アカメが斬る! ━とある国の英雄譚━   作:針鼠

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エピソード 3-3

「なんとか、逃げ切れたか……?」

 

 

 川から這い出たタツミは辺りを見回す。

 

 エスデスの提案で訓練を兼ねた狩りに出掛けたイェーガーズとタツミ。最初はエスデスとクロメが組み、タツミはウェイブと組むこととなった。

 イェーガーズは全員が帝具持ち。才能はあっても一般人であるタツミでは逃げられはしないと考えていたのだろうが、タツミは乱戦のどさくさに紛れてインクルシオを纏って逃げ出した。

 

 その後追ってきたウェイブと戦闘。戦闘中の口ぶりからするに、インクルシオの鎧姿で最後まで正体はバレていなかったと思う。

 

 ウェイブの技を受けることで川に飛び込み、インクルシオの能力である透明化で見事やり過ごしたのだった。

 

 

「がはっ……! げほっげほっ!」

 

 

 川べりで倒れ込むタツミ。こんなところでもたもたしてはいられないが、体が言うことを聞かない。インクルシオも強制解除されてしまった。

 ウェイブの攻撃は想像以上に強烈だった。インクルシオと同じ鎧の帝具。おそらくは能力の系統も同じ、身体能力の強化。

 防御に全力を注いでなお、インクルシオの防御を貫通してきた。

 

 

「くそ、早くここから――――!?」

 

 

 ガサガサと草陰から現れたのは危険種だった。サーベルタイガーのように牙が異常に発達した四足歩行。そしておそらくは肉食。

 

 

「マジかよ……」

 

 

 己の不運を呪いたくなる。せっかく逃げ出してきたのに、このままではこの危険種の餌だ。

 なんとかもがくが、精々数センチ距離を取る程度だった。

 

 タツミが動けないことがわかったのか、僅かに警戒心を残して近付いてこなかった危険種は悠々と姿を現す。そして、鋭く反り返った牙に唾液を滴らせた。

 

 

「ガァウ! ガアアアアアッッ!」

 

「はいごめんよ」

 

「ガッ……!!?」

 

 

 タツミに襲いかかろうとした瞬間、危険種の首は飛んだ。

 宙を舞う首は血潮で弧を描きながら川へと沈んでいった。ドスンと聞こえたのは、残された胴体が横倒しに落ちた音だった。

 

 なにが起きたのか。助かったのか。

 そう考えたタツミは新たに現れた気配の主を見上げて、硬直した。

 

 

「気分はどうだ? 若旦那」

 

 

 助かった――――それは大きな間違いだった。そこにいたのはイェーガーズの副隊長を任せられた男、グリムだった。

 

 せっかくウェイブから逃げ切れたと思ったのに、今度はグリムとは。しかも今の自分は身じろぎするのが精一杯の状態だ。

 戦うことはおろか、逃げることもままならない。

 

 

「まあどうだって、見たまんまか。随分痛めつけられたみたいだな」

 

 

 言いながら咥えていた煙草を吹かす。なにが楽しいのかクツクツと笑いながらタツミに手を伸ばそうとして、

 

 

「おっと!」

 

「チッ!!」

 

 

 先程危険種が現れた場所と同じところから飛び出してきたアカメの一撃を間一髪防いだ。

 

 後ろに飛ぶことでアカメから間合いを取るグリム。必然的に、タツミとの間にアカメが立つ構図となった。

 

 

「アカメ!? どうして……」

 

「お前達が狩りの準備をして出るのを発見して尾行していた。ようやく追いついたぞ」

 

「俺の為にわざわざ……。すまねえ、また助けられた」

 

「当たり前だ」そう言ってアカメは笑う「何度だって助けるさ。仲間だからな」

 

 

 タツミは唇を強く噛みしめる。でないと泣いてしまいそうだったから。

 敵地のど真ん中。それも敵の最大戦力たるエスデスに拘束されていたのだ。いつ殺されるともしれないと堪えていたプレッシャーが、アカメの温かい言葉で解放されたのだ。

 

 

「おかえり、と言いたいところだが、それは無事にアジトに戻ってからにしよう」

 

 

 アカメは緊張をみなぎらせて眼前の男を見据える。

 

 そう、依然状況は不利に変わりない。動けないタツミを庇う形でアカメは戦わなくてはならないからだ。

 逃げることは叶わない。ならば、ここで敵を始末するしかない。

 その覚悟でもって構えたアカメを見るなり、グリムはとんでもないことを言い放つ。

 

 

「いいよ帰って」

 

「…………はぁ!?」

 

 

 思わずタツミが痛みも忘れて叫ぶ。

 対象的にアカメは警戒を解かないまま。

 

 

「どういうつもりだ?」

 

