第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
菱餅回収イベントで遅くなりました、申し訳ありません。
では予告どおり、深海皇女との挨拶程度の海戦が始まります。
彼女の深海艤装は特殊艦艇、オリジナルになりますからお楽しみに。

それでは、本編開始です。

どうぞ!


第58話:皇女降臨 後編

「さぁ……深き水底から浮上せよ! 我が深海艤装《ホワイトシャーク》!」

 

新たな戦いの幕開け。不敵な笑みを浮かべた深海皇女の言葉を合図に、桁ましく海面が揺れ始めた。中心部から大量の海水が流れ込み、同時に攪拌されることにより作られた螺旋状の渦潮が発生した。

大きさは鳴門の渦潮にも匹敵し、さらに岩すら容易く打ち砕く白波を蹴り立たせ、周囲を吹き荒らし、全ての者たちの鼓膜を振動させる不快な雄叫び、さながら特撮・SF映画世界に登場する怪獣や怪物、または人類の歴史が始まる前、太古の地球を支配していた強大な力を持つ恐るべき異形のものども(旧支配者)に似た叫び、人の神経を逆撫でするオーボエのようなくぐもった声を発しながら、深く暗い海底から浮上する鉄の魚、深淵たる漆黒の深海艤装がその姿を現した。

 

今までに確認されて、戦ってきた戦艦棲鬼及び、前者を凌駕する上位体である戦艦水鬼が持つ猛獣さながらの意匠を施した巨人のような深海艤装とは桁違いであった。

海の捕食者、別名『白い死神』として有名なホオジロザメなど有名な人喰い鮫たちとは、かけ離れた顎が大きく三つまたに割れた鋭い歯などを持つ原始的な深海鮫《ラブカ》及び、悪魔のような外観と、その歯がむき出しになった恐ろしげな容貌という非常に特徴的なブレード状の長い吻を持つ《ミツリクザメ》という光も届かない暗い深海で、太古の地質時代に生きていた祖先種の形状を色濃く残して、通称『生きた化石』とも呼ばれる深海鮫たちを模しており、ラブカに似た艤装から聳え立つ二本の怪しく煌る長砲身、その身体には複数の対空機関砲を備えていた。

彼女が纏うこの独自の深海艤装は生物と機械が融合し、今までにはない機械生物的な姿を捉えており、頭部が二つもある深海の捕食者たる鮫たちは、さながら双頭竜のようにも見えた。

 

《マジかよ……》

 

提督は眼の前に突然奇妙な深海艤装が現れたため、一声上げる程度の、ありふれた言葉を辛うじて出すことしか出来なかった。

古鷹たちとともに、幾つもの海戦で彼女たちとともに戦い、己の眼にしてきた歴戦の鬼・姫・水鬼たちよりも邪悪な雰囲気を醸し出し、更にその全ての上位体らを越えて、深海どころか、まるで異世界、果ては宇宙から来た謎の機械怪獣に酷似し、自身の体格の数倍に匹敵するほどの巨大さを誇るという、これほど禍々しい独特かつ奇妙な深海艤装は今まで見たことも聞いたこともなかった。

況してやこれを見て、物静かかつ冷静沈着で何事にもあまり動じないクールな性格の持ち主でも冷静で落ち着いた口調を、その言葉を絞り出すことが出来るだろうか。

 

「フフフ。さぁ、御挨拶程度だけどせいぜい私を楽しませて頂戴ね。哀れで無様な下等生物どもよ!」

 

誰もが言葉を失い、目を擦り、そんな馬鹿なと叱ってみても、この光景は変わらない。あまつさえ驚きを隠せない提督一同をよそに、全ての深海棲艦の頂点たる深海皇女、覇者たる彼女のみが座ることが許された特別な深海艤装を、本物の豪奢な装飾を施した玉座の如く腰掛け、余裕のある笑みを浮かべ、髪をかき上げたり、足を組んだりするなどして、今に始まる古鷹たちとの海戦を楽しそうに宣言した。

 

「まず、フェアのある戦いにしないとね。目障りなガガンボやアメンボなどに邪魔されたら困るからね〜」

 

