第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
予告どおり、後編に移ります。
突如として現れた通りすがりの執事長の力を目撃しつつ、敵の増援部隊、オリンピア海軍部隊などとともに、久々にオリンピア軍の例の人物が新たな宣言をします。
果たしてどんな宣言かは、本編を読んでのお楽しみに。

それでは、本編開始です。

どうぞ!


第60話:新たなる宣戦布告 後編

《……何者だ?お前は?》

 

提督は突如現れた女性、言わずとも深海棲艦に訊ねた。

 

「私は皇女様に御使いする深海執事長と申し上げます。以後お見知りおきを」

 

高飛車な性格を持つ深海皇女とは違い、穏やかな口調で話していた。

こういう知識は浅はかだが、貴族階級や上流階級に所属して、双方の者たちに執務を行い、主人らに尽くす場合は男性が執事服を、女性がメイド服を着るのだが、執事服を着る男装姿の深海棲艦は珍しいな、と提督は呟いた。

 

「皇女様。お一人で出撃なさるとは致し兼ねません。せめて私の準備が整え次第で宜しかったのではないかと申し上げますが……」

 

「……なに。久々に戦闘がしたくて、私の身体が疼いておったのでな。だが、お前はいつも良いところに私の痒いところにも手が届くくらい優秀な執事長だから感謝しておるぞ」

 

「もったいなき御言葉です、皇女様」

 

主君がいるとはいえ、戦場で会話をするとは一体何を考えているんだ。自身の双眸を疑うつもりはないが、それゆえに深海皇女たちの行動の目的が提督にはさっぱり読み取れない。

双方の会話を尻目に先を急ぐ傍ら、彼は片耳に入れたイヤホン及び、操縦にも神経を尖らせていた瞬間。

 

《お前たち、よくも好き勝手やり暴れやがって!俺たちの街を!お前たちなんて俺の手で葬ってやる!喰らいやがれぇぇぇ!》

 

堪り兼ねたのか、提督の近くにいた友軍機、コースガード所属のF-64Bのパイロットが雄叫びとともに、発射ボタンを押した。

主翼の下に吊り下げていた最新式の空対艦ミサイルが、放たれた。

赤外線誘導式空対艦ミサイルは、眼の前にいる標的を捉え、意志を持つ矢のように、獲物に襲い掛かった。

一度捕捉されたら逃れられる事は出来ない。だが、次の瞬間、提督は己の考えが誤りだったことに気付く。

 

「お話の最中は邪魔しないで頂けますか」

 

深海執事長は、音速を超えて向かって来る対艦ミサイルを、余裕の表情で、身体をクルッと一回転、右足を構えて、足の裏から鋼鉄の矢が当たる。まるでサッカーボールを扱うように、そのまま器用にミサイルの方向を変え、宙に浮いたミサイルを易々と蹴り、回し蹴りを喰らわして送り主に返したのだった。

 

《うわあああ!》

 

先ほどミサイルを撃ち放った友軍機は回避が遅れ、直撃を受けて、機体は身悶えしたように震え、幾つもの破片が飛び散って、火焔とともに砕け散る。

送り主返送、郵便配達などで宛先不明などにより返送することを意味する言葉をそのまま再現するかのように、深海執事長は、自分たちを狙ってきた対艦ミサイルを送り返すと同時に、提督の側にいたコースガードのF-64Bを撃ち落としたのだった。

 

何てこったい、友軍機の最期を焼き付けた提督は歯切りした。

実際には信じられないこの光景を見たのだから、如何にかそう言ったに近く、まるで悪夢を見る思いだった。

空の戦いを制する者は戦を制する、第二次世界大戦から戦争の常識に影響を与えた航空機が、並ぶ者なき航空機が、事もあろうにここまで翻弄されることが信じられなかった。

だが、犠牲になってくれた名もなきパイロットが教えてくれた。

戦いで勝つには攻撃が不可欠だが、生き残るには防御が必要になる。全ての兵士は、成功した攻撃をもう一度頼ってしまうと疎かになり兼ねない。だからこそ相手の戦闘技術を見極め、次に敵が何をするか予測出来れば、それを避け、それに対抗する戦略を考えられる。

全身で感じ、頭で考え、心で判断する。と、言い聞かせ、提督は表情を改めた。

 

《この状況で、ミサイルを蹴り返すとは大した腕だな》

 

提督は、彼女を挑発した。

 

「お褒めにあずかり光栄でございます。柘植提督様……いいえ、元幽霊組織の英雄、ゴースト様」

 

自身の名前や、古鷹たちしか知らない俺の過去も知っているとは一体何者なんだ……と、提督は内心に呟いたが、動揺という素性を隠して言葉の綾を繋げた。

 

