第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
前回予告した通り、続き、そして新たな影の正体が分かります。
どの世界でも雑魚な敵ほど、意外かつ凶悪になったら、これほど恐ろしいものはないですからね(ニッコリ)

同時に架空戦記ならではの秘密兵器が出ますので、お楽しみを。

それでは、本編開始です。

どうぞ!


第56話:異形の怪魚

オリンピア軍の空中艦隊及び、戦闘機部隊は壊滅状態。

空中戦に続き、海上にいた古鷹たちも同じく勝負は着いていた。

こちらが制空権を奪還し、援護攻撃に恵まれた古鷹たち、ふるたか型護衛艦《あしたか》率いる生き残った多国籍連合艦隊は、多数の深海棲艦を撃沈及び、大破による行動不能、相次ぐ兵力を撃退することに成功した。

 

「これ以上、オリンピア軍が来なければ良いが。奴らはまだ何か隠し事を、切り札を使う可能性があるな」

 

提督がそう呟くと、突如として暗い海面下から白波が異常なほど掻き回され、今にでも天界まで貫く勢いをつけた水柱が立ち上った。

奔騰した水柱の中から妖しいふたつの閃光を発し、姿を現したのは駆逐イ級。だが、提督や古鷹たちを含め、その場にいた全ての者たちの常識を超えていたほどの姿で現したのだった。

頭部こそそのままだが、普段からよく見慣れた姿が魚類型ではなく、伝説の大海蛇、シーサーペントのような長い胴体。その身体を纏う黒い外殻はなく、通常にはない独特の雰囲気を醸し出す青白く輝く外殻に覆われている。体内に構築されている火器装置器官らしきものなどがかすかに確認出来た。

口内にある主砲は健在だが、蛇に似たしなやかな鞭のような身体の上には、ところどころにいくつもの単装砲とともに、魚雷発射管二基などが背負い式に据え付けられていた。また後半身の骨格が剥き出しという異形な深海棲艦だった。

 

なんだ、あれは……と、提督だけでなく、全ての者たちが同じ言葉を揃えて呟いた。が、深海の大海蛇は躊躇なく攻撃を仕掛けた。

怪物の口内に備えた主砲とともに、長い胴体に増設した単装砲がオレンジ色の火が噴いた。闇のなかに幾つもの砲火が閃き、火矢さながらの高熱を発しながら落下してくる隕石や流星群の如く、砲弾の網が、古鷹たち率いる多国籍連合艦隊に襲い掛かってきた。

 

「いかん、回避しろ!」

 

新たなる脅威を眼にした提督の警告。これを耳にした古鷹一同は緊急回避した。直後、敵砲弾の着弾。視界に入るものを全て遮るほどの水柱がいくつも立ちあがり、海流の渦巻きに呑み込まれそうな勢いをつけていた。しかし、彼の警告も虚しく、彼女たちよりも遅く、緊張回避が間に合わなかった一部の各護衛艦群は艦橋や上甲板部を中心に数百人規模の死傷者を出し、他の艦娘たちは中破、大破による戦闘継続が出来なくなるほどのダメージを被った。

 

提督は皮膚が粟立つのを覚えた。

自身の本棚にある神々の神話、そのひとつ北欧諸国に伝えられるゲルマン神話の主神オーディンが持つ何処までも伸びて敵を突く長槍、グングニール。この武器を実現したかのような、こちらが持つ全ての新兵器すら凌駕して敵を攻撃するオリンピア軍、または深海棲艦の新兵器に違いない。

 

「このままじゃ不味い! 涼月たちは味方の後退及び、生存者の救出には万全を尽くせ、警戒態勢を怠るな!」

 

《了解いたしました!》

 

半ば予感していたが、改めてその光景を見せつけられて、提督は言葉を失い兼ねなかった。が、バカヤロー!俺が弱気になってどうする!古鷹たちならば大丈夫だと操縦桿を握り、残存する敵編隊の駆逐と、自分の気を取り直すため、軽く首を振り、無理にでも気を保つことに集中した彼は、空神様よ、俺に力を貸してくれ!と祈り、自分との戦いに集中し、彼女たちの武運を信じるのだった……

