第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
イベント開始日を一週間ほど間違えましたが、今は順調にクリアし続けている私ことSEALsです。
今回は予告通り、長い逃走の果てに、そして元帥・古鷹たちと合流、最後の決戦へと移りますね。主に地上戦ですが。

それでは本編開始です。どうぞ。


第53話:突破 後編

市街地・高速道路

時刻 1725

 

市街地ほどではないが、ここよりは少ないものの、前方を進む度に、乗り捨てられた車や焼けた車が混み合っていた。

まるで障害コースを走るスタント・ドライバーのように、提督は巧みに速度をコントロールして両者の群れを、その間に縫って回避する。

同じように背後より迫る敵たちも回避、連中はよほど頭にきたのか、どこに潜んでいたのか、進むたびに次々と姿を現わすオートバイ部隊も加わり、攻撃の手を緩むことなく追跡してくる。

本当にしつこい奴らだ。俺はただひとりの艦娘を助け、元帥・古鷹たちがいる軍港を目指したいだけなのに、この理不尽は勘弁してくれ。提督は思いつつ、タイヤを焦がすほどスピードを加速させる。

 

オートバイの操作に集中する提督は、敵の銃火。小口径及び、大口径の銃弾が被弾しないのが不思議なくらいの攻撃を掻い潜る。

後部座席でMSMC短機関銃を片手にタシュケントが、こちらを攻撃してくる相手をビビらせる程度で射撃を止めさせる他なかった。

敵も攻撃しようと前方に出た複数のオートバイは、わき見運転及び、こちらに気を逸らしている内に、緊急回避が間に合わずに放置車輌の群れに呑み込まれるか、仲間同士とぶつか合って自爆する。

これならばまだ幸いだが、こちらと同じように二人乗りする敵オートバイ、その後部座席にいる敵兵がRPG-7Dを肩に掛け、にやり笑いを浮かべながら狙いを付けて、トリガーを引いた。轟音。空気を切り裂く音を立てて飛翔した。

 

「RPG!避けろ!」

 

射撃を止めたタシュケントは叫んだ。

言われなくとも。提督は咄嗟にハンドルを切って回避する。

滑らせるように車体を傾けると、横眼にロケット・ブースターを点火するロケット弾は通り越し、放置された自動車に命中、そして車体が炎を上げて爆発した。

どうにか回避成功。破壊された車輌を横目に、高速で飛ばし、タイヤを軋ませながら暴れ馬をうまく制御していく。

これはさっきのお返しさとばかり、再びHEAT弾頭を装填する敵兵に対し、タシュケントは注意深く狙いを付け、装填完了前に引き金を引いた。彼女の撃ち放たれた銃弾は弾頭部に当たり、二人乗りのオートバイを眩い光に走り、躊躇なく爆発と爆風、衝撃に襲われた敵兵らは身体を引き裂かれ、バラバラとなって吹き飛んだ。

 

「ダスヴィダーニャ」

 

決め台詞を呟いた彼女の腕前に、見事な腕前だ、と提督は感心するも束の間、今度は大胆にも側に、オーストリア製のステアーTMP短機関銃を両手にした敵兵が近づいてきた。

運転手の男は少し長めに伸ばした髪型、歯並びの良い大きな口、そして爬虫類のカメレオンに近い目つきなどを兼ね備えていた異常な顔つきを持つ若い男性だ。薄気味悪い爬虫類顔。――正直、ホラゲーに登場する化け物、某傘社などが開発したクリーチャーじゃないかと見違えたほどだ。その敵が撃つ前に気づいた提督は、防弾シールドを展開して敵の攻撃を防いだ。

 

「キキキキキキッ!雑魚兵はさっさと退場しな!無駄な足掻きをせずにな!女は安心しな!慈悲深い大塚興三様が直々……」

 

煽り運転に重ね、弾切れになった二丁の銃に新たな拡張マガジンを装填しようとする。が、眼の前でリロードする敵兵に躊躇うことなく、防弾シールドを収納した彼は、背中のホルスターから銃身を切り詰めたウィンチェスターM1887散弾銃を取り出し、その銃身を前に突き出すように構えて発砲した。至近距離射撃に生じた閃光が走り、その銃口から飛翔した散弾は躊躇なく敵兵の顔が吹き飛ばした。