《……なるほど。孫子の『彼を知り己を知れば百戦危うからず』という言葉を心得ているとは良い心掛けだ。だが、一つだけ訂正がある。俺は英雄なんかじゃない。……これまでも……これからも普通の軍人、ただの提督として、ここにいるだけだ》

 

彼の言葉に対して、流石ですね、と言わんばかりに笑みを浮かべる深海執事長。

 

「流石ですね。男は軟弱とはお聞きしましたが、柘植提督様は違いますね。どんな状況でも冷静かつ、決して諦めないという意志は、敵ながらあっぱれですね」

 

《褒め言葉として受け取っておく。だが、お喋りはここまでだ。ここでお前たちを倒して、終止符を打つのも悪くないな》

 

対艦ミサイルは意味ない。ならば、機関砲で充分だ、と、レーダーで捉えた目標の位置を参照にしながら、F-64Bは機首を振り、深海皇女と深海執事長に狙いをつけた。

 

「私は一向に構いません。こちらも容赦は致しません……」

 

深海執事長がそう告げると、彼女の眼、美しい紫色の左眼から焔が迸り始めた。戦闘開始の合図を醸し出すかのように、身なりも整える――どんな些細なことでも、何か異変が起きたとき、身を盾にして心臓を守ろうという、文字通りの執事長の務めを果たすことを使命に、あらゆる敵を打ち倒さんという闘志を込めて。

 

「……ですが、私だけでなく、こちらも我が軍とともに、我が同盟軍のオリンピア軍の全力攻撃でお受けいたします」

 

言葉を繋げた彼女が振り向いた。どういう意味だ、と、提督一同もその意味を持つ言葉を知るために水平線の彼方に視線を移した。

 

「……あれは!」

 

彼らの双眸には、沖合にいる複数の深海棲艦たちとともに、無数の艨艟で濃灰色に染まっていく光景を焼き付けた。

現代技術の進歩を象徴する石造りの城塞及び、日本各地にある名城の天守や櫓を映したような角張った檣楼を聳えさせ、丸みを帯びた砲塔などを備えた昆明級駆逐艦や江凱型フリゲート、055級駆逐艦、世宗大王級駆逐艦などを率いる護衛艦群。

次に圧倒的な戦力の差を披露するために、友軍潜水艦による目撃情報で得た特撮映画さながらのあの棺型の異形な潜水艦部隊も浮上し、その勇姿を見せていた。

 

他にも強襲揚陸艦や補給艦などを率いる大規模なオリンピア海軍だが、双方の彼女たちよりもひと際目立つ大型艦船、六万トン以上の巨体を誇り、平べったい飛行甲板に鳥籠型艦橋を備えていた航空母艦。

かつて中共が存在した頃、元々はソ連、後にウクライナ海軍に編成されるも計画は頓挫、未完成のまま解体される筈だった、アドミラル・クズネツォフ級航空母艦《ヴァリャーグ》を海上カジノとして使用する予定を理由に、中国お得意のダミー会社を利用して購入、長年を費やして、本艦を改装して就役した中国初の保有空母《遼寧》。

 

次に前者とは打って違い、本格的に一から建造していた国産空母、002型空母こと山東型航空母艦。当初の開発計画では原子力炉及び、電磁カタパルト搭載予定のはずだったが、双方とも開発段階中に失敗し、米海軍の重要軍事機密でもある電磁カタパルト及び、蒸気式カタパルト技術データを完璧に盗み出すことも出来ず、最終的には漁船用エンジン搭載かつ役立たずの廃艦同然の前級空母が持つ、スキージャンプ台搭載の通常動力型空母に変更することになった。

しかし、アジア諸国に対する恫喝及び、日本侵略作戦の切り札として成功したことには間違いなく、全てを合わせて合計3隻となれば、充分に脅威なものである。

 

その3隻の平らな飛行甲板には、無数の艦載機が並べられている。

遼寧は約60機、山東級は約80機。

前級《遼寧》には、かつて中国航空工業集団公司が中国人民解放軍空軍のために開発した第5世代ジェット戦闘機、中国初とも言えるJステルス戦闘機、一部では『カラス』と呼ばれたJ-20だ。

コソボ紛争で撃墜されたF-117の残骸から得られたステルスの技術情報などを利用して開発された謎の機体とも言われていたが、驚くべき事に着艦フックを装備し、改造した艦載機型に施していた。

 

