やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。   作:神納 一哉

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ヒッキーにデートに誘われた。

文化祭の時のこと、覚えていてくれた。すごく、嬉しい。

だけど、期末試験が終わってすぐに誘われたってことは、そういうことなんだよね。

ヒッキーのことだから、ギリギリまで言わないだろうし。

薄々わかってはいたんだ。ヒッキーはゆきのんのことが好きだって。

ゆきのんもヒッキーのことが好きだって。

でも、もしかしたら…。

ちょっとだけ期待しても、いいかな?

明日は、ヒッキーに甘えてみよう。

そして伝えてみよう。あたしの気持ちを。


9 やはり由比ヶ浜結衣は優しい女の子である。①

土曜日の午前9時30分。俺は総武駅前に居た。小町曰く『お兄ちゃんが誘ったのなら、待ち合わせ時間より前に待ち合わせ場所に居なくちゃ駄目』とのこと。まあ、誘ったのは俺だからしょうがないよね。

 

由比ヶ浜はまだ来ていない。おそらくは45分着の電車に乗ってくるのだろうと予想を立てて、俺は改札のすぐ横にある自販機に向かう。マッ缶を飲んで待っていよう。

 

今日の目的地のパセラって、昨日行ったカラオケだよな。二日連続で行くなんて、リア充と間違われちまうんじゃないか?まあ同じ店員さんがいるとは限らないけど。

 

また歌わないといけないんだよなあ。いや、カラオケだからって歌わなきゃいけないなんて誰が決めた。『ハニトー食べに来ました♪』じゃ駄目?

 

マッ缶を飲みながら自販機の傍で駅前広場を眺めてみる。俺の他にも待ち合わせの奴が何人か居て、そのうちの一人の所に女の子が笑顔で駆け寄っていくのが見えた。うん。青春だね。

 

そいつの近くに居た奴が羨ましそうに二人を見送っていると、そいつの後ろから同じ年くらいの男が来て肩を叩いた。何やら二言三言話をしてから並んで商店街の方に歩いていった。あれは友情ってやつかね?

 

空き缶をゴミ箱に捨て、改札口の方に目を向けると、お団子ヘアの女の子が改札口から出てくるところだった。彼女はきょろきょろと辺りを見回して、俺の方を見てパッと華やかな笑顔を浮かべると、大きく手を振りながら近づいてきた。

 

「やっはろー!ヒッキー」

 

「お、おう」

 

由比ヶ浜は濃紺のデニムパンツにピンクのセーター、上からベージュのコーディガンを羽織るといった、『この冬のゆるふわコーデ』という言葉がぴったりな格好をしていた。なんとなくだけど。

 

「まあ、似合ってるぞ。その服」

 

「えへへ。ありがと」

 

華やかな笑顔のまま由比ヶ浜はそう言うと、一呼吸おいてから俺の左腕に両手を絡めてくる。

 

「ちょっ!?」

 

「エスコートお願いね。ヒッキー」

 

「バカお前、離れろ。柔らかすぎて何が何だか分からなくなるし、色々勘違いされるから」

 

「柔らかいって…ヒッキーのエッチ!」

 

「自分から押し付けてきたくせに理不尽だな!」

 

「うわ…ヒッキーキモい!」

 

「いきなり罵倒するとか、泣くよ?」

 

「ヒッキー弱っ!」

 

「……もうおうち帰る」

 

由比ヶ浜の仕打ちに、俺はがっくりと肩を落として駐輪場へと歩いていく。とりあえず川崎に言い負かされた平塚先生をリスペクトしてみた。

 

「うわわわわっ。ウソウソ!ヒッキー、ごめん!」

 

「八幡の取り扱いには注意しろよ。意外と繊細だからな」

 

「普通そういうことは自分で言わないし」

 

「雪ノ下は『私、可愛いから』とか自分で言ってたけどな」

 

「ゆきのんが可愛いのは事実だから仕方ないし」

 

「俺が繊細ってのも事実だってえの」

 

由比ヶ浜はえへへ。と苦笑いを浮かべて俺に対する言葉を濁した。

 

「じゃ、いこっか?」

 

「そうだな」

 

商店街にあるパセラに向かって、俺たちは並んで歩き始める。最初から腕を組む必要はなかったんじゃないですかね?由比ヶ浜さん。

 

          × × ×

 

由比ヶ浜の前に置かれたハニトー、チョコミルフィーユは生クリームやパイ生地が山のように積み重なっていた。

 

「凄えな、それ。俺はハニトーバニラで十分だ」

 

「アイスは付けるんだ」

 

「甘いものは好きだからな。んじゃ、ま、食うか」

 

「うん。いただきます。生クリームうまっ!」

 

「いやせっかく切り込み入ってるんだから、それに合わせて格子状に切ってハニトーと一緒に食えよ」

 

「ヒッキーお母さんっぽい!?」

 

「普通のこと言っただけですけど!?」

 

「……ヒッキー、少し食べる?」

 

そう言うと由比ヶ浜は自分のフォークに生クリームとパイ生地を載せて俺の方を見た。

 

「……くれるっていうなら、俺のハニトーに載せてくれ」

 

「…ん。わかった」

 

由比ヶ浜はそのままフォークを俺のハニトーに近づけてクリーム類を擦りつける。ちょっとだけ俺のハニトーが豪華になったぜ。やったね八幡。

 

由比ヶ浜のフォークとかそういうのは考えないようにして、もそもそとハニトーを食べる。当然食べている間は二人とも無言だ。

 

カラオケのアーティスト紹介映像に視線を向けながら、時折、正面に座っている由比ヶ浜を見る。んー。とか言いながらハニトーを食べる姿はげっ歯類の小動物を彷彿とさせて可愛いかった。

 

そう急いで食べる必要もない。俺は一時間でハニトーを食べたらすぐ店を出る計画を立てていたのだが、入店の際に由比ヶ浜がドリンクバー付き三時間コースにしやがったのである。三時間コースの代金は払うと言われてしまえば何も言うことはできなかった。

 

「ねえヒッキー」

 

「なんだよ」

 

「食べ終わったらさ、昨日歌ってたやつ歌ってよ」

 

「お前らひいてたじゃねえかよ」

 

「ひいてたんじゃないよ。あれは、……格好良かったから見とれてたの」

 

「そ、そうなんだ…」

 

「……うん」

 

何とも言えない雰囲気になったので、俺はグラスを持って中身を一気に飲み干した。

 

「俺、飲み物取ってくるけど、由比ヶ浜は何にする?」

 

「あ、うん。じゃあコーラで」

 

「オッケー。行ってくる」

 

「ありがと」

 

由比ヶ浜の言葉を背に受けて、俺は廊下へと退散したのであった。

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