予告どおり、今回は敵への報復作戦となります。
果たしてどのようになっているかは本編を読んでからのお楽しみ。
いつも通り楽しめて頂ければ幸いです!
それでは、どうぞ!
黒木首相はこれらの報告を受け取ると、ひとり執務室に籠もった。
じっくりと今後のことを考えたかったからである。
閣議に掛ければ、様々な意見が飛び合うことだろう……と考えていたとき、壁の隅に霧が掛かったようになり、灰田が現れたのはその時だった。
「暫くですね。予想出来たとはいえ、オリンピアの速攻にしてやられましたね」
「うむ……用心はしていたのだが、我が戦力では防ぎ切れなかった」
「MDは困難なのでやむを得ないことです。ところで私が伺ったのは、貴方がたの意志を確認するためです」
「何なんだ」
「日本は過去何度も核攻撃に晒されました。貴方がたはこれに報復するご意思がありますか。もしもあるのならば、私が核ミサイルを御用意しますが……オリンピアが撃ってきたものと同様の威力があるを御用意するつもりです。
故にそれを北京や上海に撃ち込むことも出来ます。
世界はどこも日本を非難しないでしょう。やられたらやり返す。世界の軍事大国の常識では、それが当たり前のことですから」
黒木首相は暫く沈黙したものの、やがて頭を軽く振った。
「いや、それは出来ん。そんな事をすれば、彼女らと同じレベルになってしまう。日本はそのような野蛮な国ではない。れっきとした文化国家たらんと努めてきたからだ」
「ふむ、たぶんそう言われると思っていました。……それでは、これからどうなさるおつもりですか?」
灰田が訊ねると、黒木首相は答えた。
「うむ、何れにしろ報復はせねばならん。彼女らは図に乗ってまたやるかもしれないからな。その病菌は断たねばならん。
しかし核を用いるのではなく、通常戦力でやりたいと思っている。空母戦闘群や連合艦隊を出して先ず朝鮮半島、それから中国沿岸を攻撃する。オリンピアの軍事拠点を無力化しようと考えている。今や危険な龍になっているからな。
その後は……出来れば、台湾からオリンピア軍を追い出し、彼らを自由にしてやりたいと思っている。それもまたオリンピアに対する懲罰のひとつだ」
「それはとても良い考えですな。台湾人も喜ぶでしょう」
灰田はこともなげに言った。
「しかし私が心配しているのは、アメリカの出方です。
今の日本は《暁天》を含めれば空母4隻、これを1隻ずつに分ければ、5個空母戦闘群を持つことになりました。
太平洋の覇権国を自称するアメリカが、これを黙って見ているでしょうか。何かことを起こしそうな気がしてならないのです」
「その時はその時のことだ。また方策を考えれば良いだろう。ともかく私がいま考えているのはそういうことだ」
「分かりました。それでは今は私の出番はないわけですね。日本の一刻も早い復興を御祈りしています」
黒木首相は暫くして、再び国家危機管理委員会を招集し、首相官邸の地下に籠もった。当然元帥や提督たちも参加していた。
「私は軍の最高総司令官として、今まで受けた理不尽なミサイル攻撃について報復する決心をした。これは犠牲になった200万の国民の鎮魂のためでもある。
しかし単なる報復ではなく、寧ろ懲罰と呼んで貰いたい。
オリンピアが、再び我が国に攻撃を掛けられない程度に軍事力を叩く。これが懲罰たる所以だ。国民も納得してくれるだろう」
黒木首相の言葉に、先ず口を開いたのは元帥だった。
「納得するどころか、国民はおろか、我々もこの決断を待ち兼ねていたのです。我が軍も同じ気持ちですから」
以前ならば、防衛出動の概念から外れていると言われていたが、第一すでに一度攻撃を受けているわけだから、これは防衛と考えても良いわけである。
「朝鮮半島、もとい北朝鮮はどの程度叩くおつもりですか?」
中岡防衛相が冷静に訊ねた。
「これは統幕監部と詳細を詰めてもらいたいが、空軍力と海軍力を奪い、それにミサイル基地及び、核燃料施設、生物化学兵器工場を叩きたい。
陸軍力については手はつけられないし、今は手をつける時ではないだろう」
この点は何れ満州軍との協力が必要不可欠になるだろう。
問題は中国方面だが、海軍と空軍基地を叩くつもりだった。
「国土が小さくなったとはいえ、敵空軍基地は大陸内部に多数あり過ぎて叩き切れんでしょう。その場合、沿岸地区の位置に限定してもよろしい。またミサイル基地も出来る限り叩く」
防衛相が言った。
