予告通り、作戦で悲劇的な事件が起きます。果たしてどんな事件なのか。無事に唐級原潜を捕らえることが出来るのか?
それでは、気を改めていつも通り楽しめて頂ければ幸いです!
では、どうぞ!
白川海将の言うとおり、多くの者たちも焦っていた。
オペ・ルームでは華々しい海戦の模様が伝えられ、商級2隻の撃沈を目の当たりにした。吹雪・白雪の大破もスクリーンに示されたが。
しかし唐級を見つけたと言う報告はない。唐級は、もはやいつでもミサイルを発射出来るポジションに来ている筈である。
そう考えると、提督たちは居ても立ってもいられなかった。
黒木首相や元帥からはひっきりなしに様子見の電話が掛かる。
2人ももちろん気が気ではないのだ。
多くの者たちは次第に崖っぷちに追い詰められた心境となった。
その焦りが潜水艦部隊にも伝わったのか、潜水隊群において悲劇が起きたのである。
小笠原諸島の北東海面、すなわちもっとも東方で哨戒を行っていた潜水隊は、第2潜水隊群のうちの第2潜水隊、おやしお型潜水艦《うずしお》《なるしお》である。
海自の潜水艦のうちでも古参兵に当たるが、性能はお墨付き。原潜と同じ葉巻型の艦型を持つ。
艦の下部全体にフランク・アレイ・ソナーを装備、このため魚雷発射管は正面に向けることが出来る。
測的システムは全てのソナーを一体化したZQQ-6。
基準排水量2750トン。水中3600トンと通常型にしてはやや大きい。
速力は20、水上12ノット。
《うずしお》は、深さ150で哨戒海域を巡回していたが、0500時ちょうど、聴音が敵艦らしきノイズを捉えた。
僚艦の《おやしお》のノイズは自動的に排除される。
「艦長! 唐級原潜を捉えました!」
司令所にいた艦長、英1佐の耳に興奮したソナー員の声が飛び込んできた。
「確かか!?」
英1佐の声もうわずった。
「はい。コンピューターには80パーセントの確率で唐級原潜と出ています」
このとき、英1佐の不幸は、米海軍のバージニア級原潜と唐級原潜のノイズはよく似ているということを知らなかったことだった。
情報本部では気付いている者もいたが、現場の端末まで伝わっていなかったのである。
なにより、アメリカの原潜がこんなところにいるはずはないという思い込みがある。
ハワイに近いので、寧ろ様子見に出てきているのが本当だと考えねばならなかったのだが。
またコンピューターの判断も微妙に曖昧で、此処は90パーセント以上の確率でなければならないところである。
「よし、よくやった! 距離は?」
「およそ5海里です」
「敵には気づいた様子はないか?」
「ないと思います。気づけばソナーを打ってくるでしょう」
「うむ」
英艦長は副長を見返った。
「艦内無音を保て。7ノットで接近する、3海里で魚雷戦を行う」
7ノットではほとんど無音に近く、敵に探知されない。
そこからおよそ6マイル離れた海中では、米海軍のバージニア級原潜《モンタナ》が、速力20ノットで北西に進んでいたが、パッシブ・ソナーが、ディーゼル・エレクトリック艦のものらしいノイズを探知した。
「オリンピア艦か?」
艦長のソーントン大佐がソナー区画に訊ねた。
「いえ、パターンは日本の通常型潜水艦を示しています……おやしお型です」
「ふむ、例の唐級原潜をハンティングしているわけだな。しかし、こんな遠くまでよく来たものだ」
「近すぎるので、誤認されて攻撃される可能性があります」
副長のワッツ中佐が進言した。
「我々も原潜でノイズが似ています。此処は高速で離脱すべきではないでしょうか?」
バージニア級は、水中速力25ノットという高速を出せる。
「そうだな……」
艦長は一瞬思案した。
「急いで逃げれば、かえって誤解されるかもしれん。此処は暫くこのままで様子を見よう……相手の動きは?」
「7ノットで無音で接近中です」
「ふむ、ストーキングしているつもりか」
ソーントンの胸中に嫌な予感が過った。
「念のために魚雷戦に備えろ……45に変針、但し急ぐなよ」
副長に命じる。
「アイ・サー」
《モンタナ》の巨体は緩やかに左回頭した。
「目標、回頭します」
「ふむ、気付いて逃げるつもりだな」
《うずしお》では艦長・英1佐が呟いた。
「そうはいかんぞ。ソナー区画、一発ソナーを打て。データ確認し次第、魚雷発射、まず3本使う」
緩やかにUターンしようとしていた《モンタナ》では、カーンという鋭い音を聞いた。
「目標、ソナー発振しました!」
「むっ」
ソーントン大佐は唸った。
「撃ってくるかもしれんぞ、発射管の扉の開く音に注意しろ」
