アカメが斬る! ━とある国の英雄譚━   作:針鼠

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エピソード 3-4

 敵襲。

 

 アジトに攻め込まれた。軍の一般兵ではない。全員趣味の悪い格好をし、機械化や人体強化といったなにかしら体を弄られている共通点がある。

 

 気配を察知したタツミは屋外へ。インクルシオを纏い、攻め込んでくる敵を薙ぎ払ったが、そこに他の奴らとは少し様子が違う男が現れた。

 異常に肥大化した筋肉の角刈り頭の男。そしてそいつが持っていた武器を見て、タツミは目を見開いた。身の丈ほどもある巨大な鋏。帝具――――エクスタス。シェーレの武器だ。

 

 

「それを返せよ! シェーレのだ!」

 

「あぁ? 誰だよソイツ」

 

 

 エクスタスはかつてシェーレとマインが帝都警備隊のセリューの襲撃を受け、逃走の際やむなく置いていったもの。そのときの傷でシェーレは二度と歩けなくなるほどの傷を負った。

 

 仲間の武器を、我が物顔で敵が使っている。これほど怒りがこみ上げてくることはない。だが、

 

 

「ハッハッー!!」

 

「ぐおっ!?」

 

 

 敵はタツミの攻撃をわざと体で受ける。こちらも改造されているのか、タツミの剣は傷をつけるどころか折れてしまう。鉄でも斬りつけたような硬度だ。

 逆に、絶対の防御力を誇るインクルシオを貫通して、エクスタスはタツミの体を傷つけた。

 

 

「残念だったな。こっちのはこの世の全てを切断出来る帝具。防御力なんざ無視だ無視!」

 

「くそっ!」

 

 

 相性が悪い。それでも負けるわけにはいかない。そう考えたタツミが踏み出そうとして、

 

 

「無策で飛び込むな」

 

「兄貴……!?」

 

 

 タツミの前に出て制したのはブラートだった。

 それを見て、カクは眉を顰める。

 

 

「んん? その面は百人斬りのブラートだな? インクルシオの使い手はブラートだと聞いていたが……」

 

「ハ、俺なんかよりも相応しい奴が現れたんでな。託したのさ」

 

「別人だったとはな。通りで……噂の割には手応えがないと思ったぜ」

 

「なんだと!?」

 

 

 カクの挑発に噛み付くタツミ。

 

 一方で、ブラートはカクの持つエクスタスを見る。

 

 

「それはエクスタスだな」

 

「そうさ! 万物両断――――エクスタス! 俺の頭脳と体力に相応しいゴキゲンな帝具だ!」

 

「そうか? お前にそいつは荷が重いと思うぞ?」

 

「……なんだと?」

 

「ここは俺に任せな、タツミ」

 

「でも兄貴!」

 

 

 タツミの前に出るブラート。カクはニヤリと笑った。

 

 

「ワッハハ! 帝具を持たないお前になにが出来る!?」

 

 

 カクの言うように、ブラートはタツミにインクルシオを託し、今は自分の帝具を持っていない。帝具は単なる武器ではない。立派な兵器だ。能力によっては正しく一騎当千となり得る。

 だからこそ、帝具使いには帝具使いをぶつける。

 

 ブラートが突っ込む。抜いたのは普通の剣一本。それを見てカクは嘲笑って返した。

 

 

「真っ二つにしてくれる!」

 

 

 ブラートは構わず剣を振る。カクはエクスタスで受けた。

 するとバターのようにブラートの剣がエクスタスによって切断される。

 

 

「馬鹿め! そんな武器、豆腐も同然よ!」

 

「馬鹿はどっちだ」

 

 

 半ばから斬られた剣――――しかし、ブラートは剣速を緩めなかった。剣は断ち切られた――――が、剣そのものが使えなくなったわけではない。ブラートにとってそれはただ短くなっただけ。

 エクスタスを通過し、迫る刃に対してカクは、

 

 

「無んッッ!!」

 

 

 タツミの攻撃を受けたときのように、改造した筋肉を膨張させて、鋼の体で受け止める。短くなった剣身は、遂に粉々になってしまう。

 

 

「ワッハハ! 無駄無駄! 肉を切らせて……あれ?」

 

 

 防御に成功し、カウンターのエクスタスで真っ二つにしてやろうと思ったカクは違和感に気付く。エクスタスが、無い。

 

 

「その防御態勢に入ったとき、お前は動きが止まる」

 

 

 ブラートはカクが防御姿勢をとったのを見て、エクスタスの柄を掴んでいた。ブラートが指摘した通り、カクの防御は体を硬直させる。意識が防御に回っていたカクの手からエクスタスを奪うことは容易かった。

 

 

「帝具も、改造した(その)体も優秀だが、使い手のお前はそれに溺れた。シェーレなら、こんな簡単に帝具を奪われたりしねえよ」

 

「返しやがレェェェ!!」

 

 

 一閃。

 

 改造した肉体など意味は無い。エクスタスの一撃で、カクは胴体を真っ二つにされた。

 

