やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。   作:神納 一哉

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エピローグ⑤

          × × ×

 

「ただいまー」

 

「おかえり。お兄ちゃん」

 

気だるげに玄関でお決まりの言葉を口にして、そのまま廊下を通り階段へと向かう途中でリビングから声を掛けられたので、小さく溜息をついてからリビングを覗き込む。

 

「メールした通り夕飯は食べてきたぞ。平塚先生にラーメンを奢ってもらった」

 

「お兄ちゃんだけ?」

 

「いや、雪乃も一緒に」

 

小町の目が見開かれ、凄い勢いで立ち上がると俺の側に駆け寄ってきた。目を爛々と輝かせて。

 

なんなのその獲物を目の前にした肉食獣のような目は?

 

「お兄ちゃん!今、雪乃さんのこと呼び捨てにしたよね?どういうこと!?」

 

………あー、そういうことね。

 

自然に名前呼びしちゃいました。てへっ。

 

「まあ、あれだ。雪乃と恋人になった。そのお祝いで平塚先生に奢ってもらった。ついでに言うと雪ノ下さんにも報告済。あと、由比ヶ浜とは友達になった」

 

「お兄ちゃん!小町的に超ポイント高いよ!特に結衣さんと友達になったってのが!」

 

「まあな」

 

「じゃあ小町は、これから雪乃さんのことを雪乃お義姉ちゃんって呼ぶことにする。小町的にポイント高い!」

 

「はいはい、高い高い」

 

「なんか投げやりだ!?」

 

「まあ、色々あったからな。ちょっと疲れた。それに、その、アレだ」

 

「アレって何?」

 

顔が熱くなるのを自覚しつつも言葉にして伝えることにする。

 

「雪乃に電話したい」

 

「お兄ちゃんがデレたっ!?」

 

「悪いかよ。まあその、小町以外にも甘えられる奴が出来たってことで許してくれ」

 

「ん。そういうことなら許す」

 

「じゃあ、おやすみ」

 

「うん。おやすみ。お兄ちゃん。雪乃お義姉ちゃんによろしく」

 

          × × ×

 

『はい、雪ノ下です』

 

「雪乃か?俺だけど、今大丈夫か?」

 

『八幡?もちろん大丈夫よ。どうかしたの?』

 

「雪乃の声が聞きたかったのと、おやすみくらいは言っておこうかなと思ってな」

 

『ふふ。嬉しいわ。その、私も八幡の声が聞きたかったの』

 

「俺も嬉しいぞ。それでだな、小町が雪乃のことを雪乃お義姉ちゃんって呼びたいって言ってたぞ。あと雪乃お義姉ちゃんによろしくってさ」

 

『ふふ。そう呼んでもらって構わないと伝えておいてくれるかしら?あと、こちらこそよろしくお願いしますと小町さんに伝えておいて』

 

「おう、わかった」

 

『ねえ、八幡』

 

「ん?どうした?」

 

『その、いつ泊まりに来てくれるのかしら?』

 

「当分の間は無理だぞ。勉強を教えてもらいには行くけれど泊まるのは当分後だ」

 

『…私の方で準備しておこうかしら?』

 

「やけに積極的だな。もう少し恥じらいというものを持った方がいいと思うんだが。まあ嬉しいけど」

 

『不安なのよ。母さんの気が変わらないうちに、既成事実を作っておきたいの』

 

「なあ、それはまずいんじゃないか?責任感無しと思われる気がするんだけど」

 

『八幡以外とは嫌なのだけれど』

 

「そういうことじゃなくてだな。なあ、俺たちが付き合うのって家族公認だって言っていたよな?」

 

『ええ。今のところはそのはずよ』

 

「そうか、なら、話は早いかもしれない。雪乃、明後日の卒業式が終わったら雪ノ下の家に行こう。お義母さんにアポを取っておいてくれ」

 

『八幡、何をする気なの?』

 