銃創から飛び出した血飛沫。それに微かにまだ生温かな肉片と脳漿、破損した頭蓋骨が混ざり合った肉塊が道路上にばら撒かれた。

主人を失い、制御不能に陥ったオートバイは横によれて横転した。その衝撃で燃料タンクに火がつき、首なし死体を乗せた車体はオレンジ色の炎に包まれて爆発した。

 

「バイク戦は、この銃に限るな」

 

慣れた手つきで、くるりとソードオフ型のM1887を一回転、片手でスピンコッキングを行う提督に対し、それの光景を見たタシュケントは『ハラショー』と呟いた。

 

「まだ序の口だ。次はもっとハラショーなことがあるから準備しておけ!」

 

「どういう意味だい、同志柘植!?」

 

そのままの意味だ。アクセルを握る手の力を緩める必要はない。

いま走ってこの橋、ここから飛び超えるからだ。飛び降りても問題もなく、敵の集団を上手く撒くにはこれしか方法がない。

鍵となるのはあの大型車輌――障害物レースに配置されたと言わんばかりのスキージャンプ台と化しキャリアカー、その荷台を利用して飛び降りる。

 

「しっかり、掴まってろ!」

 

彼は注意深くタイミングを計り、背中を撃たれる恐怖に打ち勝ち鋼鉄の軍馬は力いっぱい飛び越えた。その勢いをつけて、ふたりを乗せたオートバイは地面を離れてもなお前に進む。

サイドミラーを覗くと、同じく飛び越えてきた4台の敵オートバイ。押し寄せる波のように、憎悪を込めた瞳をぎらつかせ、各々携えた銃を向けたが、予測済みをし、銃口を向けていたふたりの前ではなす術なく空中でバランスを崩し、空中爆破の華が返り咲く。その光景はさながら儚く消えていく打ち上げ花火を思わせた。

敵集団を撃破と同時に、慣性で身体が飛び出しそうになるが、必死にふたりは堪える。さらに目に見えない巨人に引っ張られるように、橋の向こう側、地面に辿り着くほんの5メートルほど手前で、オートバイはゆっくりと下を向き始める。

 

宙に浮く感覚から、まっすぐ急降下していく態勢に移り、ただ下へと飛び降りる。 勢いよく降下して、真下にある別の道路が見えてくる。跳ね上がるように着地し、オートバイは疾走には問題がないぐらい上機嫌にエンジン音を轟かせた。

 

「こんな大胆な事をやるときは、前もって教えて欲しいよ。おかげでお尻が痛いよ」

 

無事に追っ手を撒き、道を走行していたが、着地の瞬間に尻を打ったタシュケントは、いててっと仕草をしながら提督を見た。

 

「分かった、分かった。今度やるときは……っん?」

 

「どうしたんだ?同志柘植……えっ?」

 

サイドミラーを見た提督に、彼女も釣られて振り返った。すると、その背後にいたもの――

 

《貴様ら!わしの可愛い子どもたちを殺害し、この神にも皇帝にも等しい大塚興三大佐を愚弄しおって、ただで済むとは思うなよ!》

 

追尾部隊を率いっていた指揮官――大塚興三大佐がいた。

彼が搭乗する軽装輪装甲車・イヴェコ LMVの側面には、メインローターが展開し、まるでヘリのように飛行しながら追い掛けて来た。

 

「マジかよ!」

 

外観はただのイヴェコ LMVが、奴の車は最新鋭の空飛ぶ軍用車輌だったのか、ちくしょう。提督は思わず悪態を吐いた。

 

《お前ら上級国民らを機関銃ですぐに殺すのはもったいない。銃は、馬鹿な戦争好きなお前ら人殺しやアメ公など臆病な幼稚園児並みの知能しか持たない臆病者の玩具だからな。

やはり、やるならば車が良いよな!自分の愛車を運転してドライブを満喫することよりも、猛スピードで至高な目的地に辿り着くまで愚かな庶民ども、特に女子どもらを大量に轢き殺すことさ!》

