授業を終えた長政は幼なじみとの話に盛り上がっていた。五年前に施設を出た真琴は養父母となった人たちと共にフランスに行っていたらしい。養父の仕事の都合での移住だが、五年経って日本に帰ってきた。
お互い離れていた間にいろいろな事があり、心身ともに成長している。しかし長政は自分が真琴のように成長したとは思えなかった。
「真琴は本当に変わったよね」
「長政も見違えたけどな」
「俺は…体格だけだよ」
不意に表情を曇らせた長政は視線を足元に落とした。夕方の教室には吹奏楽の練習らしい音が響いている。
「怖がりだし泣き虫だし、かわいいものは今でも好きだよ。本当に格好悪くて、駄目なんだ。春にね、ずっと好きだった人に告白したんだ。結果として付き合うことができたけど、それは虫よけとしてなんだよ」
自分はこの見た目のおかげであの人につきまとう虫をはらう役目として選ばれた。そう説明すると真琴は怪訝な顔を見せる。
「虫除け…ってそれでいいのか?」
「良いと思ってたよ。俺はあの人が笑ってくれていればそれで良いと思ってたから」
「思っていた、ということは、今は思ってないんだな」
それだけでは満足できなくなったんだろうと、真琴が冷静に指摘する。そんな幼なじみに長政は目元に涙をあふれさせながら首を横に振った。
「俺のことが好きだって……言うんだ」
普通なら喜ぶはずの言葉を口にした長政は涙をポタポタと落とし始める。ハンカチを取り出した真琴は真面目な顔のまま長政へそれを差し出した。
「嬉し泣きには見えないな」
「だって…あの人が好きな俺は俺じゃないんだ。バイトのショーや文化祭で演じてるカッコいい誰かなんだ。だからホントの俺はこんなだって、知られたら怖くて……」
今まではこちらを見ていなかったため、弱い部分や情けない部分を誤魔化すこともできた。それに虫除けでいるためには、強い人間を演じていなければならなかった。
しかしそうして本当の姿と離れていけばいくほどに、真実を知れば幻滅するに違いないと思えてしまう。それが恐ろしくて、長政はずっとひとり悩み続けていた。
「だけど……ねぇ、真琴。俺は本当に好きなんだ。本当に昔からずっと好きだったんだ。ずっとずっと…」
涙とともに気持ちを吐露する長政の背後で教室の扉が開かれる。人の気配に絶句する長政を一瞥した真琴は真顔のまま入り口を見た。そして見知らぬ生徒に眉を潜める。
「このクラスの生徒じゃないな。誰かに用か?」
編入したばかりの真琴は相手が誰なのかを知らない。そのため問いかけた先で、生徒は入り口に立ったままにっこりと笑った。
「告白タイムの邪魔して悪いことしたなぁ。ホンマは用事もあったんやけど……邪魔はしたないから、俺は退散するわ」
生徒が話すそばで長政が驚いたように目を見開く。そして振り向く長政の視界の中で、相手はいつもと変わらない笑顔を見せていた。
「昔から惚れとった相手は、大事にしたらなあかんよ。浅日クン」
相手の言いたいことがわからない長政は涙目のまま首を傾ける。その間に一度は教室に来てくれた先輩が立ち去ってしまう。そのため長政はますます意味がわからず救いを求めるように幼なじみを見た。
「どういうこと?」
「その前にあれは誰だ?」
「風紀委員長の豊白先輩だよ。さっき話した人」
長政が情報を提供した瞬間、幼なじみは苦悶の表情で顔をおおった。
「マズイ……絶対誤解した」