予告どおり、今回もオリンピアに対する報復作戦を開始します。今度は何処を叩くのかはお楽しみに。
いつも通り楽しめて頂ければ幸いです!
それでは、どうぞ!
3日間で、朝鮮半島に対する懲罰作戦は終了した。
いったん各基地に戻った空母戦闘群や提督たちはすぐさま補給を行うと、今度は中国方面に向かった。
今回の作戦実行部隊名は《ゴジラ》と名付けられ、攻撃隊発進基地は九州及び、沖縄基地となった。
東シナ海海域には《アカギ》《カガ》《暁天》の3個空母戦闘群及び、連合艦隊が出撃する。
全ての空母戦闘群が出撃するほど、この海域は狭すぎるのであり、対潜警戒が混み合ってしまうからである。
「よし、攻撃隊発艦せよ。全艦合戦準備。防空態勢を密にせよ!」
戦意に満ちた瞳に切り替えた提督は、潮風に鍛えられた音声が、戦闘指揮所の空気を震わせた。
すぐさま《アカギ》《カガ》《暁天》の艦上に、各攻撃隊発艦を公布する警急電鈴が鳴り渡った。
作業にあたっていた甲板員たちが、大急ぎで退避する。
その足音をかき消すように、唸りを上げていたエンジンの轟音が、さらに大きく高まった。
地上の滑走路を海上に移したような、広大な灰色の飛行甲板上を、攻撃隊に参加する各機体が、誘導員の指示に従って移動する。
「どのような防空態勢を取ろうと、対応出来る数に限りはある。一度にそれ以上の数を叩きつければ、必ず防空網は破れる。飽和攻撃こそが、航空戦の真髄だ」
――後続力を活かしたアウトレンジ攻撃と航空攻撃は、つまるところ量という言葉を組み合わせれば、勝利は確実なものになる。
提督は物好きな笑みを浮かべ、ひと言命令を下す。
「攻撃隊、発艦せよ」
「発艦開始!」
号令一下、マストに揚がった指示旗が、勢いよく滑り落ちた。
エンジンの轟音が高まった。カタパルトに載せられたF-35Cの一番機が滑走を始め、灰色の母艦を後に飛び立っていく。
それを皮切りに、艦載機群が続けざまに飛行甲板を蹴る。戦闘機隊に続いて爆装した艦爆隊もこれに続く。
その光景は、欧州の伝説に描かれる、黒い城砦から飛び立つ龍騎士の群れもかくやと思わせる。
空母の戦闘指揮所は、艦内の奥深くに収められている。発艦する機体を肉眼で見ることは出来ないが、提督は心の眼で飛び立つ攻撃隊を見送り、一機ごとに親指を立てて見送った。
空を覆わんばかりの攻撃隊が、攻撃目標のある方角に向かって飛び去っていく。
「第一波攻撃隊、全機発艦!」
その報告を受けた提督が、顎を引いて言う。
「よろしい。引き続き第二波攻撃隊を上げ、速やかに発艦せよ。敵に息をつかせるな」
提督の指示に、昇降機が上下し、第二波攻撃隊を上げ始める。《カガ》《暁天》でも、戦闘機の割合をやや減らした以外は、ほぼ同編成だ。
AGM-84空対艦ミサイル《ハープーン》や空対地爆弾などを収納した、F/A-18E《スーパーホーネット》。
灰田が今回の作戦に齎してくれた機体であり、まさに他の機体を軽装備の兵士を従える、板金鎧を纏った重騎士を思わせる戦闘爆撃機は、二基のエンジンを始動して、飛行甲板へと這い降りた。
各機体問題なし。すでに始動しているエンジンが、耳を聾するターボファンエンジンの轟音が伝わってくる。
「F/A-18E全機発艦。2隻の空母をはじめ、全艦討ち取れ!」
提督の檄を受け、滑走を開始した双発戦闘攻撃機F-18E《スーパーホーネット》が、滑走路を蹴って舞い上がる。
次の瞬間、空気を捉えた主翼がずんぐりとした機体を宙に浮かばせる。重そうに、ゆっくりと、《スーパーホーネット》の機体は上昇を開始した。攻撃機は一機、また一機と、空を目指して昇っていくのだった。
高空に響くエンジンの轟音は、快調な回転を示していた。
高度5000メートルを飛翔する、流麗な銀色の航空機群。
天候は晴明。出撃時も毎回こうなら気楽なものだがな、と、合流した空母戦闘群の部隊以外はそう思いながら、操縦桿を握る空自隊長機率いるゴジラ部隊が、楽しげな口調で言った。