 

 

 

 

彼と同じく、古鷹たちも皮膚が粟立つのを覚えた。

 

「あれが駆逐イ級なの? あの大きいのが……」

 

今もなお信じられないとばかりに、古鷹が思わず呟いた。

奇跡的に回避はしたものの、敵艦により生じた衝撃は、海上で続いている自分たちや艦船同士の砲撃戦すら、子どもの火遊びに見せてしまうようなものだった。軽いとはいえ、あの砲撃で自分たちが宙に浮き、海面に叩きつけられそうな衝撃だった。

 

「……分かりませんが、あれほど馬鹿でかい異形な深海棲艦、実用性があるかなと思いましたけれど、意外に大きいと言うだけでも役に立つゆえ厄介なものですね……」

 

途方に暮れたような顔で洩らした青葉。

 

「ともあれ……奴を急いで倒さないと、またふりだしに戻されるぞ。さっきの砲撃で味方が中破と、大破も大勢いるしさ」

 

周囲を見て、眼を瞠った加古。

 

「加古の言うとおりね。私たちであの怪物を倒さないと、また押し戻されてしまうし、作戦に支障が来たすわね」

 

敵の威圧感に負けず、衣笠が言った。

 

「そうだね。オリンピア軍の反撃が取り沙汰されている今、みんなのために戦おう!」

 

未知への不安が逃げ切れないと分かっていながら、敵に背を向ける訳にはいかない。

 

古鷹たちの言葉に、五月雨、初月、阿賀野姉妹、木曾たちも頷いた。彼女たちよりも早く、小破のみに止まった護衛艦《あしたか》率いる僅かな各国の護衛艦群が、すでに行動に移っていた。

10隻の各護衛艦が、タービンが唸りを上げて前進した。

いずれも各艦に現代の《ロンギヌスの槍》とも言える最新鋭艦対艦ミサイルを載せ、残存している各艦娘たちの一斉射撃と同時に、ミサイルの豪雨を叩きつけるという実にシンプルなものだった。

砲撃で奔騰する水柱のなかを、無敵の強さを披露しつつ、暴れる巨大な海蛇に向かって狙いをつけた一同は緊迫に伴い、各自の喉が、ごくりと上下した。

 

全弾命中すれば単純計算でも、戦艦クラスの攻撃力。これを喰らえば破壊出来ない深海棲艦など、ありはしない。と鼓舞するように、独語した古鷹たちと、《あしたか》以下の護衛艦が攻撃を開始した。

 

「撃てぇぇぇ!!!」

 

古鷹の号令に合わせるかのように、その瞬間、海上が鳴動した。

各自の連装砲が一斉に吼え、発砲焔が吹き上がる瞬間、艦橋や一本に纏められた煙突、艤装が、影になって浮かび上がる。

さらに数隻の護衛艦が備えるVLSや発射筒を揃い、抱えていた火焔の龍を、一斉に解き放つ。

砲弾から艦対艦ミサイルは、聞く者の耳に異様な昂ぶりを募らせる。巨人の拳が海面を裂くような轟音、天空の雷神が放ちながら飛翔するミサイルの豪雨が、弩級戦艦級のような巨大イ級に叩きつけられた。

 

轟音が上がり、火焔地獄が海面を覆い尽くす。

衝撃と灼熱、爆発音が乱打が続き、この猛攻を浴びて生き延びる敵は、何一つないと思えたが、しかし。

その劫火が、未だに燃え上がっているただ中には、あの大海蛇の死体が浮かんでもおかしくなかったが、浮かぶことはなかった。

 

