第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
更新を楽しみにしていた読者の皆さん、更新が遅れまして申し訳ありません。

前書きはさて置き、今日は衣笠の戦没日であります。第六戦隊が好きな私にとって艦これをプレイして始めて来た重巡洋艦娘であり、第六戦隊メンバーですから今でも忘れません。
激戦のソロモン海戦、サボ島沖海戦、そして第三次ソロモン海戦で勇姿を、彼女とともに奮闘した沢艦長や乗組員たち、諦めずに最後まで日本の為に戦い抜いた全ての英霊たちに感謝の言葉を込めて、黙祷を致しましょう。

では予告通り、古鷹たちの海戦です。
少しだけですが、其れに伴い、新たな敵キャラも登場しますのでお楽しみを。

長いようで短い回ですが、いつも通り楽しめて頂ければ幸いです!

それでは、どうぞ!


第71話:孤高の黒騎士 前編

柱島泊地沖合

X-day 時刻1100

 

最後まで何処までもしつこく付き纏うストーカーというよりは、逆恨みを晴らす為だけの追尾者こと黒田、彼に従うならず者の泊地襲撃部隊を撃退する提督と同じく、海上ではもう一つの熾烈な戦いが繰り広げようとしていた。

 

「行くよ、みんな!」

 

古鷹の号令一下。普段は誰にでも優しく大人しい彼女も、いざ戦場に脚を踏むと、引き締まった表情を見せ、決意に満ちた顔で抜錨。綺麗な並びで抜錨する加古、青葉、衣笠もこれに続く。

なお彼女たちを護衛するのは阿武隈を旗艦にした、初月、五月雨、涼月などの水雷戦隊。支援艦隊には赤城たちや基地航空隊も、火力支援も兼ねて出撃する。

古鷹は思う。海に抜錨する度に全身に振動が走っていく。右手を、その拳をギュッと固く握り締めて、疾風を切る一羽の大鷹の如く、猛禽類に似た闘争心を孕んだ瞳を煌めかせて、海上に着水。直後、白波を蹴り上げて、前進する。由来となったあの山のように、みんなを導き、そして荒れ狂う戦火の泊地近海海域へと。

 

《This is my earth(ここは私の地球だ!)》

 

木霊する砲声とともに、敵艦長の声。

海上要塞、若しくは各国の大富豪たちが満喫する海上都市にも相応しいほどの大きさを感じる仮装巡洋艦。その古城とも思わせる艦橋に佇む敵指揮官の姿。

 

古鷹は、眼を細めて水平線の向こうを眺めた。

さながら一昔前に騒がれた某国の有名なエコテロリストに酷似していた。ヒステリックかつ、若さ所以に持つ知識も乏しく、環境活動と言いながらも反した事ばかりを披露するだけでなく、インドでテロ扇動を促し始めてからは、誰もが耳を傾けることはなかった。最後は『ここは私の地球だ!』や『自分は選ばれし神の子だ!』と、意味不明な言葉を連呼しながら、次第に誰からも忘れられた存在として消え去っただと言われている。要する親も親なら子も子である。

……果たして本人なのか、それとも本人を心酔しすぎて、世の中には自分を勝手にそう思い込んでいる狂信者がいるが、真相は定かではない。何方にしろ、敵であること、そして倒すことには変わりない。

 

「撃ち方始め!」

 

砲撃開始。正義の鉄槌を下すような勢いをつけて、撃ち放たれた各口径の砲弾がオリンピア・深海合同艦隊に降り注ぐ。

漸く気が付いた敵艦隊は回避行動に移る。しかし、憐れにも回避行動が遅れた者たちは鋼鉄の矢に見舞われて耐え切れず、炸裂した地獄の劫火に包まれて爆沈及び、焼死する個体は力が尽きて、この蒼く澄み切った海原に深く深く沈んで行く。

 

《あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!よくも!よくも!やったな!ここは私の海だ!私の地球を汚すな、私の海を汚したり略奪すると、全ての国家権力に媚びる環境破壊者どもなど容赦などしないぞおおおおおお!》

 

溜まりに溜まった怒りを、荒々しく発した女性指揮官。

英語から、一生懸命勉強して覚えたであろうと思われる日本語を発する。憤慨。腹の底から張り裂けるばかりの罵声を、戦場で怒りを抑え込めずに命令を出し忘れている時点で艦隊指揮を担う指揮官としては、青二才はおろか、有名と言うだけで昇進しただけの無能な著名人、そして使い捨ての指揮官と言ってもいいだろう。