すると、彼女は自身の権威の象徴としてきらびやかに飾られた白銀色のティアラに触れた。誰もが被り直しているのか、戦いの前に余裕がある行動だなと思いきや、次の瞬間、ある機能が異常を来した。

 

《……こいつは!》

 

何だ、いったいこれは。どうしたんだ、これは。いったい何が起きたんだ――提督は考える暇などなかった。

 

《同志柘植!……僕たちのヘルメットの端末機能や……電子機器などに異常多発もだが、……衛星監視網が無効化されている! ……ACS、SOSUS及びフェーズドアレイレーダー……なども……正常に機能していない!》と郡司。

 

冗談だろ。日本を護る監視網の全てが無力化。軽微の不具合どころではない。今にでも闇夜を蹴飛ばすかのような勢いで、全ての最新式電子機器に雑音混じりの悲鳴が絶えなかった。

 

《こいつは……今まで……見たこともない……電磁波だ》と浅羽。

 

《まったく……冗談も……キツいぜ……》と久島。

 

「提督、……私たちの電探に……異常が!」と古鷹一同。

 

周囲に展開している最寄部隊からも同じく、ACS(イージス戦闘システム)、SOSUS(音響監視システム)、レーダー搭載車輌、あらゆる電子機器、そして古鷹たち率いる全艦娘らが装備する水上電探及び、ソナーが突如として異常をきたし始めた。

一部は、増援に来た無人戦闘機部隊が意思関係なく空中爆破及び、友軍機と衝突するなど損害が多発した。

 

――くそっ、魔女の婆さんの呪いか!?

 

提督は急いで敵の電子妨害攻撃に対抗し、味方の電磁スペクトル使用を確保するための防護システム・電子防護装置を作動させる。現代戦では必要不可欠な電子戦にダメージを受けるは致命的だ。

対電子対策を施してはいるが、これほど正確的かつ高度な技術を持つ電子妨害攻撃《ECM》を受けたのは初めてだった。

あのティアラにはジャミング機能が付いているのか。名作やB級怪獣映画でも今時お目にかかれない光景だ。俺たちの故郷が怪物によって直接蹂躙されているなど、まるでSF映画に出てきそうな展開だ。それに加え、たったひとりの怪物の長はただ破壊の限りを尽くし、恨みと憎しみを自分らに叩きつけるだけ。全ては新たなる世界秩序を作るためだけに。

 

《みんな……気をつけろ!……奴のティアラは……ジャミング機能付きだ。そいつを破壊すれば……機能が回復する!修復次第……俺が……援護するから……耐え抜いてくれ!》

 

「はい。分かりました!目標《深海皇女》!みんな、反撃――」

 

古鷹の言葉が終わらない内に、着弾による衝撃が身体を大きく震え、悲鳴じみた音が搔き消した。あたかも何らかの超自然的な手段によって古鷹の言葉を聞きつけ、それを嘲笑しているかに見えた。

 

「フフフ、お察しが良いわね。私の周囲にいる全ての電子機器は異常をきたしてしまうほど高性能な代物。暫くは足止めも出来るのよ。ですが……もはや手遅れですし、こちらも遠慮なく蹂躙致しますわ!30cm主砲、一斉射!」

 

深海皇女の命に応じて、ラブカの口内に備えた巨大な砲塔が動き出した。体内に設けた弾薬庫から巨大な砲弾と装薬が運ばれ、主砲に装填されていく手際よく段階に辿り着くと、轟然と艤装を震わせて、砲弾が飛んでいく轟音が上がり、火焔が巨大艤装を覆い尽くした。

衝撃と灼熱、爆風が生じ、しかもその狙いは恐ろしく正確無比な射撃は地獄の底から響くような砲声が、古鷹たちの鼓膜を震わせた。

 

至近距離だから、ほとんど水平射撃に近い。

新たな災厄、撃ち放った敵弾が古鷹たちに襲い掛かった。

重巡洋艦よりも強力な攻撃力を兼ね備えた巡洋戦艦クラスの主砲の威力も凄まじく、これまでと異なり、とてつもない数の水柱が、衝撃と爆風の豪雨が襲った。こちらに直撃弾ではないが、この至近弾の水中爆発もかなりのもの、目眩しには充分だった。