すると、彼女たちの背後から天まで突き上げるような水柱とともに、やがて空に撒かれた大量の海水が雫となり、一時的に視界を遮るほどの豪雨を発生した。

雪崩れ落ちる水柱の余波が晴れ、古鷹たちの艤装を濡らしていく様子を嘲笑うように、その中から巨大イ級が姿を現した。

 

その瞬間、シャクトリムシのよう身体を屈伸させて突き進んだ。

高くジャンプした巨大イ級。アステカ神話に登場する金星の神トラウィスカルパンテクートリが投擲した槍の如く、古鷹たちの頭上を越えて護衛艦群に突入した。直後、着水した大海蛇は近くにいたオーストラリア海軍のホバート級駆逐艦《シドニー》に対し、素早い動きで艦に巻き付き、やがて獲物を絞め殺す蛇のように絞めつけ始めた。瞬く間に護衛艦は、圧倒的な絞めつけ力の前になす術もなく、嫌な金属音を軋ませながら、爆発と大音響とともに粉々になり、艦体と乗組員らを数万の欠片として洋上にばら撒いた。

先ほどの猛撃に、まだその怒りが収まらないのか、側にいた英国海軍の最新鋭フリゲート――シティ級フリゲート《ニューカッスル》と、ズムウォルト級駆逐艦に次ぎ、同じく参加した米海軍最新鋭艦――アーレイ・バーク級フライトⅢミサイル駆逐艦《シンシナティ》に対し、鞭のような尻尾で叩きつけた。勢いよく振り落とされた鋼鉄の鞭を受けた2隻の駆逐艦は、真っ二つにへし折られた。しかも両艦共々、弾薬庫を直撃し、致命的な誘爆を引き起こした。

この爆発の規模から見て、爆沈を逃れることはおろか、両艦共々、燃え広がる地獄の劫火に包まれて誰一人として生存者はいない。

凄まじい敵艦の反撃を躱して運良く生き残れた艦は、自分たちの泊地に所属する護衛艦《あしたか》と、英国海軍の51型駆逐艦《サンダー・チャイルド》とたったの2隻のみだったが、同じく損傷を受け、戦線離脱という形に陥った。

 

あまりのその凄惨な光景に、またしても古鷹たちは声を失う。

もしかして最初のあの猛撃を回避するため、いったん水中に伏せて避け少し姿をくらまし、巧みに躱していたのだと推測した。

普段から倒し慣れた敵駆逐艦が、自分たちに復讐を果たさんと、これほどの大きさとなり、新たな力を手にした怪魚の威力は凄まじいものだった。『鯉が滝を登って龍になる』という言葉を生み出したのは誰だっただろう。確か自分たちが生まれる前の古い書物だった気もするけれど……今はそんなこと、どうだっていい。ともかく、もう一度反撃のチャンスを掴めなければ。

 

打開するため、古鷹は周囲を見渡した。

敵は一時的に潜水出来る能力を持ち、この攻撃回避行動を利用して奇襲攻撃を繰り出す。もしかしてこれを上手く利用すれば……と、ある提案を思いついた。

 

「みんな、私に考えがある!私たち六戦隊が攻撃します。敵が潜ったと同時に阿賀野さん、木曾さん、五月雨ちゃんたちは陣形を単横陣に、元帥から賜れた例の試作対潜兵器を使ってください!」

 

『了解!!!』

 

古鷹の指示を受け、再び波を蹴り潰して行動する一同。

距離は、2万弱にまで縮こまっており、重巡の主砲にとっては、事実上の決戦距離だ。

 

「砲撃、始め!」

 

彼女の命令が発せられたとき、再び満を持した各自の主砲が轟然と咆哮し、噴き上がる発砲焔を貫いて、破壊的なエネルギーを注ぎ込まれた砲弾が閃き飛ぶ。第一斉射に次ぎ、第二、第三斉射と撃つ。斉射する度に発生する凄まじい打撃音とともに、海面が盛り上がり、そして白い波飛沫を引き剥がすような衝撃が木霊する。

 

