やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。 作:神納 一哉
「…よう」
「比企谷。こんな時間に珍しいな」
「ちょっと、な。悪いが昼休み、屋上に来れるか?」
「昼飯はどうするんだ?」
「俺はパンでも齧るけど」
「いや、俺。屋上に持って行った方がいいのか?」
「あー、そうだな。昼飯を一緒に食おうって誘った方がいいか?」
「そうだな。その方が俺も抜けやすい。先輩に呼び出されたことにでもしておく」
「じゃ、それで頼むわ」
「わかった」
「おう」
「八幡。おはよう。今日は早いね?」
「おはよう。戸塚。今日も可愛いな」
「八幡はすぐそうやってからかうんだから」
ぷくっと頬を膨らませる戸塚。いや、からかってないんだけど。
「それで?なんでこんな早いの?」
「いや、なんか早く目が覚めちまってな」
「…ぼくは力になれないのかな?」
戸塚は上目づかいで俺を見て、そんなことを呟いた。
「戸塚にはいつも助けられているけど?」
「ほんと?それなら嬉しいな」
「マジマジ。今日は聞きたいことがある奴にアポを取るために早く来ただけだからさ」
「そっか。無理はしないでね。八幡」
そう言うと戸塚は柔らかな笑顔を向けてくれた。戸塚マジ天使。
× × ×
「では本日の授業はここまで。ああ、比企谷は職員室まで来るように」
四限目の終了を告げる鐘が鳴った後、授業を担当していた平塚先生が俺を指名して教室を後にする。
「…めんどくせーな」
机の上を片付け、鞄から昼飯を取り出すと、俺は職員室へ向かうために教室を出た。階段を降りたところで平塚先生が声をかけてくる。
「それで、どんな用事だ?比企谷」
「まあちょっと、話を聞きたい奴を呼び出しているんで、俺が昼休みに違和感なく教室を出るための手伝いを先生にしてもらいました」
「ふむ。その様子だと少しは前に進めそうだな」
「どうなんでしょうね?」
「相変わらず捻くれているな、君は」
そう言うと、俺の肩を軽く叩く。
「殴り合いだけはするなよ」
「しねえよ!」
「骨は拾ってやる」
「俺が負けるの前提ですねそれ。まあ間違いじゃないですけど」
「冗談だよ。君が…いや君たちが前に進めた時には、私に報告に来てくれると嬉しい」
「…そうですね。その時は報告に行きますよ」
「その時はまた、君たちにラーメンを奢ってやろう」
その言葉に驚いて平塚先生を見ると、少しだけ面白そうに俺を眺めた後、慈愛に満ちた微笑みを返してくれた。素敵な女性だよな。本当に誰か貰ってあげて!
× × ×
自販機でマッ缶とブラックコーヒーを買い、中央階段から屋上へと向かう。1階と2階は昼休み特有の喧騒に包まれていたが、屋上の入口に着いたときは、あたりは静寂に包まれていた。
扉を押すと、まるでその存在を誇示するかのように、ぎいと重苦しく鳴った。
「すまん、遅くなった」
「いや、俺も今来たところだから」
爽やかに言う葉山目がけて、俺は右手に握っていたブラックコーヒーの缶を放る。葉山は危なげなく受け止めると給水塔の壁に背を向けて腰を下ろし、自分の隣の床を軽く叩く。
「とりあえず食おうか。コーヒー、ありがとな」
「おう。食うか」
葉山の隣に腰を下ろし、総菜パンの袋を開けて齧り付く。うむ、やはり焼きそばパンは最高だな!
なんだかんだで男子高校生。5分もしないうちに俺は焼きそばパンとカツサンド、葉山はサンドイッチ2パックを食い終わり、それぞれマッ缶とコーヒーを口に運んでいた。
良く晴れた青空に視線を向けて、葉山に話しかける。
「お前が千葉村で言ったアルファベットだけど、あれって雪ノ下だけじゃないよな」
「何故そう思う?」
「これは俺の勝手な想像なんだが、お前はあのアルファベットにいくつもの意味を込めていたんだろ?」
「…その意味とは?」
「雪ノ下雪乃、雪ノ下陽乃、由比ヶ浜結衣、三浦優美子。それと友情かな?」
「……まあ、否定はしない。それで、比企谷は何を知りたいんだ?」
葉山が探るように目を細めて俺を見る。
「ちょっと踏み込む必要が出来たからな。俺が知らないことを知っている葉山に聞きたいつーか、教えて欲しい」
「何を?」
「…俺が知らない雪ノ下雪乃について、葉山が知っている雪ノ下雪乃のことを教えてくれ」
「…知ってどうする?君たちは今のままでも十分だと思うけれど」
「言ったろ。踏み込む必要が出来たって。雪ノ下の本心を知るためにはより多くの情報が必要だ。おこがましいけど、俺の選択を確かなものにするために、雪ノ下を取り巻く状況について知っておきたい」
「わかった」
そう呟く葉山の顔には、憧憬にも似た色が浮かんでいた。最低限の礼儀として、俺はそんな葉山の視線を真正面から受け止める。
そして、葉山は語り始めた。
× × ×
放課後、由比ヶ浜が三浦や海老名さんと談笑しているのが目に入ったので、俺は鞄を持つと教壇側の扉からゆっくりと廊下に出た。
特別棟に向かって廊下を進もうと歩き出すと、俺の前にサキサキこと川崎が立ち塞がる。
「………あの、もうすぐ休みじゃない」
「お、おう」
「………京華が、楽しみにしてるからさ、比企谷の連絡先、聞いといてもいい?」
「お前の弟が知ってるだろ?」
「メールだけじゃん」
「……まあ、いいけど」
俺は携帯を取り出して電話番号を表示させ、川崎の前に突き出すと、川崎は慌てて携帯を取り出し登録作業を開始した。
「……メールは?」
「ほら、これ」
「………着信確認、空メール送信、……登録」
自分の携帯を操作し終わると、川崎は俺の手から携帯を奪い取り、何やら操作を行ってから俺に返してくる。
「……登録、しといたから。……また、連絡する」
「お、おう」
「………比企谷も葉山も雪ノ下も……無器用だね」
「は?」
「…っ!なんでもない」
その場を取り繕うように川崎は言うと、そのまま廊下を走って行った。スピードが速いのかスカートが舞い上がって黒いレースの何かがちらりと目に入る。
「……給水塔の上にでも居たのだろうな。まあ言いふらすような奴じゃないし、いいか」
俺は軽く肩をすくめると、特別棟に向けて歩き出した。
タイトルの「見つめる先」は「見つめる沙希」と掛けていますw