節分任務もそこそここなしつつ、御目当ての報酬入手を目指しているSEALsです。
今回は前回の予告を多少変更しますことをお伝えしますが、何時も通り最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
それでは、気分を改めて……
いつも通り、楽しめて頂ければ幸いです!どうぞ!
X-day
時刻 1630時
元帥執務室
外では華々しく盛り上がる観艦式とは打って違い、部屋の空気が重苦しく感じるな、と提督は呟いた。
緊急会議で元帥たちが公開した捕虜の尋問映像を観たら、誰もが深刻に考えるのも無理はない。
今日まで、古鷹たち率いる艦娘たちと共闘し、各鎮守府海域を含めた本土海域防衛、日本の生命線とも言える南西諸島海域のシーレーン防衛、そしてあらゆる海域に蔓延る深海棲艦と戦い続けた。
時には国内や各海域に現れる小規模な海賊やテロリストたちを撃滅することはあったが、今回は規模が違うことは明らかだ。
何しろ自分たちが戦った老人たち、彼らが乗艦していた甲鉄艦やAC-130対地攻撃機を貸与した他、そうりゅう型潜水艦《ずいりゅう》の艦長たちが目撃した謎の石棺型潜水艦からすると、《グランド・マザー》たる者たちは豊富な経済力や技術力の高さを誇る軍需産業、そして日本に直接侵略するほどの軍事力を兼ね備えている可能性も高いと、提督は推測した。
かつては存在したふたつの反日共産主義国家、深海棲艦による海上封鎖と沿岸地区侵攻に喘ぎ、最後には指導者たちを暗殺した事で勃発した内戦で無政府状態として滅亡した中国及び、南北統一後に誕生した南北朝鮮統一国家『高麗共和国』の両国は、莫大な国費を自分たち共産党及び、労働党の思うがままに湯水の如く軍事費に注ぎ込んだのだときのように、次々と軍拡を進め、世界中の紛争地に兵器を貸与して資金を得たのか、または中国の巨大企業の製品のようにあらゆる分野、家庭用の情報端末から軍用の兵器まで電子機器などが世界に伴い、特にアメリカの対テロ作戦を妨害するように、かの有名なテロ組織『タリバン』に緊密、テロ支援国家のイランやシリアにも同様に武器や通信技術などを数十年間、テロ組織に提供し大量に儲けていた時代を模倣し、その潤沢な軍資金を得たと可能性もある。
捕虜のジーンが言った《グランド・マザー》筆頭する『オリンピア』が、ここまで大規模になったのは後者のやり方だろう。
数年前から準備していたら、充分に辻褄が合う。
事実上の戦線布告。その後に対策を行なっても手遅れである。
史実のWWⅡでドイツに宣戦布告した英仏が、まさにいい例だ。
ドイツによるポーランド侵攻に対し、両国は宣戦布告をした。
しかし、積極的にドイツに戦いを仕掛けようともせず、もっぱらマジノ要塞や防衛陣地などを中心とした防御線を構築、ドイツ軍が攻撃した際の反撃計画の作成に終始していた。こうした専守防衛的な考えがそもそも間違いであり、負けの思考とも言える。
そのせいで英仏やベルギーを含む同盟国は、ドイツ軍の奇襲攻撃や電撃戦に対応出来ず、莫大な軍事費で設けたマジノ線は無駄に終わり、両国が築き上げた防衛戦線は脆くも崩壊したという戦略的敗北という、その失態の二の舞いになり兼ねない。
だからこそ、先に障害物を叩き出すのは当然である。
中国三大悪女のひとりと言われた史上唯一の女帝・武則天はおろか、毛沢東とともに文化大革命を主導し『紅色女皇』と呼ばれ、私腹を肥やしながら自国民を虫のように4000万人以上を虐殺した江青、最後にはヒトラーが叶えることが出来なかった第四帝国、果ては王国《ミレニアム》と言われた、千年帝国を築こうと企てる女王蜂たちに対しては、急所をついて叩かねばならない。
本来ならば先手必勝、戦略的勝利を収めるには基本的なことだが……
「……本当に馬鹿な連中は困る。何時の時代でもいるとは言え、現代戦をベトナム戦争はおろか、冷戦時代の様なものという思考停止状態の石頭連中が生き残っているとは……」