白熱して飛んだ砲弾が、窮鼠となって牙を剥いた。

振り向いた巨大イ級の左舷側に、凄まじい衝撃が襲い掛かった。

直撃弾を喰らった怪物は、血を吐くような悲鳴を上げるも、再び大音響が、胴体を揺るがせた。

幾つか外したものの、加古と青葉の放った砲弾は、巨大イ級を完全に夾叉して、そのうち4発が命中した。

 

巨大イ級もただ黙って撃たれているわけではない。

口内から胴体にある全ての主砲や単装砲を動かして反撃した。

想像を絶する爆風。ひとたまりもなく吹き飛ばされ、砕け散った数門の単装砲や増設機銃を潰されたが、それでも未だに健在なものが多く怯まずに撃ち始めた。

振りかざされた主砲の発射音が鳴り響く度、まるでザルに豆を入れ、一度に打ちまくる勢いを想起させる。

 

海面に突き刺さると、爆風と衝撃が襲い掛かる。

高空から落下した敵弾が叩き込まれ、上手く防いだものの、古鷹たちの艤装に駆け抜けた衝撃は、装甲板がひしゃげ、接合部分が歪みを生じ始めた。制服も被弾により、少し破れたが、戦闘能力と航行に関しては奇跡的に支障はなく、戦闘も継続可能だった。

 

砲撃による出現する水の壁が、真下と前後、左右全ての方向から襲い来る衝撃が、古鷹たちを小突き回す。

その膨大な量の降り注ぎ、下手をすれば、一瞬で海中に引きずり込まれ兼ねない、という錯覚にも襲われた。

膨大な海水の中を抜け出したとき、彼女たちは、硝煙混じりの海水をたっぷり頭から被り、全身が濡れそぼっていた古鷹たちは中破しつつも、今ある力を全身に込めて、薄っすらと筋肉を盛り上げた美女格闘家のようなしなやかな身体を動かす。

波飛沫を跳ね上げて前進及び、回避行動。双方を巧みに回避しながら繰り返す古鷹たちの砲撃は、無我夢中に暴れ回る巨大イ級が備え、口内にある主砲を補佐する兵装――胴体に設けている単装砲や機銃を次々と破壊する。

数多くある地道な攻撃方法だが、この状況で少しでも敵の攻撃力を削ぐことに集中した。これほどだけの砲撃を、全く通用しない強固な外殻に守られていたとしても、ひとつひとつ備えられている単装砲や機銃にまで装甲板を纏うほどの余裕はない。

 

更に吼え盛る、古鷹たちの主砲。

各砲塔1門ずつの交互撃ち方で、切れ目なく敵艦に砲弾を送り込む。

火災煙に視界を妨げられても、水上電探のおかげで、この不利な状況にも影響を受けずに、正確的に砲撃を続けられる。

双方は競い合わんばかりの閃光を迸り、轟然たる砲撃、同時に響き渡る砲声を繰り上げるが――

 

「いくら強くても弱点は、そこね!」

 

『てぇーーー!!!』

 

古鷹たちは、ある部分に狙いをつけた。

水上電探に捉え、高初速砲から轟然と撃ち放たれた徹甲弾は、見事な放物線を描いて飛んでいく。駆逐艦の強さであるが、同時に弱点でもある背部装甲部に備えられた兵装――魚雷発射管を打ち砕いた。

巨大ハンマーで打たれたかのように大きく窪んだ保護筐体を担う魚雷発射管、その内部に燃料弾薬を孕んだ大量の魚雷が一気に引火し、誘爆を引き起こした。

全身を蹴り飛ばされた衝撃に、巨大イ級は海面に叩きつけられた。

さしもの重圧な巨体は紅蓮の炎に包まれて、何発の命中弾から叩き込まれ、この有り様では無事に済まなかった。

装甲板の役割を担う分厚い外殻は大きくひしゃげ、火焔に炙られた巨体から引き剥がされ、振りかざした単装砲や機銃なども叩き潰され、すでに多数が動きを止めていた。

 

