ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~ 作:ド・ケチ
7エン 転校生
「突然ですが、転校生の紹介をします」
新学期早々、教室に入ってきた先生がいきなりそんな事を宣った。1年
俺が何でも知っていると思うな。睨みだけで答えた。よく知らない者はただ片羽が不機嫌なだけだと思うが、眼だけで会話できる一部の面々は正確に読み取る。本当にどうやって会話しているんですかね?
「では入って来なさい」
「ハイ‼」
『美形は敵だ !!』
後ろの方、近衛の席の辺りから魂の叫びが聞こえた気もするが、
「レン・エルシ・ジュエリア君です」
「やっと見つけたよ、ララちゃん。
ボクの花嫁」
自己紹介とか諸々の
どうでもいいので片羽は一途な近衛だなと思いながら雛野を見ると、不快な顔をしていた。守金とララをくっ付けようとする彼女にとっては邪魔だからなと納得し、守金の方を見る。護衛の観点から大丈夫なのかと比較的まともな事を視線で語ったが、問題ないと返す。だからあなた達はいったいなんで会話できるんですかね?
「さあララちゃん‼喜びを別ちあおう!!!」
「え~っと……
あなた誰?」
悪意なき言葉の一撃に転校生は膝を屈した。
「ま、いいさ。こんなことじゃ僕はへこたれないよ」
そんなセリフを涙目で言っても説得力はない。
「それよりララちゃん聞いたよ。
なんでも悪い男に騙されているらしいじゃないか」
気を取り直して会話を再開する。そしてビシリと指を指す。
「そう!君の事だよ。
守金長太!!」
自信満々指された男は
「違う!」
即座に否定した。
「貴方、初対面の男からも騙しそうな顔に見えるのね」
雛野による毒の籠った口撃が勘違いされた近衛に追い討ちをかけた。
「守金君はあっち」
そして正解の方を指すが、
「俺は騙していないし、間違いなくララさんを誘導しているのは片羽だぞ」
そしてバトンを渡す。
「俺としては誰と誰がくっつこうがどうでもいいが、絡んでくる親バカを全力で妨害しただけだ」
これはどういう意味かと疑問が顔に出たところで、
「ホームルームを続けるから四方山話は後にしてくれ。とりあえず夕方のホームルームまでジュエリア君の席は窓側最後列ね」
「ではこの問題がわかる人は?」
「ハイッ‼守金君より先に答えます!!」
そして正解。
「おー、これは1位の奨学金ヤバいな」
因みにこの学校では成績最優秀者は色々と優遇されていたりする。それを知っているから片羽はわりかし大きな声で煽り、守金も乗らざるをえない。
「では次の……」
「はいっ!」
言い切る前に挙手、そして正解する。
「レン君より守金が優秀だとはっきりしたな」
もう一方も煽る。
「ハイ!!!」
見事に煽られる。
「2位じゃダメなんですよ。1位じゃないとお金にならないんですよ」
「はいっ!!!」
「軽いな。君のララさんに対する愛はその程度か?」
「ハイッ!!!!」
「はいっ!!!!!」
「ハイッ!!!!!!」
「はいっ!!!!!!!!!!」
互いを煽り、どんどんヒートアップしていく。そして限界に達したところで
「守金、ジュエリア、お前ら廊下に立ってろ。他の奴の授業にならない」
教師からの宣告。何て事をしてくれるんだと片羽の方を睨み付ける。
「あと、そこで笑っている片羽、お前も同罪だ」
きっちりけじめを取らされた。
「じゃあ授業を再開するぞ」
教室内では淡々と授業が進むようになった。
一方廊下の三人はというと、
「あ~、面白かった」
「ないよ!!!」「お前だけだ!!!」
2人同時に小声で叫ぶ。
「でだ、何でララさんに惚れている訳?」
この機会を利用して聞いてみる。
「ボクとララちゃんの関係がとれほどの関係にあるかキミ達に教えよう」
そうして写真を見せる。