《隊長、前方、黄海が見えます。ふむ……どうやら、敵さん此方には気付いていないようですな》
僚機の千ヶ崎機の言うとおり、ごく微かな雲が、刷毛で薄く刷いたような雲を透して、湾内の様子が窺えた。
――なるほど、あれが攻撃目標の青島・北海艦隊司令部(姜各荘海軍基地)。無数の艦艇や深海棲艦が、基地内に木の葉を散らしたように停泊している。なかには動いているものもいて、荷揚げ作業の最中と思われた。
上空から海を見渡して、F-15JE《ストライクイーグル》攻撃隊の指揮官を務める雨宮一尉は、鮮烈な笑みを閃かせた。
《各機へ告ぐ。この機を無駄にするなよ。狙いはオリンピア空母だ。深海棲艦は放っておけ!》
雄叫びを上げて、雨宮一尉は機体を翻した。
銀色の主翼が陽光を跳ね返し、紅く染められた日の丸のマークが眼に眩しい。ゴジラ部隊の各機体は『地獄の突入兵』となって、次々と降下した。
ゼネラル・エレクトリック F110エンジンに引っ張られ、頑丈な機体が風切り音を鳴り上げる。その響きに気づいたオリンピア海軍の見張り員が頭上を見上げたときは、すでに手遅れだった。
「敵機直上、急降下ーっ!」
血を吐くような叫びが、オリンピア艦長を愕然とさせた。
「対空戦闘!」
すぐさま、対空戦闘の指示が飛ぶ。しかし、あまりに時間がなさすぎた。
飛来するF-15JE部隊が、次々に対艦ミサイルを撃ち放つ。
周囲から対空砲火を集中し、それを撃ち落とすべき駆逐艦も対応が遅れ、有効な射撃は成し得なかった。
無念の形相凄まじいオリンピア艦長に向かって、黒い丸となった対艦ミサイルが襲い掛かってくる。それは最後まで形を変えることなく、《遼寧》の艦橋及び、飛行甲板に突き刺さった。
轟音とともに、爆炎が噴き上がる。歯軋りしつつ見つめる深海棲艦の頭上にも、いくつかの鋼鉄の猛禽類たちの爆音が轟き渡っていた。
開戦以来、破竹の進撃を続けてきたオリンピア・深海棲艦に、初めての災厄が襲いかかろうとしている。各々の脳裏には、このときはっきりと、煌めく大鎌を振り下ろさんとする、死神の姿が映っていた。
次々と高空から舞い降りた戦闘爆撃機、F-15JEの編隊は、理想の高度を保ちながら主翼下に抱えていた対艦ミサイルを射出した。
カクンと音を響かせ、いったん機体から離れた対艦ミサイルが、蒼空を撹拌させながら突進する。噴き上がる白い航跡は、黄泉の国から舞い降りた死神が振るう大鎌の軌跡のように、無防備な艨艟群の横腹に突き刺さった。
止めてくれ!と敵兵たちは叫んだのだろうか。そう叫んだ瞬間、またしても耳を聾する轟音とともに、爆炎混じりの黒煙が高々と、天に向かって上がった。
直撃を受けた駆逐艦群が、艦首と艦尾を持ち上げて、ひとたまりもなく沈没する。
ようやく各艨艟群から対空砲火が放たれたが、掩護戦闘機部隊に護られていない停泊艦隊には、抗しがたい敵だった。
一隻、また一隻と、各艦艇や深海棲艦は炎を噴き上げ、沈んでいく。燃料が流れ出し、引火して、どす黒い煙が盛り上がる。
噴き上がる火煙は、新たな段階に突入した開戦の行方に立ち込める暗雲を象徴するかのように、降り注ぐ陽光を覆い尽くしていった。
再び眼も眩むような純白の閃光が煌めいた。光と灼熱の業火のなかから、禍々しい奇怪な雲が立ちのぼる。
為す術もなく、直撃弾となってオリンピア空母を炎上させている。
しかも艦橋を直撃された《遼寧》は言うに及ばず、《福建》もまた紅蓮の炎に包まれて、のたうつように旋回を繰り返すのみだった。
濛々と黒煙を上げつつ航進しようとするものの、飛行甲板は猛火に包まれて、小爆発を繰り返している両姉妹。
特に直撃を食らい艦橋構造物は倒壊し、紅蓮の炎に包まれていた《遼寧》はもはやいつ轟沈してもおかしくない。
台湾では常に最前線にあって修羅場を駆け抜けた姉の無残な姿が、《福建》の闘志を膨れ上がらせた。
艦の意志を体現するかのように、各対空砲火がほとばしる。
