アカメが斬る! ━とある国の英雄譚━   作:針鼠

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エピソード 3-2

「もう! シャンとしてください先輩!」

 

 

 キャンキャン騒ぐセリューの言葉に、グリムは生返事する。それに益々怒るセリューは拳を放つが、忌々しくも躱される。ぐぬぬ。

 

 

「あまり不真面目だとエスデス隊長にお叱りを受けますよ!?」

 

「そういうタイプじゃないだろ。やることやれば文句言わないタイプだ。胸もでかいし」

 

「だとしても、この間みたいのはもうごめんです! ――――ってそれ関係ないでしょう!」

 

 

 セリューが言うこの間というのは、イェーガーズ初顔合わせの日。エスデス流の自己紹介を兼ねた試験として、彼女自身が隊員達に襲いかかってきた。

 その間……というより会議室に着いてからずっと寝こけていたのが目の前の不良上司である。お咎めこそなかったが目をつけられたに違いない。なにせエスデスは起きないグリムに攻撃をしようとしたのだ。――――正しくは、殺そうとしたのだ。

 

 セリューの横槍が功を奏したのかはわからないが、気が変わったらしくその場はなにも起きなかった。

 

 

「もうあんな風に死にかけるのはごめんです」

 

 

 心の底からセリューは言う。

 

 

「お前から見てエスデスはどうだ?」

 

「どうって……というか先輩。ちゃんと隊長と呼んでください」

 

 

 生真面目な性格からしっかり指摘しながら、セリューは質問に答える。

 

 

「どう、と言われてもまだ隊長のことはほとんど知らないのでわかりません。ただ……怖いです。氷のようなあの眼が」

 

 

 正直、グリムの件で横槍を入れたとき、セリューは己の死を悟った。エスデスの眼に殺人に対する躊躇いなど微塵も無く、氷の瞳に射抜かれただけで心臓が止まりそうだった。事実将軍たる彼女の実力をもってすれば自分など瞬殺だろう。

 

 

「帝国はブドーとエスデスの2強なんて言われちゃいるが、ボスの力量差は兎も角、実戦経験を積み続けてるエスデス軍と帝都内で格下相手にしてる近衛じゃ、仮にレベルが同じでも経験値が違う。勝つのは多分前者だ」

 

「勝つとか負けるって……どっちも帝国を守る仲間じゃないですか」

 

「お前は素直で可愛いなー」

 

「なっ!!?」

 

「まあ、追々わかることだ。今はただ革命軍(共通の敵)がいるから不干渉を貫いているだけ。それが無くなれば矛先はどこに向くのかねぇ?」

 

「それでも……」セリューははっきり言う「それでも私は、救いを求める()()()の味方でいたいです」

 

 

 かつて繰り返し使っていた『正義』の言葉。悪を倒す者こそが正義の味方であると盲信していたセリュー。

 しかし正義とはなにか。悪とはなにかわからなくなった今、安易に正義を名乗ることは出来なくなった。それでも自分は人を救う側でいたいと思った。思うことが出来た。

 ならばもしこの先、帝国が身内で争うことになったとしても、それに民が巻き込まれるのだけは絶対に間違っている。しょうがいないからと切り捨てることは間違っている。

 だから、セリューはもしそうなっても民の味方でいようと決めた。それがたとえ帝国に背く行為だとしても。

 

 

「そうか。頑張れ」

 

「先輩に言われなくても頑張りますよ」

 

 

 ツン、と顔を背ける。その横顔がほんのり赤いのは、この気持ちに気付かせてくれたのが隣にいる人物だったから。気恥ずかしいのだった。

 

 

「ほら先輩、無駄話だけじゃなくてしっかり警備をしてください!」

 

 

 おそらく気付かれてるだろう照れ隠しをさらに誤魔化すようにセリューは急き立てる。といっても方便ばかりではない。実際彼女達は今任務の最中なのだ。

 

 イェーガーズ顔合わせの後、エスデスが突如企画した『都民武芸試合』。グリムとセリューはその警備の最中であった。

 何故突然こんな催しをしたのか。理由は2つ。

 1つは以前セリューが撃退したナイトレイドが持っていた鋏の形状の帝具の使い手の発掘。そのままにしておけばいずれオネストに回収されてしまうが、それより先に使い手を見つけあわよくば隊に取り込もうという魂胆らしい。