それでも起き上がる姿は、正に地獄の怪物とも言えた。

古鷹たちは肝を冷やすも、思い出すかのように再び砲撃。

各主砲から撃ち放たれ、戦場の大気を撃ち据えながら飛翔した砲弾の雨が、襲い掛かろうとした。

 

だが、大破したのにも関わらず、灰色にうねる波にも、吹き付ける潮風にも気にせず、巨大イ級は再び潜り始めた。

各部が砕けた装甲板は捲り上がり、海水が注入し始める。巨大な水の抵抗をもろともせず、快速を発揮していた手負いの怪物。

 

「みんな、今だよ!」

 

唇を震わせて、古鷹が気合いを入れる。その瞬間、待っていました!と、阿賀野たちが攻撃態勢に、対潜攻撃に移った。

 

四式水中探信儀に探知された怪物の方位、深度が、各自の方位盤に送られる。聴音機で捉えた音源によって、大まかに算定された方位に絞り込まれる。直後、阿賀野たち率いる対潜部隊が前に出ると、彼女たちの艤装に装備された新兵器がぐるりと旋回した。

 

砲身の短い大砲を、3本束ねたような兵器だった。

元帥が、同盟国イギリスから貸与された技術を元に、新たに急遽開発された新型対潜前投兵器――三式対潜迫撃砲だ。

これは陸軍及び、海軍陸戦隊妖精が装備・使用する迫撃砲と、さらにかつて英国海軍が開発、実用化に成功した対潜ロケット弾《ヘッジホッグ》という複数の対潜爆雷を、空中高く投げ上げる対潜迫撃ロケット砲、謂わば対潜爆雷を広範囲に散布させ、海中に潜む敵潜水艦に、投網を掛けるように撃ちかける対潜兵器を、より強力な国産の対潜前投兵器でもある。

弾体は、九三式爆雷を使用する。

改良に改良を重ね、魚雷形の九三式爆雷は、前方200メートルまで飛翔して、海中の敵潜に襲い掛かる。ただし、敵に命中しない限り爆発がしないのが弱点だが、圧搾空気で打ち出された小型ロケット弾が炸裂すれば無事では済まないほど、試作ながらお墨付きな代物だ。

 

「みんな、良い?」

 

阿賀野の問いに、木曾たち全員が頷いた。

入念に観測された方位盤を叩き込まれた彼女たちは、必死に逆転勝利を図ろうとする巨大イ級に肉薄する。

 

「撃てぇーーー!!!」

 

阿賀野の命令が発せられる。

彼女に続き、能代、矢矧、酒匂、木曾は、海面下に奇襲攻撃を図る巨大イ級に向かって、各々の矢を解き放った。

 

鈍い音を上げて、魚雷を模した九三式爆雷が飛翔する。

第一、第二斉射と撃ち込まれ、まるで針鼠を思わせる対潜弾が空中で散開して、やがて着水する。噴き上げる水柱のなかに時間差攻撃を、五月雨と初月、タシュケント、叢雲と霞が放った三式対潜迫撃砲が、それぞれ3弾ずつ、逆三角形を描いて着水した。真一文字に海中に沈降し、巨大イ級を迫撃する。

 

敵艦の潜航速度から換算、着弾まで数秒。

獲物を探し、そして追い詰める鷹の眼で海面を睨みつけ、警戒する阿賀野一同の前に、前方の海面が盛り上がった。

腹に響く爆発音が海面を引き千切り、おどろに伝わってくる。

敵艦に接触したのか、対潜ロケット弾が、押し止めようもない勢いで爆発する音が連鎖した。

不思議なことに心臓の形に爆発が噴き上がり、海中は凄まじい暴風雨に遭ったかのように続けざまに盛り上がり、海面は水の小山に変わり、そして海水を宙に投げ上げる。

 

「やった!」

 

眼を輝かせる阿賀野に、側にいた矢矧が叫んだ。

 