《福建》の右舷に搭載された、CIWSが全力射撃を始めている。叩きつけるような砲声が轟くなかを、HHQ-10とCIWSの間隙を縫うように配置された対空兵器が、けたたましく咆哮する。
猛然と対空砲火を放ちながらも、轟々と機関を唸らせながら回頭する。対空砲火を止まないうち、死の洗礼を逃れるべく、懸命に外洋へと目指す。
「敵戦爆、爆弾を落とした!向かってくる!」
黒い翼を思わせる戦爆が、陽光をさえぎって駆け抜けたあとに、一列に並んだ黒い誘導爆弾が、真っしぐらに迫ってくる。
狂ったような絶叫が、銃声と爆音、波濤の轟きをついて駆け抜けた。転舵を指示するオリンピア艦長の叫びが、高空から強襲をかける《ストライクイーグル》のアフターバーナーが奏でる悲鳴にも似た轟音と相まって、天空から鳴り響く、最後の審判を報せるラッパを連想させた。
一瞬の後、轟音が《福建》を揺るがした。爆炎が噴き上がり、爆風、砕かれた鋼板が飛び散って、豪雨を思わせる音とともに、装甲を打ち据えた。
「飛行甲板、中央部に被弾!格納庫まで貫通!火災発生!」
「右舷兵装に直撃弾!死傷者多数!」
艦内各所から寄せられる被害報告と、続いて入った報告が、《福建》の幹部と司令部全員を蒼ざめさせた。
「至近弾により、舵機損傷!機関は最大戦速発揮可能なるも、運動の自由を喪失せり!」
「舵が、やられたか……!」
オリンピア艦長の奥歯が、ぎりりと音をたてる。行動の自由を失い、ただ同一半径を描いて旋回を続けるのみの《福建》に向けて、さらなる急襲の轟音が轟いた。
北海艦隊司令部は阿鼻叫喚の巷と化していた。一瞬のうちに全てが損害を受け、そのなかには爆沈したものもある。追撃出来たはずの戦闘機部隊は、迎撃する前に屑鉄の山となってしまった。
2隻の空母から揚陸した機体も焼き尽くされて、無意味なジュラルミンの残骸と化していた。
搭乗員の被害も、膨大なものだった。飛行場に命中した日本軍の焼夷弾は、愛機に飛び乗ろうと走った搭乗員をもろともに、機体を火葬したのだ。
最新鋭戦闘機や爆撃機など、大戦に向けられるはずだったものまで、甚大な被害を受けている。稼働機数は、三分の一にも満たない30機程度で、それも飛行場が炎上を続けているために、出撃の目処もたっていない。
北海艦隊司令長官・宇春(ユーチェン)は司令部から状況をコントロールしようとしていた。だが、突如攻撃された艦隊司令部の混乱はひどく、重要な任務を果たすべき参謀や担当将校が何人も戦死、または行方不明になっていた。
とどのつまりとなった彼女は、あれこれと無理な迎撃命令を出しながら敵の攻撃を傍観しているしかないのだった。その間にも、自分の艦隊の置かれた状況はひたすら悪化の一途を辿っている――。たった今も。
「給油艦からの油が湾内に拡がっています!」
「なんだと!」
港の状況確認に出した将校が、絶望的な報告をして来た。重油は着底した艦艇や深海棲艦に纏わりつき、そこに向けて延焼が燃え拡がろうとしている。そう、油さえなければ修理して使えるはずの艦艇や深海棲艦が燃えようとしているのだ。だが、何も出来ない。燃え盛る油のせいで、消化艇も危険な状況だ。おまけに、日本軍の攻撃はまだ続けられている。
「長官、野蛮人どもの新手です!奴ら、重油タンクを攻撃してます!」
宇春は返す言葉を失った。なんてこと、あそこには北海艦隊全部を一年動かせるだけの燃料が備蓄されているのだ、と。
空母戦闘群から発艦した攻撃隊は、北海艦隊司令部の状況を機上で素早く確認した。黒煙が至るところから立ちのぼり、視界がずいぶんと悪くなっているが――概略をつかむのに苦労はなかった敵艦艇はひどい損害を受けている。やはり、タンクを叩けばいい。同時に一部にはドックのなかも叩かせよう。愛機の主翼を軽く振って合図した、俺について来い。突撃するぞ、と。
通信機からも直ちに突撃命令。F/A-18E率いる第二波攻撃隊は突撃隊形を作り、目標への接近を開始した。