 もう1つの理由は、

 

 

「おお!?」

 

 

 セリューが驚きの声をあげた。観客の帝都民達の歓声を浴びているのは、今しがた試合に勝利した少年だった。

 セリューよりも幼い少年が、巨漢の選手を圧倒しての勝利。その身のこなしは大会参加者の中でも頭2つほど抜けていた。

 

 

「強いですね、あの子……。やや? あの子どこかで見たような」

 

 

 試合場中央、主催者のエスデスが手ずから勝者である少年の首にかけたのは、鎖付きの首輪だった。

 

 

「今から私のものにしてやろう」

 

「え?」

 

 

 目を点にして硬直してしまう鍛冶師の少年――――タツミ。

 

 首を傾げているセリューの横で、グリムは天を仰いだ。

 

 

「おいおい、勘弁してくれ……」

 

 

 武芸大会を開いたのは人員補強の目的ともうひとつ、エスデスの婚活である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギョガン湖の砦。帝都近郊に建てられたそこは、帝都から逃げ出した悪人達がたむろしている。その規模は日増しに大きくなり、遂にはひとつの勢力として幅を利かせていた。

 本来なら帝都の警備隊、或いは軍が出張って排除することなのだが、膨れ上がった勢力は最早警備隊程度では対処しきれず、かといって大規模な軍を動かすには、それが革命軍などに対する隙になりかねなかった。

 

 そこにエスデスが目をつけた。部隊員の実力試しには手頃な相手だと。

 

 

「面倒臭ぇ……」

 

「なにを言ってるんですか先輩! 初任務ですよ」

 

 

 道中、愚痴を漏らすとセリューに怒鳴られた。

 

 しかしそう言われても面倒なものは面倒なのだ。今は正直こんなことをしている場合じゃない。

 

 武芸大会に参加していたタツミはエスデスに見初められた。実力行使で捕まった彼を、エスデスはイェーガーズの補欠として入隊させようとしている。

 こうしている今も拘束したタツミを横にこちらを監視――――否、見物しているのだろう。

 

 幸いというべきか、タツミはナイトレイドとして顔が割れていない。

 竜船ではあれだけの苦労と()()()まで使って生かしたのだ。早々に殺されてしまっては助け損である。まあ、仮にバレてもエスデスの惚れ込みようは異様で、殺すどころか取り込もうと躍起になりそうだが。

 なんにしても超が付くほどの危険人物にタツミが目をつけられたのは痛い。

 

 

(いや、まあブラートの代わりである以上、それくらいでないと困るというのもあるけど……)

 

 

「そうですよ、グリムさん」

 

 

 後ろから声をかけてきたのは翼を模した髪飾りを着けた美青年。名前はラン。

 彼はとても優しげで友好的な笑みを浮かべて言う。

 

 

「貴方はこの隊の副官なのですから」

 

 

 副官。そうグリムはイェーガーズの副官になった。

 この作戦の前、エスデスが指名したのがグリムだった。

 

 エスデスが実力を見るために出会い頭に襲撃したあのとき、唯一寝ているだけでなにもしなかったグリムを指名したとき、一瞬周りがピリッとしたのを覚えてる。当然のようにウェイブが理由を尋ねたが、返答は『私がそう決めたからだ』の一言。文句を言える者などいるはずもなかった。

 

 思い当たる理由がグリムにはある。おそらくはエスデスと一緒に皇帝に謁見したときのことだ。オネストへの態度を見られ、興味を持たれてしまったらしい。

 

 

「まあ、俺としては程々に働いて給料貰えれば文句無いんだけどなぁ」

 

「またそういうこと言って!」

 

 

 9割くらい本音の意見を漏らしたが、案の定セリューに怒られた。

 

 そうこうしている間に(くだん)の砦前までやってきた。

 

 長い階段。その先に大きな鉄扉。見張りは屈強な男が2人。

 事前に周辺の地形、砦内部の構造、敵の配置の情報は得ている。はっきり言ってこれほどの情報が流失している時点で勝負は決している。おまけにこっちは全員帝具持ちの部隊だ。

