やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。   作:神納 一哉

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昼休みの屋上にて

「悪かったな」

「いや、良いよ」

「母親も雪ノ下さんも過保護すぎるな。でも、いじめのことを考えれば仕方ない、か」

「まあな。そのことを踏まえて言うと、雪ノ下さんと俺は陽乃さんに憧れ、共に追いかける仲間みたいな存在だった。だから俺は、小学校で雪ノ下さんではなく友達を優先してしまった。雪ノ下さんも陽乃さんと同じように社交的に振舞えるものと仲間として信じていたからね」

「…だけど雪ノ下は、お前の予想に反して内向的な女の子だった」

「ああ、そうだ。その時点で俺は、…正直に言うと雪ノ下さんに失望した。だけどそれは同時に雪ノ下家が俺を見限った時でもあったんだ」

「どういうことだ?」

「雪ノ下さんと俺が同じ歳だから、親同士の間でゆくゆくは許嫁に、そんな話が出ていたらしい。だけど俺も結局は加害者側に居たからね。陽乃さんによると雪ノ下家の怒りは凄かったらしい」

「今も家同士の付き合いはあるんだよな?」

「ああ、父さんが雪ノ下建設の顧問弁護士だし、陽乃さんがまだ俺を構ってくれるからな。陽乃さんが構ってくれる間は家同士の付き合いは続きそうだ」

「まだ雪ノ下さん…陽乃さんのことを追いかけているのか?」

「ああ、俺はまだ、陽乃さんを追い求めてるかもしれないな。あのアルファベットの意味は、葉山家としては雪ノ下家を、俺個人としては雪ノ下陽乃と優美子たち…いや、優美子を表している。優美子たちと過ごしているうちに、優美子に惹かれはじめている自分もいることに気付いた」

「三浦はあれで結構、包容力あるからな。由比ヶ浜も海老名さんも頼りにしているし」

「ああ。優美子は優しいよな。それでも、陽乃さんを求めてやまない自分もいるんだ」

「それって矛盾してねえか?」

「そうかもな。だけど比企谷、お前もこういった気持ち、わかるんじゃないか?」

「…お前の話を聞く前ならわかっただろうけど、聞いた後の今はわからねえな」

「…そうか。やはり君とは仲良くなれないな」

「それ以前に俺のこと嫌いだろうが」

「ああ、嫌いだよ」

「俺もお前が嫌いだ」

「お互い様だな」


5 そして、比企谷八幡は行動を開始する。

「こんにちは」

 

「うす」

 

部室の扉を開け、こちらを見て柔らかな微笑みを浮かべている雪ノ下と挨拶を交わす。

 

「由比ヶ浜さんは?」

 

「三浦たちと話してる」

 

「そう。…紅茶、淹れるわね」

 

「悪いな」

 

「私が好きでやっていることだから」

 

「そっか」

 

雪ノ下の言葉に平静を装って返事を返し、俺は椅子に座って鞄から文庫本を取り出す。

 

「…そう言えば、再来週から期末試験だったな。一週間前から部活禁止だっけ?」

 

「そうね。来週から部活は禁止ね」

 

「雪ノ下の淹れる紅茶もお預けか。残念だがこればかりはどうしようもないな」

 

「あら。比企谷くん。紅茶を楽しみにしていてくれたのかしら?」

 

「……まあ、旨いからな」

 

「ふふ。ありがとう」

 

嬉しそうに頬を染める雪ノ下。それ反則だから。出会った頃の氷の女王は何処に行ってしまったの?

 

「比企谷くん。もし良ければなんだけれども、来週の放課後は一緒に勉強会をするのはどうかしら?」

 

「由比ヶ浜がうるさそうだな。けど、いいんじゃないか。勉強会。その、なんだ。三人で集まれるし」

 

「そうね。比企谷くんの好きなサイゼリアだと由比ヶ浜さんが集中できないかもしれないから、図書館でやるのはどうかしら?」

 

「お前、何気に由比ヶ浜を貶めてるぞ」

 

「でも、反論できないでしょう」

 

「……まあな」

 

お互いに顔を見合わせて苦笑すると、電子ケトルのスイッチが切れたので雪ノ下がティーポットに茶葉を入れてお湯を注いだ。

 

「やっはろー」

 