「出来るならば、その次には我が同盟国でもある台湾を解放するつもりだ。これは武力で占領されたわけであるから、これを解放するのは東アジアの民主主義国家である我が国の責務である。
簡単に言えば以上だが、統幕監部は各幕僚長と議論を尽くしてもらいたい。何か、質問は?」
首相の言葉は無造作で言っていることは決して簡単ではなかったが、それだけ凄味を感じさせた。
考え抜いた末の言葉だと言うことが、全員に分かったからである。
元帥および提督たちは空自幕僚部と協同して、先ずは北朝鮮攻略の青写真を描きに掛かった。
「当時の北朝鮮軍の場合、真に脅威なのは100万人の陸軍のなかで、特に8万人がいると思われる特殊第8軍団が問題だが、それらがいない今はオリンピアに代わっていると言うが、それには手をつけないで済む」
土橋統幕長は説明した。
かつての北朝鮮空軍力と海軍力については、実は双方とも貧弱なのである。
先ず前者だが、旧式戦闘機を含めれば作戦稼働機は600機。
主力戦闘機であるMIG-29《ファルクラム》だけがまともにあるものの大した数しか保有しておらず、主力となるのはMIG-23《フロッガー》およびMIG-21《フィッシュベッド》で、これらは二世代、三世代も遅れた戦闘機である。
旧ソ連から輸入された旧式の爆撃機や輸送機も持っているが、これらの機体は全て韓国侵攻のために、首都ソウルを急襲するために準備されたものたちである。
一方後者は極端に言えば沿岸海軍であり、保有艦船数は640隻。
東海基地と西海基地に分かれているが、日米などのような大型艦船は持っておらず、大半が艦対艦ミサイルを搭載した哨戒艇やミサイル艇がほとんどである。
また22隻のロメオ級潜水艦を保有しているが、これは潜水艦の世界では骨董品とも言っても良いだろう。
旧ソ連から買い付けたロメオ級に加えて、ウイスキー級潜水艦も4隻を合わせれば、たったの26隻に過ぎない。
「要するに北朝鮮方面に存在するオリンピア海軍は、護衛艦群や連合艦隊がまともに相手をする敵ではないということだ」
土橋は指摘したが、問題は核処理施設とミサイル基地である。
ノドンやスカッド、極超音ミサイルは移動式なので叩くのは難しい。テポドンなどは固定式・引き込み式である。
「これらは適当に叩くほかはないと言うことになった。とてもピンポイントの攻撃は出来ない」
かくして、北朝鮮報復作戦は決められたのである。
灰田が貸与した空母戦闘群4隻に加えて、ニミッツ級空母《暁天》、そして連合艦隊は日本海に集結した。
先ずは日本海側の羅津(ラジン)と元山(ウォンサン)に置かれている東海艦隊基地を空爆した。
なにしろ合計300機以上の戦闘攻撃機及び、連合艦隊が参加する作戦なのだから、過剰攻撃も良いところである。
飛び上がった鋼鉄の荒鷲たちは、沿岸地域で活動しているオリンピア軍哨戒艇部隊に標的を合わせて各々と攻撃した。
空気を切り裂く魔女の悲鳴にも似た突然の奇襲攻撃にオリンピア艦艇乗組員たちは呆気に取られ、各艦艇部隊は対空砲やミサイルで狙う暇もなく爆撃を受けた。
沿岸地域に停泊中の艦艇や潜水艦も同じ運命を辿り、たちまち双方の基地は反撃する術もなく木っ端微塵に破壊されていく。
反撃しようとウイスキー級及び、ロメオ級潜水艦が出撃して来たが、まるで演習でもしているかのように海自護衛艦や駆逐艦娘たちのいいカモにされた。
第一次攻撃を終えた強大な攻撃隊は補給後、すぐさま第二次攻撃を加えるために朝鮮半島を飛び越えて、西海基地にも殺到し完膚なきまでに破壊した。
オリンピア防空の要、北朝鮮沿岸地域や本土に配置された監視哨は、午前中からの攻撃で、甚大な被害を生じていた。
すでに黒煙が天を衝き、破壊された監視哨が無残な残骸を晒す。それでもオリンピア軍の戦闘機部隊は雄々しく舞い上がり、押し寄せる日本機の群れめがけて、猛然と打ち掛かる。
北朝鮮にいたオリンピアの防空網は、各飛行場からMIG-29《ファルクラム》やMIG-23《フロッガー》を始めとする旧式戦闘機部隊が飛び上がって来たが、空自戦闘機たちの敵ではなかった。
少なくともMIG-29《ファルクラム》は、ルックダウンやシュートダウン能力の高いレーダーを持ち、視界外射程距離ミサイルや近接空中戦ミサイルを持つ傑作機だったが、F-15Jなどの敵ではなかった。
制空権を確保した戦闘攻撃機部隊は核処理施設及び、ミサイル基地の始末に掛かった。
寧辺(ヨンピョン)や舞水端里(ムスダンリ)上空近くに辿り着くと、桁ましいエンジンを滾らせて、抱えてきた空対地ミサイルをひと息に投げ放った。