「元々ありゃうちの女王様の拉致誘拐だし? 今日の坊主の監視は俺の管轄外。怒られるのはウェイブだけだし」

 

 

 そっと、タツミは心の中でウェイブに同情した。原因は自分だけど。

 

 

「てか、坊主気付いてなかったのか」

 

「え?」

 

 

 そう言ってグリムは黒い外套を被る。頭をすっぽり覆った姿に、タツミは目を見開く。それは竜船にいたあのときの人物そのものだった。

 

 

「これでちょっとは信用してもらえたかな?」

 

「……信用は、出来ない」

 

「あらら」

 

 

 断じたアカメの言葉におどけるグリム。

 

 

「だが、逃がしてもらえるというならばそうさせてもらう」

 

 

 そう言って、アカメは刀を納める。

 本来ならば、不安の芽はここで摘むべきである。立場上、本当に味方かわからないならば敵であると判断するくらいが丁度いい。しかし今は仲間であるタツミの安全を確保したい気持ちが勝った。

 タツミに肩を貸しながら、それでも決して隙は作らずに距離を離し、茂みに紛れるようにして逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーら、グリム副隊長じゃない」

 

「ん? Dr.か」

 

 

 アカメとタツミと別れてすぐ、現れたのは眼鏡をかけた白衣の男。イェーガーズのメンバーの1人、Dr.スタイリッシュだった。

 スタイリッシュはしなを作って喋りかけてくる。

 

 

「奇遇ね。こんなところでなにをしていたのかしら?」

 

「別に。散歩だよ散歩。今日は天気が良いからな」

 

 

 スタイリッシュの質問に、グリムは平然と嘘をついた。

 

 

「あらそうだったの? それなら誘ってくれればよかったのに。アタシ、副隊長の顔タイプなのよ」

 

「あっはっはっは、ぞっとしねえな」

 

 

 ウインクまでしてくるスタイリッシュに渇いた笑い声をあげるグリム。スタイリッシュの好みはよくわからないが、すでにイェーガーズ内だけでもウェイブやランに事あるごとにアピールしている。

 出来ればご遠慮願いたいと思うグリムだった。

 

 

「そういえば」スタイリッシュは思い出したように口にする「さっきウェイブちゃんと会ってね、なんでもタツミちゃんが逃げちゃったみたいなのよ」

 

「そりゃ大変だ。ウェイブの奴も運が無いな」

 

「ホントよねー。彼はエスデス将軍のお気に入り。ウェイブちゃんが殺されちゃうのは……ちょっと残念ね。あの子も磨けば光る子なのに」

 

 

 これがまた冗談ではなくウェイブは殺されかねないのだから、なかなかバイオレンスな職場である。しかしまあ、一度の失敗で罰せられることはあれど殺されるとも限らない。あくまでも可能性だが。

 

 

「副隊長は見てなぁい? タツミちゃん」

 

「見てないなー」

 

「そう、おかしいわねぇ。――――ついさっきまでこの辺りにいたみたいなんだけど」

 

 

 空気が冷たくなる。

 

 いつの間にかスタイリッシュの周囲に3人の人間が現れる。

 それぞれ、鼻、目、耳が異様に発達している。

 

 

「この子達はアタシ自ら手がけた強化兵よ。どう? スタイリッシュでしょ!?」

 

 

 スタイリッシュのポーズに合わせて3人もそれぞれポージング。

 

 スタイリッシュ自身は戦闘力は然程高くない。それなのに何故イェーガーズに推薦されるまでになったか。それは彼が、或いは彼女が、凄腕の医者であると同時に兵器開発者、薬物調合者、そして人体改造のスペシャリストであるからだ。

 常に自分の手駒として強化兵を引き連れている。この3人もそうなのだろう。

 

 

「――――でもね、あの子はダメ。セリュー」

 

 

 セリューの名を出すと同時にスタイリッシュの目から先程までの輝きが無くなる。

 

 

「初めて会ったときはとっても素敵な眼をしてた。だからアタシの傑作である十王の裁きもあげたのに……。人を殺さないなんてゲロ甘なこと言って、ほんっっとサイアクよ!」

 

 

 スタイリッシュこそ、セリューを二度に渡って人体改造してみせた張本人であった。一度目は亡きオーガの紹介で。二度目はセリューの志願で。

 オーガに紹介され会ったときは、それはもう狂気に染まった良い眼をしていたというのに。二度目の改造を頼みにきたとき、その顔付きに違和感を持ちはしたが初対面の印象が良かった為に改造を施した。だというのに、まさか人を殺さないなどという、スタイリッシュが最も毛嫌いする偽善者に成り果てていたとは思いもよらなかった。

 傑作であった十王を与えてしまったことを、これほど後悔したことはない。

 