 

 

「さて、作戦はどうしましょうか?」

 

 

 敢えて、ランは口に出してからこちらを見やる。他のメンバーも視線を向けてきた。

 現場の指揮権はエスデスからグリムに与えられている。立場上指示を出す権利はグリムが持っており、メンバー達にしてみればお手並み拝見ということなのだろう。

 

 しかしグリムが指示を出すより先に、セリューが前へ出た。

 

 

「行きますよ、コロ」

 

「きゅうう!」

 

 

 セリューが先行。コロが続く。

 

 口を挟もうとしたグリムだったが、セリューの目はそれを拒否。頑固な後輩を知っている身としては、ため息を吐いて見送った。

 

 敵の見張りもこちらの接近に気付いたらしく、鉄門扉が開いてワラワラと人が出てくる。どいつもこいつも傭兵崩れといった具合だ。

 盗賊はこちらの人数が7人だとわかると途端に気を緩め、どころかセリューやクロメを見て下卑た笑みを浮かべている。絵に描いたような悪人だ。

 

 

「失った両腕の代わりにドクターから授かった新たな力……コロ、7番!」

 

 

 コロがセリューの右腕に噛み付く。そうして現れたのは巨大な砲身。

 

 

「道を開けてください。殺したくはありませんので」

 

 

 ギョッとした盗賊達が左右にバラける。射線に誰もいなくなったのを確認して、セリューは引き金を引く。

 

 

「正義――――泰山砲!」

 

 

 轟音。

 射線から外れてなお有り余る威力は、左右の盗賊達を薙ぎ払いながら鉄の扉を城壁ごと粉砕した。

 

 セリューが新たに得た力とは、コロを媒介にした複数の兵器の換装である――――十王の裁き。

 ナイトレイドとの戦いで失った両腕。一時はただの義手にしていたが、奴隷商人の一件を経て、彼女は新たな決意の下、戦うことを決めた。

 そのためにはもっと強くならなくてはならない、と。

 

 セリューはまだ若い。伸び代もある。

 地道に力をつけていけば、いずれは将軍格として戦うまでになるだろう。

 

 

(でも、()()()()()()()()()()。必要なのは今戦う力)

 

 

 ナイトレイドとの戦いで己の力の未熟さを知った。たとえコロが強くても、使い手の自分が弱くては足を引っ張ることしか出来なくなる。

 それでは駄目だ。いつかでは遅いのだ。

 得たのは新たな改造手術。

 

 ナイトレイドと戦う為に。誰かを守る為に。そして――――少しでもあの人の力になる為に。

 

 

「本人には猛反対されちゃいましたけどね」

 

 

 苦笑と共に独り言を漏らす。

 

 

「きゅう?」

 

「後悔なんてしていませんよ、コロ。私は私の信じるものの為に、全力で戦います!」

 

「きゅう!」

 

 

 再び腕に噛み付くコロ。現れたのは大きなドリルの腕。

 そしてコロも巨大化。

 

 

「ぐっじょぶ」

 

 

 そう言ってセリューに並び立つのは黒い制服姿の、セリューよりも小柄な少女クロメ。クロメはいつも持ち歩いているクッキーを口に咥えながら、腰の鞘から刀を抜く。

 

 

「さあ、遊ぼうか。バラバラにして、後で組み替えてもう1回遊んであげる」

 

 

 襲ってきたのが只者ではないとわかった盗賊達がこぞって2人を取り囲むが、セリュー達はまるで怯まない。どころかクロメの殺気に腰が引けているのは盗賊達の方だった。

 

 

「大人しく投降してください。そうすれば命まではとりません」

 

 

 二の足を踏んでいる盗賊を見て、セリューが呼びかける。それに反論したのはクロメだった。

 

 

「命令は殲滅のはず」

 

「殺さなくて済むならそれに越したことはありません」

 

「軍人なら、命令は絶対。与えられた命令をただ粛々と実行する。私は今までずっとそうしてきた」

 

「それでも……」

 

 

 エスデスは作戦開始前に降伏は弱者の行いだと断じた。弱者は常に淘汰されるべきだとも。

 クロメの言葉は正しい。命令を忠実に遂行することは、軍人として当たり前のことだ。

 