 

名前は忘れたが、のちに環境大臣に任命されたが、悉く愚策を生み出して、環境問題やエコ対策という資金調達を使って、名目に国民の資産を税金と称して合法的に奪っていくことしか考えなかった無能かつ傲岸不遜を露わに、事ある毎にポエムを口にする無能な大臣や自らを神及び、女帝を名乗る知事たちがいたな、と古鷹たちは思い出した。

 

実際にCo2排出による地球温暖化というものは物的根拠もなければ、科学的根拠はなくに等しく、同時に国際エネルギー機関(IEA)による化石燃料由来のCo2排出量の調べた結果では、日本は中国(28.3%)や米国(14.7%)、EU(9.4%)等に比べて、排出量は僅か3.2%という圧倒的な少なさで、この欺瞞に惑わされてもなお、生真面目に環境対策を取り組んでしまったがために、全ての産業界及び、そして国民の生活にも大打撃を受けてしまう事に繋がった。

況してや再生可能エネルギーでは日本の電力はおろか、全ての経済活動を続けるために必要不可欠な資源や電力すら到底賄えない。その過酷な状況下で推進することは産業弱体、経済衰退を意味し、つまり行く先は『死』を意味していた。

 

その事も知らず、まんまとEUと中国の策略による日本弱体化計画、この罠に嵌められたものだった。欺瞞とも言える会議では後者は出席もしなければ、未だに差別意識・人種差別が激しい欧州は、いかに日本から多額の金を取るための事しか考えしかなく、自身が懸念払拭していると宣言しながらも環境活動などは無関心に等しかった。

この不毛な対策に賛美、生真面目にも雑巾をさらに絞り取るような愚行を繰り返しては、産業国家でもある日本、特に産業界の大半を占めす大手自動車産業の涙ぐましい努力を嘲笑うかのように愚息な環境大臣たちは冷遇しては、前首相の経歴を持つ父や大物議員らを盾に、そのコネを私腹を肥やすために使い、炭素税など国益を削ぐ愚策を促進。更には本当の意味を理解すらしていない横文字を呟いては、無知ゆえの発言に加えて、SDGsや脱炭素という偽善行為を掲げては、正気の沙汰とは思えないことを云い張る始末だった。

しかも、当時から此れを利用して世界覇権を握らんとばかりに企てる中国が推進した再生可能エネルギーを、実態はウイグル人を強制連行・労働させて製造した太陽光発電パネル、有毒ガスも含まれ、爆発が多発する安全性に欠けるEV車を大量購入及び、さらなる推進を加速化させては人権弾圧・大量虐殺などに黙りを貫き、目先の利益を優先に伴い、根拠なき根拠を信じ、専門家たちによる科学的根拠を無視しては、左派メディアなどの顔ぶれとして、有名な身内の者と、そして媚中派与野党議員たちと結託して綺麗事を吐いては、裏では中国から貰った潤沢な資金を得ては、毎日のように贅沢三昧を謳歌しては、日本経済・産業を弱体化、日本経済衰退及び、日本破壊計画を地道に行なっていた。

 

――しかし、中国は深海棲艦により滅ぼされ、有事となった状況では、その様な私腹も長続きはせず、最後には元帥たちにより、次第に追い込まれて最後には全員が逮捕される。死刑ではなく苦痛よりも重たいという護衛なしの流罪を言い渡され、人数分に用意された稚拙なイカダに縛り付けられて流された。直後、空腹状態の深海棲艦に襲われて無惨に引き裂かれ跡形もなく喰われるという、因果応報の最期を遂げたと言われている。

だからこそ、その世界の破壊者たちの亡霊として甦り、わざわざ下らないために復讐しに来たのだろうが、逆恨みも良いところだと全員が同じく意見を述べたのだった。

 

「……相手はそうは思ってなさそうね」

 

古鷹の言葉通り、相手は構わずに何かを呟いていた事を悟った。

 

その通りに、醜態を晒していたのだった……

 

 

 

 

《く、来るな!おい、お前たち!次の作戦が整えるまで私を死守しろ!私は援護も何もしないからな。だけど、この艦を傷つけさせるな!もしもこの約束を破ったりしたら、帰ったらママに言い付けてやるぞ!》

 