 

「ま、どうせあんなのいつか勝手にくたばるでしょう。精々それまで兵器のデータ取りに利用させてもらうわ。――――と・こ・ろ・で」

 

 

 再び口元に気味の悪い笑みを浮かべて、スタイリッシュはグリムへと接近する。

 

 

「この子達はそれぞれ1つの感覚器官を発達させたの。目は数里先の人の毛穴が見える視力を。鼻は犬の数十倍の嗅覚を。そして耳は――――遥か先の会話を聞き取れる聴力。ねえ、副隊長? ここにタツミちゃんは本当にいなかったかしら?」

 

 

 スタイリッシュの目は笑っていなかった。それを正面から見返すグリムは答える。

 

 

「さあな」

 

「――――そう、わかったわ」

 

 

 スタイリッシュは追求せず、グリムから離れた。

 

 

「よかったわ。そう言ってもらえて本当によかった。だってアタシ、アナタの顔は好みだけど――――アンタの考え方は大っっっっっっ嫌いだったから!!」

 

「その言い方だと俺がまるで嘘ついてるみたいな言い方だぞ」

 

「フン、白々しい。エスデス将軍じゃなく、アタシに殺されたいの?」

 

 

 すでにスタイリッシュはグリムの裏切りを断定した言い方だった。実際スタイリッシュの部下である耳は、先程のグリムとアカメ達の会話を聴いている。

 スタイリッシュはタツミをただの鍛冶屋とは思えず、最初から疑いをもって尾けていたのだ。案の定、彼はナイトレイドのアカメと合流。

 思いがけなかったのは、そこにグリムまで現れたことだった。

 

 

「同僚に疑われるのは傷つくなぁ。でも本当にいいのか?」

 

「……なにがかしら?」

 

「連れている部下達は()()()()()()()()()?」

 

「ハッ、言うじゃない。いいわ。ナイトレイドを始末したら、エスデス将軍のドSな拷問で歪むアナタの顔を特等席で眺めさせてもらうわ」

 

 

 そう言ってスタイリッシュは強化兵達を引き連れて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当によろしかったのですか?」

 

「なにがかしら、耳」

 

「あの男を始末しなくて」

 

 

 黙り込むスタイリッシュに強化兵達は互いを見合わせて困惑するが、主人の頭脳は自分達とは比較にならない。なにか考えがあるのだろうと、それ以上口にはしなかった。

 

 そう、スタイリッシュとて最初はあの場でグリムを殺すつもりでいた。いつかあの偽善者の顔を歪ませたいと初任務以来思っていたとこに舞い込んだ彼の裏切りは絶好のチャンスだったのだ。

 

 しかし、そうしなかった。正確には出来なかった。

 

 彼はこう言ったのだ。連れている強化兵は自分用ではないんだろ、と。

 

 事実だった。

 今日スタイリッシュが連れてきた強化兵は追跡用の鼻、目、耳と量産型を除けばナイトレイドに合わせてチューニングした強化兵達である。

 そのことを何故かグリムは知っていた。スタイリッシュの手札を、彼は如何なる手段を用いてかわからないが把握していたのだ。ならば必然的に――――彼は、ナイトレイドとの接触がバレていることにも気付いていたということだ。追跡用強化兵の耳が会話を聞き取っていると気付いていた。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一体なにを考えているのか。悔しいがスタイリッシュにはわからない。

 

 

「でも、ぜーんぶ殺しちゃえばそんなこと関係ないわよね」

 

 

 見えてきた。狩場であったフェイクマウンテンからさらに離れた秘境の地。岩場を削り出して作られた建造物。こんな場所に家を建てる物好きはそうはいない。帝都で指名手配でもされ、身を隠さなくてはならない者でなければ。

 

 

「ナイトレイドのアジト、見ーっけ」




あけましておめでとうございます←

>はい、ごめんなさい。やり直します。

>閲覧ありがとうございましたー。そしてお久しぶりでございます。いやはや本当に久しぶりの執筆です。最近忙殺されて、いや真面目に殺されるんじゃないかという忙しさで、全然書いたり妄想したりする余裕がございません。時間ななければ書けない。書くためには妄想しなくてはならない。妄想するには時間がいる。負の連鎖。実はまだまだ忙しさは続きます。でもまあ、こうしてひそひそと続けていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。

>さてスタイリッシュさん登場!このオカマは伊達ではない。なんてったって帝具に匹敵する兵器だって作れちゃうオカマなのだもの。けれどもやっぱりグリムとは相性が悪い。さらに私の作品ではセリューとも相性が悪い。良い子ちゃん嫌い、だと思う。外道だし。

>ではではまた次回にでもー。あー……でも他作品も書きたい……
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