 

大塚は高らかに声を上げると、飛行モードから装甲車に変形し、屋根上に搭載したプロテクター RWSを放棄した直後、アクセルを最大限に踏み、時速100キロ以上の猛スピードで突進してきた。

 

「させるか!」

 

提督はハンドルを切り、車体を傾けて暴走車の突進を躱した。

咄嗟の緊急回避。間一髪のところでオートバイはギリギリに避けた。しかし、空気を唸らせて、怒りの咆哮を上げながら暴走車を運転する大塚は、猛スピードを緩めることなくタイヤを滑らせ、高速Uターンをし、再び突進攻撃を敢行しようと加速する。

 

「泣けるぜ」

 

暴走化する鉄の塊をこのまま正面衝突を受けたら、絶対に即死は免れない。仮に上手く避けたとしても相手がスリップし、ドアを開けて、ハエ叩きように使って叩き落されるオチが見えた。起死回生策とし、ここまで頑張ってきたオートバイには致し方ないが。と見極め――

 

「タシュケント、しっかり摑まれよ!」

 

「えっ?分かった!」

 

加速しきり、もはや止まることもないオートバイが、眼の前にいる暴走車という怪物とぶつかるまでの距離、数メートルまでに来ると――提督は右手で橋に向けて、グラップルを射出した。銛が橋桁に突き刺さった直後、勢いよくタシュケントとともに真っ直ぐに上昇した。

 

《なっ、なにっ!?》

 

ふたりが上昇する瞬間を見た大塚。その声は拡声器越しから洩れた。だが、眼の前から迫って来た無人のオートバイを避ける余裕はなく、真正面から直撃を受けた。鋼鉄の軍馬がぶつかった瞬間、車体や燃料タンクが破損したオートバイは爆発し、地獄の劫火に似た炎の海が暴走車を呑み込んだ。

背後を振り向かなくとも分かる。地獄の劫火や破片などに巻き込まれないようにグラップル移動をしても、伝わる衝撃と振動、爆発音が、身体や鼓膜の奥まで震わせた。相手が悲鳴を上げる余裕もなく一瞬で死んだか、仮にまだ生きて車内で生きながら焼かれて死のうが、提督たちはこれぽっちの同情も覚えなかった。

 

「ここで降りるぞ」

 

提督の言葉に、タシュケントは小さく『うん』と頷いた。

グラップルを収納した彼は、ブースターを展開し調整しながら、ゆっくりと道路に降りた。

今度こそ本当に終わって欲しいものだ。少しだけ何かを食べて、少し休む必要などがいるが……。だが、休んでいる暇はない。古鷹たちに会うために行かなくては。疲れていても多少なりに小走りしてでも、一歩ずつ足を前に出して、進まなくてはならない。しなければならないことをするだけだ。

 

しかし、背後から、エンジン音が轟いた。

ふたりは、ちらっと振り向き、すぐに確かめて銃を構えた。

黒煙の中から暴走怪物、大塚興三が搭乗するイヴェコ LMVが姿を現した。車輌は損傷はしているが、運転手とエンジンが生きている限りは止むことを知らない。

 

《ただで死ぬと思ったら大間違いだ!わしを怒らせたら大罪を、グランド・マザー様から賜わりしこの栄光ある名誉勲章に掛けて、正義の判決を下す!貴様らはよって死刑!死刑!死刑!ふはは!ふははは!ふはははははは!あはははははは!》

 

それでは覚悟は良いかい?と高らかに笑いした大塚は、クラクションを鳴らしながら、アクセルを最大限にベタ踏みした。

再び悪夢を蘇らせるように、双眸は血眼状態かつ、興奮したのか歯をガタガタと鳴らしながら不気味な笑みを浮かべて突進して来た。

訳が解らぬ身勝手なテロリストの主張。とはよく耳にするが、本当に泣けるぜ、勘弁願いたいものだと、ふたりが呟いたまさにその瞬間。周囲を掻き消す轟音が鳴り響いた。

 

