やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。 作:神納 一哉
文化祭の時のこと、覚えていてくれた。すごく、嬉しい。
だけど、期末試験が終わってすぐに誘われたってことは、そういうことなんだよね。
ヒッキーのことだから、ギリギリまで言わないだろうし。
薄々わかってはいたんだ。ヒッキーはゆきのんのことが好きだって。
ゆきのんもヒッキーのことが好きだって。
でも、もしかしたら…。
ちょっとだけ期待しても、いいかな?
明日は、ヒッキーに甘えてみよう。
そして伝えてみよう。あたしの気持ちを。
土曜日の午前9時30分。俺は総武駅前に居た。小町曰く『お兄ちゃんが誘ったのなら、待ち合わせ時間より前に待ち合わせ場所に居なくちゃ駄目』とのこと。まあ、誘ったのは俺だからしょうがないよね。
由比ヶ浜はまだ来ていない。おそらくは45分着の電車に乗ってくるのだろうと予想を立てて、俺は改札のすぐ横にある自販機に向かう。マッ缶を飲んで待っていよう。
今日の目的地のパセラって、昨日行ったカラオケだよな。二日連続で行くなんて、リア充と間違われちまうんじゃないか?まあ同じ店員さんがいるとは限らないけど。
また歌わないといけないんだよなあ。いや、カラオケだからって歌わなきゃいけないなんて誰が決めた。『ハニトー食べに来ました♪』じゃ駄目?
マッ缶を飲みながら自販機の傍で駅前広場を眺めてみる。俺の他にも待ち合わせの奴が何人か居て、そのうちの一人の所に女の子が笑顔で駆け寄っていくのが見えた。うん。青春だね。
そいつの近くに居た奴が羨ましそうに二人を見送っていると、そいつの後ろから同じ年くらいの男が来て肩を叩いた。何やら二言三言話をしてから並んで商店街の方に歩いていった。あれは友情ってやつかね?
空き缶をゴミ箱に捨て、改札口の方に目を向けると、お団子ヘアの女の子が改札口から出てくるところだった。彼女はきょろきょろと辺りを見回して、俺の方を見てパッと華やかな笑顔を浮かべると、大きく手を振りながら近づいてきた。
「やっはろー!ヒッキー」
「お、おう」
由比ヶ浜は濃紺のデニムパンツにピンクのセーター、上からベージュのコーディガンを羽織るといった、『この冬のゆるふわコーデ』という言葉がぴったりな格好をしていた。なんとなくだけど。
「まあ、似合ってるぞ。その服」
「えへへ。ありがと」
華やかな笑顔のまま由比ヶ浜はそう言うと、一呼吸おいてから俺の左腕に両手を絡めてくる。
「ちょっ!?」
「エスコートお願いね。ヒッキー」
「バカお前、離れろ。柔らかすぎて何が何だか分からなくなるし、色々勘違いされるから」
「柔らかいって…ヒッキーのエッチ!」
「自分から押し付けてきたくせに理不尽だな!」
「うわ…ヒッキーキモい!」
「いきなり罵倒するとか、泣くよ?」
「ヒッキー弱っ!」
「……もうおうち帰る」
由比ヶ浜の仕打ちに、俺はがっくりと肩を落として駐輪場へと歩いていく。とりあえず川崎に言い負かされた平塚先生をリスペクトしてみた。
「うわわわわっ。ウソウソ!ヒッキー、ごめん!」
「八幡の取り扱いには注意しろよ。意外と繊細だからな」
「普通そういうことは自分で言わないし」
「雪ノ下は『私、可愛いから』とか自分で言ってたけどな」
「ゆきのんが可愛いのは事実だから仕方ないし」
「俺が繊細ってのも事実だってえの」
由比ヶ浜はえへへ。と苦笑いを浮かべて俺に対する言葉を濁した。
「じゃ、いこっか?」
「そうだな」
商店街にあるパセラに向かって、俺たちは並んで歩き始める。最初から腕を組む必要はなかったんじゃないですかね?由比ヶ浜さん。
× × ×
由比ヶ浜の前に置かれたハニトー、チョコミルフィーユは生クリームやパイ生地が山のように積み重なっていた。
「凄えな、それ。俺はハニトーバニラで十分だ」
「アイスは付けるんだ」
「甘いものは好きだからな。んじゃ、ま、食うか」
「うん。いただきます。生クリームうまっ!」
「いやせっかく切り込み入ってるんだから、それに合わせて格子状に切ってハニトーと一緒に食えよ」
「ヒッキーお母さんっぽい!?」
「普通のこと言っただけですけど!?」
「……ヒッキー、少し食べる?」
そう言うと由比ヶ浜は自分のフォークに生クリームとパイ生地を載せて俺の方を見た。
「……くれるっていうなら、俺のハニトーに載せてくれ」
「…ん。わかった」
由比ヶ浜はそのままフォークを俺のハニトーに近づけてクリーム類を擦りつける。ちょっとだけ俺のハニトーが豪華になったぜ。やったね八幡。
由比ヶ浜のフォークとかそういうのは考えないようにして、もそもそとハニトーを食べる。当然食べている間は二人とも無言だ。
カラオケのアーティスト紹介映像に視線を向けながら、時折、正面に座っている由比ヶ浜を見る。んー。とか言いながらハニトーを食べる姿はげっ歯類の小動物を彷彿とさせて可愛いかった。
そう急いで食べる必要もない。俺は一時間でハニトーを食べたらすぐ店を出る計画を立てていたのだが、入店の際に由比ヶ浜がドリンクバー付き三時間コースにしやがったのである。三時間コースの代金は払うと言われてしまえば何も言うことはできなかった。
「ねえヒッキー」
「なんだよ」
「食べ終わったらさ、昨日歌ってたやつ歌ってよ」
「お前らひいてたじゃねえかよ」
「ひいてたんじゃないよ。あれは、……格好良かったから見とれてたの」
「そ、そうなんだ…」
「……うん」
何とも言えない雰囲気になったので、俺はグラスを持って中身を一気に飲み干した。
「俺、飲み物取ってくるけど、由比ヶ浜は何にする?」
「あ、うん。じゃあコーラで」
「オッケー。行ってくる」
「ありがと」
由比ヶ浜の言葉を背に受けて、俺は廊下へと退散したのであった。