早

く確認し。

「ポポイは、大きい方を。僕は、こいつをやる!」

 対戦の構図が一瞬で出来上がった。背の高い方の男――イケメンである――が指示を出

したが、その通りにすぐ動けたもう一人も油断ならない。

 相手の得物は、イケメンが長剣。背の低い――姿形の変わった、ポポイと呼ばれていた

者が弓を、それぞれ手にしていた。

 素人でも分かるが、弓は的が大きければ大きいほど命中しやすい。そう考えてこの組み

合わせにしたのだろうが。

(判断が早い! 戦い慣れている――!?)

 実に理に適っていて歯噛みする。

 

 一番最初に動いたのは、長剣だった。

 多分、ポポイなる者とイケメンとを比べたら後者の方が危険だろう。そう判断して、い

つでも避けられる体勢をとらせておき、弓弦(ゆんづる)を絞りはじめたポポイにも注意を払う。

 フィードバックで感じる負荷は、体感で三割ほどだ。それを考慮すると、僕自身にまわ

るダメージは弓の方が大きい。かと言って、剣の一撃を無視してよしんばフィードバック

による痛みを耐えたとしても、間違いなく召喚獣の点数は全損させられる。

 二度と召喚するに(あた)はず、ということになりかねない。

 一撃も貰わずに凌ぐ。これが、第一関門だ。

 

 振るわれる剣。放たれる矢。

 そのどちらもが、同じタイミングで僕を襲ったので、幸運にも避けることに成功する。

 二の矢を番う様子は見られないので、イケメンの剣の斬り返しの回避に意識を専念させ

る。

 が、一度剣を振るっただけで男は距離をとった。

(様子見? ――いや、違うな。警戒だろう。…………)

 避けたとはいえ、辛くも回避できたに過ぎない。あれだけ体勢が崩れてしまっていたな

らば、連撃にはおそらく耐えられなかった。少なくとも、僕はそう捉えている。

(こちらの実力を過大評価しているのだろうか。それならば、あくまでそれを利用させて

もらう!)

 

 対イケメンにおいては、威力は高くとも召喚獣の木刀で対処出来ないほどではない。

 先の一射を見る限り、ポポイ自身に弦を引く膂力が不足しているのか、あっちの世界で

見た射よりも数段鋭さは落ち、軌道は緩やかにではあるが山なりですらあった。

 

 イケメンの剣に木刀を合わせつつ、矢を躱す。

 

 Fクラス 吉井明久  世界史 79点  1/3  マナエネルギー 1

 

(よし! 点数も消耗してない)

 戦闘力がない僕を含めての二対二ではあるが、状況はそう悪いものでない。勿論油断な

どできようもないが、ポポイの射撃を避けながらイケメンを召喚獣で倒せば何とかなりそ

うだ。

 

 道筋が、立つ。勝利への光明が。

(いける――!)

 

 しかし、そう思っていられたのは束の間であった。

 戦闘を開始して僅か三分ほどで、僕は――僕自身が消耗感を覚えていた。

 

(ぐっ――)

 

 Fクラス 吉井明久  世界史 41点  1/3  マナエネルギー 1

 

 長身の男の得物が、相棒の腕を掠める。これで二度目である。初めの冴えわたる動き

は、すでに見られない。

 そして、それの理由を僕は悉知(しっち)していた。

 互いに人を殺せる、そんなシチュエーションに参ってしまっているのだ、要は。

 

 そんな僕に対して、相手は鈍る欠片も見せない。

 

 僕と彼らの違い。

 プリムと一緒だった二日間の内に感じた、命の観念と、それに対峙する覚悟。それらの

差異。

 生まれ育った環境で培った物の差。

 長年を経て得られるそれらは、些末事では揺らがない確固たるものだ。

 間違っても、瞬間的に持てるものではない。

 

(それでも!)

 黙ってやられてやるつもりもない。

 自身を鼓舞するように、召喚獣の操作をより細かに行う。そのために、より精緻により

強く張った意識は、イケメンの剣にしか向いていなかった。

 

 これが、敗因となった。

 

 肌がざわついた。

 最優先で、身を投げ出せ。

 そう何かが囁いた、気がした。

 

 無視できない、看過してはいけないと感じたそれ(・・)に従い、すぐに実行に移す。

 が、少し遅かった。

 何もかもを放棄したせいで、長身の男による凶刃を召喚獣の小柄な体躯に受けてしま

う。斬りつけられた胴に走る一本の太い裂傷。訪れるフィードバック。それが、回避行動

に支障をきたす。

 

「やめてぇ!」

 プリムが叫んだ。

 

 青の衝撃。

 倒れゆく中、僕の眼は捉えていた。

 突如氷塊が降り注いだ様を。

 それは、まるで―――

「ま、ほう?」

 魔法のようであった。

 

 

 

 † †

 

 

 