甚だしいにも程がある。たかが、撤退する程度の事。やはり無知は無知。精神的にも大人に成りきれずに子どものまま。グランド・マザーに言い付ける気か、この役立たずが、と隠れて舌打ち。今後のため、重要な特殊作戦とはいえ、こんな無能な指揮官の配下にいる貧乏くじを引かされた深海棲艦たちもまた同じ気持ちだった。とはいえ、このヒステリックで可愛げのない女指揮官には任せていられないと見切ったのか、生き残った者同士で集結、すぐさま艦隊陣形を取り、各員とも言葉を発しながら、砲雷撃戦準備をしていた。

 

古鷹たちが身に纏った無骨な艤装と反して、深海棲艦たちだけが持つ各深海艤装からは蒼白く独特な雰囲気を醸し出した。

澄み切った蒼い瀬戸内海とは打って違い、光の届かない仄暗い海の底に蔓延り、歯茎を剥き出しに獲物を求めて彷徨い泳ぐ異形の深海魚や海龍に模した艤装から、両腕に装着した西洋騎士が携える長槍にも似た砲身。護衛を担う駆逐イ級たちは怪獣にも似た雄叫びを上げて威嚇。数秒後、口内から隠し持った砲身が展開。各自はこの蒼海に散っていった仲間たちの仇、その恨みを晴らさんばかりに怒りの一撃を、各々とオレンジ色の火焔を吐き出した。

蒼海に囲まれた柱島泊地近海を、中世ヨーロッパに蔓延った死の病として恐れられた黒死病を模して、誰彼にも平等に与えて訪れる死の絶望を振り撒こうとする堕天使たちが撃ち放った鋼鉄の矢は、白熱を発して飛翔して、風とともに海を荒らすような砲弾の豪雨が襲い掛かる。

 

「左回頭!針路30度、砲撃を吸収!」

 

「最大戦速、取り舵一杯!」

 

古鷹に合わせて、加古が空を裂く号令を上げた。

復唱が返り、各員回避行動に移る。

古鷹はゆっくりと回避していく。加古、青葉、衣笠、阿武隈率いる水雷戦隊もまた、古鷹にならって左に変針した。直後、数発の砲弾が、海上に着弾。海中を深く潜り込み、数秒後に内蔵させていた信管が作動――炸裂音が響いた。衝撃に大きく震えた海面が、やがて夥しい数の水柱と突き立つ。周囲を切り裂く波が吹き上がり、水飛沫となって古鷹たちの頭上から降ってくる。

微かに鼻腔をくすぐる潮風と、一滴一滴に含まれた硝煙の匂いが混ざった海の驟雨が、古鷹たちが纏う制服や艤装を濡らしていく。

戦場に羞恥心は要らない。あれば、油断を生み兼ねないからだ。例え濡れ鼠になろうと脇水飛沫を拭いもせず、脇目も振らずに敵の攻撃を次々と回避していく。

足元から突き上がるような衝撃が襲い、古鷹たちの全身を上下に、或いは左右に揺さぶられるが、冷静さを忘れずに、海上を躍る波を巧みに読み取り、水を司る水の精霊たちを模して、海上を蹴り進む。

――お返しよと言わんばかりに再び20.3cm連装砲が咆哮し、数発を叩き出す。

 

闘志を刻み込めた砲弾が、大気を激しく震わせ、飛翔音が響き渡る。先頭にいた重巡ネ級及び、リ級たちを水柱が囲む。

艦隊の中央部と後部に一つずつ、閃光が煌めき、真っ赤な火球が出現した――水飛沫を巻き上げるように飛んだ砲弾が命中。砲弾の洗礼を受けた敵艦は堪え難い数百度の焔の衣を纏い、体内には電流が流れるような衝撃波が伝わり、やがて亀裂が生じ始めた。ものの数秒もしない内に、その身体を引き裂かれて千切れ飛んでいき、先ほど撃沈された仲間たちと同じ運命を辿る。一部の駆逐イ級たちは横転し、猛火に包まれて、鎔鉱炉から取り出したばかりの鉄塊さながらの惨状を晒していく。

 

「敵艦、同航主砲戦!」

 

すぐさま態勢を立て直して命令する古鷹。敵も受けて立つ、と闘志を燃やした瞳を露わに、それを望むかのように仕掛けてきた。

 

『撃てぇっ!』

 