「待って、阿賀野姉!爆発が収まるまで、測定しないと!」

 

直後、意外な出来事が起きた。

押し寄せた爆圧に混じった水柱が、火薬や装甲板滓混じりの驟雨となって降ってくる中、負傷した巨大イ級が姿を現した。

傾きながらも体勢を維持していたが、推進軸となる尾が捻じ曲がり、外殻は大きく引き裂かれ、すり潰された傷口、その至るところから一気に青い血が吹き出され、その流血が止まらなかった。

特に頭部と左眼に接触した対潜ロケット弾による一撃が、押し止めようのないふたつの損傷がそれを物語っていた。

 

大破する巨大イ級を眼にし、漸く追いついた古鷹は躊躇なく命じた。

 

「集中砲火、全軍砲撃!」

 

彼女の号令一下、全ての者たちが撃ち放つ。

おどろおどろしく太鼓を叩くような轟音、放たれた砲弾の雨に突き動かされるように吹き伸びて、巨大イ級の肉体を貫く。

次々と命中させている閃光が煌めき、砲声、砲弾の飛翔音、着弾音の全てが響き渡る狂騒にも古鷹たちは絶えず撃ちまくる。

彼女たちの猛撃を浴び続け、耳を裂くような悲鳴を上げる怪物。

もはや逃れようもない死を目前にして、無念の叫びを上げた巨大イ級は力尽き、痙攣をするように震えながらその場に倒れた。

 

「これで終わり……」

 

はぁはぁ、と息を切らしながら、呟いた古鷹。

自身の身体に、腹の底からこたえるような、重い響きが伝わる。

これが敵艦の、最後の足掻きであることを願いたい。そう願いつつ、騒がしている夜の海に新たな動き、不吉な予感が脳裏に浮かんだ。

 

鉄と血の嵐が吹き荒れる、日本海軍始まって以来の奇妙な大海戦は、まだ緒をついたばかりだったことをその端正な顔に、微かな危惧が浮かぶ光景を、瞬きひとつもせず、眼に焼き付けるのだった……

 




今回は新しい敵、謂わばオリジナル深海棲艦の登場に伴い、摩訶不思議な戦闘回になりました。

この巨大イ級……改めて改造駆逐イ級は、後にある人物からの言葉で出ますのが、本編では古鷹たち視点かつ初めての接触による戦闘であります故に、敢えてこの言葉で表現致しました。
因みに、このモデルになったのは『ウルトラマン Fighting Evolution REBIRTH』の改造エレキング(EXエレキング)です。
最初見た際は、ビビッと来ましたし、こういう深海棲艦も居ても違和感を感じないですからね。いま思えば、有明海にいるワラスボも無意識にヒントを得たかなと思いますw
締め付け攻撃は『海底軍艦』のマンダからです。同じ特撮ものでありますからね。

三式対潜迫撃砲は、私の好きな架空戦記小説のひとつ、中里融司先生作の『東の太陽 西の鷲』に出た架空の対潜兵器です。
原作では日独共同作戦時に、日本の殴り込み艦隊が、英海軍が開発中の前投兵器を持ち帰り、日本独自に開発した対潜兵器ですが、この世界では日英共同開発で生み出したものになりました。未実装ですが、ヘッジ・ホッグとともに、いつか実装して欲しいものですね。
自分でもなんだか『トッ◯をねらえ!』のように、私の好きなアニメ・特撮作品などのオマージュやパロディみたいに好き勝手書いていますから多少は。

では、長話はさておき……
今回の続きになります故、これでもまだ前菜でありますからね。
それにいよいよ例の人物が挨拶をしに来ますと同時に、新たな増援も姿を現します。ある有名な架空戦記漫画ですね、某空母のですが。

果たしてどんな展開になるかは、次回のお楽しみに。
また事情によっては変更もありますため、何時もながらですが、その際は御理解いただければ幸いです。

それでは、第57話まで…… До свидания(響ふうに)

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