進退窮まったふたりを救うように、大塚の搭乗した装甲車が白く発光体に包まれ、やがて貫かれた車内は堪えきれず、車内に孕んでいた火焔を吐き出し、そして凄まじい爆発音を上げて爆発した。

なお爆発により生じた爆風と衝撃により、無惨に吹き飛ばされた大塚興三大佐の死体。しかし、五体満足というものとは程遠く、四散した頭部だけが現れ、近くに設置された街灯の先端に突き刺さり、まだ僅かな意識があるのか、助けてとゆっくりと口を動かすもそのまま力尽きた大塚は、晒し首状態という最期を迎えたのだった。

 

「いったい、誰が……」

 

「ニエット。でも、助かったことに間違いないが……」

 

呆気に取られたふたりが素直な気持ちを述べると、轟音。砲声が唸った方向に振り返った。

 

『あれは……』

 

段々と桁ましい履帯の軋む音とタイヤの音が近づく音を立て、こちらに向かってくる戦車と装甲車。その先頭に立つ戦車はM1A2 SEPV3《エイブラムス》、背後には装甲車はLAV-25A3と機銃付きのブッシュマスター防護機動車が続く。

しかも先頭車の拡声器から勇ましい曲調に、その曲調に違わぬ強大な存在として君臨するソビエト連邦を称える歌詞が特徴のある楽曲『ソビエトマーチ』が耳を聾するほど大音量で流れ始めた。

一部の赤いファンたちが口ずさむあの独特な雰囲気を醸し出す音楽を掛ける人物はひとりしかいない。そう察した彼はその方向へとそっと右手を上げてかぶりを振って見せた――『待て』と。

 

「やはりな……」

 

見通した提督は、緊迫する必要もなかった。

M1A2 SEPV3の最上部ハッチ――キュポーラが開き、赤い音楽のボリュームを下げ、姿を現した彼がよく知る人物が声を張り上げた。

 

「やあ、ふたりとも!」

 

「同志郡司!」

 

提督の側にいたタシュケントは、再会の喜びを表すように手を振った。

 

「やはり郡司か。あの音楽を高らかに掛けるのはお前しかいないからな」

 

「それは嬉しいな。ここで同志たちに会えそうな気がしたから掛けたんだ。それに同志タシュケントを助けてくれてありがとう」

 

「追われているところを助けたんだ。まさか郡司の鎮守府所属までは知らなかったが……」

 

それに関して、タシュケントはそうだよ、と自信に満ちて胸を張っていた。

 

「まだ僕の鎮守府に所属して間もないし、紹介することも出来なかったから致し方ないさ。今度詫びとしてロシア料理を振る舞うからさ」

 

それは良い妥当だ。と、提督はそう被りを振った。

 

「しかし、同志古鷹たちはどこにいるんだ?」

 

郡司は訊ねた。

 

「古鷹たちは元帥とくっしーたちといる。俺が巨大兵器を倒す際に、くっしーに頼んでエスコートしてもらった。みんなが行く目的地は、軍港だからそこを目指している」

 

「そうか。僕たちもそこに向かっている最中さ。同志浅羽や救援部隊のスミスたちとともにさ。同志を助けてくれた御礼も兼ねて、僕の戦車に乗せよう」

 

「ああ。もちろん、お言葉に甘えて」

 

そうかぶりを振る郡司に、視線を移すと、双方が手を振っている姿が見えた軽く同じように手を振り返した提督とタシュケントは、M1A2 SEPV3に乗り込み、一同は目的地を目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

横須賀本港地区 港湾・陸上施設群付近

時刻 1745

 

東京湾の入り口にあたる港。古くから江戸・東京の玄関口として、日本経済を支える商港・工業港の機能、そして国防を支える最大の軍港として整備、発展し続けている横須賀港。