提督もだが、元帥も同じく頭を抱えていた。
彼女は緊急会議後、必死になって観艦式中止を訴えたが、一部の政治家や海軍上層部たちは『いたずらに過ぎない』と、ひと蹴りされた。
事実上、かつての大東亜戦争でもあらゆる諜報や防諜、宣伝など秘密戦に関する教育や訓練を目的とした陸軍中野学校及び、藤原岩市陸軍中佐筆頭の、かの有名なF機関などを冷遇し、挙げ句は情報戦を軽視、自分たちが上書き、理想だけで塗り潰し、官僚軍人たち中心の軍令対策に優先した無能な大本営と何も変わらなかった。
敵が自分たちの思う通りになる戯言、理に反した根性や精神論、情報戦軽視が悲惨な結果を招き入れたのである。
「本当は紙吹雪をまくより、今すぐにでも緊急体制を強化すべきなのに……」
元帥や古鷹たちが居なければ、日本は防衛機能すら失い兼ねないのに、頭の乏しい者たちは冷戦時代のものと勘違いしている。
米中両国が起こした第二次冷戦時代は、最先端技術を屈指した最新鋭兵器や情報戦などを中心とした現代戦ですら、この考えを変えることはなく、寧ろ古典的にしか考えていなかったに過ぎない。
ソ連崩壊がきっかけで、反日三ヶ国の脅威に気づかないまま日本は国防意識低下や軍事費削減、最悪なことに余計に平和ボケを加速させたのだ。そのため反日三ヶ国に舐められ続け、挙げ句は自国の領土すら売り兼ねなかった危機もあった。
「柘植提督。君の言いたいことはよく分かる。一部の馬鹿はこうした状況下では交戦規定に反する。と戯言を言っている」
元帥が言った。
「T-600《タイタン》多脚戦車など最低限の備えはしているとは言え、黙って観艦式を見守れと言っている様なことですね。まるで……」
提督は苛立ちを抑えてはいたが、口調までは誤魔化す事は容易くないものだった。
黒木首相たちは背負う覚悟はあるが、国内にいる国益及び未来より、出世と私腹優先の無能政治家たちは、国の支えである国旗で尻拭いすることを拒む。攻撃が予想外の結果を引き起こし、なおも取り憑かれた亡霊のように先の自虐史観が引きずっている。
しかし、戦争になれば相手は待ってくれないのに猶予を与え、話も聞いてくれるほど都合良くは行かないのだ。
「海軍学校でしつこく叩き込まれんだ、あの言葉……『問題に取り組め、分かったな!』はなんだったんだ』
提督が言った。
「全くだ。起きてからが手遅れなのに……黒木首相たちも我々の良識派たちとの相互協力しなければならないが、深海棲艦同様、新たな敵の大軍を迎え撃たねばならない今、状況は極めて困難だ。馬鹿どものせいで戦略レベルでの武力行使が容認出来るか遅れるかもしれない。戦時法とは言え、下手をすれば不行使になり兼ねないとの検討だ」
元帥が答えた。だが、本心は呆れていた。
攻撃されるまで黙って攻撃を受けろ、と、言っているものだからだ。
「……よく分かりました。サー」
提督も重く受け止めつつ、やれやれ状態で返答をした瞬間。
《元帥閣下。もう少しで私たちの搭乗する輸送機が到着するとの報告が来ました》
元帥の秘書艦、香取が室内に設けられた立体映像カメラを利用して、提督たちに報告した。
「うむ、分かった。ありがとう」
元帥はスクッと立ち上がり、自分の身なりに伴い、柔らかくきめ細かい絹を思わせる自慢の黒髪を軽く整えた。
「今回は私も君と同行するから、護衛も兼ねてよろしく頼む」
提督に頼みは言いつつも、万が一に備え、元帥も自衛用として・愛刀『村田刀』とともに、自動拳銃を携行する。
「はい。私が古鷹たちとともにエスコートします」
「ああ、ありがとう。ただし護衛では甘さを控えるようにな。私は大丈夫だが、香取と鹿島が砂糖を吐き兼ねないからな」
「……了解しました」
「では、観光ルートで楽しもう。柘植提督」
提督は頷きつつ、元帥とともに観艦式の視察することにした。
楽しむことも大切だが、この不吉な予兆が当たらなければ良いが、と願うばかりだった。