山東級空母には漆黒の隼を思わせる艦上戦闘機・マルチロール機として運用されていたステルス艦載機J-31戦闘機が見えた。

米海軍やNATO同盟国海軍でも、未だに現役のステルス戦闘機として運用されているF-35シリーズと、ロシア版ラプターと言われるSu-57などと同じく、将来的にはライバル機として囁かれていた。だが、中共崩壊時にはパキスタンやエチオピアなどの親中国家以外に制式採用されることはなく、自国からでも役立たずのステルス戦闘機扱いまでされ、重要課題である実戦経験及び、F-22すら凌駕するほどその満足な性能を発揮することなく消え去ったのだった。

 

《……何ということだ》

 

あらゆる方法で稼いだ軍資金、その潤沢な資金に恵まれたオリンピア軍は、自分たちで製造、他国からの兵器購入もだが、反日三ヶ国崩壊時に放棄され、稼働可能な空母や駆逐艦、ステルス戦闘機を大量に鹵獲し、全ての搭載エンジンや装備を含めて、近代化改装を徹底的に施し、この大規模な戦力に加えたのか、と、提督一同は推測した。

 

「ふふふ。どうだ、下等生物ども。私たちの兵力はかなりの物だ。それに我が同盟国、オリンピアにはまだまだ秘密兵器が……」

 

《その辺にしておきなさい、深海皇女様。我々のサプライズなどを、彼らに見せるのはまだまだ早いわよ?》

 

深海皇女の声を遮るかのように、囁き掛けた第三者の声。

冷たい白い霧に閉ざされた海上から、巨大な影が移動している。

ゆっくりと近づき、季節外れの霧から現れた奇妙な艦が、広大な敷地を思わせる円形の艦体を持つ異形な軍艦が現れた。

円形の艦体中央には、まるで中世ヨーロッパ時代の権力者たちが持つ象徴とも思わせる城上の構造物を持ち、左右には塔に似た煙突を配置。城郭や要塞に備える火砲の一種、臼砲を4門搭載し、両舷にはVLS垂直発射装置を2基、無数のRIM-116 RAM近接防空ミサイル発射機、CIWSなどを搭載した水平線に突き出した異形の海上城塞。

全ての者たちの双眸はおろか、心さえ恐怖の底へ突き落とすような巨大な城が、薄い煙をたなびかせ、ゆっくりとこちらに向かってくる。

 

《城だ。奴らは、動く城までも連れて来たのか……》

 

茫然と独語した提督が、唖然として言った。

幻想世界としか思えない光景が、現実味を帯びた。

その時、全ての者たちの視界を、眩い光が光ったかに見えた。

あの海上城塞から放たれた複数の光が照らし出し、嘗めるように移動して、その上方から臨場感がある巨大なホログラムが展開された。

その光の中に浮かび上がったひとりの女性。姿を現した直後、深海皇女とは裏腹に、落ち着きをはらった態度をして口を開いた。

 

《初めまして皆さん。私はオリンピアの長である《グランド・マザー》と申し上げます。以後お見知りおきを。楽しいお取り込みのところ申し訳ありませんが……、どうしても今のうちにお知らせせねばならない島国日本からの宣言がありますので。この私が直々に参りました》

 

戦場にも関わらず、慇懃に頭を下げるグランド・マザー。

オリンピアの長が直々に出向くとは、一体何事だ、と、せわしなく身体を揺らして、怪訝な顔を向けた提督一同。

 

《……では、私からの手短な宣言を申し上げます。本日、我がオリンピアは、日本に宣戦布告を致します。開戦理由は単純。あなたたち愚かな人類そのものを殲滅させて、私たちによって選ばられし者である女性や子ども、哀れな労働奴隷である男性らが築く本当の《地上の楽園》を築き上げることで、真の平和を讃える国家による新たなる時代の幕開けを示させる》

 

深海棲艦との戦いに、新たなる敵とも言えるオリンピアからの宣戦布告を聞いた提督一同を含め、全ての陸海空軍兵士たちが騒めいた。

しかし、グランド・マザーはそれらを黙らせる威圧感の込めた言葉を言い放った。

 

「バカな……」

 

提督は愕然として、思わず唸った。

 

《呆気にとられて、馬鹿みたいに驚いているのかしら? ……要するにあなたたちが地球という恵まれた奇跡的で、最高の環境で生き物に湧いたバクテリアだとすれば、私たちはそれを発見し、破壊しに来た免疫抗体のようなものです》

 

自分たち以外の存在すら許さない、それ以外は無慈悲かつ、下等生物、食用家畜はおろか、ゴミを見るように双眸を細めて、淡々と――

 

《この母なる海にとってみれば、あなた方人間の活動による恩恵など何一つないものよ。……例えるならば資源を食い荒らし尽くすあなた方交戦主義な無能提督、それに何の躊躇いもなく尽き従う愚かな傀儡人形と化した艦娘らは海に浮かぶ、ゴミそのものなのよ》

 

その場にいた者たちは、言葉を失いかけた。

 