 

古鷹たちは反撃を試みるも、夥しい水柱が、射撃を阻む。

敵はわざと外しているのか、同時にじわじわと嬲り殺そうと楽しんでいるのかと思うと、はらわたが煮えくりかえるほど怒りが込み上げた束の間――深海皇女の姿を隠した。一瞬、轟沈と錯覚に襲われたが、直撃弾による炸裂の閃光は皆無だった。しかし、水柱が崩れ落ちると、姿を現すやと思いきや――

 

『消えた!?』

 

恐怖の水柱が消えたが、同時に深海皇女の姿が消えた。

あの巨大イ級のような攻撃を仕掛けに来るかもしれない、そう周りを警戒するも闇夜に浮かぶ姿はおろか、その気配すら完全に消し去っている。この絶望を嘲笑うかのように不気味な音が鳴り響き、古鷹たちに新たな衝撃が襲って来た。

 

対艦ミサイルかと思いきや、それは水中から襲い掛かってきた。

古鷹たちは微かに聞こえた探知音が鼓膜を震わせたことを考え、先ほど巨大イ級を撃沈したあの音響誘導式魚雷は分かったが、その発射した場所が分かり兼ねなかったのが甘かった。新たな閃光が走り出した直後――彼女たちだけでなく、木曾や阿賀野姉妹たちなどもこの火線に絡むられ、回避する間もなくたった一撃で大破した。

連装砲や高角砲を粉砕し、見る間に破片を飛び散らせ、各自の艤装が破片が乱打して怪物に引き裂かれるように破壊された。

 

『みなさん!!!!』

 

不思議なことに五月雨率いる駆逐隊には撃たれることはなかった。

しかし、次の瞬間――暗い海中から、圧搾空気が弾ける轟音が響く。海面下の揺らぎを通し、僅かに注いでくる月明かりをすり抜け、サメを思わせるあの深海艤装が五月雨・初月の足元から浮上して来た。

さながら勢いよく浮上するメガロドンやホオジロサメが、獲物を捕らえる空中ジャンプの如く襲い掛かり、五月雨・初月を持ち上げると、投げ出される形でふたりは海面に二、三回と横転した。

 

「このっ!」

 

「よくもみんなを!」

 

「粛清してやる!」

 

叢雲・霞・タシュケントが砲撃態勢を取るも、笑止とばかりに深海皇女は右手にある風変わりな扇子を開いた。開封したそれは太刀魚のような細長い胴体に、ライオンに似た長いたてがみ、薄灰色から薄青色の線条を兼ね備え、上下に互い違いに並ぶ背びれ・胸びれ・腹びれを持つ鮮やかな紅色を呈した鰭条という神秘的な姿と特徴を持つ深海生物『リュウグウノツカイ』に似ていた。

 

「雑魚はこれで充分よ!」

 

扇子を一振り扇ぐと、海面上に疾風が吹き上がる。

目眩しかと思いきや、白波により乱打して水上を飛び出した水飛沫が意志を持ち始めて形を与えていく。

“形のないものに形を与える”という言葉通りに、みるみると姿を型取り、そして頭部の輪郭形状には眼部がなく、独特な大きな口部が目立ち、さらに細い筒状の逆三角形の身体と胸ビレなどを広げて、海鳥のように滑空するという異形の姿をしたトビウオに変貌した。すると、口を歪めて笑う不気味な表情をしたトビウオが風上に向って、両翼や尾鰭などを利用して推進力を増しながら、空中で方向転換しつつ海面を滑空するトビウオは勢いよく叢雲たちに突撃した。

あまりの速さにこれらを追撃する術もなく彼女たちも、あっと言う間にこの自爆攻撃を受けて大破されたのだった。

 

「アハハハハハハハハ! これが今まで長年に渡って、私たちの仲間と戦い続けた艦娘どもなの。あまりにも弱過ぎて退屈かつ欠伸すら出ませんわ!それとも私の力が強すぎたせいかしら。アハハハハハ!」

