やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。 作:神納 一哉
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「……………どうしてこうなった?」
ソファーに身を沈めてリビングの天井を眺めながら、俺はそう呟いた。
そんな俺の肩に頭を載せて寄りかかる形で、雪乃が小さな寝息を立てていた。
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平塚先生に雪乃のマンションまで送ってもらい、雪ノ下さんの荷造りを雪乃と二人で眺めつつ、雪乃と一緒に雪乃が淹れてくれた紅茶を飲んだ。
そうしているうちに雪ノ下さんが荷物を纏めて部屋を出たので、雪乃と一緒にエントランスまで見送りに出た。
すでに車が到着していて、雪ノ下さんは後部座席のドアを開けて荷物を積み込んでそのまま車内へと滑り込むように乗り込み、窓を開けて雪乃に手招きをして側に呼ぶと、その耳元で何かを話して、それからすぐに去って行った。
やけにあっさりしているなあと思いながら、時間も時間なので俺も帰ることにして、車道脇で車を見送っている雪乃の側に近づいた。
「んじゃ、俺も帰るわ」
雪乃にそう声をかけて歩き出そうとしたところで、後ろから制服の袖を掴まれた。
「鞄を置いていくつもり?」
「お、おう。そうだったな」
「一旦、戻りましょう」
「わかった。わかったから引っ張らないでくれ。転びそうだ」
そのまま後ろに引っ張られてエントランスへと連行されそうになったので、足を踏ん張って抵抗すると、雪乃は制服の袖から手を放して、左手を俺の前に差し出した。
「では、きちんとエスコートしなさい」
「雪乃の家に戻るんだから、雪乃がエスコートしてくれるものじゃねえの?」
「…そうね、今のところは私が主ということになるのだから、私がエスコートしないといけないわね。では、行きましょうか、八幡」
そう言うと雪乃は俺の右手に自分の左手を重ね、指を絡めてしっかりと手を繋いだ。まあその、いわゆる恋人繋ぎってやつだ。
そのまま横並びでエントランスを通り、エレベーターに乗り込むと雪乃は自分の部屋のある最上階のボタンを押す。扉が閉まりエレベーターが上昇を始めたところで、雪乃がぼそっと呟いた。
「もう少し一緒に居たいわ」
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「……ん。はちまん…」
俺の左肩にもたれかかって艶めかしい声で俺の名を呼ぶ雪乃。
信じられるか?これ、眠っているんだぜ。
手持ち無沙汰なので、もたれかかられているのとは反対の手で雪乃の頭を撫でてみたりしたら、この有様だよ。いつもの凛とした雪ノ下雪乃は何処に行ってしまったのでしょうね。
………まあ、それだけ甘えてくれているということで嬉しいのだが。
「…可愛いな」
自然とそんな言葉が零れる。しょうがないよね、可愛いんだから。
傍から見ればニヤけてるんだろうな俺。絶対、由比ヶ浜が見たら『ゆきのん可愛い!ヒッキーキモい!』って言われるな。俺と付き合う前の雪乃が見たら『気持ち悪いわね、ニヤけ
………なんか悲しくなってくるからやめておこう。今の雪乃にそんなこと言われたら耐えられないと思うし。
「……八幡?」
「お、起きたか。おはよう雪乃」
「ごめんなさい、ついうとうとしてしまったわ。ところで何故そんな辛そうな顔をしているの?」
「ん?笑わないか?」
「場合にもよるのだけれど」
「雪乃の寝顔を見ている自分がニヤけているだろうなと思ったら、付き合う前の雪乃が見たらどんな罵倒が飛んでくるだろうなと考えてさ、その言葉を今の雪乃に言われたら耐えられないだろうなあって思って」
「そうね、ニヤけ
「……うん、想像してたのもそれ」
やはり堪えるなあと思っていると、雪乃は俺の頬に手を当てて目線を合わせてきた。
「ふふ。恋人の笑顔を見てそんなことは言わないわよ。まあ、目は閉じるかもしれないけれど」
言ってから実際に目を閉じる雪乃。え?それどういうことなの?
「……目覚めのキスをして頂戴」
雪乃はそう小さく呟くと、目を閉じたまま顎を上げて唇を俺に向かって突き出した。
もちろんその申し出を断るはずもなく、俺はそっと雪乃と唇を交わすのであった。