さらに、各機が機体をしならせるほどの勢いで急降下し、強烈な衝撃波もろともGBU-38 JDAMレーザー誘導爆弾を叩きつける。湧き上がる爆炎を掻い潜り、悪魔の叫びを思わせる衝撃音を鳴り響かせながら急降下をかけるシルエットは、日本空母戦闘群の要で閃光を彷彿させるF-35《ライトニングII》だ。
重々しい機体から放たれたMk84低抵抗通常爆弾が、オリンピア軍が命を捨てて守り抜こうとする核処理施設に命中して、施設職員たちの肉体もろとも爆砕する。
そして平安南道(ピョンアンナムド)の堅固な岩盤に掘られた洞窟のミサイル運搬車輌部隊を攻撃した。
此方には精密誘導地中貫通爆弾《ペイブウェイⅣ》を投下した。風切り音を残して落とされた爆弾は、頑丈な洞窟の中に潜む車輌部隊に命中した。砕け散った岩石とともに、信管が作動する。広がる衝撃波に伴い、全てを破壊する爆発は、炎に炙られて脆くなった洞窟を、ひとたまりなく粉砕した。
赤黒い爆炎が膨れ上がり、一度起き上がった洞窟が、脆くも積み木細工を崩すように倒壊していく。洞窟内に陣取ってミサイルを運搬していたオリンピア兵士たちは逃れる暇もなく、崩れ落ちる洞窟と運命を共にした。
そして元帥・提督たち率いる連合艦隊こと、NGF部隊が制海権を確保し安全を見極めた後、出来る限り沿岸地域に接近した。
F-2支援戦闘機や零式観測機が着弾観測を務め、オリンピア基地の場所について伝達した。
「砲撃、始め!」
「撃てぇ!!」
充分に距離を詰め、元帥・提督たちが命じた。
元帥配下の大和や武蔵に加えて、提督の古鷹たちの各部の主砲が咆哮し、白熱して飛んだ砲弾が、オリンピア基地内に着弾した。直後、ぱっと紅い炎が上がった。
「よし、良い戦果だ。斉射を続けるんだ!」
『はい、提督(司令官)!!!!』
提督の号令。古鷹たちは満を持して照準された主砲が偶然と咆哮し、噴き上がる発砲炎を貫いて、破壊的な運動エネルギーを注ぎ込まれるた砲弾が閃き飛ぶ。
しかもこのとき、撃ち放ったのは徹甲弾ではなく、三式弾を使っていた。
衝撃波を発しつつ叩き出された三式弾は、大気を力ずくで蹴飛ばしつつ、焼夷弾爆撃と同じ効果をもたらした。
たちまち市街地及び、敵基地は紅々と燃え上がった。
敵兵を焼き殺すと伴い、街や基地そのものを焼くのが目的でもあり、此方の攻撃力を知らしめるためでもある。
それには派手に火災を引き起こす三式弾が、最も相応しい。
叩きつけるような砲声が、続けざまにほとばしる。
大和や古鷹たちの各艤装に設けた主砲が閃光を発し、轟音とともに叩き出された砲弾が、衝撃波を振り撒きつつ落下する。
白熱した砲弾が、オリンピア基地めがけて迫ってくる。音速の数倍という速度で飛翔しているはずなのに、何故か砲弾がはっきり見える。
点々に見えた砲弾が、みるみる内に大きさを増してくる。
何時までも変わらない、その形を凝視して、死が避けられないことを直感したオリンピア北朝鮮方面最高総司令官――金青孫(キムブルソン)大将は、涙を溢れさせて絶叫した。
「く……くそぉぉっ!私は朝鮮半島の神だぞ!卑劣な劣等民族によって、私の朝鮮半島が、私の人生、私の……私は、まだ何も、成し遂げてないぞーっ!」
次の瞬間、鉄筋コンクリート造りの総司令棟に、46cm砲弾が直撃した。
金青孫の肉体は、一陣の血風と化して飛び散った。櫓を叩き潰された総司令棟が炎を噴き上げ、死者への手向けと思わせるように轟然と爆発した。
次々と火焔の花を咲き誇らせて、殴り倒されるように倒壊していくオリンピアの各重要基地。
それでも、砲撃は止むなく何かに取り憑かれたかのように、最後まで止むことはなかった。
今回は第一段階として、朝鮮半島支部に対して、徹底的な空爆と艦砲射撃を喰らわすという報復作戦になりました。
オリジナル版の『超日中大戦』でも同じようにしていましたが、ボリュームが少なくあっけなく終わってしまうので、もう少し詳しくやるならばこれくらいという気持ちで執筆しました。
扶桑さんたちに関しては、『超空の連合艦隊』にて北朝鮮軍の特殊部隊などを蹴散らすために支援攻撃を行っているのが元ネタです。あれだけの火力の前では敵いませんからね。ましてや数個旅団くらいの火力を備えていますから、戦艦の火力は。
長話はさて置き、次回もオリンピアに対する報復作戦を開始します。今度は何処を叩くのかはお楽しみに。
それでは、第89話まで…… До свидания(響ふうに)