《だから、まず世界に新たな時代の幕開けを知らせるために、その必要な犠牲者として、この日本を選んだの。もっともあなた方なんてか弱い赤子らをあやすようにここ数ヶ月、私の手の上であやして上げるくらい、平和ボケした日本なんて簡単に捻り潰してあげるわ》

 

冷徹な口調で言って、グランド・マザーは提督一同に眼を向けた。

逆にオリンピア軍や深海棲艦たちは、自分たちを気にかけてくれる眼差しから、胸の奥底に、喜びに似た思いすら湧いてきた表情を見せていた光景に、提督は、妙なものだ、と怪しげに首を傾げていた。

恐らく子どもに対する慈悲深く溢れる母性が、その魂を魅了するように、その身で、もっとも得難い才能――カリスマ性と、軍事的才能を併せ持つ稀有な人格を持ち得た幸運を兼ね備えているように思えるのだろう、と推測した。

 

《だけど、チャンスを与えあげるわ。要求はただ一つ。一週間……、この一週間の間に無条件降伏という答えを出し、日本本土全てを我々に明け渡すこと。我々は慈悲深く寛大なものだ。大人しく我々の要求に応じれば、其れなりの寛容な余地を与えましょう。但し、要求に応じずに歯向かう者の先には勝利はおろか、服従しない者には破壊及び、殲滅するのみ》

 

まるで天使の顔をし、心の中で鋭く鎌を研いだ死神の軍団と、全てを押し潰さんとする海の魔物たちそのものだった。

 

《では、お別れの最後に……絶望の淵にあるあなたたちに希望の言葉をプレゼントしようかしら。かのプロイセンの将軍曰く、『栄冠は最後の勝利者に与えられるものだ。その経過がどうであれ最後に勝ったものが勝利者だ』という事だから、あなたたちも精々頑張りなさい。アハハハハハ!》

 

グランド・マザーは不敵な笑み、勝利を確信を込めた笑みを浮かべると、サッと踵を返した彼女の姿を最後に、プツンと立体映像が終了した。新たなる宣戦布告を告げたことに満足をしたのか、彼女が乗る円形の艦艇が、ゆっくりと動き始めた。そのタイミングに合わせ、漆黒の巨艦たちも一糸乱れずに陣形を組み、外海まで引き上げていく。

深海皇女と深海執事長を含め、全ての深海棲艦たちも最後には幽霊のごとく、スゥ……と消えているかのように後退したのだった。

 

去りゆく浮かぶ城塞の群れと、深海皇女ら率いる鉄の艨艟に対して、誰もが攻撃をぐっと堪えざるを得なかった。

――くそ、冗談じゃないぞ。胸のうちで悪態を吐き捨てながらも、提督はただ彼女らを見逃がす以外に方法はなかったのであった……




今回は僅かですが、深海執事長の力を目に焼き付け、グランド・マザー率いるオリンピアの増援部隊を披露後、新たなる戦いの始まりとも言える宣戦布告を告げるという回でした。

深海執事長が披露したミサイルを蹴り返す技は、『Shinobi -忍-』の続編『Kunoichi -忍-』を元にしています。初めて見たときは笑いましたね。ニンジャだから出来る、いいね?
まぁ、彼女には後々まで活躍することありますからしばしお待ちを。

空母は好きな架空戦記もですが、某有名な漫画も参考にしています。
現実では通常型搭載でありますゆえに、超日中大戦でも中国がそれを持っていましたから此方を選びました。艦載機に関しても現実味がある方が良いですし、近代化改装したら、旧式機でも充分に戦力になりますからね。
えっ、某実写版空母映画?いいえ、知らない子ですね(赤城ふうに)

海上城塞の元ネタは、円形砲艦ノヴゴロドを元にしています。
あとは適当に好きなロボットアニメに出た敵要塞も、一部参考にしていますが。初めて見た際は、未確認航行物体かな?と思いましたし、開発者もよくこんな砲艦を生み出したなと思いましたね。
撃った際に回るなんて、どういうことなの?とも……
これが空を飛べる様に開発していたら、UFOと間違いそうですね。
ソ連時代ならばあり得そうかなと。何しろ超音速爆撃機や原子力爆撃機から破天荒な潜水艦など造ったのですから……

では、長話はさておき……
次回は後日、もう一つの戦いになります。
こういう辛い時こそ、希望のあることを信じ、戦う提督・古鷹たちの活躍をお楽しみに。因みに悪い奴らも成敗致しますので、此方もお楽しみを。

来月まで収まることを祈り、次に備えて、第二、第三の襲来にも負けず、希望を忘れずに執筆活動を頑張ります。

それでは、第61話まで…… До свидания(響ふうに)

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