北海艦隊司令部(黄海)は彼らに対し、最初に比べてケタ違いに激しい対空砲火を撃ち上げてくる。
だが複製搭乗員ばかりで編成された空母艦載機群は、巧みにそれを躱して簡単に突破した。彼らは紅蓮かつ激しい砲火をものともせずに突進し、主翼下に搭載したレーダー誘導爆弾や対地爆弾を目標への軸線に乗せた。
湾口に近い位置に設けられた重油タンク群に突入したのは、複製搭乗員直率のF/A-18Eと、一部のゴジラ部隊のF-15JEだった。双方はそれぞれ搭載していたレーダー誘導爆弾《ペイブウェイ》とJDAM誘導爆弾を、たっぷりと重油の詰まったタンクに投弾。両機の爆弾はタンクの薄い外板を貫き、直後、信管を作動させた。
空爆の衝撃は、眩い閃光を放って分散し、何百という火の玉が、いまだに消火作業を終えずにいるオリンピア兵士たちの頭上から襲い掛かった。
この空爆で、重油タンクの80パーセント以上が吹き飛んだ。しかもこの爆発はタンクの破損だけではなく、消火の際に非常に厄介な重油火災をも引き起こした。この火災により、かろうじて空爆から免れていたタンクも引火し、被害を拡大させた。いくつものタンクが、空気を入れすぎた風船のように破裂し、火のついた重油を黄海全体にばら撒いたのである。
対岸の海軍工廠や満身創痍の空母にも、攻撃隊が突入した。ゴジラ部隊のF-15JEが激しい対空砲火によって3機を失ったが、敵の基地機能を破壊出来る千載一遇のチャンスを前にして立ち止まるようなことはなかった。18機のF-35CはJDAM誘導爆弾を海軍工廠やドックに投下。そこに再建まで一年以上は掛かる損害を与えた。その周辺のドックの海軍工廠にも被害を与え、爆発の収まった数分後、かつて艦隊を収まっていたドックは完全に破砕されたのだった。
一方――空母の攻撃に向かったF-15JEやF/A-18E、両機合わせて12機が回頭している《福建》を発見。これを見逃す手はない。
数秒後、満身創痍の《福建》に12発の対艦ミサイルが命中した。白鯨を仕留めんとばかり放たれた12発の《ハープーン》が次々と突き刺さり、艦内で爆発した。彼女にとって致命的なのは、艦内に蓄えられた弾薬庫に飛び込んだ2発だった。
対艦ミサイルの炸裂と同時に火薬庫内のVLSやCIWS、近接防御火器などが誘爆。刹那、誘爆は誘爆を呼び、ほんの数秒の間隔で艦橋まで及び、4基あるVLSなどの火薬庫全部が爆発した。
艦橋にいた艦長及び、幹部らは全員肉片となり死亡。この爆発は彼女自身だけでなく、その周辺の艦艇にも被害を与えた。そこに存在していた空母は、奇怪な形にねじくれた巨大な鉄屑になって沈没した。やがて、海面を燃え上がった油がそこにもなだれ込み、地獄の業火は無差別に全ての艦艇を燃やし尽くしてしまった。
この《福建》の爆沈及び、北海艦隊司令部壊滅ほど、空母戦闘群やゴジラ部隊の第二波攻撃隊が成し遂げた偉大な戦果を象徴する出来事はなかった。
《全機引き揚げよ》
双方の隊長機が言った。
各部隊は兵装を使い果たし、空の彼方へと引き返した。
彼らは真珠湾攻撃のように航空機による奇襲攻撃で、北海艦隊司令部全てをあっさりと消し去ってしまったのだった。
今回もまた違う場所、敵にとって重要拠点を叩くという報復作戦を取りました。オリジナル版の『超日中大戦』でもやっていることはやっていますが、本当にあっという間に終わりましたので、ここでボリュームを付けて、真珠湾攻撃並みにしました。
参考にしたのは佐藤大輔先生の『目標、砲戦距離四万!』などと様々な架空戦記を参考にしました。幾度も架空戦記を手掛けた佐藤大輔先生ならではのIF戦記ものなので、幸運にも手に入れました。本当に架空戦記ブームでヒットした作品は手に入れるのは難しいので古本屋などで立ち寄った際は必ず確認します。
長話はさて置き、次回もまたオリンピアに対する報復作戦を開始します。今度は海戦になる可能性があるのでお楽しみに。
それでは、第90話まで…… До свидания(響ふうに)