 

冷ややかさな表情に伴い、漆黒の海上全体に深海皇女の声が、氷のような嘲笑が口元を掠め、人の心を見透かすような歪んだ侮蔑を込めた笑いが周りに響き渡った。

 

「あら……まだ死に損ないの屍ども癖に動けるだけの力あるわね」

 

深海皇女はある事に気づいた。

たった今の戦闘で損傷し、大幅に火力を減じたが、まだ辛うじて一基ずつ20.3cm連装砲や高角砲が生きており、古鷹たち全ての砲塔などが睨んでいた。

 

「この世に及んで、まだ闘志があるなんて立派なこと。……その勇姿に讃えて死に際に良いこと教えてあげる」

 

ふん、と深海皇女が鼻を鳴らした。

傲慢な態度は崩さず、古鷹たちを嘲るように語り始めた。

 

「私のこの殊深海艤装は特殊艦艇に属するの。海の神が持つに相応しい槍とも言えるこのラブカには30cm連装砲はもちろん、ミツクリザメには音響誘導式魚雷による雷撃に加えて、ある秘密兵器も搭載している最強の海底戦艦なのよ。

同時にこの扇子も特別に拵えたもの。扇ぐだけで疾風によって舞い上がった水飛沫が、さっきの自爆攻撃用トビウオ《エグゾセ》に姿を変えたり、今は出してはいないけど護衛や自爆用のPT小鬼たちにも姿を変えることが出来るほど万能なものなのよ。……但し、この艤装も馬鹿でかい艤装なだけに重くて私の動きも遅くなりますが、海の中だからこそ装備出来るもの……しかし、全ての弱点を克服し、臨機応変に対応出来る素晴らしい艤装であり事だけは宣言しますわ。オホホホホホホ!」

 

針を刺すほど容易いことを、侮辱の笑い声で埋め尽くすことに飽き飽きしたのか、深海皇女は大破した古鷹たちに最期の言葉を交わした…

 

「死に際に頭が良くなるほど良い勉強が出来ましたわね。それでは最後に、一人残さず優しくじわじわと甚振り殺してあげますわ。……さよなら、皆さん。自分の弱さを憎み、仄暗い水底で後悔しながら死にに行きなさい」

 

ガクンッ、と30cm連装砲の砲身を動かした深海皇女。

 

「……なるほど、分かりましたね」

 

堪り兼ねた古鷹が口を開いた。

 

「確かに貴女の強さは分かりました。私たちを僅か数分で追い込み、口だけではなく実力を凌駕し、その特殊な深海艤装を巧みに使って形成逆転する力は私たちは認めます……」

 

古鷹の言葉を耳にした深海皇女は、その通りでしょうと言わんばかりに納得した様子で頷いたが……

 

「ですが……先ほどの態度をしたまま私たちを翻弄した方が良かったですね。今の貴女は哀れで力に自惚れた醜い皇女様ですね」

 

その言葉を聞いた深海皇女は怒りと屈辱に、わなわなと震えていた。

 

「バッ バッ バッ、バ カ に し て えぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!」

 

憎き敵である者に侮辱をされた挙げ句、激しい憎悪を孕ませた双眸を露わに、今にも泡を吹き出しそうな口からは叫び声を振り絞った彼女は右腕で古鷹を掴むと、グワッと高々と持ち上げた。

古鷹を助けようとする加古たちには、左手にある扇子で払い除けた。

 

「ホホホ、これで終わりよ。まず貴女から! 一思いよりじわじわ首を絞めて殺してあげるわ!殺した後は、特別にあんたの頭蓋骨を新しい灰皿にして――」

 

《頭蓋骨の灰皿って、悪趣味だな。聞いているだけで反吐が出る》

 

右腕に力を入れようとした瞬間、声が聞こえた。

深海皇女は横に視線を移すと、鋼鉄の若鷲――F-64Bが一機。ホバリング飛行を保ち、今にでも操縦桿にある紅いボタンを押そうとした提督が話し掛けたのだ。

 