未だにソーントンは、日本艦とは戦わずして立ち去るつもりだったのである。
「目標の発射管、開きます!」
「撃ってくるぞ。機関全速、急速右回頭!」
原子力エンジンの出力が急激に上げられ、《》はぐぐっと加速しながら、右に回り込み始めた。
「目標、魚雷発射しました。少なくとも3本!」
「よし、引きつけてからデコイ発射!」
今や《モンタナ》は30ノットの高速に達し、魚雷と平行の針路を取ろうとしていた。
しかし、ホーミング魚雷だから、逃げても迫ってくる。
「インパクトまで90秒!」
「10秒でデコイ発射、左回頭、上がり角10度!」
《モンタナ》は左回頭しながら上昇しようとしたのである。これは魚雷を混乱させる手である。緊迫した80秒が過ぎた。
「デコイ発射しました!」
10秒後、ギュイーンと、日本艦の魚雷の推進器の立てる高速ピッチ音が複数、《モンタナ》をかすめて通り過ぎた。
「外れました!」
副長が汗にまみれた顔で報告した。
少し経ってから爆発音がした、魚雷がタイマーで自爆したのである。
「しかし、まだ向こうは魚雷を残しているはずです。また撃ってきます」
ワッツ中佐が指摘する。
「やむを得ん、応戦する。後部発射管を使う!」
《モンタナ》は前後に発射管を4門しか持たないが、此処から魚雷、ハープーン、トマホーク・ミサイル、機雷など多彩な兵器を発射出来る。
「魚雷、外れました……敵速30ノット。急速左回頭中!」
この報告を聞いたとき、英艦長は6本全てをぶち込まなかったことを後悔していた。
全弾撃っていれば1本は当たったかもしれなかった。二の矢を用意した慎重さが裏目に出たのである。
そのとき、ソナー区画からの報告の意味が頭を染み込んで来た。
「向こうのスピードは、30ノットだというのか!?」
「はい」
しまったと、英艦長は胸のうちで叫んだ。
唐級原潜はそんな速力は出せない、こいつは米艦だ、おそらくバージニア級だ。誤って米艦を攻撃したのだ、と。
「敵潜の発射管開きます!」
「魚雷が来るぞ、魚雷に備え、デコイ発射用意!」
「敵、魚雷発射、2本。速力50ノット!」
「インパクトまで70秒!」
副長がストップウォッチを見つめながら報告する。
今や英艦長の顔も脂汗にまみれていた。いや、身体中が汗みずくだった。
「急速右回頭!」
《うずしお》は右に回り始めたが、いかんせん20ノットしか出ない。30ノットプラスの《》と比べると情けないほど遅い。
「インパクトまで10秒!」
「デコイ発射!」
大量のアルミ箔が放出され、2本の魚雷はその雲の中に突っ込んだが、その音の乱反射に惑わされることなく、2本とも《うずしお》に突っ込んだ。
水中に大音響が響き渡り……水は意外に音をよく伝える……閃光が走ったと見えると、《うずしお》の艦殻はバラバラに裂けて、無数の破片となって沈み始めた。
「目標、沈みます!」
ソナーから報告が来たが、ソーントン大佐の顔色は優れなかった。
同盟国である日本の潜水艦を沈めてしまったのだ。これで俺の海軍キャリアは閉ざされたと考えていた。
「これは事故です、艦長!」
ワッツ中佐が慰めた。
「向こうが最初に撃ってきたのだから、やむを得ません」
パールハーバーの潜水艦艦隊司令部では、フォード少将がデスクの上で送られてきたばかりの報告書に目を通していた。
太平洋上の原潜《モンタナ》からである。
“ハワイ時間X-day0515時から0535時にわたり、日本潜水艦と交戦、1隻を撃沈せり。なお、日本艦が先に攻撃したにつき、やむを得ず応戦したるものなり”
「うーむ、不味いな」
フォード少将は唸った。
誤認による戦闘の可能性は、以前から指摘されていた。
フォードは漠然とした不安を抱いていたが、太平洋軍司令官の命令もあったことだし、自身も日本海軍の実力を見ておきたかったので、いわば観戦に出したのである。
艦長のソーントン大佐は、審問委員会は免れないだろう。おそらく自分もと、フォード少将は覚悟した。
今回は友軍誤射による悲劇的な事件となりました、戦争でもこういうのは日常茶飯時とはいえ、事を急ぐと元も子もないものですからね。
潜水艦による事故は冷戦時代が印象的ですね、ソ連原潜は特に多かったようですから。
次回は対潜狩りの最後となります、果たしてどんな結末を送るやら。
出来る限り皆様に楽しませるように自分のペースで書き進めていきます。
毎度ながら佐藤大輔先生みたいに遅筆で申し訳ないです(汗)
それでは、第102話まで…… До свидания(響ふうに)