「何で女装なんだ?」
守金が当然な質問をする。
「あの頃のボクは女のコみたいだからからかわれ、よく女のコの格好をさせられていた。
毎日の様に発明の実験台にされ、ララちゃんはそれはもうイタズラ天使だった」
何処に惚れる要素があった?俺には検討もつかない。
片羽は困惑して守金に視線で送るも、マゾだからと納得したらダメかと返答される。この間、零コンマ2秒。
お前ら、口で会話しろ。
「なんでボクがキミと同じチームなのさ?」
「有能だと見られているからだよ。少なくとも、僕達の相手は人間の姿を残したままの化け物だ」
守金に食って掛かるレンを諌めるのは近衛。その相手は
「どうでもいいからとっとと投げろよ」
バッターボックスに立つ片羽。先頭バッターだ。
「とりあえずアレに勝てたら一対一で勝負してやるよ」
そうしてマスクを被った守金はキャッチャーへ、大きく離れて敬遠を指示する。
「何いきなり敬遠なのさ⁉」
「そりゃストライク投げたらホームランだからだろ。はっきり言って、満塁でも片羽には敬遠するべきだ」
「勝つ気があるのか⁉」
そう言う守金を無視してレンはストライクゾーンに投げる。ツーストライクやランナーが塁にいるならともかく、この状態なら溢しても問題ないという判断だが、
グゥワキ ン!!!
プレイボール直後のホームラン。
「だから言ったのに。勝つ気あるの?」
「ピッチャー任せたのが失敗じゃねぇ?」
悠々とホームインする片羽が間違いの理由を述べた。
「失敗はバットで取り返す!」
先頭バッターはレン。
「準備はいいか、阿部慎之助」
それは巨人の元キャッチャー。
「僕は礼治だよ」
片羽はキャッチャーと会話しながら指でサインを出す。といっても、何処に構えろと指示しているだけだが。構えた場所は内角低め。
第1球、オーバースローで投げた。
内角ギリギリ、しかし高すぎるボール球、からのフォーク。
遅れて振るも空振り。なお、ボールはワンバウンドしてキャッチャーミットの中に飛び込んだ。
2球目の前に、グラブを代えて左投げに変える。サイドスローでぶつけるようなコース。バッターが仰け反ったところからグッと曲がってストライクゾーンいっぱいに納まる。
3球目、右投げアンダースロー。内角高め、見送ればボール。しかしミットの位置はストライクゾーン。今までのコントロールと変化球から変化球だと思ってバットを振る。
コン!
変化はせずカスってピッチャーフライ。
「あれが片羽なんだよ」
2番の近衛がレンに言いながらバッターボックスに入る。
「あれと同じチームなら勝って当然負けたら恥じ。少しでも運動能力に自信があるならこっち側のチームになるのは仕方がないね」
今現在の1年
「俺しか見えてないようだから忠告しとく」
ネクストバッターズサークルの守金がレンに語る。
「片羽は身体能力こそ人並みより多少ましな程度だが、器用さという一点で非常識な領域だ。野球だったら、そこそこの球速で虹色の変化球をコーナーにきめれる、その一点だけでもプロにいけるだろう。加えて、左右どちらでも投げれてフォームが毎回変えれる。これで頭もいいし洞察も鋭いから、相手の裏をかいた投球ができる。最後のボール球なんてまさにそれ。むしろ頭脳を完璧に活かすための器用さと言うべきか」
近衛が守金に対して費やした球数、12球。最後は見逃しのストライクだった。そして守金は15球、なんとかフォアボールを選んだが後が続かず残塁、チェンジ。
エラーやら四球やらでたまに出塁されるもゲッツーもあって以降無失点に抑えるレン投手。対するはこの回先頭バッターで、前打席ホームランを打った片羽。
守金は立ち上がって敬遠を指示。今回は素直に敬遠するが、
グゥワキ ン!!
敬遠の球にジャンプして近付き、不安定な空中でバットを振ってスリーベース。あなたは岩鬼さん?