明治以降からかの有名な横須賀鎮守府が置かれ、現在も海上自衛隊の横須賀基地(自衛艦隊司令部・横須賀地方総監部など)及び、米海軍第7艦隊戦闘部隊を中心に横須賀基地(横須賀海軍施設)を置くなど、日米共同軍港としての側面を兼ね備えるこの場所でも、激しい銃撃戦は続いていた。

 

「ここを突破すれば海上にいる部隊を援護とともに、深海棲艦たちを駆逐出来るのに……」

 

元帥は悔しさのあまり、キュッと唇を噛んだ。

むろん、久島たちも同じ気持ちだった。

あと少しで艦娘専用の艤装格納庫に到着するはずだったが、思いもよらぬアクシデント――機甲部隊を中心としたオリンピア軍の猛攻のために足止めを喰らい、さらに防衛陣地まで不利な状況に追い込まれたのは否めない。

 

迫り来る大群のオリンピア軍の兵士の双眸は、暴虐の限りに尽くされ、貴族たちが裸足で逃げ出すほど邪悪な瞳に侵されていた。

――地位を追われた質の悪い貴族よりも、暴君の集団だ。

革命推進に有用な物質を生み出し、自分の思想が絶対の正義を主張し信じている分、彼らよりも始末が悪い。

かつて理想に燃えたあらゆる独裁者も、いざ革命を始めてみると、その成果を守るために本来の目的をかなぐり捨てて、自分の名誉などをただ守るだけの哀れな独裁者と変貌し遂げたに過ぎなかった。

 

「撃てっ!」

 

彼女の号令一下により、陣地防衛のために火力支援として配備したM224 60mm迫撃砲及び、M3三脚架に取り付けたMk.19 自動擲弾銃などの重火器の類が競うように火蓋を切った。

砲声や銃声が轟き、双方の攻撃による弾着の火がちらちらと咲いた。仲間の死を顧みず損害を被るも激しい怒りを爆発させ、勢いをつけるオリンピア軍。大地を轟かせる敵兵の突撃に、彼女たちの守護神たる鉄の装甲で囲まれた戦車・装甲車がエンジンを轟かせて加わった。

 

かつて中国・韓国が存在時に、制式採用していた各国の主力戦車――99A式戦車、K2戦車、装輪装甲車は92式装輪装甲車、K21歩兵戦闘車まで繰り出された。

不運なにもこちら側には何分、携行対戦車火器の類がひとつもなかったのが痛かった所以、敵も理解していたのか、撃ち込まれる榴弾弾をわざと外してじわじわ甚振るように次第に距離を縮めて来る。

陣地内に逆流してくる砲煙に、顔を黒く染めたある元帥が首を振った。

 

「駄目だ。凌げない。このままじゃ、嬲り殺しにされるな」

 

「そんな。元帥……ここまで来たのに……俺たちの国が、何をしたって言うんだ。俺たちの国は、今日まで本当の平和と安定、未来のために戦ってきたのに」

 

「私もだよ。だが、ここが私の死に場所でも悔いはない。だが、それもまだ先かもしれないな」

 

唇を噛む久島に対して、何かを見透かしたような元帥の言葉に、陣地内にいた全員が分かり兼ねなかったときだった。

耳を聾する砲声。99A式戦車の濃緑色に塗装された車体が膨れ上がり、心臓を貫かれた怪物が断末魔の苦痛にのたうつ様を思わせた。

続けざまに轟く砲声。敵戦列に参加していた92式装輪装甲車と、側にいたK21歩兵戦闘車を直撃し、木っ端微塵に破壊された。

運良く最後まで生き残り、反撃を試みようとしたK2戦車は、頭上から炎の尾を曳いた噴進弾が突き刺さり、手薄な装甲は貫通された直後、K2の砲塔部を吹き飛ばして次いで車体ごと砕け散った。

なかでも、悲惨だったのが戦列を築いていた敵歩兵部隊だった。

車輌から漏れ出した爆焔や爆発に煽られて、傍らにいた敵兵たちに地獄の劫火と化して襲い掛かった。炎だけでなく、兵の列にキャニスター弾や25mm機関砲弾が着弾し、人体を引き裂いて飛び散らせる。