「こんにちは。由比ヶ浜さん。ちょうどいいタイミングね」

 

机の上に由比ヶ浜のティーカップを追加して、雪ノ下が柔らかく微笑む。

 

「由比ヶ浜さん。比企谷くんとも話したのだけれども、来週から放課後は図書館で勉強会をするわよ」

 

「えっ!なんで!?」

 

「なんでって、再来週期末試験なのだけれど」

 

「由比ヶ浜、まさか…」

 

「……期末試験なんてすっかり忘れてた」

 

「由比ヶ浜さん…」

 

雪ノ下が呆れた顔で由比ヶ浜を見る。便乗して俺もジト目で由比ヶ浜を見てやった。

 

「ゆきのんひどい。ヒッキーキモい」

 

「なんで俺だけ貶められるんですかね?」

 

「それは比企谷くんの日頃の行いが」

 

「俺、何もしてないよね?」

 

「何もしていないことを誇られても、困るわ」

 

「そういう意味じゃなくて」

 

「もー、二人ともイチャイチャしないで!」

 

「「はぁ?」」

 

由比ヶ浜の言葉に、俺と雪ノ下の声がハモり、それがきっかけでお互いの顔を見合わせ、雪ノ下の頬が赤く染まり、俺の耳も赤くなった。

 

「ゆきのん可愛い!」

 

「……暑苦しいわ」

 

由比ヶ浜が抱きついてくるのを、雪ノ下は若干眉を顰めただけで受け入れた。なんだかんだ言って由比ヶ浜には甘のんですね。

 

          × × ×

 

「まったねー」

 

「…また明日」

 

「じゃあな」

 

駅前で三者三様の挨拶をして別れる。由比ヶ浜はぶんぶんと手を振り、雪ノ下は胸の前で手のひらを小さく振る。俺は手を振る代わりに右手を頭の上まで上げた。

 

二人の姿が見えなくなったところで俺は自転車に跨った。ペダルに片足を載せて漕ぎだそうとしたところで、後ろから近づいてくる足音に気が付いて地面に足を下ろした。

 

「そろそろ来ると思ってましたよ」

 

「へえ。さすが比企谷くん」

 

「俺に会いに来た理由は雪ノ下ですか?それとも葉山ですか?」

 

「…とりあえずどこか入らない?ちょっと長くなりそうだし」

 

「そうですね」

 

自転車から降りて陽乃さんの方を向き、それから無言で歩き始めた陽乃さんの後ろを自転車を引いてついて歩く。

 

繁華街の片隅にあるカフェラウンジの前で陽乃さんが立ち止まったので、店先に自転車を止めて施錠する。

 

店内に入り、奥の方の席に陽乃さんが座ったので、俺はテーブルを挟んで向かい側の席に腰を下ろした。

 

「何飲む?お姉さんのおごり」

 

「…じゃあ、カフェオレで」

 

「私はミルクティにしようかな」

 

ボタンを押してすぐに寄ってきたウエイトレスに陽乃さんが飲み物を注文すると、机の上に肘をついて両手を組み、その上に顎を載せて真っ直ぐにこちらを見る。

 

「それで、お姉さんに何の用かな?」

 

「雪ノ下さんこそ、俺に何の用ですか?」

 

「そう来るか。やっぱ比企谷くんは面白いなー」

 

「お褒めの言葉として受け取っておきます」

 

「あれ?本当にどうしちゃったの?」

 

そこに飲み物が運ばれてきたので、少しの間会話が中断した。

 

陽乃さんがカップに口をつけるが、俺はカフェオレのカップから立ち上る湯気を眺めるだけに留めた。

 

「飲まないの?」

 

「猫舌なんで」

 

「そう」

 

陽乃さんはソーサーの上にカップを置くと、真っすぐに俺を見て口を開いた。

 

「比企谷くん。1か月待ってくれってどういうこと?」

 

「見極めるための時間ですね」

 

「雪乃ちゃん、それともガハマちゃん?」

 

「…そういうのじゃないんで」

 

「えっ!?他に誰かいるの」

 

「だから、そういうのじゃないです」

 

少し強めに言ってから、俺は大きく深呼吸して陽乃さんを真っ直ぐに見る。

 

「どこまで雪ノ下雪乃に踏み込んでいいのか、見極めるための時間ですよ」

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