「そんなバカな……」
「済まない、外しかたが足りなかった」
なお、後続がスクイズをきめてこの回1点。
初回の守金以降出塁がなかったため、この回ラストバッターはレン。
お互いに待球作戦をとったため進行が遅く
故に普通に打っても勝負にならないからとセーフティバントを狙う。初球はど真中の球威控えめなストレート。普通に振っていたなら十分にヒットの可能性もあった。
しかしレンはこれを見逃す。
野球というスポーツを戦術的に見た時、バッターはストライク3つ分をとられる前に出塁できればいい。アウトを3つとられる前にベースを一回りさせればいい。それを達成する、或いは妨害するために、撒き餌や牽制といった心理戦を用いる。
今の一球は下手にヒッティングに変えていたらフライかゴロか、ろくな結果にならなかっただろう。そういう意味では片羽の読みは外れた。
2球目力の籠ったストレートのストライク、3球目スローボールによるボール球。
次の一球は直球、厳しいコースへのストレート。レンには打てないようなボールだろう。
ならば一か八かのセーフティバントを狙う。
三塁線ギリギリ内側を見事に転がるが、それさえ読んでいた。詰めていたサードが処理する。読めていなかったとすれば、
「よし!」
後攻チームが沸く。ファーストがボールを溢してツーアウト1塁。
次のバッターは近衛。
「どんまいどんまい。目の前の相手に集中していくよ」
片羽としてはそう答えるしかない。最後の力を振り絞って投げる。2球で追い込み、3球目。大きく縦に沈む変化球。空振り、三振。
ツーアウト、スリーストライク。本来ならここで攻守が交代される。しかし、
「走れ!」
守金の声に近衛は動く。キャッチャーはボールを捕れてるいなかった。振り逃げだ。
これでツーアウト1、2塁。
「ごめん片羽君!」
片羽はタイムをとる。
「ピンチじゃん」
早めに終わった女子の幾人かが男子の観戦にきた。その中で雛野が守金に言った。何処をどう見ればピンチかと疑問に思うだろうが、
「ああ、そうだな。俺が敬遠されてあと一人、余裕で抑えてゲームセット」
現状を守金は口にする。それはピンチに他ならず、雛野の認識がまさにそれ。
「そんな事、片羽がするわけがないだろ」
しかし片羽をよく知る男はチャンスだと確信している。
「勝負して勝ったら自己満足、負けたら悔しい。逃げて勝ったら不完全燃焼、負けたら恥じ。勝負するに決まってる」
「じゃあ長太は勝てるの?」
「わからん」
ララの疑問は素直に返される。
「多分、ここからが本番。
親友だから知っている。多分、半端な打球は周りの誰かにファインプレーされる。本気のあいつには周りの力を引き上げる、そんな雰囲気がある。
ライバルだから知っている。単体としての最大の脅威は器用さなんかではなく、勝利を掴む能力だ」
基本的に両方の顔が同時に出ることはない。そしてどちらが厄介かと聞けば、ギ・ブリーを一方的にぼこぼこにしたり、前のバスケにおいてアンクルブレイクで1人暴れ回った時の状況ではない。パスから確実にシュートが入らせる、周りを引き上げる方が厄介だと守金なら答える。
「どちらにせよ、チャンスはピンチでピンチはチャンスに違いないか」
あと1人からエラー2回でホームランさえ出ればサヨナラの状況。端的に、
「ピンチだな」
次のバッターを見てタイムをとった片羽は内外野集めて話す。次のバッターはある意味彼が一番信用している男、守金長太。
「こういう時の守金は強いんだよ。お金が懸かっている時とかには及ばないまでも、なんとかしそうな雰囲気はある。チャンスを掴む能力とでもいうかな。ともかく、それが半端ない」
「じゃあ敬遠するの?」
「まさか」
キャッチャー阿部の意見は即座に否定される。
「勝てば嬉しい負ければ悔しい、それだけの勝負で敵主力を敬遠。勝っても不完全燃焼、負けたら恥ずかしい。勝負しかないだろ」
「勝ちたくないの?」