 ブラートは刃を閉じたエクスタスを肩に乗せる。

 

 

「言ったろ? こいつはお前には荷が重いってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「援軍とは……誤算だったわね!」

 

 

 苛立ちから親指の爪をかじるスタイリッシュ。

 

 カク、そしてアジト内で対村雨として配置したトビーも敗北した。主要戦力を欠いた次の策としてスタイリッシュがとったのは、毒。

 無味無臭の麻痺毒は、アジト前の広場に集まっていたナイトレイドのほとんどを行動不能、或いは弱体化させるに至った。勝利は目前――――そう思われたとき現れたのが、敵の増援であった。しかもその援軍とは世にも珍しい帝具人間。

 生物型の自立型帝具には毒など効かない。

 

 

「!? ここがバレました!」

 

 

 耳が叫ぶ。援軍を引き連れてきた元将軍ナジェンダが、特級危険種のエアマンタに乗ってこちらに向かってくる。

 

 

「仕方ないわね。ここは一旦逃げるわよ!」

 

 

 戦力を潰され、さらに得意の毒が効かない生物型の援軍まできた以上逃げるが最善。スタイリッシュの判断は早かった。反撃など考えず逃げに徹すれば、もしかしたら逃げられていたかもしれない。しかし――――、

 

 

「ほっっっっんとに邪魔ばかり……!!」

 

 

 足を止め睨みつけた先には、煙草をふかす赤い髪の青年が薄ら笑いを浮かべていた。

 

 グリム。

 

 今更彼が味方であるなどとはスタイリッシュも考えない。見計らっていたかのようなこの瞬間……いや、事実どこかで見ていたのだろう。逃走を図ろうとしたスタイリッシュの前に現れた時点で、この男の正体は決まった。

 

 

「まさか革命軍だったとはねぇ。エスデス将軍が知ったらどーんな拷問をしてくれるのかしら?」

 

「あの見事なおっぱいと乳繰り合うのは大歓迎だが、一先ず今回は無しだな。お前をここから逃がす気は無い」

 

 

 会話の間に、例の帝具人間が背後に。挟まれた。頭上ではナジェンダが乗るエアマンタが旋回している。最早逃げることは出来ない。

 

 

「こうなったらもう腹をくくって――――」スタイリッシュは懐から注射器を取り出す「危険種イッパツ! これしかないヨウネエエエエエエエエエエェェェ!!」

 

 

 取り出した注射器を自分の腕に突き刺す。そうして中のモノを打ち込んだ。

 

 体が熱い。痛い。苦しい。キモチイイ!!

 

 

「きたきたきたー! これぞ究極のスタイリッシュ! どいつもこいつも、まとめて実験材料にしてあげるわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへぇ……」

 

 

 げんなりと、グリムは怪物となったスタイリッシュを見上げた。

 

 スタイリッシュが()()()()()()()()()について調べながら、危険種に関する研究をしているのは知っていた。

 彼のモチベーションは、最強の帝具を超えた帝具を自ら作ること。帝具の多くには超級の危険種が素材とされている。となれば、危険種について調べることは当然といえた。

 

 

「だけどまあ、まさか自分が危険種になっちゃうとは」

 

 

 膨張した体は小さな山程はある。人間の赤ん坊のような顔の額部分に、スタイリッシュの上半身だけが生えている。

 

 

「まだよ……まだ……まだまだ全然足りないわ!」

 

 

 そう言って巨大な手をこちらへ伸ばしてくる。鈍重故に見切るのは容易い――――が、あまりにもスケールが大きすぎる。伸ばした手は巨大な樹木を薙ぎ払う。

 

 ギロリと、スタイリッシュは今度は人型帝具に仕掛ける。

 

 やはりあの薬は未完成品だったらしい。急激な成長に体はエネルギーを求めている。手当たり次第手を付けては、岩も木も動物も喰らっていく。ちなみにスタイリッシュの部下達もすでに取り込まれてしまった。

 しかし不完全な肉体変化は無限にエネルギーを消費するのか、いくら取り込んでもスタイリッシュは満たされないようだった。

 

 

「――――あんたは!?」

 

「よー、坊主。それとアカメちゃん」

 

 

 インクルシオを纏ったタツミ。そしてタツミに背負われているアカメ。アカメの方はおそらくスタイリッシュの麻痺毒がまだ抜けきっていないのだろう。それでも鋭い眼光は健在だった。

 

 

「まさかお前がアジトの場所を……!」

 

「誤解だよ。むしろ俺の方がドクターを追ってここに来たの。おたくのボスはガードが固くてね」

 

 

 視線をやる。図体が大きくなり、下ばかり見ているスタイリッシュの常に死角にエアマンタが旋回している。その背にはナジェンダとマインの姿。

 ナジェンダと目が合ったような気がする。

 

 

「ま、俺は味方だ」

 

「信じられない」アカメが言う「お前は一度、タツミに嘘をついている」

 

 

 アカメの言う嘘とは、グリムがタツミに対して帝具の正体を偽ったこと。

 