互いに睨み合う古鷹と重リ級が、同一の命令を噴出させた。

眼も眩むばかりの閃光が、視界を染め上げる。

止まらないほど、この世の終わりのような轟音を伴って、双方の艦隊が水柱に包まれる。幾度も雪崩れ落ちる海水に洗われ、揺れる海上では古鷹たちが丹念に、弾着を観測する。

白昼の砲撃。双方の斉射。機関を振り絞っていきながらの海上戦。殺到。砲撃戦で起きる双方の異なる煌きが走る。合わせる意図もなく、まるで死と炎の饗宴が、いつ果てるともなく続いていくように、灼熱した双方の砲弾は海水を沸騰させ、熱湯と化して煮え滾らせていく。肉弾戦を彷彿とさせるような、熱気や吐息が伝わってくるような撃ち合いは、鍛え上げられた女武者を思わせる秀麗な両者とのぶつかり合いだ。

堪えながらの的確な射撃を加えて大揺れに揺れる海戦は、双方の撃ち合いは一歩も引けを取らないほどの互角だった。

ほぼ同時に、駆け上がる通信。それを聞き取った青葉が眼を輝かせて声を張り上げた。

 

「古鷹、赤城さんたちと基地航空隊から入電です!本文、我、只今より戦闘に加入し。敵襲撃艦隊を撃沈せんとする!との事です!」

 

「友軍機が来たよ!」

 

青葉と衣笠の言葉通りに、澄み渡っていた碧空から轟々と桁ましく押し寄せて来るレシプロエンジンが鼓膜を震わせた。

首を上げると、点々と黒く染めていく鋼鉄の猛禽類たちが群れをなして飛ぶ姿が、各自の瞳に映る。赤城・加賀・大鷹・神鷹・龍鳳の合同戦爆連合部隊。

濃紺色の機体、類いまれな運動性と重装備を与えられた烈風改、細く身軽な機体と空冷式エンジンを持つ零戦。双方に護られている雄々しく飛翔する海鷲にも似た艦爆と艦攻――重い500kg爆弾を抱えた彗星が、航空魚雷を抱いた流星改が群れをなしていた。

その彼女たちの艦載機よりも、ずっしりとひと回り大きい機体に、鷲を思わせる主翼には2基の火星エンジンを低く、たくましく響かせて、銀色の光を浴びる基地航空隊所属――爆撃と雷撃の二役が可能な双発陸上攻撃機、一式陸攻が姿を現した。各機体が、その機数、100機前後。翼を連れて、上空を突進する赤城たちの合同艦載機部隊、一式陸攻による基地航空隊を見つめた古鷹は進言する。

 

「よし、みんな!航空隊の攻撃と、同時に一斉に葬り去るよ!」

 

その歓喜は、古鷹たちを波及した。

三次元の機動を旨とする航空機による相手をすれば、幾ら巨体を誇る仮装巡洋艦も、対空兵装を纏っても限りがあり、自在に空を舞う航空機には限界があり、それどころか自在に攻撃を選べるため、敵艦はひたすら防御態勢ならび、回避を強いられるからだ。

敵の砲撃は、入念に測距を行ったときこそ、恐るべき脅威になる。裏を返せば、照準をさせなければ恐れる必要はないということだ。だから先ほどのような砲撃は不可能となり、必ず回避行動に専念する。例え隙を見つけて砲撃してきても、当たりはしないものだ。

 

「各自砲撃を休ませないで、撃ち続けて!赤城さんたちにも負けないような戦いを見せて!」

 

放たれる叫びと化した砲火を放ちつつ、古鷹たちは進撃する。

突撃していく彼女たちを見て、先頭に立っていた烈風改部隊が大きく翼を振るなり、一気に高度を下げていく。金属の翼を持つ俊敏な猛禽類たちも倣うかのように、各機攻撃態勢を取り、自分たちが擁する必殺の武器を投げつけようと身構えていく。

その光景は見惚れるほど、熟練した武士の集団が、名将たちの采配の一閃で、一糸乱れず動く戦国期の合戦を思わせるように――

 

 

 

 

 

「艦娘とは論理的な思考が出来ないもののようだな。力の差があると知りながら抵抗してくるとは……全く不可解だわ」

 

仮装巡洋艦《ハドソン》から外に移り、血の色に似た光が凝って、閃光と爆炎に揉みしだかれる海戦を見つめている深海皇女は、馬鹿にしたように鼻を鳴らし、首を振っていた。

泰然自若。戦場にも関わらず、精鋭護衛部隊に護られながら、海の上でティータイムを嗜んでいた深海皇女。簡易に設けられた携行用セットとはいえ、上流階級の精髄の一つを、この象徴とも言える用意された食器や軽食も肌理細やかさが配慮されているほど見事なものだ。