機甲部隊の援護を失ったオリンピア軍は混乱したが、しかし、この機会を逃さまいと速度を上げ、オレンジ色の発砲、銃撃を敵兵に浴びせながら突入する1輌のM1A2 SEPV3、LAV-25A3とブッシュマスター防護機動車が姿を現した。

 

《騎兵隊の参上だ!みんな!》

 

M1A2 SEPV3のスピーカーから響く声に、古鷹たちはいち早く反応して叫んだ。

 

『提督(司令官)!!!!』

 

《言っただろう。遅れても約束は守ると》

 

戦場という喧騒のなかで提督は喋りつつ、逃げる敵兵らを機銃掃射で薙ぎ倒して行き、彼女たちを護りながら前進する。

敵の火力が弱まったと同時に、予知せぬ奇襲を受けて、全ての車輌が大破したオリンピア軍の指揮系統を乱れた――そう直感した古鷹は、元帥を顧みた。

 

「好機です、元帥。ここを一気に突破すれば、敵も総崩れになります!」

 

「ああ。そうだな」

 

瞼を閉じて、元帥は頷いた。

 

「敵の動きが鈍ったぞ!これより我らも反撃に移行する!全軍始動!私に続け!」

 

「私たちも行くわよ、鹿島!」

 

「はい。香取姉!」

 

勇ましく奮い起つ彼女の叫びは、無数の砲声及び、銃声、エンジン音が轟くなかでも不思議なほどよく聞こえた。

鼓膜を震わせ、士気も高まる香取や鹿島、そして味方の部隊も奮い立ち、敵を追撃する。

 

「俺たちの力も見せてやろうぜ、みんな!」

 

『はい。提督(司令官)!!!!』

 

「ダー。まかせな」

 

「おうよっ!」

 

「まかせな。同志柘植!」

 

元帥たちを護るように、M1A2 SEPV3が前面に立つ。

 

「同志浅羽、スミス、久島たちも遅れないようになっ!」

 

《おうよっ!》

 

《まかせろ!》

 

「俺たちも行くよ。むらちゃん、かすみん!」

 

「分かっているわ!私たちを遮る愚か者たちは!」

 

「全員消えなさい!」

 

浅羽・久島たちは側面につき、機銃掃射及び、鹵獲した重火器を使用しながら圧倒的な攻撃力を見せつけ戦線に突入した。

空や海による奇襲攻撃で、優勢だったオリンピア軍は、次第に戦線を維持出来なくなり、各地でも戦線及び、士気崩壊し始めた。

提督・元帥軍などの前ではなす術なく追い込まれ、継戦能力を着実に奪われたオリンピア軍が押されながら、終幕へと向かっていた。




オートバイによる逃走を終え、郡司たちと合流、そして最後は元帥・古鷹たち全員で力を合わせてオリンピア降下部隊を倒し、ようやく地上戦が終えました。長くなりましたが、架空戦記では当たり前、日常茶飯事だから仕方ないねぇ♂(兄貴ふうに)

今回のイベント、前段はジャワ・スマトラ島などの南方作戦は分かりますが、後段作戦は運命の鎖か、それともタイムスリップなのか、果てはミスターブラックなどの仕業なのかソロモン海戦になりましたね。泣けるぜ(レオンふうに)
贅沢は言えないですが、四発陸攻の連山か、本来の一式陸攻部隊、同時に艦戦は電征、夜戦機は闇鷹などが欲しいですねw

では、長話はさておき……
大変長らくお待たせしました。次回はいよいよ、提督は危険な大空へのハイウエーな空戦に移ります。古鷹たちは海戦に。
恐らく長くなるかもしれませんが、どんな戦いになるかは、次回のお楽しみに。

トップガンのような気分で言いましたが、あの映画大好きです。昔の映画ですが、主人公の成長と青春を描き、本物のF-14を使った場面、発艦や戦闘シーンなどが最高ですね。来年夏にトップガンの続編公開するようですからこちらも楽しみですね。

では、第54話まで…… До свидания(響ふうに)

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