 

「なんだ。伝えた帝具が嘘だってバレてるのか」ニヤリと笑う「なら殺し合うか? この状況で?」

 

「ナニをゴチャゴチャ言ってるのよ!!」

 

 

 グリムとタツミが左右に飛ぶ。その中心点にスタイリッシュの拳が落ちた。

 

 

「ワタシは最強の帝具を超えるスタイリッシュな帝具を作るのよ! その為に食べて食べて食ベテタベテタベテタベテテテエエエエエ!!!!!!」

 

 

 正気を失いかけている。知能そのものまでも危険種になりかけているのだ。

 抑えられない食欲に突き動かされて、スタイリッシュがタツミ達に手を伸ばす。

 

 しかし、それが届くことはなかった。

 

 伸ばしたスタイリッシュの手が、突如現れた手に受け止められる。

 

 

「まあ、信用ってのは大事だよな」

 

 

 受け止めたのは赤い腕。肌ではなく、赤い鱗に覆われていた。

 三叉の形をした手。短剣を連ねたような4つの爪。

 それはまるで――――、

 

 

「ドラゴン……」

 

「絶対悪神――――アジダハーカ」

 

「なによそれエエエエエエェェ……がっ!?」

 

 

 轟音。

 

 エアマンタの背の上からの狙撃。マインだ。さらに追撃で人型帝具が棍棒のような武器でスタイリッシュの足をすくう。

 

 

「こ、の……!!」

 

 

 狙撃で重心をずらされ、足まで払われれば倒れるのは必定だ。

 

 警戒を解かないタツミとアカメを見やる。

 

 

「ほら、チャンスだぞ」

 

 

 スタイリッシュの動きが止まった。この巨体を倒す方法はひとつしかない。

 

 促して、ようやくタツミが動いた。

 

 

「これで詰みだ、スタイリッシュ!」

 

 

 倒れたスタイリッシュの体を駆け上るタツミ。タツミの背中を足場に跳んだアカメの刀は、スタイリッシュを斬り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った、のか……?」

 

 

 完全に動かなくなったスタイリッシュに、タツミは堪らずインクルシオを解除してその場に膝をついた。長時間の帝具使用。加えて強敵との連戦だった。

 

 

「まだ動けるか、タツミ」

 

 

 しかしアカメの言葉に、タツミは切れかけていた集中力を取り戻す。そうだ。まだ終わっていない。

 

 イェーガーズ副隊長、グリム。

 

 アンバランスなドラゴンの右腕はそのまま。あれがスタイリッシュの攻撃を真正面から受け止めた。

 絶対悪神――――アジダハーカ。

 ナイトレイドの持つ帝具の文献には載っていなかった……と思う。だが見るからに、レオーネのライオネルと似たタイプ。あの不自然な腕が、そのまま正体なのだとしたら――――。

 

 

「動かなくていいさ」

 

 

 グリムはそう言って腕を戻す。みるみる縮小され、普通の腕になった。その手で懐を漁り、煙草を取り出す。

 

 

「グリム、あんた革命軍なのか?」

 

 

 確かにグリムは竜船のときタツミに嘘をついた。だが彼はスタイリッシュ撃破に手を貸したのも事実。

 

 

「間違ってはない。でも、当たってもいないな」

 

「それはどういう――――」

 

 

 アカメの問いを無視して、グリムはその場から跳躍。スタイリッシュに近寄った。本体である方に。

 

 

「なにをする気だ!?」

 

 

 アカメが村雨を構えて問う。

 

 

「この場にいた以上、報告くらいはしとかないと俺も殺されかねないからな」

 

 

 絶命したからか、巨大な殻となっていた体から、ずるりとスタイリッシュ本体が抜き出される。

 

 

「ほら」

 

 

 グリムがこちらに投げて寄越したのは、スタイリッシュの持っていた帝具。

 

 

「近いうちに会いに行くさ。次のアジトの場所は教えといてくれよと、ナジェンダに言っといてくれ」

 

 

 言い終わるなり、スタイリッシュを背負ったグリムは去っていった。

 

 なんにせよ、タツミ達はスタイリッシュの襲撃に対して、誰一人失わずに撃退出来たのであった。




閲覧ありがとうございましたー。

>さてさて、スタイリッシュ襲撃編はこれで終わりです。愛すべきオカマ枠はいなくなってしまいました。悲しい。

>本当ならスサノオの名前やら、ナジェンダさんとの会話とか色々考えていたことはありましたが、なんか書いていたらこうなりました。もう少しバトルシーンを長くすることも考えていました。せっかく兄貴も生きてますしね。

>原作のと違い。カクさんを倒したのはブラート。これは出番的な意味で決めていました。ちなみに、ブラートがエクスタスを引き継いで使います。なにこれ最強じゃないか、と恐々としております。

>違い2。危険種イッパツは自我を失う。まあ、これに意味はなく、敢えて理由を述べるなら演出です。不完全だったわけだし、自我くらいなくなりそうじゃないですか!ね!(強引)

ではではまた次話にてー

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