 

「……深海執事長。相変わらず良い腕前ね。とてもいい香りだわ」

 

深海皇女は、金色に輝く装飾と金色に輝く装飾と深い青色で施されたティーカップを持ち、芳醇な香りとともに、透き通るような綺麗な青色が特徴的なバタフライピーが入ったティーカップに口を付け、ゆっくりと熱いものを啜り、その味を嗜んだ。

 

「感謝の極みです」

 

「ふふふ。其れから、あの可愛げのない使い捨てのアレ、名前は確か忘れたけど、覚える価値すらないあの役立たずのボロ雑巾にうるさい小鳥と艦娘どもを出来るだけ釘付けにするように暗号を送りなさい。これ以上の鑑賞はあくびが出るほど退屈極まりないものだからね」

 

瀬戸内海の海面が陽光に照らされて、眩い縮緬模様を見せている。その一角を指し示し、深海皇女は親しみを込めた声音で言った。

 

「はい、畏まりました。皇女様」

 

彼女の側にいた忠実なる側近、深海執事長は暗号を送った。

所詮は浅はかなで愚かな生き物。幾ら死のうが構わないし、今後の作戦に支障がなければ替えが効くものとしか見ていない。

ただ、この間はあの口の悪い幽霊野郎と重巡の小娘たちに、痛い目には遭ったのは思い出しただけでも今にでも腸が煮えくり返るが、全力を出せば、この私の敵ではない。何時でも捻り潰せる。そう確信しているような、深海皇女の言葉だった。

しかし、返ってきた言葉は、深海皇女が思っていたより意外なものだった。

 

「……皇女様。お言葉ですが、敵を見縊ることは隙を生み兼ねないと思われます」

 

「この間は私のミスそのもの。私は、全ての者たちの、幸福のみを願って戦うあまりに熱くなるものさ」

 

堪り兼ねた口調で落ち着いた異論を唱える深海の者に対して、鷹揚に頷いた深海皇女の双眸が、優しく和む。普通のものならば、その笑みの裏に隠された、冷たい光を悟って身震いしたに違いない。

 

「今日まで、此れまでの立場を考えずにあ奴らの跳梁は許しますまい。博愛主義は、我が真なる思想とは異質なものだ。私は寧ろ、全ての者たちの幸福に貢献しないものと見ている。なにしろ、その信念を持つ者ほどひとまとめにして吹き飛ばしたいものさ」

 

深海皇女は親しげに笑う。

近親憎悪。グランド・マザーといい、そっくりそのもの。と内心に呟きながら、落ち着きをはらって、その者は頷いた。

 

「無論、私は奴らを叩き潰すに足る戦力もある以上、我らがこの海を握るための偉大なる一歩を他ならない。所詮は陸の上でしか知恵が回らない者どもに、昔からある『武士道』という甘い言葉を重んじる輩に振る舞うパンなど、有りはしないものだ。そうだろう?」

 

その事を知ってか知らずか、その人の良さそうな瞳を、一瞬冷たい光を放つように、深海皇女は笑みを交えた声音で言った。

だが、深海皇女の表情は、自分の野望を決して揺るがない鋼の意志を携えた、世界の全海域を統治せんと企てる、冷酷な独裁者のものに戻っていた。

 

「……言うまでもないことです。どんな強敵でも正々堂々と打倒致します。皇女様」

 

その者の双眸には、闘志を漲らせて、天駆ける戦乙女を放つ瞬間は、刻々と迫りつつあった。




今回はまだ序盤となる海戦になりましたが、此れぐらい迫力ある海戦を執筆したのは久々ですね。
予定に狂いがなければ、先月末に出せる予定でしたが、新作計画及び、その準備として執筆していました所以に。大好きな中里融司先生の作品、架空戦記の中では異作、不思議な架空戦記ですから、艦これにも合うかなと思いまして。いつ投稿出来るかはまだ未定ですが、ある程度出来たら投稿したいな、とも思いますので暫しお待ちを。

次回はこの海戦の続きに伴い、少しだけ登場したこの新たなる敵キャラが姿を現しますのでお楽しみに。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみくださいませ。

それでは、第72話まで…… До свидания(響ふうに)

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