 それでもセリューは学んだのだ。ただ殺すことだけが正義では無いと。

 

 

「敵は可能な範囲で捕縛。殺しは必要最低限で頼む」

 

「先輩!」

 

 

 先行した2人を追いかけて、グリム達も砦内に入ってきた。

 

 グリムの言葉に再びクロメが反論する。

 

 

「でもエスデス将軍の命令は……」

 

「現場の指揮は俺に任せるって言ってたな。なら今この場において、命令は俺が優先だ」

 

 

 ぐぬ、とクロメが言葉に詰まる。実際その通りではあるのだ。それにエスデスは殲滅を仄めかす言葉は発したが、殲滅戦をはっきり命令したわけでもない。それならば優先されるのは副官であるグリムの言葉となる。

 

 まだ納得いっていなそうなクロメの顔を見て、グリムはニィと笑う。

 

 

「まあ出来ないっていうならしょうがねえさ。この程度相手に必死に戦わないと勝てませんっていうなら仕方ない。俺としても部下の命の方が大切だし。あー仕方ない仕方ない」

 

「む……その言葉は心外。出来ないとは言ってない」

 

「無理して怪我されても困るから、出来る限りでいいぞー。危なくなったら帝具も使っていいんだぞー?」

 

「命令なら守る。……私この人キライ」

 

 

 最後にボソリと付け加えて、クロメは敵陣に斬り込む。グリムの命令通り、手足の腱を斬って身動きを封じるまでで、殺しはしていない。

 

 セリューとコロもクロメの加勢に駆け出した。

 

 

「ずーいぶん甘いのねえ?」

 

 

 グリムにそう声を掛けたのは白衣の男、Dr.スタイリッシュ。

 

 

「捕縛したって、どうせ拷問のあと処刑されちゃうのに」

 

「不満か?」

 

「いーえ。アタシこう見えても凄く忠実で尽くすタイプなの。それに優しい男って素敵よ」

 

 

 その割には目が笑っていない。心の底ではグリムの行為を嫌悪しているとはっきりわかった。それでも今ここで逆らう素振りは見えないので一先ず放置しておく。

 

 

「俺はグリムさんの方針に賛成だ。人を殺さないで済むならその方がいいに決まってる!」

 

 

 こちらはスタイリッシュとは対照的に、実に言葉の通り真っ直ぐな強い目で答えるウェイブ。

 

 

「私は軍人です。命令に従うまでです。たとえそれが汚い仕事であったとしても、誰かがやらなくちゃいけないなら……」

 

「ボルスさんに同じく。命令なら私も従いますよ」

 

 

 ボルスとランが続けて答える。

 

 青い理想が混ざっているウェイブとは違い、この2人は自分達の行いを仕事として割り切りつつ答えている。そこはくぐってきた修羅場の数、それと年齢の差か。

 

 兎にも角にも、イェーガーズの初任務は無事終わる。圧倒的な力の差による蹂躙。それでいて死者はほとんど出なかった。




閲覧ありがとうございますー。

>今回二度書きしていないので、ちょっと文章おかしいところがあるかもです。すみません。

>イェーガーズ自己紹介絡めた初陣です。細かい修正というか改変としましては、エスデス様は『殲滅しろ』と明言はしていないという設定にしています。

>エスデス様はやることやれば怒らない上司だと私は思ってます(前も言ったな)。なので今回も『何故殺さなかった?』とかいう質問に『必要無かったので。それとも今から殺しましょうか?』と返せば『いや、構わん』みたいな会話が成り立つかなぁ、と思っております。
まあ、話中にも書いたように、盗賊達は結局拷問送りか死刑になるので結末は変わらないといえば変わらないのですが。

>グリムに対する好感度としてはセリューは除いて、クロメ→意地悪するからキライ。スタイリッシュ→ゲロ甘な綺麗事に吐き気を覚えるくらい嫌い。ラン→要警戒中。ボルス→嫌いとか無い。けど別に好きなわけでも無い。ウェイブ→良い人そうで好印象。
みたいな感じです。

ではではまた次回ー
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