「吉井君!?」

 凄まじい速度で先を行ってしまった吉井君を追ってみれば、目にしたのは彼が倒れこむ

場面だった。プリムさんは、吉井君に牙をむける二人の人物を止めているように見える。

 その直前、何の前触れもなく大きい氷が現れて、彼を襲ったのを私は目撃した。

 現実とは思えなかった。

 けれど、今目の前に展開されている場景は現実で。

 私は、自身が何処か遠のいていく心地を覚えた。

 

 だからだろうか。

 私は、普段なら考えもしないことを実行しようとしている。

 

「ポポイっ!!」

 背の高い男がプリムさんの制止を振り切って、地を蹴り低い方と立ち位置を替える。

 そんなこと――関係ない。

「うわぁっ!?」

 

 Aクラス 木下優子  現代文 336点

 

 技巧の欠片もない、赴くままに振るわれた直剣は、相手を得物ごと遠くに弾き飛ばし

た。

 

「にげ、ろ、ポポイ」

 勘が良いのか、迎撃を途中で回避に変えた長身の男は、意識は消えなかったようで仲間

に警告を促している。

 

「あ、あんちゃん」

 それでも、動ける元気はないようである。立ち上がることすら覚束ない様子だ。

 

「…………」

 

 Aクラス 木下優子  現代文 325点

 

 ちっこいのが矢を召喚獣に射たようだが、足止めにもなりはしない。

 詰み。

 彼らの命運は途絶えた。筈であった。

 

「どういうつもり、かしら? ……プリムさん」

 

 彼女が間に割り込んでこなければ。

 

「それはこっちの台詞よ、キノシタサン。どうして、あなたたちが争うのよ? ――ポポ

イッ!!」

 

 鋭く阻碍(そがい)の声を上げるプリム。

 冷気を感じて振り返れば、音もなく現れた球形の氷が霧消したところであった。

 

(プリムさんが……?)

 私への攻撃をプリムさんが阻んだというのならば、彼女は少なくとも敵ではないのだろ

う。そして、襲撃者と知り合いのようでもある。

 

「(確認しよう)――プリムさん。あなた、この人たちと知り合い?」

「そうよ、旅の連れっていったところ。ごめんなさい。後で、アキとあなたに謝罪させる

よ」

 得心が行った。吉井君が、プリムを追っている二人を不審者と断じたのは勘違いだった

のだ。無論、彼の言葉を受けた時に抑止しなかった私にも、責はある。

「いえ、思い込みが激しい私たちにも原因はあるわ。ごめんなさい」

 

 事は収まった。

 思うところがないわけではないが、表面上は落ち着きを取り戻した私を見据えて、プリ

ムさんがひとまずの方針を打ち出す。

「街に、戻りましょう。それと――」

 

「ヒールウォーター」

 

 プリムさんが高らかに唱えると、剣を持っていた男の子に大粒の水滴がしたたり、血色

が多少良くなる。

 その光景は、つい昨日も見たものであった。

 なんでも、<ヒールウォーター>という魔法で、対象に癒しの水を与え体力を回復させ

るものらしい。

 それを吉井君にも施すが、彼に起きる様子は見られない。

 プリムさんの言葉を信じれば、決して軽い怪我ではないが、重傷でもないらしく少し経

ったら目覚めるだろうとのことだ。

 それを聞いてホッとする。一ヶ月過ごして分かったことだが、この世界は医療技術が全

くと言っていいほど発展していない。軽い処置では治せない、一定のラインを超えてし

まったら、元の世界では問題なかったものもこちらでは死に至ることもある。

 

 と、今まで黙りこくっていた、私が吹き飛ばした男子が口を開く。

「プリム、友達は?」

 

(友達……?)

 会話の指すところが分からず、プリムさんに目線を向けると。

 時が止まったかのように、プリムさんの表情が固まっていた。

 

 やや時間をおいて。俯いて、どうにかといった体で、彼女は言葉を絞り出す。

「パメラは…………ここには居ないわ……」

 顔を悲痛に歪ませ呟くプリムさんは、彼女をよく知らない私でも、余程の衝撃であるこ

とが窺えた。

 

 沈黙が場に揺蕩(たゆた)う。

 それを裂いたのは、他ならぬプリムさん自身だった。

「確かに、急ぎたいところだけど…………私たちも休む必要があるわ」

 パン、パンと手を叩いて。

「そうと決まったら、行くわよ。ランディとポポイは、アキ――その男の子を運んでよ

ね」

 

(強いな……)

 純粋に羨ましくなる。彼女が一番辛いであろうに、そんなことを感じさせないほど誰よ

り明るく振る舞う。

「…………」

(私も……もっと強く…………)

 

 拳を強く握りしめ、私は決意を新たにした。




ということで、第八話。三か月以上経って、まだ八話……
もう少しペースを上げたい今日この頃。今月中に後一話上げて、来月には第一章を終わらせたい!
のっそりとした更新ですが、楽しんでいただければ幸いです。

ちょこっと、追記。
七話の”ぱっくんチョコ”。あれ、パンドーラには売っていません。こんな序盤に売ってたっけ、とふと思ってスーファミ起動したら案の定。
ただ、ニキータの店では取り扱っているので(倍額ではありますが)、問題ない……はず(汗
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