《大人しく降伏しろ。今ならばまだ間に合うぞ。さもなくば、ひと押しでお前の顔が今以上に姥鮫みたいに酷い顔になるぞ、婆さんよ?》

 

ブチっと堪忍袋の緒が切れたのか、深海皇女は卒倒するような声を出して吼えた。

 

「だっ、黙れ、このひ弱なガガンボがっ! だが、人質がいる間は撃てまい!その間に哀れなアザラシみたいに切り刻んで刺身にしてやるわーーーーーー!」

 

この私を婆さんと呼んだことを後悔させてやる、という怒りの炎で脳みそが焼かれるほど卒倒しそうな深海皇女が、艤装に設けた四基の30mm対空機関砲で睨みを利かせて提督を撃ち放とうとした瞬間。――ガチャッ、と金属音を鳴らした音にふと気づいた。

 

「……っ!」

 

ひんやりとした金属製の独特の冷たさに睨まれ、繊細に刻まれた螺旋状のライフリングがよく見える砲口――20.3cm連装砲が突きつけられていた。

 

《残念だな。俺は囮で……》

 

「本命は私です」

 

提督の言葉を繋げるように、ニッと唇を矢形に変えた古鷹の言葉を引き換えに、振りかざされた主砲。

刹那、轟然と発砲した。奇跡的に稼働する連装一基、計2門の50口径20.3cm連装砲が、同時に猛然と火を噴いた。

西洋の伝説に言う死神が、魂を狩るその鎌を一閃させたかのように、一瞬にして爆発光が、灼熱した砲弾が眩く輝き、そして炸裂した。

密着射撃により、瞬く間に視界を遮るほどの黒煙に包まれた。

だが、幸運なことにこの砲撃を喰らった深海皇女の拘束力が弱まり、チャンスとばかり古鷹は、拘束から逃れ、すぐさま距離を置いた。

少しの間、両腕で首を絞められたため、ケホケホと咳き込んだが、息をゆっくりと吸って吐いたを繰り返し整えた。

 

《古鷹、大丈夫か?》

 

提督はもちろん、傷の手当てを整えた加古・青葉・衣笠に続き、木曾や阿賀野姉妹、五月雨たちも駆け寄り、彼女の状態を心配した。

 

「私なら大丈夫です……それよりも……」

 

誰もがあの必殺の一撃で手応えに、全員が撃沈を確信して見守る刹那――覆い隠された黒煙の中から高らかに笑い声が響いた。

 

「フフフ、アハハハハハ!残念でした。私の顔に風穴を開けようとしたのに狙いを外しちゃって……私も間一髪のところで避けましたし、そのせいで硝煙混じりの爆風で暫く両眼が痛くなりましたわ」

 

硝煙混じりの紅い黒煙を撒いて姿を現し、嘲笑う深海皇女を目の当たりにした一同は、眼を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 

「如何やら万策が尽きたようね。所詮は雑魚の悪あがき。思うままに私を倒せまい。それに先ほどの攻撃で堪忍袋の緒も切れましたし、貴様ら全員、顔を踏み潰し、艤装を破壊の限りに尽くし、その身体をねじ伏せさせながら殺してあげますわ。もしも今、泣いて謝りながら素直に負けを認めたら、全員私のペットとして生かしてあげますわ」

 

深海皇女は紅い眼を輝かせ、フンッと鼻を鳴らした。

嘲笑い、罵り、自分なりの憐れみを込めて。

 

《……ああ、確かにお前の言う通りだな》

 

提督の言葉を聞き、深海皇女は勝ち誇った笑い声を上げようとした瞬間。

 

《……だが、負けたのはお前の方だ。深海皇女》

 

絶対の確信を込めた彼の言葉が、現実になるかのように頭上を重い爆音が駆け抜けていく鋼鉄の大鷲たちを見て呟いた。間に合ったな、と。ゆっくりと高度を下げてくる大鷲たち。その正体は防衛省技術研究本部と川崎重工業が開発したC-2改戦略輸送機。