「雪乃と俺の婚約を認めてもらうようにお願いしに行く。家族公認ということならより確実に認めてもらえば問題ないだろ?」

 

『八幡!愛してるわ』

 

「俺も愛してる。だから雪ノ下雪乃さん。俺と婚約してください」

 

『はい。よろしくお願いします』

 

          × × ×

 

終業式に続いて卒業式が終わると、俺はすぐに体育館を出て昇降口へと向かう。

 

昇降口から校門の間には、卒業生が部活の後輩や仲間に囲まれて別れを惜しんでいる姿が数多く見受けられるが、それらには目もくれず、俺は昇降口の側で雪乃を待っていた。

 

暫くして昇降口から出てきた雪乃は、俺の姿を認めると安心したような表情を浮かべて、俺の右腕を両手で掴んで抱き着いてくる。

 

「お、おい」

 

「八幡、このまま私と一緒に来てくれる?話したこともない先輩から呼び出されているのだけれど、言葉よりも見てもらった方が早いと思うし、他の人への牽制にもなるから」

 

「ん。そういうことならしょうがないな」

 

雪乃にしがみつかれたまま、俺のベストプレイスだった場所の近くへと歩いて行く。先ほどから感じる他の生徒の視線はこの際気にしないことにした。雪乃も気にしていないしな。

 

校舎裏と言うのに相応しい場所に立っているイケメンの男子生徒が雪乃を呼び出した先輩だろう。彼は近づいてくる俺たちを見て―おそらく雪乃の姿を確認して―、一瞬だけ顔に喜色を浮かべ、それから表情を曇らせた。

 

「こんな人気のないところに呼び出されて身の危険を感じたので、彼についてきてもらいましたけれども、どのような要件でしょうか?」

 

雪乃は冷たい声でそう言うと、俺の左腕を両手でぎゅっと掴んだ。

 

「あー、その、彼って?」

 

「私の恋人ですが?」

 

「あ、そうなんだ。うん、その、雪ノ下さんのこといいなって思ってたからさ、呼び出したんだけれど、恋人がいるなら、うん、ごめんね。そういうことだから」

 

「はい。ご卒業おめでとうございます。さようなら」

 

「あ、うん。さようなら」

 

すごすごと去っていく先輩の姿が見えなくなったところで、俺と雪乃は顔を見合わせてから小さく微笑みあった。

 

「きっついだろ、これ。でも、まあ先輩にはいい薬にはなったんじゃないか」

 

「どうして話したこともない相手に告白をしようなんて思うのかしら?理由がわからないのだけれど」

 

「雪乃は美人だからな。それだけでも告白しようとする奴は多いだろう?」

 

「見た目だけで決められても嬉しくないのだけれども」

 

「一応言っておくけど俺は見た目だけで決めたわけじゃないからな」

 

「ふふ。わかっているわ。私も見た目だけで決めたわけじゃないもの。だから、このまま校門を潜るのも気にしないわ」

 

「むしろ牽制になる、だろ?」

 

「ええ」

 

「じゃ、行くか」

 

「ええ、行きましょう」

 

雪乃にしがみつかれたまま、校門へと歩き出す。校門に近づいたところで『ヒキタニくんマジすげーわ』とか『ゆきのん大胆!』とか『雪ノ下さん、ヒキオと腕で組んで幸せそうだからいいっしょ』とか聞き覚えのある声が聞こえてきたけど気にしないでおいた。

 

「八幡、雪ノ下さん」

 

「お、おお?どうした、戸塚」

 

「ふたりとも凄い目立ってるけど、見せつけてるってことでいいのかな?」

 

「まあな。お互いに好き合ってるし、むしろこれから雪乃の家に婚約のお願いをしに行くまでもある」

 

「わあ、凄いや八幡。雪ノ下さんも、おめでとう」

 

「ありがとう、戸塚くん」

 

そう言って微笑む雪乃の笑顔に、俺も自然と笑みを浮かべながら見惚れるのであった。

 

                                     了

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