阿部が訊く。
「勝ちたいよ。けど、負けたら何かあるわけでもないんだし」
例えばこれが公式戦だったら、片羽は迷うことなく敬遠した。しかしこの勝負は勝つことに自己満足以上の価値はない。
「勝っても負けても恨みっこなし。出たとこ勝負で小細工なしの真っ向勝負。全力を出しきって、それでも勝てるかどうかわからない。それで勝てたら控えめに表現しても、最高に楽しくないか?」
悪ガキのようににやりと笑う。
「体を張ってでも止めるから全力できて」
「今度はエラーしないから!」
「一人でやらずオレらも頼れ!」
ピンチとは思えない生き生きした顔つきの面々。守金の親友としての、周囲の能力を引き上げる顔が出たようだ。
「勝つぞ」
「「「おう!」」」
そして試合は再開される。
第1球。オーバースローからのストレート。ほぼど真ん中に近いものの、守金は球の下を遅れて振る。
速くなるとは思っていた。今日一番のピッチングがくる、そこまでは想定内。しかし、ここまで速いとは思っていなかった。それは後ろや横で見ているレンや近衛もそうだ。雛野や他の女子もそうだ。
例外は
「体張らずに捕れてるじゃないか」
片羽は笑って言う。
「まぐれまぐれ。だけど次も捕るよ」
キャッチャー阿部も笑って答える。
「打たせてこーぜ。絶対にとるから」
「俺たちにも働かせろよ」
野手から声があがる。
守金が思いつく限り最悪のパターンだ。もっとも、片羽が最初からこの状態なら点差はもっと増えてただろう。
「頑張れ長太!」
ララから応援が飛ぶ。
応援される、期待を受ける、歓声を聞く。人間、その程度のことで通常以上の力を発揮する。
第2球、さっきより速い球の下を擦り、ファールボール。
次に何の球がくるか守金は確信している。阿部も他の野手も。ひょっとしたら女子生徒も。
ストレート。それも前より速く、浮かび上がるような。
「打てー!守金!」
「頑張れ片羽さん!」
「ぶちかませ!」
「抑えろ!」
見学者から応援の叫び声が響く。
「これは覇道のぶつかり合い?」
一塁から勝負に燃える2人を見る男は別の視点で2人を見る。自らの魂で周囲を染め上げ狂奔させる
周囲の期待を、祈りを受け、自らの魂の籠った大勝負。間違いなく今日一番の投球とスイング。そして……
勝者は雄叫びを上げ、敗者は膝をついた。
「ゲームセット!」
色々と台無しですよ、千夜さん。
守金「突撃、シュワルツ、ランツェンレイター!」
片羽「色は白だがな」
雛野「だから声が大きい」
レン「な……なんだこの生物は⁉」
ララ「うん!」
守金「さて、ここで問題」
レン「じゃあ僕はどうするべきなのさ?」
片羽「国語の心情把握の問題より簡単だぞ」
守金「この答えもわからないだ」
雛野「こっそり行きましょ」
片羽「副会長だと思う」
ララ「私の気持ちを理解してくれたんだ」
守金「次のバイトが待っている」
次回
全体の約3分の2を占める野球パート。しかし一番入れたかったネタは煽り合戦からの片羽退場。
試合の結末でどっちが勝ったか、そんなのどっちでもええやん。ヒーローインタビューは『今日オレやったよー!』で。それ選手の方の松山や。ネタバレな話だと、応援の質の違いで片羽が勝ったが。
因みに筆者はカープファン。最終回の片羽のフォームは炎のストッパーのそれと同じで。何処ぞの解説で、力めば力むほど安定してピンチになれば球速が上がるという、創作物のキャラクターみたいな事が書かれてた。
あと阿部の打席では「覇気れ!」の応援が響いてた。そして出塁したら「覇気ったー!」と言うところが凡退で崖から落ちたーとやじられるという。
なお片羽、下手に頭脳戦やるより強行させた方が強い。それ以上に周囲の仲間を引き上げた方が強い。
それはそうと、タグにクロスオーバーと神座シリーズ入れるべきか?八と九の座をオリジナルで捏造して十番目の世界だが。そしてそっち側の要素は覇道と求道と座しかでてこないだろうげど。