提督と元帥が観艦式の準備を整えていた頃。
こちら、太平洋東方沖上空にも異変が起きていた。
緩やかな弧を描く水平線を朱に染めた夕陽、その茜色に染まる断雲に交じりゆっくりと遊泳し、まるで交響曲を奏でる勢いで重い爆音を響かせながら飛行する1機の旅客機――ボーイング社製最高傑作のひとつ、通称《トリプルセブン》と呼ばれるボーイング777-300ERだ。全長73.9メートル、全幅64.8メートル、全高18.5メートル。
両主翼にはGE・アビエーションが開発した航空機用高バイパスターボファンエンジン――GE90-115BLを2基搭載し、最大速度マッハ0.84、巡航速度890キロ/時を出す。
機長たちを含め12名、乗客200名を乗せてハワイのダニエル・K・イノウエ国際空港発のボーイング777-300ERは、日本の成田国際空港を目指し、順調な空の旅を満喫していた。
「これならば日没までには、仕事が早く終わりそうだな。そしたら美味いスコッチを飲みたいな」
順調な飛行を続け、機嫌が良く愛機を操縦する機長が、右隣に座る副操縦士に声を掛けた。だが、返事がないことに気づいた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
機長が訪ねた。
「先ほどから……機長の左に、変な機影が……こちらを、監視しているようで……」
漸く口を開いた副操縦士が怯えた口調で答えた。
「何を言っているんだ。この高度でいるわけが……」
機長は同じコースで自分たち以外の航空機がいるわけがない、と、思い、ゆっくりと左側操縦席の窓を振り向いた。
「……なんだ。あれは?」
機長が、それを見たまま呟いた。
彼の瞳に映ったものは、自分たちが操縦している愛機が小さく見え、今までに見たこともないほどのとてもない大きさを誇る巨大な異形の飛行船が飛翔していたのだ。しかも国籍は不明。その代わりにあるのは見たことのないエンブレムが見えた。
右手に剣を、左手にマドンナリリーを携えた戦乙女というドイツ、またはフランス軍の部隊マークに似ていた。
「……こいつは、怪物みたいだ」
機長は昔読んだホラー小説に登場した異形の怪物を思い出した。
その怪物は、あの世界最大の海洋哺乳類であるシロナガスクジラを上回るほど大きさに伴い、威容のある姿を持っていた。
今まさに自分たちが目撃しているこの飛行船も、その怪物にも勝るとも劣らない大きさだ。いや、それ以上だと驚愕したが、またしても驚かされた。
「機長!他にも同じ飛行船もいます!」
副操縦士が甲高い声を上げた。
彼の言う通り、同じ飛行船が飛んでいた。
しかも群れをなして飛行する全ての鋼鉄の怪物たちには空母が航空機運用に重要不可欠な飛行甲板を持ち、さらに航空管制の双方が一体化した収納庫、そして飛行甲板側面と船体下部には、対空ミサイルや機関砲と言った対空兵装が大量に備え付けられていた瞬間。
前方にいた飛行船が船体下部に装着した1台のRIM-116 RAM 21連装発射機を旋回させ、すかさず1発の空対空ミサイルが撃ち放った。
「不味い。回避!」
白煙の尾を引いて、ミサイルが自分たちの旅客機に向かって来ると察知した機長は、慌てて操縦桿を握り、右に旋回しようとひねった。
しかし、旅客機は急速に旋回も出来なければ、たった1発と言えど音速を超えるミサイルを回避する術も持っていなかった。
機長たちが無線で救難信号要請をする間もなく、空対空ミサイルの直撃を受けた旅客機は一瞬のうちに閃光に包まれた。直後、機長たちを含め、全ての乗客員の命を奪った。
「ゴミが。我ら精鋭空中機動艦隊『マドンナリリー』の中に紛れ込むなぞ烏滸がましい」
空中機動艦隊指揮官・キャサリン・ブレア大佐が言った。
彼女にとって民間人はおろか、男性パイロットたちを殺すことは息を吸うように軽く、虫と殺すことと変わらないのだ。