C-2を基に近代化改装に加え、世界の大型戦略輸送機では初めてのSTOVL機――短距離離陸垂直着陸機能を追加、従来よりも機体サイズが120%スケールアップされているおかげで主力戦車及び、艦娘たちや各艤装などを空輸可能とした傑作輸送機。

その機体は、尾部から大量のフレアをばら撒き、大胆な演出を、上空を美しく飾るエンジェルフレア――まるで闇夜に浮かぶ神々しい光の群れは、神の代行者であり、神に代わって使わされて悪魔や魔物らを打ち破らんとする天使の羽は、まさに天使そのものだったのだ。

 

《柘植提督、どうやら苦戦しているようだな。そのおかげで此方への手厚い歓迎はないから寂しいものさ》

 

天使の声。自身の通信機に飛び込むC-2改の声は元帥だった。

その声は、慌てずにあくまで余裕そうではあった。

 

《すまない、ダンスパーティーの準備があり過ぎて、しかも時間稼ぎに戸惑ってしまったもので……》

 

礼を言うために横に付いた提督は、コックピットにいる彼女と副パイロットに対して不敵な笑みを浮かべて返した。

 

《別に構わないさ。私もモニターの前で座して君たちの戦いを見守るほど傍観者ではない。私なりに急いでこの機体の数を用意し、通信回復後は、言われた通りに君たちのため支援艦隊及び、補給用のドローンを連れて来た。私の役目は終わったから、あとは君たちの思うように存分に楽しみたまえ》

 

各C-2改の後部ハッチが開き、支援艦隊及び、補給用ドローンを展開させる。幸運を、戦友たち、と最後に述べた機体をUターン、彼女とともに各輸送機部隊も月夜の空の向こうへと遠ざかっていく。

はるか遠くに消えていったところでここから先は、自身の支援艦隊を含め、待ちに待った各鎮守府や泊地自慢の精鋭友軍艦隊と臨む。

彼女たちの支援に感謝しつつ、この戦いを終息させるためにもうひと息だな、と威勢のいい声を上げたのだった。




本当ならば敵増援部隊登場回になる予定でしたが、文字数が多く、あまり多すぎるとモチベーションが下がり兼ねないため、ここで区切りました。なお少しだけ次回に続きます所以、ご理解の上、いつも通りに楽しめて頂ければ幸いです。

深海皇女の深海艤装の元ネタは、田中光二先生がお気に入りの架空戦記作品『海底戦艦イ800』シリーズです。
海底戦艦イ800は大和型戦艦『信濃』を止め、その予算を元にイ800は12隻建造されています。しかも伊400より大きく、雷撃はもちろん、砲撃や航空攻撃も出来ます所以、米軍を翻弄します。が、物語の中でも撃沈される姉妹艦もあり、その中で1隻、イ803が米海軍に鹵獲され、米軍はホオジロザメに似た怪物潜水艦として驚愕します。その外観をふまえて名前を『ホワイトシャーク』と名付けられています。実際には『グレイホワイトシャーク』ですが、敢えてグレイを除いてこの名前にしています。
このシリーズは私もお気に入りの架空戦記のひとつです。

因みにドイツ航行に成功したドイツ派遣部隊は、デーニッツ率いるドイツ海軍に設計図を渡しており、ドイツはイ800を参考にして特型UボートUXV3001と3002を建造しています。
ただし建造中の軽巡洋艦を艦体としているため、強力な30cm連装砲塔ではなく、15cm連装砲塔と攻撃力は下がりますが、代わりに電探射撃が可能な模様。

オリジナル設定として音響誘導式魚雷、扇子の疾風から生まれる自爆トビウオなどを付け加えました。
魔改造された海底戦艦でもあり、これくらい強くないと深海皇女と呼べませんからね。その分倒し甲斐はありますから←

では、長話はさておき……
次回もまた同じく海戦ですが、今回書けなかった敵の増援部隊の登場とともに、オリンピア軍の例の人物が新たな宣言をします。
果たしてどんな宣言かは、次回のお楽しみに。

今は大変な時期ですが、希望を忘れずに執筆活動を頑張ります。

それでは、第59話まで…… До свидания(響ふうに)

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