「キャシー。我々の目的は、謂わば宣伝をすることでもあり、先ほどの害虫駆除は当然のことをしたまでです」
彼女の隣にいた補佐官、朝倉楓中佐が落ち着いた口調で答えた。
上官であるキャサリン大佐とは友達であり、恋人関係でもある。
今回は《グランド・マザー》の第一作戦『黄昏のワルツ』作戦に参加及び、キャサリンとともに、指揮出来ることに誇りを持っている。
「さすが私のパートナーだ。それに我が精鋭降下猟兵部隊《ローレライ》の士気も高揚しているから素晴らしき日になるな」
キャサリンは、人目も気にせずに朝倉の頭を撫でる。
朝倉自身も優しく愛撫されることに、満足な笑みを浮かべた。
「キャサリン大佐。我が偉大なる《グランド・マザー》からです」
「繋げろ」
ひとりの女性通信士が言った。
キャサリンはチャンネルを繋げるように告げ、恋人の頭を撫でるのを止めた。朝倉もまた緩みきった顔を引き締めた。
神聖な挨拶に伴い、敵に悟られないように衛星通信の接続過程とセキュリティー・チェックを経たのち、艦内のCIC映像と《グランド・マザー》の執務室のコンピュータが無事に繋がれた。
数秒後。《グランド・マザー》の端整な顔が画面に映し出されると、その神の如き、カリスマ性に改めて感じたふたりは目を瞑った。そして微かに頭を下げてから、ゆっくりと口を開いた。
『ご機嫌麗しゅうございます、《グランド・マザー》』
《君たちもな。キャサリン大佐、朝倉中佐》
「ご健勝にお過ごしのことと拝察します」
キャサリンが言った。
《私はこの通り元気だ。何よりもこの作戦の成功を楽しみにしている。むろん君たちと我が同志たちも然りだ》
「オリンピアと新たなる世界秩序革命のために奉仕することに、これほど光栄なことはかつてありません」
朝倉の言葉に、《グランド・マザー》は微笑した。
《よろしい。君たち献身的な指揮官たちに恵まれて嬉しい以外、何ものでもない」
『光栄なお言葉です。マザー』
ふたりは今一度、微かに頭を下げた。
《よろしい。我々の脅威を排除及び、新たな世界秩序の夜明けを、誰よりも信頼する君たち以外には任せられない。君たちの能力には全幅の信任を置いているぞ》
「我ら『マドンナリリー』にお任せくださいませ。この天命の完遂は我らにとって責務でありかつ喜びとするものであります!」
《期待しておるぞ。我が娘たちよ》
全てを伝えた《グランド・マザー》は通信を終了した。
直後、見計らったようにキャサリンたちの背後からとある人物がやって来た。
「……では、貴女たちも我らとともに、新世界の夜明けを目撃しましょう」
「我らのマザーの御加護とともにね……」
キャサリンたちは、優しげな表情を浮かべて言った。
『深海皇女様』
「フフフ」
深海皇女と言う人物は、ニヤッと笑みを浮かべた。
終焉。終わりの始まり、新たな平和な世界への第一歩を望む彼女たちの意志に応えるかの様に、空中機動艦隊は全速を上げながら飛行し続けたのだった――
今回も徐々に迫り来る新たな脅威且つ、新たな敵の登場しました。
そして今回登場した敵空中航空母艦は、実際にアメリカで考案されていた兵器のひとつであり、飛行船の上に航空機が離着陸可能な飛行甲板を設置した『空中空母』を実現しようと計画したものです。
しかも本気で進めた挙げ句、1930年代の科学雑誌に掲載されたほどらしいです。別の形でアクロン級硬式飛行船で製造した《アクロン》と《メイコン》がありましたが、空母の実用化と航空機の性能向上により消えていきました。
なお、今回は飛行船だけでしたが、敵はまだ秘密兵器を持っていますので次回に明らかになります。
次回は漸く新たな戦いの幕引きになりますので、暫しお待ちを。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみくださいませ。
では新たなる戦いの幕引きである、第44話まで…… До свидания((響ふうに)